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Sword World  作者: 千夜
第一章 封印解放編
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第一章 第五節『美食の国』

ヴィガロスが予約した店は大通りから路地に入った場所にある、三十席程のレストランだ。

観光スポットのすぐそばだというのに、店は落ち着いた雰囲気で、地元の人間がよく利用する穴場スポットなのだという。

帝都の中心である広場から近いが、入り口が路地裏であるせいか土地勘が無い人間が辿り着くのがやや難しいらしい。

席に着くと直ぐにウエイトレスがメニューを持ってきてくれた。

「今の旬は白太刀魚、だったけ。」

「そうそう。身が蛋白で刺し身でも揚げ物でもどっちでもイケる。魚もいいけど、肉も美味しいぜ。」

「お肉か。私はお肉なら鶏肉が一番好きだけど折角だからお魚にするわ。紫羅のお魚、美味しいって有名だし。」

紫羅は四つの国に面しているが、同時に海にも面している。

降水も豊かであるため、川や湖も多く淡水海水の魚介類が豊富に手に入る。

農作物も言わずもがな。

味付けは素材の味を活かすことを念頭に発展しており、手間を掛けて取る出汁や、洗練された盛り付け、調理手順は世界中の料理人が参考にする程である。

フェグ自身はさほど濃い味が好きなわけではないため、紫羅風の料理はまさに彼女の好みにぴったりであった。

ヴィガロスは肉中心の、フェグは魚中心の料理を注文した。

膳と呼ばれる台に料理が何品も乗った形式の料理でかつての特権階級の食事風景を模したこの料理形式は『御膳』と呼ばれている。

料理が運ばれて来るまでの間、二人は出されたお茶を啜りながら話始めた。

「でもヴィガロスが前白闘皇・劉昂羽のお弟子さんだったなんて、知らなかったわ。紫羅にずっと住んでいたのは知っていたけど。」

「俺を引き取ってくれた人が、昂羽さんと知り合いだったんだ。それで、色々教えてもらっていたんだよ。武術とか。」

「そうだったんだ!引き取ってくれた人って、あの黒い髪の人だよね。何度かヴィガロスと一緒にリィザガロスに来てくれていた…秦さん?だったよね。」

「そうそう、秦さん。紫羅に住んでる人で、俺達がいた施設の所長さんとも仲が良くてそれで引き取ってもらったんだ。秦さんからは武術の基本を、奥さんの煌さんからは魔法の基本それぞれを教えてもらって、成長してからかな、本格的な武術は昂羽さんに師事したんだ。…でも昂羽さん三年前に大怪我をしてしまって、療養のためにこの国を去っていったんだ。」

ヴィガロスの表情が曇る。前白闘皇の引退は事故による怪我が原因である。

詳しい内容は公表されていないが、白闘皇としての責務を全うできない程であるということは確かであった。

「うん。うちのお父さんともだけど。ちょっとしか会ったこと無いけど、よく覚えてる。優しそうで、すっごく落ち着いた感じの人だったよね。」

「よく覚えているな。そういえば秦さんはレオンやフェグのおやじさんとも知り合いだったな。ってか、俺も秦さんに連れられてリィザガロスに行ってたっけ。」

「今頃思い出したの?もう。ヴィガロスがジュニアハイに行くまでは毎月来てくれてじゃない。ついでにその度にレオンと取っ組み合いの喧嘩をしてたのもちゃんと覚えているのよ?」

「そう、だっけ?」

ヴィガロスの脳裏には幼い頃の記憶が蘇ってくる。

レオンの義両親の家、もしくはフェグの義両親の家の庭で遊び、時には喧嘩をしたこと。

喧嘩の原因は、確か…。

そこまで思い出してヴィガロスは頭を振る。

「どうしたの?」

「あ、ああなんでもない。そろそろ料理が来る頃だぜ、ほら。」

ヴィガロスの視線の先には黒塗りの膳を持ったウエイトレスが二人のテーブルに向かってきている。

「お待たせしました。お先に白太刀魚の魚御膳です。」

「私です。ありがとうございます。」

「いいえ、青原高原牛の御膳の方も直ぐにお持ちしますね。」

ウエイトレスは言葉通り直ぐにヴィガロスの料理も持って来た。

そしてさらに二人の御膳の前に卓上コンロが置かれそれぞれ鍋が乗せられた。

「ご注文はおそろいですか?はい、ではごゆっくりどうぞ!」

「ありがとう。じゃあ食べようかフェグ。」

「うん。じゃあいただきます!…でも綺麗すぎて食べるのもったいない。」

フェグが頼んだ白太刀魚の魚御膳はその名の通り旬の白太刀魚をはじめ、近海の魚介類をふんだんに使った料理がこれでもかという程盛られている。

白太刀魚の刺し身が部位ごとに三種類。貝と海老の刺し身も添えられている。

米を一口よりもやや小さめの球に成形したものには魚の卵や刺し身を乗せた手鞠寿司が三つ。

旬の野菜のおひたしに、魚のアラと根菜を煮た煮物。

鳥ひき肉に芋を練り込み、出汁のとろみ汁で仕上げた椀物はフェグの好みにピッタリの逸品。

メインは白太刀魚と野菜の鍋で、薄くスライスした魚の切り身を一瞬だけ湯にくぐらせ酸味の効いたタレで食べる、この国独特の料理だ。

焼き物は切り身に大豆の発酵調味料である味噌を塗って焼いたものと甘い青唐辛子。

更に切り身の揚げ物もあって、ヴィガロスの言うとおりボリュームたっぷりの内容であった。

ヴィガロスの方は、構成はフェグと似ているが更にボリュームが多かった。

肉の刺し身に、肉のお寿司。旬の野菜のおひたしに、根菜のサラダ。

鶏肉の串焼きが三本、もも肉と内臓二種類。

アスパラを肉の薄切りで巻いて焼いたもの。

メインはフェグと同じく鍋だが、こちらは汁はなく肉と野菜を大豆調味料の醤油と砂糖で味付けする焼き鍋の一種である。焦げた醤油の臭いが食欲をそそる。

揚げ物は肉を竹串に刺して揚げたもの。こちらは肉だけでなくキノコや玉ねぎ等の野菜の串も添えられている。

そして更に一品、青原高原牛のステーキ。

これは御膳料理には含まれておらず、ヴィガロスが追加で注文した料理である。

「揚げ物は衣がさくさくのうちに食べたほうがいいぜ。」

「本当?じゃあ一口お刺身を頂いてから食べるわ。…ん!お刺身美味しい…!ぷりぷりしてて、うん。」

口元を手で隠しながらフェグは目を細めて歯ざわりを堪能する。

「揚げ物も衣がさくさく。なのに中がふんわり。」

もぐもぐと口を動かし目を細めて料理を堪能する。

その様子をヴィガロスは微笑ましく見守る。

前に会ったのは五年前。

兄の後ろについて回っていた少女は成長し、少女から大人へと変わりつつある。

フェグは幼い頃から美しくなると大人たちは囁いていたが、その期待に彼女は裏切らなかった。

だが、目の前で無邪気に食事する姿は歳相応で、素直で可愛らしい少女の面影を感じさせた。

「ヴィガロス?食べないの?」

「あ、いや。ほらどれから食べようかなって。」

見とれていた。フェグに。

懐かしさと、綺麗に成長した姿に思わず見入ってしまったのだ。

「そうなの?だったら、揚げ物は衣がさくさくのうちに食べたほうがいいわよ。」

さっきヴィガロスが話したままのセリフを口にするとヴィガロスは笑った。

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