第4節 sacred maden's eye
4節は思いつきました
第4節
あたりはまだ騒然としている。
研究所で何か起こった時は必ず自警団(警察のようなもの)がやってくるのだが、まだ来ないようだ。
追いかける事もできずに休んでいるセロの携帯コンソールに一つの着信があった。
エルハイムだ。
何とか重い体を起こし、着信ボタンを押す。
『セロ先生!クリスそっちに行ってませんか!!』
あきらかに焦っている声が聞こえてくる。
さっきまで一緒にいたのはエルハイムか、なんて思いながら
「ええ、さっきまでいたわ。もう行っちゃったけど・・。」
と、呟くようにそう答える。
少し意識が揺らぐのがわかった。
止血されたとはいえ、結構ダメージを負ってしまったらしい。
『先生!大丈夫ですか!先生!!』
エルハイムの必死な声が聞こえる。
「ええ、こちらは問題ないわ。それより・・・。」
少し言葉につまりながら
「彼女を追いかけて。一人じゃ危険すぎるわ・・。」
全てを託すように話す。
『追いかけてって。どこいったんですか!!』
「多分、ヴィルゴファミリーの本部・・・。」
行くとすればあそこしか無いだろう。
そう思ったがもう意識が限界のようだ。
「あとは・・・まかせたわよ・・・。」
そう言ってコンソールを持った腕がダランと崩れ落ちる。
『先生!?せんせぇ!!』
エルハイムの声が聞こえるがもう返せそうもない。
とりあえず命に別状は無いだろう、仮にも医者だ。自分の診断ぐらいできる。
そう言い聞かせ、静かに眠ることにした。
その数分後には多数の足音が聞こえる。やっと自警団が来たのだ。
最後に一人呟く
「クリス、彼女を守ってあげて・・・。」
突然電話が繋がらなくなり一人焦るエルハイム。
ヴィルゴファイミリーといったらプロンテラでも有名なギャングだ。
あんなとこに一人で乗り込んで行ったらいくらクリスでも一気に蜂の巣にされてしまう。
「まったく言った傍から・・!」
とりあえず埒が明かないので、エルハイムも本部へ向かうことにした。
その途中、夜のメインストリートで、この暗闇にもかかわらず服装がもの凄く派手だと一発でわかる男に出くわす。
「あー!エルハイム!」
あっちから手を振っている。
無視しよう・・・。そう思ったのだが
何か閃いたのか急に足を止め
「あら、ハルトじゃない、どうしたのこんなところで。」
まるで今気づいたかのように声をかける。
「いやさ、今さっきクリスっぽいのがあっちに向かって走っていくのが見えてなー。何か知ってるんじゃないかとおもってよー。」
どうやらハルトも何か気づいているようだ。真剣な顔をしている。
「じゃあ説明は不要ね。」
そう言って
「お願い!一緒に来て!クリスが一人で行っちゃったのよ!」
「どこに!?」
思ったより大変なことだと思ったのか、声に熱がこもる。
「おそらくヴィルゴファミリーの本部・・。」
「本部だぁー!?何でそんなとこに!」
「あたしだってわからないわよ!でも彼女かなり必死な顔してたわ。」
エルハイムが思い出すように話し出す。
「そういえば、昼間いたエリィちゃんの姿も見えなかったなぁ。」
「ん?あなた彼女に会ったの?」
不思議思って聞くと
「ん?あぁ、昼間一緒に飯食ったんだ。」
と、言いつつ二人である結果を思いつく。
「ま、まさか」
「もしかして・・。」
今までの行動が合致したのか、二人して急に走り出す。
「ったく、話してくれりゃあいいのに。面倒な奴だ!!」
走りながらハルトが悪態をつく。
「だからあたし達がいるんでしょ!」
何を今更とでも言うようにエルハイムが叫ぶ。
「まったくだ!!」
彼らもヴィルゴファミリーがどうとかは関係ない。心配するのは友の事のみだ。
「お願い、早まらないで、クリス・・・!」
そう思いながら本部があるカルベルスタット郊外へと走っていく。
「ん・・・?ここは・・・どこ・・・?」
目が覚めた所はさきほどの所とはまったく違っていた。
とても暗く、冷たい小さな部屋。
