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Sword World  作者: 千夜
第一章 封印解放編
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第一章 第四節『学問通りにて』

正門から伸びる大通りに並行して通る街路には小さな店が並び、服やアクセサリー、雑貨に土産物屋と観光客をターゲットにした賑やかな通りである。

更に大通りから二筋程離れた細い通りにヴィガロスとフェグは足を踏み入れた。

小さな通りで大通りに比べれば人通りもまばらであるが、紫羅都独特の清潔感が漂っている。

この通りは『学問通り』と呼ばれている。

教科書から専門書、文学書といった書籍に文房具や画材、更には魔道具や魔術書の専門店が立ち並び、地元の学生や魔導師達が足を運ぶことからいつの間にかその名が付いた。

そして国外旅行が一般的になった今日においては、国外からも知る人ぞ知る隠れ人気スポットとなった。

紫羅は魔導を基軸とした教育産業が盛な国であり、質の高い専門書や魔道具がリーズナブルな価格で手に入るため、魔導を修める者にとってこの通りは宝の山であるからだ。

フェグは城の見学が終わるとヴィガロスに『学問通り』の案内を頼んだ。

ヴィガロスの説明を聞きながら学問通りの入り口から、大聖堂前の広場に続く出口までまずは歩く。店の数は多く、全部を見ては回れないため幾つか厳選して入ろうと考えたからだ。

そして出口までたどり着くと通りの入口にまた戻り魔導所の専門店にまずは足を踏みいれた。

「随分熱心なんだな。魔法の本がやっぱり珍しいのか?」

「そういうわけじゃないけど、宿題の参考になりそうな分野の本があって、あっちで買うよりも安いからつい…。あ、もしかして待たせちゃってる?」

「そんなことはないよ!でもディノティクスでも、魔術の勉強っていするんだな。」

「普通にするよ?対呪詛の基本防御術とか、あとは魔法倫理。多分、他の国とあまり変わらない内容だと思うけど、なんで?」

「フェグの住んでいるギガって、ディノティクスの中でも特に機械化が進んでいる都市だからさ。殆ど魔法かってくらい、機械技術が発展しているって聞いていたからさ。それだったらわざわざ魔法を勉強する必要はないのかなって思って。」

「確かにギガは他の場所に比べれば機械だらけの街よ。でも魔法や魔術の研究自体は場所が変わっても探求され続ける学問であることに変わりは無いわ。それに、工場施設に魔法を組み込む技術の開発は盛んよ。工業魔法って呼ばれているんだけど、これに関する研究と開発は世界にも類を見ないくらい盛んだって、大学部の先生が言っていたわ。」

「工場と魔法の融合?今の工場はそうじゃないのか?」

「車とか、家電製品を作っているとことは百%機械装置だけで行われているわ。でも野菜工場とかだと魔力を土に供給したりすると成長が早かったり、美味しいものが出来たりするんだって。ディノティクスって、土壌があんまり良くないからこうした工場栽培で需要を賄ったり、新しい品種を開発して商売しているのよ。まあ、私も詳しいことはよくは知らないけれど。…よし、これとこれを買ってっと。」

フェグは吟味した本の中から四冊を選び、レジへと持っていった。

ヴィガロスは店の入口に移動しフェグの会計が済むのを待った。

時刻は午後四時。

ヴィガロスは城に入る前に大通り沿いのカジュアルなレストランに電話を掛けた。

幸い午後六時半に予約できた。

二時間半程時間はある。この本屋の後に隣のマジックツール・ショップ、更にその隣のマジックストーンショップと、この通りの主だった店には全て入るつもりなのだとか。

「重そうなの買ったな。持つよ。」

「珍しい本だったからつい、じゃあお願いします。」

ヴィガロスはフェグから紙袋を受け取る。

女性が持てない程ではないが、この後も買い物を続けるとなると負担になる程の重量だ。

しかも後々マジックストーンショップにも入ると言っていたから、更に荷物は多くなる。

ショッピング、という言葉からフェグは大通りのアパレルショップやスイーツパーラーに行きたがると思っていたのだが、予想に反して渋い買い物になった。

勿論嫌ではない。

むしろ、表通りの店は普段は通り過ぎるだけでヴィガロスとは縁遠い店ばかりでうなく案内できる自身が無かった。

この学問通りの方がよく知っているし、雰囲気も落ち着いているのでゆっくりと時間を楽しみ無ことが出来そうだからだ。

「荷物が多かったら、そうだな。宅急便で家まで送るのもありかもな。料金はかかるけど帰るときは楽だと思うぜ。というか、持ってきたカバンに全部入るように考えて買い物したほうがいいぞ、フェグ。」

からかうような言い方にフェグは抗議した。

「もう!そんなに買わないってば!」

「あはは、ごめんって。ま、レオンも来るから重いものは全部あいつに任せればいいか。」

「ちゃんと自分の荷物は自分で面倒見ます!」

フェグはヴィガロスに背を向けて店を出て行く。

早足なのはからかわれて怒っているのだ、という意思表示だ。

ヴィガロスは慌てて後を追いかける。そしてフェグの前に回りこみ手を前に合わせて頭を下げる。

「ごめん、ちょっとからかいすぎた。」

「本当よ!いつまでも子供扱いしないでよね!…そうね、さっきみつけたお店の飲み物、奢ってくれたら許してあげる。」

「本当か?それならお安いご用さ。」

フェグは表情を和らげ、にこりと笑う。

見つけたお店、というのは果実と蜂蜜をミックスしたジュースが売りの小さなカフェのことだ。

席数は十に満たないが、テイクアウトも出来る。

「次のお店が終わったら、連れて行ってね。」

「了解。」

ガラスに金文字の魔紋が書かれたマジックツール・ショップの扉に手をかける。

少し重いその扉を開けると薬草の臭いや、香の香りがするりと二人の間を抜けていった。

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