第一章 第二節『白闘皇』
闘士協会と魔導士協会。
国境を越えて存在するこの二つの組織の歴史は古い。
闘士と呼ばれる者の起源は、剣技に優れた傭兵集団とされている。
組織を作ることで力があるものの暴走を抑制し、国家を持たず、私利私欲の為に動くならず者達とは一線を画する存在。
秩序を持った傭兵派遣組織として、戦乱の世を生き抜いた集団である。
現在における闘士協会は、身体能力が優れている者、武器の扱いや格闘術に優れた者、更には戦略的思考が抜きん出たものを登録し、各国の騎士団に派遣したり、賊の討伐に当てたりと、身体能力に限らず個人の能力を適材適所の考えのもと活用していく機関に変わってきた。
対して魔術士協会は魔力の高い者を登録、管理し、場合によっては訓練や教育を施して能力の開花に努めている。
そして、魔法、魔術に疎い者が『悪い』魔法使いに騙されたりしないように働いている機関である。
その起源は神に使える巫女の組織だという。
こちらも強い力を持つものが暴走しないように管理・教育を行い、魔導の発展と恩恵を人々に与えるために組織されたのだという。
二つの組織の起源は全く違うが、現在では理念が殆ど同じである。
統合する試みも過去何回かあったのだが、お互いの組織が巨大でありすぎるため、今日まで二大組織の体を保っている。
組織には長がいる。
闘士協会と魔導士協会にも当然存在し、それぞれ闘皇、魔導皇と呼び称されている。
対外活動の総括を行っている者を白の皇、対内活動の総括を黒の皇として、それぞれ二人ずつ選出される。
白と黒の闘皇を有する闘士協会、同じく白と黒の魔導皇を有する魔導士協会。
現在では人材管理、派遣の色合いが強くなり、円熟した組織ではこれらの役職も組織の象徴として扱われることが多くなっている。
しかし象徴とはいえ、勿論優れた資質を備えなくてはいけない。
体力的な面を重視する闘士協会では三十歳から四十歳までの優れた武を持つ人物が選出されおおよそ四年、あるいは八年間務めるのが通例である。
しかし魔導皇であれば、年齢は問われず、任期も決まってはいない。
魔導の技はほぼ年齢に比例するからである。
だがヴィガロスは二十歳という若さで白闘皇に推薦されたのだ。
推薦人は前白闘皇であり、紫羅の元近衛隊長の劉昴羽。
紫羅に道場を構えていた彼の元に、ヴィガロスは幼い時分より熱心に通っていたのだ。
やがてヴィガロスは昂羽の一番弟子になり、遂には異例の若さで白闘皇となったのだ。
「でも本当に会えるなんて思わなかった。お仕事、忙しいんだよね。」
「そうでもないよ。ほら、まだ学生だし。色々免除はしてもらっているんだ。」
白闘皇と学生の両立は忙しいが、それでも協会の執務の殆どは会議への出席や、協会に所属している闘士達との訓練に止まっているため、時間の都合は付きやすかった。
「フェグこそ、よく親御さんが許してくれたな。旅行。」
「そう?だってヴィガロスのことは昔から知っているし、紫羅は治安が良いから安心だ、って。それにレオンが一緒だから大丈夫だろうって。」
フェグとレオンはハイスクールの学生であり、学期の合間の休暇中。
二人の親達はこの小旅行に快く賛成した。
遠出ではあるが、行き先の治安が良さと、幼馴染みを直接祝福したいという子供達の気持ちに反対する理由は無かった。
「あははは。そうだな、フェグには昔からボディーガードがいたもんな!でもレオン、今日は用事で居ないんだよな。道中大丈夫だったか?」
「大丈夫よ。特急で直通だったし。ちゃんと寝ないで起きていたし。」
「お、関心関心。俺は実はさっき起きたばっかり」
ぐう、となんとも言えない音が二人の間に流れる。
ヴィガロスの腹の虫が空腹を盛大に訴えたのだ。
起床してからまだ何も食べていないのだから当然である。
「ちょっと観光の前に腹ごしらえが必要だな。」