10話
「1、2、3、4……。うん、これくらいで準備体操は大丈夫か」
朝飯を食べた後は戦闘訓練。
スライムは物理攻撃の、アルラウネは魔法の練習もかねて俺に攻撃してもらう。
俺は気配察知で避ける練習をするため、ポケットからハンカチを取り出し目隠しをする。
よし。
「……っと!」
まずは正面からきたスライムを軽く右に動いて避ける。
すぐに右から魔力が飛ばされたのを感じ、これに当たらないようにしながら、後ろから迫っていた二体はジャンプしてかわす。
反撃だっ!と思った時、いきなり後ろから突撃がきたので、慌てて能力強化を使い転がって避ける。
「っぶな。当たるとこだったし」
咄嗟に能力強化を使ったから避けれたけど、無かったら直撃だったな。
今度は魔力の塊が四方八方から飛んできたので、バックステップしながら左右に避ける。
すると後ろで隙を窺ってたスライムがここぞとばかりに体当たりしてくる。
だが今度は気配察知でバレバレ。
スライムをいなしながら体当たりの衝撃を和らげる。
こんな感じの模擬戦をひたすらやる。
そろそろお腹がすいてきたなぁと思ったら、今日の鍛錬は終了。
皆の昼飯にパイナップルもどきを配り、自分も食べる。
「はむっ……。うん、安定の苦さ」
見た目も形もそっくりなのに、味だけは全く違うんだよね。
いくら体に良いとはいっても、そろそろ違う物が食べたいなあ。
「……はぁ」
この一週間、朝起きてスキルの練習。
昼飯を食べて食糧の調達。
夜飯を食べて皆と一緒に寝る、というループ。
ダンジョンなのに全然人が来ないというね。
いや、ありがたいんだよ。
来たら殺さないといけないし、いくら能力が高いって言ってもやっぱ不安はあるからね。
でもそれ以上に暇。
本もない、ゲームもない、ネットもない。
地獄すぎる。
だからちょっとは遠出してもいいよね?
うん、ダメとは言わせない。
ということで
「スライム、アルラウネ、ちょっと出かけてくるからダンジョンよろしくね!」
スライムはピョンピョン跳ねて、アルラウネは蔓を振ってくれる。
相変わらず何が言いたいのか分からないけど大丈夫だろう。
訓練の最初は能力強化が無くても余裕で避けれたのが、最近だと気配察知までフルで使わないといけないくらいだからな。
学習能力が高い子達ばかりだ。
そういうわけで俺は初めて遠出することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
うーん、勢いよく出てきたはいいけどどっちに行こう?
まあどこに行こうが見渡す限りの森、森、森なんだけどね。
こういうときは
「万能辞書!“お勧めの方向は?”」
『検索結果:左とかどうかな?』
左ね、了解。
あ、万能辞書はいちいちボックスから出さなくても質問できるようになった。
しかも音声だけだから今までの倍の時間使えるというね。
どうやって異空間から音声を届けてんだ?とか言うつっこみは禁止する。
細かいことを気にしてるとハゲるしな。
「よし、取りあえず3時間くらい歩いてみるか?」
今は太陽がてっぺんにいるから、3時間で行ける所なら日が沈む前に帰ってこられる。
何時なのかは辞書に聞けば分かるし、道に迷っても辞書に聞けば教えてくれる。
まさに万能辞書。
ぐう優秀すぎる。
そんなこと考えながら、左にしばらく進んでいく。
けど行き先にあるのは森、森、森。
全く変わり映えがしない。
「というかモンスターに一回もエンカウントしてないな」
毎日、泉の奥の森にパイナップルもどきを取りに行ってたが、外でモンスターを見ていない。
まあ往復で30分もかかってないから、当たり前かもしれないけど。
でもやっぱ一回は見てみたいよな。
そんな願いが、かなったのだろうか。
モンスターが少し先にいるのが見えた。
おおっ、初めて見た。
あれは狼かな?
元の世界よりかなりでかいな。
さて、能力はどれくらいかな?
ステータス
ブラックフォング
種族:魔物
LV.45
体力:820/820
魔力:210/210
攻撃力:840
防御力:720
素早さ:1010
知力:260
精神:280
幸運:100
スキル
咆哮 LV.3
称号
ボックス
【咆哮】
自分よりレベルが低いものをひるませる。
うおっ、レベル高いな。
レベル45とかゲームなら中盤から終盤のモンスターじゃん。
狼系って普通、序盤とかに出てくるんじゃないの?
なのにこんなに高いとか……。
ちょっと調子のって遠くまで来ちゃったのかな?
「……でもまあ」
俺には全然届かないな。
一番高い素早さでも俺の半分しかない。
ただ、スキルの咆哮は未知数なんだよな。
しかも相手を怯ませるって……。
ま、能力を余裕で上回ってるんだから大丈夫なはず。
「……よし」
んじゃあ初陣と行きますかな?
そう行きこんでブラックフォングの背後に近づく。
そろり、そろり。
狼がすぐそこにいる所まで忍び寄った。
この距離ならいける。
そう思ったその瞬間、ブラックフォングがこちらを振り返った。
「……っ」
背後から忍び寄ってたから気付かなかったけど
足元には人が倒れていて。
ブラックファングの口元は真っ赤に濡れていた。
「……ぅぷ」
のどの奥からすっぱいものがこみ上げてきて、思わず手で口をふさぐ。
クックック
いきなり後ろに現れたので警戒しているのか、距離を取りこちらを威嚇してくる。
ブラックファングが離れた。今ならその人を助けれる。
そう頭では理解している。
でも足が動かない。
「……っ……ぁ……」
声にならない声がでる。
ステータスなんて頭から吹っ飛んでいた。
ただあるのは恐怖。
グルルルアアアア
ブラックファングは雄叫びをあげ、こちらに突っ込んできた。
来るな来るな来ないで来ないで嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
でも尻もちをついたまま動けない。
ブラックファングが飛びかかってくる。
反射的に手をクロスにし頭だけは守るが、勢いのまま腕を噛みつかれる。
「っぐがああああああああ」
痛い痛い痛い痛い
右腕の肉が見えるほど思いっきり噛みつかれている。
離して離して離して離して
ブラックフォングを放そうと無我夢中で引っ張る。
ゴギッ
嫌な音がすると、真っ赤になった左手はブラックフォングの首から下をもぎとっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息が荒い。まだ心臓がバクバク言ってる。
胴体を捨て、右腕に残っているブラックフォングの頭を取り外す。
血がだらだら流れてるが、ここには手当てするものは何もない。
「それより……」
ブラックフォングの元に倒れてた人のところに行く。
服が真っ赤だ。
能力強化を使い、左肩にその人を担ぐ。
体重は軽かったが、体全体に重みがかかり右腕が悲鳴をあげるが無視。
全力でダンジョンに戻る。
木が当たろうが構わない。
体力が削られてる?知るか、んなもん。
魔力は確認しないの?
うん、一度足を止めたら多分もう動けないから。
走って走って走って走る
「……着いた」
何とか魔力が尽きる前にダンジョンに戻ってこられた。
ただもう限界。
何とかその人をベッドに寝かせると、俺もベッドに倒れこんだ。




