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ドゥドミナリオンの闇聖典  作者: くまのすけ/しかまさ
70億分の……の確率
15/39

USBメモリ

 オレに絶賛されたのが、多少はうれしかったのか、軽い足取りで、二人分の弁当箱を抱えて、若草さんは自分の席へもどっていった。

 楽しい時間はアッという間に過ぎていった。

 はぁ~ お弁当というあの美味なる天上世界の食物は、もう二度とオレの口に入らないのか……

 そんなことを考えたら、途端に気が重くなる。泣きたくなる。

 それに、なぜか尿意をもよおしてきたような。

 よし、トイレで用を足してこよう。そう決めて、立ち上がり、トイレへ向かう。

 周囲の男子どもが、オレに向かって中指を突き立てている中を、後ろの入り口へ移動していく。もちろん、オレの足をひっかけようと、わざと通路側に脚を伸ばしてくるのに用心しつつ。

 廊下へでて歩いていると、トイレから丁度でてきた大和と出くわした。

「よぉ!」

「……」

 大和は、オレの挨拶に返事をよこさず、素通りしようとする。

「って、大和、なんだよ、今日は?」

 思わず、肩に手を伸ばして、とどめようとしたのだが、

「その手をどけろ!」

 すごく冷たくてするどい声が飛んできた。

「な、なんなんだよ、お前!」

 口では文句を言いながら、その大和の見たこともないするどい視線に怯んで、オレは手を放してしまう。

 そんなオレに向けバカにしたように鼻を鳴らしただけで、大和は一人教室へ去っていった。

 これって、一体?

 どうしたんだよ、大和……


 トイレで用を済ませ、教室へ戻る。

 前の入り口の近くの席で、保田飛鳥がすごい形相をして若草さんに詰め寄っているのが見えた。

 チラチラとオレの様子を窺っているみたいだから、多分、オレの悪口を言っているのだろうな。

 それに対して、若草さんは、なにか必死に反論してくれようとしている。けれど、周囲は保田グループの女子たちが固めていて、形勢は不利な様子。

 まあ、いいや。保田たちに嫌われていても、若草さんさえ分かってくれているなら。

 すくなくとも、お弁当を作ってくれたということは、同情するぐらいには、オレのことを気にかけてくれているってことなんだろうし。

 けど、分かっていて同情しているだけで、きっと、その心の中では、オレのことなんかはちょっぴりしか占めていないのだろうな。

 はぁ~


 やがて、昼休みが終わり、5時間目の数学の授業が始まった。

 みんな、お昼を食べた直後で、満腹。窓から差し込む光はあたたかく、ポカポカとした陽気が眠気を誘う。

 授業が半分も進まないうちに、クラスの半数以上がすでに夢の国の住人になっていた。

 もちろん、オレもウトウトしかけていたのだが、

――ほんま、あんさんたちも大変でんなぁ 睡眠学習とか、まだ確立してへんで、外部からの指導・教授に頼らなあかんってのは……

 どうやら、他の宇宙の知性体たちは、こういう勉強なんてことをしなくてもいいようだ。

 本の精霊の話を聞いていると、これまで体験してきたほぼすべての異宇宙の知性体たちは、睡眠学習法が確立されており、寝ている間に必要な知識や学力が身につけられるシステムになっているらしい。あるいは、遺伝子レベルに最初から知識などが組み込まれていて、誕生したときからすでに一定以上の知識と能力が身についていたりなんてことも。

――ワテが行ったことのある宇宙の中でも、珍しい例やが、わざわざ頭の後ろに脳と直結した外部入力端子をつけといて、知識や技能が必要になったら、そこに持ち運びできる外部知識保存装置をとりつけとった知性体もおましたで。あれは、けったいなもんやったで。自分の体が自分の脳みその命令とは関係ないとこからの命令で動くんでっせ。まるで、自分がロボットにでもなったみたいやった。うん。ほんま、おもろい経験やったわ。

 なんだか本の精霊は楽しそうに話している。よほど、気に入っていたのだろうか?

 外部知識保存装置かぁ。今で言うUSBメモリみたいなものかな?

 人間にそういう機能がもしあれば……

 今日から、オレはアインシュタインだとか、ピカソだとか、ビル・ゲイツになれるってことだよな。

 なんか、結構いいかも。人生バラ色だよな。実際にそういうことができるなら。

 あっ、でも、最近話題に上ることが多いコンピュータウィルスみたいなものが仕込まれていたりして、他人に体をのっとられるなんてこともありえるってことじゃ?

 気がついたら、オレの体が外部から操作されて、なにかの犯罪行為をさせられているとか。たとえば銀行強盗とか。殺人とか。

 そうしたら、実行犯はオレだし、警察に捕まるのはオレだよな。外部から勝手に操作されていたというのに。

 ブルル……

 一瞬震えが。結構怖いことを今オレ考えていたかも。

 ん? けど……

 それって、今のオレの状況となにが違うっていうんだ?

 今のオレは、本の精霊とかいうヘンな憑依体に取り憑かれ、ときに勝手に体を動かされたりしている。

 あいつが、その気になれば、同じように犯罪行為のためにオレの体を使うなんてことも。しかも、それでオレが捕まったとしても、だれもオレの体が乗っ取られていたなんて信じてくれないだろう。

 うっ……

 オレの中のこれ、本当に大丈夫なんだろうな? なにかの悪事を企んでいたりとか、しないのだろうか?

 急に心細さに襲われて、寒けを感じる。腕に鳥肌が出来る。

 大丈夫なんだろうな、オレ?


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