辺りは何もない、家具やベッド、美味しい料理も無い。
窓も無く、目に見えるのは角のほうにある灯がともったろうそくが一本おいてある台だけだ。
「目が覚めましたか?」
遠くから声が聞こえる。
「全く、てこずらせてくれましたね。」
とても静かな声だが、何か怨念染みた物が込められている気がした。
「だ、だれですか!」
怖くなって叫ぶ。唯一の抵抗とばかりに。
「自分が誰だって関係無いと思いますよ。エルクレスティア=マクレガーさん。」
抵抗も空しく声のトーンは変わらなかった。
しかし、なぜ自分の名前を知ってるのか。
「ぇ・・どう」
「なぜ自分の名前を知っているか?とでも言いたげですねぇ。」
エリィが言い終わる前に、それを見透かしたかのように男が言い返す。
「それはあなたが私達にとって大事な存在だからですよ。」
あたりまえでしょう?とばかりの声で言う。
「あ、あなたは私が誰だか知っているんですか!?」
エリィが聞く。
が、男は何を言ってるんだとばかりに首を傾げながら
「あなたは自分の事がわからないのですか?」
逆に質問を返す。
「私、記憶が無いんです。自分が何者だかわからないんです!!」
もう藁をもすがるような、そんな悲痛な声で叫ぶ。
「き、記憶が無いですって!そんなバカなことが・・・。」
ここにきて初めて、男が動揺する仕草をみせた。
「何が起きたというのだ。これもミスなのか・・・。」
何か一人でぶつぶつ言っている。
エリィにはこの状況が今一理解できなかったが、一つだけわかる。
この男は私の過去を知っている。
「私は誰なんですか!教えてください!!」
そう言って男の声がする方へと行こうとするが、急に足が止まりその場に崩れ落ちる。
「え!?」
そう思って足元を見ると、片足が鎖に繋がれていて身動きができない状態になっていた。
「あなたはもうどこへも行けませんよ?」
それを見て男が言う。
「あなたはこれからある場所へと連れて行かれるのです。いや、帰ると表現した方が正しいかもしれませんね。」
何の感情もなく、文を読むように説明をしていく男。
「しかし記憶喪失とは思ってもみませんでしたね。もしかしてあのワードもお忘れに?」
男が聞く。
「あの・・ワード?」
何の事だかさっぱりわからない。
もうさっきから何を言ってるか理解ができない。
頭を抱えてうずくまるエリィに
「ふむ。本当にわからないようですね。困ったものです。」
などと特に困ったような顔もしないでそう呟く。
「まぁいいでしょう。記憶など後でどうとでもなります。とりあえずあなたをあの方へと届けないと。」
そう言ってこっちへと近づいてくる音が聞こえる。
「ひっ!」
すごく嫌な予感がして勢い良く頭を上げ、声がする方へと睨みつける。
「こ、これ以上こっちへ来たら舌噛み切って死にますよ!!」
多分自分は彼らにとって重要な存在なんであろうということは理解ができた。
それはとてもいけないんじゃないか、だから私はあんなとこにいたんじゃないかと想像する。
であれば恐らく彼らに捕まってはいけない。そんな気がする。
案の定、男は困った顔をして
「それはいけませんねぇ。」
と言い、手のひらを裏返して両手を上げると
「マクレガーさん、こっち見て下さい。」
と、突然名前を呼ばれたので彼の顔を見た瞬間である。
体が動かなくなり、うまく呼吸ができない。目の前が真っ暗になっていく感覚。
「あ・・・ぅ・・ぁあ・・・。」
声もまともにだせない。
体を起こすのもしんどくなり、ついには這いつくばってしまう。
「今ここで死なれたんじゃそれこそ困りますからね。少し言うこと聞いてくださいね。」
男の静かな声が聞こえる。
何をされたのか全くわからなかった。
男の目を見た瞬間、瞳の色が黒から青色ぽく変わったと思ったらもう今のような状態だ。
思考すら許されない。完全なる束縛。
遠くなる意識の中で思うことは一つ。
「クリスさん・・・ごめんなさい・・・。」
はぁはぁはぁはぁ!!
