ウエディングドレス
「この服さ、可愛くない?」
女友達がランチに見せた雑誌に載っていた服のサイズはM。
私の入るサイズじゃない。
もう1人の女友達が頷く。
「可愛い。買っちゃう〜」
「あら、私は先に買えないもの着ちゃうけど?」
女友達の中で結納を終えた理恵が鼻高々に言った。
「ウエディングドレス。着ちゃうから」
「うわぁ」
歓声が上がる。勿論私も手を叩いた。
里歌がそんな私を見て、聞いた。
「梨々香はそんな悠長に言ってられるの」
「な、なにが」
「貴方デブなんだから痩せなきゃウエディングドレス着れないのよ」
場が凍った。
「で、デブ?」
私はデブじゃない。ぽっちゃりだ。100キロあるけどぽっちゃりだ。
胸が大きいんだ。里歌は僻んでるんだ。
私だってウエディングドレスぐらい着れる!!
ランチタイムが終わった。
仕事に戻る。
女友達が肩を叩いてドンマイと言った。
その夜、寝ている筈なのにウエディングドレス店の中にいた。
白いドレスを着ている。
私はすっかりスリムになって美女としかいえない。
「こんな素敵な花嫁、男どもが群がるわよね」
とうっとりしていると、朝になっていた。
身体はぽっちゃりに戻っていた。
夢だったのだろうか。
いや、夢じゃない。
証拠に手袋を持ってきている。
私はそっとテーブルに置くと、山盛りの朝食を食べにいった。
私は毎夜、ウエディングドレス店に現れる。
試着の為だ。
ある日、白馬の王子様が現れてプロポーズしてくれる筈。
その時にすぐに式をあげれるように試着しておかなくちゃ。
相変わらず鏡に映る自分は美しい。
と、ガラスに顔をつけて除いている男を見つけた。
「誰?」
「あ、綺麗ですね」
「ああ。そうね」
「あの、今度ご飯一緒に行きませんか」
名刺を滑り込ませる。
男はイラストレーターらしい。
「貴方のドレス姿、イラストにしてもいいですか」
「ええ」
「ありがとうございます。細かい事は今度」
私はドキドキしていた。
初めてナンパされたのだ。
胸に手をあてると全く動いていなかった。
名刺の裏に書いてあった待ち合わせ場所に時間通りにつく。
勿論昼間、日曜だ。
今はぽっちゃりだけどあの男は私だと分かるだろう。
そしてイラストを描きたいと言うに違いない。
にやにやしながら待っていた。
6時間も。
結局男は現れず、夜、眠りについた。
いつも通りにウエディングドレス店にいる。
スリムになっている。
これは生霊なのか。
初めて疑念を持った。
生霊だから身体のサイズも変えられるのか。
そのとき窓から声がした。
「デーブ」
あの男だ。
怒りが沸点を超えた。
いつの間にか男の寝室にいた。
帰ってきた男は気持ち良さそうにベッドに横になる。
その首を、絞めた。
男が泡を吹いて、私が誰だか気付いたようだ。
必死に謝ってくる。
「すみ!!ません!!!ごめんなさい!!!!!」
「あははははは」
ふっと引っ張られる感覚がして、ぽっちゃりな自分に戻っていた。
低い小で呟く。
「私はデブじゃない」
そうか、と呟く。
生霊なら殺しても罪にはならない。
「次言ったら殺してやる」
「だーかーらー、あんたは男が出来ないのよ」
里歌が言った。
来月に迫った式に向けてダイエットしている。
夕食に誘ったのに、食べているのは私だけだ。
そう、里歌はウエディングドレスを着るのだ。
私よりも早く。
先にこの子を殺しておこう。
ライバルは減らしておいた方がいい。
デブじゃないなら尚更。