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オレがなにをした!

 なんなんだ、一体?

 なぜ、オレが変態だと疑われなければいけないんだ! オレがなにをしたっていうのだ!

 クラス中からの身に覚えのない疑惑がオレに向けられているのを感じる。

 若草さんを除く女子たち全員がオレを避けているのが感じられる。オレが近寄るだけで、女子たちは顔を引きつらせ、身をこわばらせる。その様子をみて、周囲の男子たちはいいところを見せようと、女子たちを守るように間に立ちはだかり、オレを睨んでくる。

 ったく! 理不尽な! なぜ、オレが悪者にされているんだ?

 舌打ちを何度でもしたい気分だ。でも、その程度のことで気分が晴れるわけがない。

 なんなんだよ、まったく! もう!

 今日は一日中、入り口近くの席から、若草さんの心配そうな視線を感じる。

 内心では、オレのことを本当に心配してくれている若草さんに大きな感謝を捧げている。けれど、オレは決してそちらを見ることはしない。頑なに自分の机に視線を固定し、仏頂面ですごすことにしていた。

 若草さんには、オレでも大和でもなく、他のだれかがいる。そいつはだれなのか、とても気になる。それと同時に、こうも思っているのだ。オレに掛かっている言われのない非難のせいで、彼女にまで悪い噂が立つかもしれないと。正直それは今のオレには耐えられないことだった。彼女が不当な非難にさらされて、傷ついてほしくはなかった。

 だから、オレは彼女の方は極力見ない。彼女と特別な仲だと思われないように我慢する。

 ただでさえ、昨日は、彼女の弁当を二人で食べたんだ。もうそれ以上の関係をもっちゃいけない。それ以上の深入りはいけない。

 オレは自分の席に座り続ける。決して、その場を動かない。

 そんなオレに、今朝の保田以来、だれも声をかけてこようとはしてこなかった。

 一昨日までは親友だったはずの大和も、昨日に引き続き、オレを無視している。ま、恋のライバルなのだから仕方がないか。

 オレは、一人で席についたまま、ただ黙ってじっと時間が過ぎていくのを待っていた。

 二時間目が過ぎ、三時間目が終わり、四時間目、お昼休み、五時間目、六時間目。

 現代文の時間、オレを指名して、教科書の一節を朗読させた教師以外のだれも、オレに話しかけようとはしてこなかった。オレもだれにも話しかけようとはしなかった。

 やがて、ホームルームも終了し、放課後になる。

 オレはとっとと荷物をまとめ、教室を後にした。

 ずっとオレがいることで、どこか緊張感が漂っていた教室の中、オレが廊下へ出た途端、背後で一斉に吐息が起こっていた。

 それを耳にして、すごく悲しい気分になる。だが、オレは顔を上げ、前を向く。帰りの生徒や部活へ向かう生徒たちでごった返している廊下を進む。だが、オレが進むすぐ前だけはポッカリと空いていた。だれもが、オレの前を避けていた。

 すこし離れた場所にたむろする女子生徒たちが、オレの方を指差して、なにかを早口で話し合っている。数人の体格のいい男子生徒たちが、オレの一挙手一投足をにらみつけるようにして監視している。そんな中で、階段を下り、昇降口で外履きのスニーカーに履き替える。

 そして、オレは校舎を後にした。


 帰り道。いつもの静かな住宅街を暗い気分でトボトボと歩いていた。

 なぜ、こんなことになったのだと自問する。

「はぁ~」

――なんですのん? 今日は、一日中、暗い顔してからに?

 全部、お前のせいだよ!

 そう言ってやりたかった。だが、それは多分、不当な非難なんだろうな。実際、こいつが望んでそうなったってわけではないのだから。

 ただ、オレはすこし運が悪かっただけだ。こいつに取り憑かれたことも含めて。

「はぁ~」


――富雄はん、気ぃついてまっか?

「ん? なにを?」

 とぼとぼと道を歩いていると不意に本の精霊が話しかけてきた。

――ワテらつけられてまっせ。

「つけられてる?」

 思わず、振り返りそうなったのだが、

――振り返ったら、あきまへん。

 だれだ? オレをつけてくるなんて。もしかして、天使たち?

「なにものか分かるか? もしかして、若草さんの仲間?」

――さあ? どないでっしゃろ。でも、まあ、あいつらの仲間って線はないですわ。

「そうなのか?」

――もし、あいつらがワテのこと、本気でつけるんでしたら、ワテに気づかれるようなヘマなんてしまへん。あいつらはその手のことのプロフェッショナルでっさかいな。ははは。

 そ、そういうものなのか……

――そや、そこの角に車用の鏡ありまっしゃろ。曲がったときに見たら、きっとつけてきてる姿確認できまっせ。

 ん? ああ、交差点の角に立っている反射鏡のことか。いや、カーブミラーっていうんだっけ? あの丸いの。

 オレは、いつもの交差点を右に折れ、歩みを止めることなく、首だけで振り返り見上げる。

 いたっ! 反射鏡の中に映っているのはオレの学校の女子の制服姿。顔は…… 見覚えがある! いつも保田と一緒にいる女子たちのひとりだ。

 保田といえば……

――絶対に、アンタのシッポを捕まえて、警察に突き出してやるわ!

 そうか、そういうことか……

――どないします? あれぐらいなら、まくの簡単でっせ?

「ああ、いいよ、別に。好きにさせとけばいい」

――そうでっか。ほな、そうしま。

「はぁ~」

 ますます、足取りが重くなる。なんで、オレが……


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