思いっきり飛ばした為、少し息を切らす。
タバコをやめようかなとも思ったが、多分無理だと思ってすぐ考えるのをやめた。
クリスが今いるのは、ヴィルゴファミリーの本部と思われる邸宅のすぐ目の前だ。
玄関前には、黒をベースに赤のストライプが入った腕章をしている黒ずくめのスーツ姿の男が二人立っている。
恐らく銃などを所持しているに違いない。
彼らは冒険家ではないので剣や弓などは使わないが、その代わり使い勝手のいい銃などを所持しているケースが多い。
正面から突っ込めばこちらが蜂の巣だ。
クリスも銃は所持しているが、魔物以外の者に向けるのはご法度だ。
足とかぐらいいいじゃない、とでも思うがダメなモノはダメらしい。
軽く舌打ちをして、邸宅の側面へと回る。
どこか上手く進入できそうなとこは無いかと捜していると、邸宅の後ろ側の方からどう見てもこちらへと手を招いている人がいる。
あまりにも不信に思ってそーっと近づくと、少しづつ全体像が浮かび上がってくる。
緑髪に小さい体に似合わない大きい荷物をカートで運んでいる。
楓だ。
「なっ!楓!!!」
「しー!ばれちゃいます!大きな声はいけないのです!」
つい叫んでしまったのを必死で押さえる楓。
誰にも聞こえないように呟きながら
「な、なんでこんなとこにいるのよ。」
「ご都合主義ってやつです。」
胸を張ってそう答えるので、楓のほっぺたを両方からひっぱりながら
「真面目に答えなさい。」
「いーらーいーのーれーすー!」
ひっぱった頬を離すと、ゴムのようにパチンと音がするかのように戻っていく。
「で、何でここにいるの?」
「たまたま見かけたのです。エリィさんらしき人を背負ってここに入っていく人たちを。」
ひっぱられた頬をさすりながら楓が答える。
「あまりにも物々しかったので、もしかしたらと思ってこうやって隠れて入口をみつけていたらクリスさんが来たのです。」
たしかにご都合主義だ・・。なんて思いながらも
「ナイス楓!それで入口は?」
「こっちです。」
そう言って楓に案内された場所に行くと、邸宅を囲うようにある外壁に人一人入れる位の隙間がある。
「ま、まさか掘ったの?」
よく楓を見ると体中泥だらけだ。指は血が滲んでいる。
「ち、違います!あったんです!」
それを悟られたくないらしく、とっさに手を隠し悪魔でそこにあったものだと言い張る楓。
その血まみれの指をそっと握り、白い光りを纏わせる。
これぐらいの傷なら治せる。
「あっ・・。」
「ありがとね、楓。」
楓の頭を軽く叩きそこの穴へと入ろうとすると
「あ、クリスさん待ってください!」
突如楓に呼び止められる。
「ん?何?」
「これ、持って行って下さい。」
楓が手に持っている袋を覗くと大量のマナの石が入っていた。
「楓、これ。いいの?」
さすがに申し訳ないので一応聞く。
「いいんです!でも・・・。あまり危険な事しないで下さいね?」
これから敵の巣に行くのに危険も何もないだろう、と思いながらも
「ええ、大丈夫よ。心配しないで。」
と、言い返す。
「それと。エリィさんを助けてあげてください。」
泣き出しそうな声で言う。
「あたりまえでしょ!その為に来たのよ!」
