第十五章「好きか嫌いか」
…積木は自分の部屋のドアを閉めると、
そのままドアの前に倒れこんだ。
……姉妹は同じ人好きになるって聞いた事あるけど、
まさか同じ先生に恋するなんて……。
正直凄いショックだった。
ソノライバル相手が、自分が軽蔑できるほど馬鹿騒ぎする奴だったら、
戦う意味がない、と相手にしないけど、お姉ちゃんは違う。
私より明るいほうだけど、馬鹿ではない。軽蔑もしていない。
もしかしたら、私より上なのかもしれない。
……負けてるかもしれない……
それに、三年一組は小野寺先生が副担だし、明るく素直なクラスで
よく笑ってくれるし、授業も真面目に受けるし……。
負け、だよね──。
「アンタ……なにしてんの?」そのまま呆然としてたら、
目の前に月見が居て、積木の目の前で指を鳴らしている。
「なにしてんの?」月見はさっきの質問を繰り返した。
「お姉ちゃんも……なんで部屋に勝手に入ってきてんの?」
さっきの事があり、積木はつい声を荒げた。
「積木、口語辞典もってくの忘れてたから……。」
月見は少し考えてから言い、口語辞典を差し出す。
積木は月見から辞典を受け取り、自分の本棚に荒々しく置く。
そんな積木の動作をみながら、月見は言った。
「そういや、積木、作文全校一位で提出したんだってね。」
積木は止まった。急に言われて吃驚する…。
「何で知ってんの?」また口調が鋭くなる。
「小野寺先生が言ってたから………、国語の時間。
河嶋の妹、全校一位で作文提出したぞ、って。」
月見は少し間をおいて言った。積木は先生が自分の事を言ってくれて
嬉しかったが、今は、誰にも向かない苛立ちが湧いてきていたので黙っていた。
「………何怒ってんの?」月見は遠慮がちに言った。
積木は動きが完全に止まった。
「べ…つに怒ってなんかいないよ…。」積木は固まったまま言った。
表情が固まり、笑いたいけど笑えない。
「……小野寺先生の事…?」姉は躊躇いながら訊く。
………また気が遠くなりそうだった。
なんて言って良いかわからない。
姉の口調からわかる。
ノーと言ってほしいと。だけどそれでは負ける気がした。
「……うん。」積木は静かに答えた。
ソノ言葉が、積木自身に一番強く、厳しく刺さった。