閑話
「ごめんね」
今日もまた一人異世界に送った。
「……はぁ」
僕は何でこんなことやってんだろう。
ある時は相手をおだて、ある時は夢を見させ、一人、また一人と異世界に送る。
同僚は皆“これは仕事だから”と割り切ってやっている。
『相手が行きたいと望んでんだよ?なら問題ないじゃん。俺らも転移の時のエネルギーを利用できる。相手は主人公になれるチャンスが手に入る。まさにWin&Winの関係だね』
「そうなんだけどね……」
確かにそうかもしれない。
頭では分かってるかもしれない。
でも僕の心はそれをよしとしない。
だから僕は異世界に送る人にボックスを付与している。
それで何か奇跡が起きるかもしれないから。
それが唯一、僕にできることだ。
「でも今日は……」
今日の子は変わった子だった。
いつもなら話しかけるところからやらなければいけないが、向こうから話しかけてきた。
しかも今までの人とは比べ物にならない成功確率。
思わず正直に話してしまったのに二つ返事で転生を了承する。
むしろお願いされた。
まだ新米の僕だが、今までにそんな子はいなかった。
だって高いっていったって0.64%だよ?
100回に1回以下だよ?
本当に変わった子だ。
だからちょっとだけ応援してもいいよね?
僕が苦心して魔改造した道具が役立つことを願って。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
がらがらっ
「くっ。しかし俺のターンだ。シャイニングドローっ!」
「ふひっ、珍しい客wwwwあと爆発しろwwww」
「うぅー、湊先輩かっこよすぎるー」
「やはりお前か……我がの第三の目に狂いはない」
「でねっ、神のみのね、ラストがね、もうね、たまっらないんだっ!」
「へー、そう。良かったわね」
ケイは思わず扉を閉めたくなったが何とか踏みとどまる。
冷静になったところで再認識することに。
「扉開けると、一人カードゲーム。奥にはパソコン片手とPSPの乙女ゲープレイ中。厨二病、アニオタと化粧してるやつが何で普通に居座ってんだよ……」
「「「「「生徒会室だからですが何か?」」」」」
「……」
やっぱ俺には性が合わないところだ。
だからいつもなら、ケイはここに寄ることはない。
でも今はそんなこと言ってられない。
「それより……」
「ふひっ、メールだろwwww」
「……お前らにも送られてたか」
数分前に送られてきたメール。
それは異世界に転生してくるというメールだった。
普通なら信じない。
妄想しすぎてトチ狂ったと思われるのがオチだ。
でもその下に感謝の分が書かれていた。
今までありがとう。
ケイのおかげでやってこれた。
勝手にいなくなってごめん。
そんなことが何十行も書かれていた。
嫌な予感がした。
もし他のやつらにも同じメールを送ってたら……。
「我も力さえ戻れば転生など造作の無いこと」
「あれだね、展開がね、アニメみたいだね!」
「へー、そう。……あっ、エクステ失敗した」
「ふっ、しかし罠カード発動!神の宣告!」
「異世界の学園生活いいなー。ソード様いるのかなー」
どいつもこいつもふざけた事を言っているが、メールが来ているのは本当らしい。
「そうか……」
あいつは異世界に行ったのか。
もう会うことは無い。
そのことを認識すると力が抜けて思わず座り込んでしまった。
毎日隣にいたやつが、いなくなった。
よくあいつは異世界の小説のことを話してた。
俺も実際に起きたらいのになとしゃべってた。
でも
「ははっ、はははは」
乾いた笑いしか出ない。
良かったな。おめでとう。頑張れよ。
そう言ってやりたいのに。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふひっwwwwそろそろ復活オネシャスwwww」
何も考えれずぼーっとしていたようだ。
外を見るといつのまにか日が落ちてた。
「……すまん」
どうやら待たせてしまったらしい。
「ふひっ、気にするなwwww保存ものだwwww」
そうか、保存ものか。
もう感情がマヒしすぎて何とも思わない。
いや、これが普通なのか?
「お前らどうも思わないのか?結構つるんでただろ?」
不思議に思う。
あいつらは誰も取り乱さず、いつも通りだった。
「最初は皆戸惑ったよ。でも5人も来られたらwwwwさすがに信じる一択wwww」
そっか。
あいつも居場所があったんだな。
良かった。
「ふひっ、でもあれだwwwwこれは後から私らも行くことになるフラグだwwww」
「そうなのか?」
俺らも行く?
異世界に?
「ふひっwwww楽しみすぐるwwww」
またテンションがハイになってやがる。
……でもまた会えるのか。
保障も何もないけど、そんな気がしてきた。
次会った時、メール一本で消えやがったお礼はきっちり払わせてやるぞ。
覚悟しとけ、ヒロ。