そう不安を払拭するように言い切ると楓が掘ってくれた穴へと潜り込んでいく。
クリスが行くのを見送ると、そそくさと邸宅の傍から離れる楓。
ここで自分が見つかっても彼女の足手まといになるだけだ。
自分には戦う力は無い。
けれど、エリィが攫われていくのを見かけた時、自分でも何か出来る事があるんじゃないかと思って必死に考えた。
必ずクリスが来る。彼女が放っておく訳が無いというのは確信していたからだ。
自分にはこれ位しか役に立てる事は無いが、それでもありがとうと言われたのは嬉しかった。
自分が出来る事はやった。後は彼女が何とかしてくれるだろう。
それに、自分にもまだするべき事は残っている。
だから、託したのだ。
彼女達の無事を願って・・・。
穴を通って外壁の向こう側、内部へと進入するとそこは邸宅の裏庭部分に出た。
見つからないようにと身を低くして邸宅側への壁へと移る。
壁伝いに歩いて行き、兆度正面玄関の裏側、比較的警備の薄いと思われる裏口に向かって行く。
邸宅の壁の曲がり角、兆度影から裏口を見渡せる辺りまで辿り着き、バレない様にそっと覗くと、
いた。やはりファミリーの総本山だ、そう簡単にはいかないか。
裏口の前に立つ黒服の男が一人。
このまま突撃しても難なく倒せるだろうが、援軍を呼ばれてはまずい。
一度身を隠し、腰のベルトに閉まってある銃を引き抜く。
もちろん打つことはできない。
だが、ある程度脅しにはなるはずだ。
一度辺りを見渡し適当な大きさの石を探す。
あった。
それを拾い上げ、裏口の男が気づくところに投げ込む。
カランッと石が外壁とぶつかる音がする。
「だれだ!!」
裏口を守っていた男の声がする。
音を不審に思って近づいてくる男の足音を息を呑みつつ死角の壁際で待つ。
額を冷たい汗が流れる。時間にすると数秒と無いが、この時間が異様に長く感じる。
だんだんと足音が大きくなってくる。庭の草を踏み潰す音がやけに激しい。
まだだ・・。
足音はさらに大きくなる。
もう少し・・・。
大きくなった足音が急に止まる。
今・・・!
「止まれ!!」
壁際から銃を構えた男がこちらへと姿を現す。
だがそこには誰もいない。
「ん?気のせいか?」
そう思って戻ろうとした時である。
急に男の口が塞がれ、銃を持った腕が後方へと捻じ曲げられる。
その痛みで銃を落とす。
それと同時に背中に重い衝撃と足が浮き上がる感覚で見事に前のめりに倒される。
全て一瞬の出来事だ。
そして後頭部より何か鈍いものを突きつけられる。
「打ち抜かれたくなかったら大人しくするのね。」
いつもより低いトーンで男の耳に囁く。
「き、貴様何ものぐあっ!」
男がしゃべり終わる前に首の後ろ、兆度延髄のあるあたりを銃の柄で思い切り叩かれる。
その一撃で男は全身から力が抜け崩れ落ちる。
「だから大人しくしろって言ったのよ。」
物の数秒で黒服の男を気絶させ、ガラ空きになった裏口へと走っていく。
裏口の扉の前まで辿り着き、ドア越しに身をよせ、ゆっくりと開ける。
人がいる雰囲気は感じられない。
音がしないようゆっくりとドアを開け、足音がしないように忍び足で邸宅へと入る。
そこで目の前の光景に違和感を覚える。
誰もいない・・・?
