第十章「苛立ち」
「積木っ、遅いー、何やってるの?」
写真を持ってボーッと突っ立っていた
積木に、姉、月見の声が一階から降りかかる。
「ハ、ハァーイ、今行く!」積木は写真を持っているところを
見られたくなく、すぐに返事をした。
積木はすぐに教科書とノートを持って一階に下りようとした。
でも……、やっぱ、写真も持っていこう…。
アノ大雑把な姉なら、集合写真の一枚や二枚無くなっても
気づかないだろうし…。
積木は集合写真を手に持ち、一回、月見の隣の自分の部屋へ行き、
机マットの下に写真を隠してすぐに下へ降りた。
「遅かったねー、なかなかみつからなかった?」月見は
積木から数学の教科書とノートを受け取った。
「うん、全然みつからなかったよ…、机、片付ければ?」
積木は慌てて言った。
「めんどくさいからいーよ。」月見は教科書をパラパラと
開いた。
さて、そろそろ誘導尋問でも始めるか…。
積木は牛乳を取り出しながら思った。
小野寺先生が三年一組ではどうなのか訊いてみなければ。
「てかさー、お姉ちゃん数学好きなの?」積木は
何気ない感じで訊いた。
「えっ、なんで?」積木の思ったとおり、月見は不思議そうに訊く。
「だって、お姉ちゃん珍しく勉強してるもん。数学が好きになったのか
なーって。」そう言った後、積木は牛乳でのどの渇きを満たした。
「別に好きってわけじゃないけど…、受験生になると
色々勉強しなきゃならないんだから。本当は一番好きな国語から
やりたいけど…、やっぱ苦手なヤツから、ね。」お姉ちゃんは
戸棚からバタークッキーを取り出しながら言った。
「えっ、お姉ちゃんって国語がすきなの?」脈あり、と思いながらも
何気ない様子で積木は訊く。
「うん、アレ?アンタも好きなんじゃないの?」月見はクッキーを
頬張りながら訊く。
おしっ、計画通り!
「うーん、前は好きだったけど…、今新しい先生ジャン…、
小野寺先生だっけ?なんか真面目でつまんない。」積木は
嘘をついた。
小野寺先生の名前を口にするとドキドキした。
「えー、嘘ぉ、アンタ真面目系好きなんじゃないっけ?
西岡先生の時、散々文句言ってたジャン。授業サボるって…。」
月見は意外そうに訊く。
「うーん、最初はそう思ってたんだけどね…、
実際に真面目系に対面してみるとねぇー、やっぱ
西岡先生がいいや、って思った。真面目はやっぱつまんない…。」
積木は苦しい嘘をつく。
「第一、うち等のクラスで嫌われてるよ?隣のクラスでも。」
積木はそう付け加えた。これからが誘導尋問開始だ。
「えーマジ?なんでぇ?
うちらの学年では普通だよー、やっぱ三年にもなると
授業集中しなきゃならないし…。
それに小野寺先生時々冗談言って面白いときもあるし。
まぁ他の先生よりは真面目だけどね。でも大人っぽくて良くない?」
!?これには意外だった。
時々冗談を言う…。私たちのクラスのときは全然そんな事
なかったのに…。
でも、やっぱ最初のときはあったよね…。
てことは…、うちらの学年授業態度悪いヤツ多いから?
郁美とか啓祐とか…。アイツらのせい?
「やっぱねー、馬鹿丸出しってのも嫌だからねぇー、
アレぐらいが私には丁度いいかも。」
月見は数学のノートに文章題を書きながら話を続ける。
「そう…、なんだ、やっぱね。」
積木はなんとかその場を取り繕って早足で部屋へ向かった。
やっぱ、違うの、かぁ──。
当たり前だよねぇー、写真にアノ笑顔だもん…。
副担だし…。
三年生は大人だし…。
ハァ……。
嫌だなぁ…。私もお姉ちゃんのクラスだったら
良かったな…。
先生って、実は結構楽しい人だったりして。
そりゃ真面目だけど。
職員室でも話しやすかったし…。
加奈なんてウン、て答えたほどだしね…。
羨ましいなぁ…三年…。
つーか、正直アイツらのせいじゃん。
アイツらが授業中馬鹿丸出しやってるから…。
小野寺先生にだけ態度が悪いから…。
積木は思い切りベッドを蹴った。
足がジンジンする…。
でも、マジでムカツク。
私はなにも悪くないのに、なんで…、
小野寺先生の笑顔がみれないのよ…。
消えれば良いのに…。
あんな奴等。
アイツらのせいで、
私まで小野寺先生に嫌われてるんじゃないの…。
私たちは小野寺先生に差別、なんていう資格も無い。
だって悪いのは私のクラスだから。
態度を悪くするのがいけないから。
誰だって自分を嫌っているヤツに笑顔なんてみせない。
ましてや授業さえも全然訊かない。
アイツら三人が真面目に授業聞いてれば嫌われなかったんだ。
仮面を被るのは私じゃなく、アイツら三人じゃん…!
積木は物凄い怒りが湧いてきた。
ハイ、どんどん更新中ですww
ついに十章目です…。
ANCHORまであと十章!w