家族から見たオレって
――ああ、ようやく起きはったんでっか、富雄はん。
顔を洗っていると、頭の中に声が。
「……」
やっぱり、夢じゃなかったのかよ。目が覚めたら、昨日のことは全部夢かなにかで、目覚めた現実世界ではオレが本の精霊とかなんとかいうのに取り憑かれてなんかいなかったってのを期待していたのだが。
軽い失望感が……
――ほんま、すんまへんな。ワテがあんさんに取り憑いて生体エネルギーを分けてもらったさかい、あんさん消耗してて、長時間眠らんなあかんハメになったみたいでんな。
って、やっぱり、お前のせいかよ!
――けど、なんや、この宇宙はおもろいでんな。このちっぽけな惑星上に70億も同種の知性体がひしめき合ってて、そのせいで居住空間が不足してて、数体の同じ種族がひとつの居住スペースを共有しあっているんでっしゃろ。なんか、すごい新鮮でっせ。そんな場所、今までひとつもあらしまへんでしたしな。
「そ、そうなのか……」
って、なんか、今、妙なことを言っていたような。
別に人口密度が多すぎるせいで、家族と一緒に住んでいるわけではないのだが。単に家族だから一緒に住んでいるのだが。
やはり、人工生殖が普通の世界では、家族なんていう共同体の概念は存在しないのだろうか?
環境に合わせて、最適な遺伝子だけを人為的に選別選択することになるから、遺伝的に近しい関係ということになんの意味もないのだろうな。
あらためて、考えてみると、とても殺伐とした世界だな。こいつらの世界というのは。
親子関係や兄弟の絆なんてものは何の意味もなく、価値もない。他者を求め合う必要もなく、そして、愛しあう必然性もない。
ただ、人工的に遺伝子レベルから調整された知性体が宇宙を支配しているだけの世界。
というか、そっちの方が他の宇宙では標準的なのか。オレたちの宇宙が特別なだけで……
なんてことを考えながら、洗面所を出て朝ごはんの用意されたダイニングに向かおうとしたのだが。
――あ、そういえば、さっき、あんさんを起こそうとしてた人間、なんやあんさんの部屋の中、いろいろと探ってたみたいでっせ。
「えっ?」
――最初、天使の仲間かいなって寝たフリして様子を窺ってたんやけど、なんや違うみたいやって。
一瞬、妹の表情が、昨日の若草さんのように敵対的なものに変わたところを想像してしまった。ガクガクブルブル。
――なんや『どこに隠したんだろう?』とか呟きながら、押入れの中とか、引き出しとか、ベッドの下とか、えらい熱心に引っ掻き回しとったで。
「はぁ? な、なにやってんだ、あいつ」
――けど、目的のもんは、なんも見つからんかったみたいで、代わりに、なんかベッドの下にあった服を着てない他の知性体の画像の書籍を手持ちの情報パッドで撮影しとったみたいやで。
「あ、あいつ……」
――『おかしいな。こんな前からあるヤツじゃなくて、新しいのを仕入れたから、部屋にこもったんだってお母さんたちと話してたんだけどな』とかなんとかゆうとったように思うんやけど。どういう意味なんでっしゃろ?
「……はぁ?」
なんか、頭が痛くなってきた。オレは家族から一体どう思われているのだ。
うう……
――あ、富雄はん、どないしたん? 急にこんな廊下でしゃがみこんで。朝飯たべにいかんのんか?
その後、テーブルに一緒についていた妹と母さんがチラチラと盗み見しているのに気づかないフリをしながら朝食を済ませた。父さんは、この時間にはもう会社へ出勤しているので、オレたち3人だけのいつもの朝食。
ご馳走様をして部屋にもどり、制服に着替える。
そういえば、昨日この制服に身を包んで、オレは若草さんに……
「はぁ~」
なぜかため息が。なんでだろうか?
――どないしはったん? ため息なんかついて?
「いや、なんでもない」
そうして、カバンの中身を急いで確認して、外へ飛び出していった。