目の前は電気もついていない廊下が続いているだけで、警備でうろついているであろう者どころか、人一人いないように感じられた。
不審に思いながらもその廊下を真っ直ぐ歩いていく。
考えている暇などないのだ。
エリィが泣いている姿を思い浮かべただけで胸が締め付けられる気がする。
最悪のパターンが頭を過ぎるが、それを振り払うかのようにどんどん奥へと突き進んでいく。
暗い廊下を抜け、どこかの大広間のような所に出た。
そこも明かりが消されている。
広間のあちこちにある窓から光る月夜だけがその部屋の大きさを表している。
「ここも・・・?」
違和感はどんどん疑惑へと変換されていく。
「まさか・・。」
そう思った時だ。
「その、まさかですよ。」
突如大広間の二階部分、兆度下にクリスを見下ろせる所辺りから男の声がする。
それと同時に一気に部屋の明かりがつく。
「くっ!」
突然の部屋のまぶしさに目がくらんだが、すぐに視点を対応させ辺りに意識を集中させる。
あきらかにこちらに銃口が向けられている。
しかもそれも数十と言ったところか。
クリスの周りを囲うように、二階、一階と黒服の男達が一斉に銃を構えている。
「はめられたわね・・。」
唇をかみ締めながら悔しそうに呟く。
「いやはや、本当に乗り込んでくるとは思いませんでしたよ。」
大広間の二階部分にいる白衣を着た男が口を開いた。
「こういう形で会うのは初めましてになりますかね、クリス=リンベルさん。」
丁寧なお辞儀をしながら男が言う。
「こういうもあーいうも、あんたに会うのは初めてよ。」
銃口を男に向けながらクリスが答える。
「あなたはそうでしょうけど、こちらも色々ありましてね。こうやってお迎えさえて頂いているのですよ。」
「そりゃどーも手厚い歓迎ご苦労様。」
軽口を叩くが、その視線は男から一つも離さない。
「でもあなたに用はないの。」
今度はクリスから話す。
「では誰に?」
「エリィはどこ?」
さっきまでの軽口とは違う、殺気の篭った低い声で言う。
「エリィとはこの娘のことかな?」
突如白衣の男の後方より低い男の声がする。
「その声、ヴィルゴ!?」
「ボ、ボス!」
カルベルスタットでも有名な為、クリスでもわかる。
が、それよりも白衣の男の方が驚いたようだった。
「まぁいいではないか。今まで散々てこずらせてくれたのだからな。」
そう言って白衣の男より前に出る。
年齢は50代くらいだろうか、隣にある男の倍あるだろうかという体格のいい体に、ヒゲを蓄えた口、髪をすべて後ろにしているあたりがさらに風格を漂わせる。
その男の横、両手を後ろ側にされ、手首を縛られた状態で男に掴まれている女性の姿が見える。
「エリィ!」
思わずクリスが叫ぶ。
「・・・。」
だがしかしエリィと思われる女性は何も答えない。
それどころかまるで焦点が合ってない様な、無機質な瞳をしている。
「ちょっと!!エリィに何をしたのよ!」
その変わり果てた姿に焦燥感を抱き、吠える。
「別に何もしていませんよ。少し静かになってもらっただけです。」
白衣の男が眼鏡の位置を人差し指で直しながら答える。
「どの道、この女ともここでおさらばだからな。対面させてやっただけありがたいと思うのだな。」
両腕を縛られたままのエリィをぶっきら棒に前に突き出す。
「・・・。」
それでもエリィは反応しない。まるで自分がここにいないかのようだ。
「エリィ!!」
なおも叫ぶ。
「エリィ聞こえる!?帰ろう!ね!?」
「・・・さん。」
意識が無いはずのエリィから微かな声が聞こえる。
「ほう?」
関心していたのは白衣の男だ。
自分がかけた魔術が解かれようとしているところに興味を持ったらしい。
「く・・・りす・・さん・・。ごめんな・・さい・・。」
今にも消え入りそうな声で、その無表情の瞳から小さな涙をこぼしながらエリィは呟いた。
