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ドゥドミナリオンの闇聖典  作者: くまのすけ/しかまさ
70億分の……の確率
9/39

オレは地球上にいる誰かに命を狙われている!

第二章開始です。

憑依された翌日、学校での生活がメインです。

 若草さんと別れ、国道の大橋の下からジョギングしながら、オレは家へ向かう。

 途中、散歩中のご近所さん何人かとすれ違って、お互いに目礼を交わす。いつものことだ。

――なあ? なんで、やたらと他の知性体たちとすれ違うんや? あんさんらこの周辺でコロニーでも作ってるんか?

 コロニー? 集落?

――いくらなんでも多すぎやろ? 他の宇宙なら、一つの惑星内に100体も知性体がいれば、多すぎや言われんのに。もうこれで、あんさん自身と若草佐保とかいうさっきの原住知性体を含めて、10体以上見かけたで。

 そ、そうか? 別にこれが普通だと思うのだが。

――こんなに一箇所にまとまっとったら、すぐに他の天使にも見つかってまうで!

 そういうものなのか……

「も、もし、他の天使に見つかったりしたら、どうなるんだ?」

 オレが他の人間の耳には聞こえないように、小声で呟くと、

「そりゃ、あんさん、戦いになるだけですわ」

「戦い?」

「そうや。さっき、天使に会った途端、エネルギー弾を撃とうとしてきおったやろ?」

 そ、そういえば、若草さんの手のひらの中で、一瞬だけど光球が発生していた。

「あんときは、宿主の知性体が、なんや知らんけど、ワテらのこと助けてくれはりましたけど、別の天使に見つかったら、今度は、ああいうことは期待できまへんで」

「そ、そうなのか……」

「殺し合いは覚悟してもらわんと」

 そういう話を聞いたのでは、正直、途端に周囲の様子が気になってくる。

 もしかして、今すれ違おうとしている自転車に乗っているおばさんの中に天使が。あるいは、楽しそうにおしゃべりしながら近くの公園のベンチでふざけあっている中学生たちの中に。

 うう…… これは、正直、かなり辛いかも。

 他人を眼にするたびに、オレの命を狙う天使じゃないかと疑わなくちゃならず、気を抜くことすらも許されないなんて。

「けど、なんですの? この人間の数の多さは? いくらなんでも多すぎやで。こんな密集してるコロニーなんてはじめてやわ」

 周囲を見回して本の精霊が驚きの声を上げてくれるし。その使ってる口は、もちろんオレのものなわけで……

 って、いきなりそんなに素っ頓狂な声を張り上げたら、すれ違う人がびっくりするじゃないか!

 あっ、ちっ、違うんです。別にオレの気が狂ったわけじゃないんです。あはは……

 あ、ただの演劇の練習なんです。今度、文化祭でオレ、劇をするんです。

 うん、そうです。そうです。オレ、セリフをもらえて、張り切っているんです。草だとか、木だとかの背景の役じゃなくて、今年はちゃんとセリフがあるんです。

 なんて、オレを避けるようにして遠巻きに通り過ぎていく通行人さんたちに、心の中でウソの言い訳なんかして。

 って、そういえば、オレの学校の文化祭っていつやるんだっけ?

 しかし、命が狙われているというのに、奇矯な振る舞いをしやがって、この能天気な本の精霊は!

 郷に入れば郷に従えとかいうことわざを知らんのか?

「なあ、本の精霊。お前の命を狙っている天使って、大体何人ぐらいいるんだ?」

「へっ? ああ、それは、ワテにもわからんことでっせ」

「な、なに?」

「大体、ワテは天使に見つからんように逃げ回っていたさかい、相手の天使のことについては、ようわからんのですわ。研究する機会なんつうもんもなかったさかいなぁ」

「……」

「けど、これだけは言えまっけどな、多分、天使の数は多くても30は越えんはずやで。ワテは、せいぜい10かそこらやないかと勝手に思ってるんやけど」

「えっ? その程度なの?」

「へぇ まあ、大体、そんな感じですわ」

 そ、そうなのか……


 そういえば、最初、本の精霊に出会ったときに、天使たちがこの太陽系の知性体(人間)たちに取り憑いたはずだといっていたけど。

「天使たちが取り憑いた人間が、どこにいるかとか、だれに取り憑いたとか分かるのか?」

「ははは、そないなこと分かるんやったら、こないな苦労しまへんがな」

「だろうな……」

 苦笑しかない。愚問だった。

「まあ、とりあえず、この宇宙では、この惑星にしか知性体はおらしまへんのやさかい、この惑星に存在する知性体のだれかに取り憑いたことだけは確かでんな」

 地球上に存在する人間の中から10人か……

 その10人と接触しないように気をつけねば。オレの命を狙う10人の敵。うう、胃が痛くなりそう。いや、10人じゃないな、最大30人か。

 30人のエネルギー弾を打ち込んでくる敵。異能力者。それらが一斉にオレを襲い、殺そうと待ち構えている。

 うう…… よりにもよって、なんでオレがこんな目に!

 オレがなにか悪いことでもしたっていうのかよ! はっ! あれか? あれなのか? あのときオレが肌色率80%の写真本を川に蹴りこんだ報いなのか? あの妖艶なお姉さんの呪いなのか? ああ…… 助けて、神様!

 って、あれ? そういえば、オレを付け狙っているのは、その神様に派遣されてきた天使たちだっけ……

 ってことは、神様に助けを求めても、相手にされるはずがない。むしろ、オレがここで助けを求めていることが天使たちに。

 ブルブルブル……

 むしろ、オレが助けを求めるべきは、

――助けて、悪魔様?

 うげっ! なにやってんだ、オレ? バカじゃねぇか! 悪魔に助けを求めるなんて、絶対ヤだ!

 ……

 けど、30人の敵かぁ~ この地球上にいる全人類の中から30人の敵が現れて、オレの命を狙ってくる。

 逃亡しても、倒しても、次から次に敵が現れ、オレに襲い掛かる。

 30人の敵。30人の天使。

 30人? 30? 全人類の中の30人? 全人類…… 全人類? 全人類!

 って、お、おい!

「この地球上の人間って、今70億人以上いるんだぞ!」

「……」

 あれ? オレの言葉、聞こえなかったのかな? 返事がないぞ。

「お、おい? 聞いているか?」

 やがて、

「…… はぁ? なんやて? 今、あんさん、なに言わはったんでっか?」

「だから、この地球上の人間の数は今70億人以上いるって」

「ななじゅうおく…… 70億…… 70億? 70億! そ、それって、10の9乗に7を掛けた数字のことでっか?」

「じゅ、10の9乗って……」

 一瞬、なんのことか分からなく固まってしまうけど、えっと、確か、10億は1の後に0が9つだから、10の9乗であっているのか。

「な、70億って…… ウソでっしゃろ? いくらなんでも、そないな数の知性体がひとつの惑星上に生きてられるはずないやん」

「う、ウソなんかじゃ」

「あははは…… あんさんも冗談がお好きな人でんなぁ」

「あははは……」

 乾いた笑いしかでない。

 つっか、70億人の中の30人。たとえ、それが300人や3000人を越えていたとしても、オレが生きている一生の間に発見されるなんて、まず間違いなく不可能なことなんじゃ?

 一気に緊張がほぐれた。安心した。心の底から、安堵のため息がでた。

「な、なんだよぉ~」


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