4話
箱を置いた場所から30mくらい離れてみる。
簡易って言ってるくらいなんだから、これくらい離れれば大丈夫だろう。
しばらく待っていると箱が変化しだした。
『エネルギー補填完了。状況確認。……異常なし』
『開始します』
何を開始するの!?と思った時、あたり一面真っ暗になったかと思うと次の瞬間には元に戻っていた。
「今のは何だったんだ……?」
訳が分からなすぎてパニックになるが、お兄さんだからと無理やり納得する。
今度から訳が分からないのはお兄さん仕様と考えよう。
目が慣れるのを待ち、箱を置いた場所に近づいてみるが
「これが家……?」
箱を置いた場所には家もテントも段ボールハウスもなかった。
ただ見るからに禍々しい、長四角いものが存在していた。
横から見ると薄っぺらいのに、永遠に続くような錯覚を受ける。
これが地獄の入口です、って言われても納得できる。
「でも……」
どう考えても簡易ハウスっぽいのはこれしかなさそうなんだよな。
一応お兄さん仕様だから大丈夫とは思うんだけど。
そう思っても、俺は本能的にこれを忌避してる。
でも簡易ハウス?に住むか夜にモンスターに襲われるかなら、俺は前者を選ぶ。
「……よし」
大丈夫。何とかなるはず。
ただ、やっぱり実際に目の前に立つと、第六勘がガンガン警報を鳴らしてくる。
「……今度こそお願いしますよ、お兄さん」
俺は覚悟を決めて禍々しい闇の中に飛び込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……あれ?」
絶対に何か起きると思ったのに何も起きない。
「ここは……部屋なのか?」
恐る恐る目を開くと部屋の中にいた。
特に変なところは無い。
中央にある水晶が浮かんでさえなければ。
「これ、オブジェクトなのかな?」
何で机とか椅子とかが無いのに水晶あるのかは知らないが、これもお兄さん仕様なのだろう。
「他はベッドだけか……。まあ寝泊まりできるだけでありがたいからな」
部屋の隅にベッドと中央の水晶。
シュールな光景である。
『侵入者を確認』
えっ、何?侵入者?はっ?どういうこと?
『管理者による権限を確認……。再度確認しています』
『管理者が登録されていません。侵入者を管理者として設定します』
『設定しました。マスターは水晶に手を触れてください』
「……」
何?今の流れ。
ここって簡易ハウスだよね?
なのに侵入者撃退用の防犯装置っておかしくね?
一瞬、他の人が入ってきた!?ってめっちゃ焦ったし。
しかも今何か俺、撃退されるところだったよね?
お兄さん、あなた何者ですか?
いやまあ、転生させれるってところでもうおかしいんだけど。
気を取り直して
「確か水晶に触れろ、とか言ってたな」
水晶自体はきれいだし、問題があるように見えない。
でもまだ何かありそう。
「……もうここまできたら、なるようになれっ!」
水晶に手を触れる。
『マスターの波動を確認……確認完了しました』
おっ、今回は問題ないみたいだな。
良かった、良かった
『マスターの名前を設定してください』
……何かよく分からないけど本格的だな。
流石お兄さんクオリティー。
それにしても名前か。
うーん、どうしよう。
せっかく異世界に来たんだから変えてもいいよなー。
ルシファーとかバアルとか、かっこいいじゃん?
「まあでもそのままでいいか。“針井 弘”で」
『針井 弘……設定しました』
『設定は以上です。その他このダンジョンの詳しいことは水晶のマニュアルをお読みください』
マニュアルね、了解。
『では、マスター。これからよろしくお願いします』
何か流されっぱなしだったけど、とりあえずこのダンジョン?のマスターになったみだいだな。
「……」
あれ?何かおかしいような気がするのは俺だけか?
「とりあえずこのダンジョン?のマスターになった」
ダンジョンのマスター
「……」
はああああああああああああ!?
いやいや、おかしいだろ。
ダンジョン?マスター?
意味が分からん。
ちょっと待て。ガチでどういうこと?
いや、確かに簡易ハウスにしてはどっからどう見てもおかしかったよ。
でもダンジョンって何だよ。もはや家である要素どこにもねえよ。
お兄さん、俺泣きますよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ふう。
少し取り乱しすぎた。
ダンジョン?ばっちこいだ。
あのお兄さんクオリティーだぞ?
大丈夫だ、問題ない。
よし、気を取り直して次に進もう。
「確かマニュアルがあるとか言ってたな……」
俺が読んできた小説通りなら、と思い水晶に触れる。
「おお、やっぱすごいな」
水晶に触れるとボックスの時と同じように、空中に画面が出てくる。
「えっと、改造と情報にマニュアルか。意外と少ないな」
何かもっとごちゃごちゃあると思ってた。
まあとりあえずマニュアルを選択する。
・ダンジョンについて
「……少なっ!」
え?選べる項目1個だけ?
これ本当にマニュアルなの?
文句を言っても変わる訳ではないので、とりあえず押してみる。
【ダンジョンについて】
・このダンジョンはダンジョン型の家です。ただし、外装は普通のダンジョンと変わりません。
・あなたとこのダンジョンは一身同体です。
・それでは頑張ってください
「……」
もう、説明が少ないのはつっこまない。
慣れた。
それより
「やっぱか……」
説明文の2項目目
“あなたとこのダンジョンは一身同体です”
ダンジョン経営ものだとよくある設定。
もしダンジョンのコアを破壊されるとマスターも一緒に消滅するというやつ。
物語のマスター達は、もちろん死にたくない。
だから皆、必死に防衛してた。
「でも実際身にふりかかるとキツイな、おい」
なんせ自分の命と同等のものが増えたってことだ。
ただえさえ自分自身を守らないといけないのに、さらにコアも守る必要が出てくる。
これからのことを考えると憂欝になってきた。
……はぁ。
俺、生きていけんのかな?