「エリィ・・・。」
あまりにも見ていられなかったのか、それとも自分の情けなさを嘆いたのか。
クリスが俯く。
「はい、感動のご対面はここまでです。」
エリィの眼の前へと移動し、まるでクリスと壁を作るかのように阻む白衣の男。
「どちらにしろ、あなたにこの女は救えません。だってここで死ぬのですから。」
そう言うと片腕を真上へ上げる。
クリスを囲んでいた黒服達が一斉に銃の撃鉄を起こし、発射体勢をとる。
「死ぬ前に何か言い残した事はありますか?」
よほど余裕なのか、すぐ攻撃命令をしない。この状況を楽しんでいるかのように聞く。
「・・・さない・・。」
俯きながらクリスが呟く。
その右手にはもう銃は握られていない。代わりに小さな布の袋がしっかりと握られている。
「何ですか?よく聞こえませんが。」
白衣の男はそれに気づいてはいないようだ。
「許さない・・って言ってんのよ!!!」
それと同時に先ほどまで大事に握られていた袋を頭上高くまで投げる。
その勢いで袋の中身から大量のマナの石がばらまかれる。
そう、先ほど楓からもらった物だ。
「ちぃ!撃てぇ!!」
何をやられるかわからなかったが、その行為に焦った白衣の男が命令を下すが
「遅いわよ!!」
クリスの怒声がそれを遮る。
頭上高くまでばらまかれたマナの石一つ一つが青白くオーラのような物を纏い、
四方へと分散し勢いよく降り注いでいく。
まるで流星のように。
そのスキルの名をこう呼ぶ。シューティング・レイ。
読んで字の如く無数の相手へと降り注ぐ青い光。クリスの精神力スキルの一つだ。
まるで意識を持ったかのように標的へと降り注ぎ、敵を無力化していく。
「ぐあぁ!」
「うおぉ!!」
体格のいい男達がその光の前に崩れていく。
さすがに体を突き抜けるほど威力は高めていない。殺さないぎりぎりのところまで弱めているのだ。
人殺しは、万国共通で大罪だ。
「ちっ!小娘が!」
ヴィルゴが怒鳴り声を上げる。
「これでも成人してるわよひげづらぁ!!」
奇襲により敵の陣形が乱れている間に一気にヴィルゴとの距離を詰める。
一階から2階の踊り場へと跳躍。これも精神力を応用したスキルだ。
「エリィを返せ!」
その勢いでヴィルゴの顔面を殴り飛ばそうとした時だった。
真横よりの銃弾がクリスの顔を横切る。
少し鼻の頭を掠めた為、そこから少し血が流れた。
「!?」
すぐに殴る体勢を立て直し、銃弾が飛んできた方角を見ると、先ほどの奇襲攻撃から逃れた黒服の男がこちらへ銃を向けているではないか。
回りをよく見ると後ろでも、壊滅しかけた1階部分に数人の男達がこちらへと銃を構え、発砲してくる。
「ちっ!」
軽く舌打ちをし、すぐに銃弾対応する為に自身の体を覆うように光の壁を作る。
飛んできた銃弾はその光の壁に阻まれ、あらぬ方向へと飛んでいく。
便利のように思えるが、これが長くは続かない。
一発ニ発ならば用意に防げるが、こう雨のように撃たれては数分ともたない。
それを知ってか知らずか、いくら阻まれようとも撃つのを止めない黒服達。
これだけ撃って自分の後ろにいる、彼らのボスやエリィは問題ないのかと後ろを振り返ると。
そこにはもう誰もいなかった。
しまった。逃げられた・・・。
ならばもうこんなところで立ち往生していないでさっさと後を追いたいのだが。
少しでも光の壁を崩したら蜂の巣だ。
少しでも身を屈めて当たらないようにするが、もうほとんどもたない。
元々この手の支援スキルは苦手なのだ。
こう言うのもベタだが、万事休すか・・。
なんて思っていた時だ。
「だからいつも冷静に行動しろって言ってるのよ。」
銃声だけがする大広間に透き通った女性の声がする。
