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そこに君がいてくれさえすればそれでいい

 オレは顔を上げられないでいた。

 顔の表面温度が耐えられないほど上がっている。オレの視線の先で、若草さんの手の指がしきりに組み換えられている。

「あ、あの…… 私……」

 若草さんのためらいがちな声がオレの耳に伝わってきた。熱い息がオレの耳朶をくすぐる。

「お、オレ……」

 多分、オレの息も若草さんの指を温めているだろう。

「って、な、な、なにすんねん! なんで、ワテがこんなヤツと、く、く、口付けなんか! ゲロゲロゲロゲロゲロ……」

「オ、オエェェェェェーーーー! さ、最悪だ! な、なんてことを! なぜ、こんなときに太古以前より伝わる契約の儀式をしたのだ、佐保! しかも、よりによって、この者に対して!」

 同時に俺たちの口から、雰囲気ぶち壊しの言葉が……

 その言葉を聞いていると、すっと力が抜けてくる。それは若草さんの方も同じようで。

「くすっ」「ふふふ」

 そこで、ようやく、オレたちは視線を合わすことができた。いや、違うな。視線を合わせただけじゃなくて、お互いに手を求め合って、指を絡み合わせて。

 オレたちを取り囲むピンク色の光を通して、すっかり変わり果てた周囲の様子が見える。大変な状況になっている。

 だけれど、今の俺たちには、そんなことはどうでもよかった。手のひらを通して伝わるお互いのぬくもりが心を落ち着けてくれる。

 そう、今のオレたちにとっては、大切なことは一つだけだ。

 ただ、そこに君がいてくれさえすればそれでいい。


短ッ!

というわけで、最終章終了です。あとは、エピローグを残すのみです。

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