かと思えば、クリスを狙っている黒服の男数人の眼の前の地面が突如変化し、まるで溶岩のようにドロドロに溶け出し、その亀裂から大量の火柱が天井へと昇っていく。
「うおお!!」
何が起こったかわからずその火柱の前に尻もちをつく男達。
「エルハイム!?」
クリスが思わず叫ぶ。
その瞬間のスキを狙ってか一人の男がクリスの頭へと狙いを定め、撃とうとした瞬間。
「スキだらけだぞクリス!!久々の戦闘でなまったかぁー!?」
そう言いつつ、今度はその男の頭部を蹴り飛ばす派手な服装をした男性が一人。
「ハ、ハルト!?」
何で2人がここにいるのかさっぱりわからない。
「どうしてここに・・」
「いいから早く追え!!」
クリスの言葉を遮るようにハルトが叫ぶ。
「エリィが待ってるんでしょ!急いで片付けてきなさい!」
エルハイムがそう言うと同時に、今度は大広間一帯に巨大な風を巻き起こし、爆風と共に黒服達の体勢を崩れさせ武器を奪っていく。
「・・・ごめん!!」
何か言おうとも思ったが、2人の好意を無駄にするわけにはいかないとヴィルゴ達が逃げて行ったであろう方角へ走っていく。
「ちぃ!追いかけろ!」
黒服の一人が叫ぶ。
「そうは・・・」
「させねぇよ!!」
ハルトとエルハイムがその行く手を阻む。
自分の身長ほどあろうかという大斧を全面に構え、その射程に入った敵を薙ぎ倒すハルト。
そしてその後方より精神力(魔力)を集中させ、火、風、地、水と多属性に及ぶスキルを発動させるエルハイム。
「この先は絶対に行かせねぇよ!!」
ハルトが叫ぶ。
「あなた達に恨みはないけど。彼女の邪魔はさせるわけにはいかない!」
決意に満ちた声でそう言うのはエルハイムだ。
2人が願う事はただ一つだけ。
エリィを救えと・・・。
~息抜きタイム その7~
ハ:「あーまじめにやったら疲れた。」
エ:「やっと出番なんだからもーちょっとがんばりなさいよ!!」
ハ:「もうないよ。」
エ:「え?」
奥へと続く廊下を走る。
まだ離されて3~4分とたっていないはずだ。それでも一向に追いつく気配がない。
まさかもう遠くへ行かれたのではないかと不安になる。
走りながらヴィルゴがさっき言っていた言葉を思い出す。
『この女ともここでおさらばだからな・・。』
さらうぐらいだから、殺すということは無いはず。
と、いうことはどこか違うところへ移される?
そう考えていた時である。
突如廊下の壁際にある窓から日が差し込む。
日が昇り始めたのだ。
突然の事なので、驚いて窓の方を見ると、
その真下を走っているヴィルゴと白衣の男がいるではないか。
ヴィルゴの肩に背負われるようにしてエリィが運ばれている。
彼らが走っている先にあるのは・・・。
巨大な鉄の塊で覆われた馬車のようなフォルム。ただ先頭に馬はいない。
そのかわり塊の下の部分に大きな車輪が両はじに二つずつ、計4つ付いている。
つい最近開発された精神力エネルギーを流用した機械、たしかカートと言ったか。
あれに乗られたら、走っても到底追いつけない。馬車なんかよりも何十倍ものスピードが出せる。
「まずい!!」
今から下に行ったんじゃどう考えても間に合わない。
じゃあどうする?
もちろん、答えは決まっている。
「!?」
急に眼に入る朝日によって意識を取り戻す。
しかし全然地に足がついている感じがしない。浮いているような気さえする。
それもそうだ、彼女は大柄の男に抱えられているのだから。
「ほう、もう意識を取り戻しましたか。やはり普通のヒトとは違いますね。」
大柄の男の隣の方より声が聞こえたので、振り向くと白衣の男が興味深そうにこちらを見ている。
「お、降ろして下さい!!」
抵抗しようとするが、両手を後ろで縛られている為に身動きがとれない。
「悪いがこちらも自分の命を守る為なんでな。悪く思うなよお嬢ちゃん。」
白衣の男とは違う、もっと低い声が聞こえる。
自分を抱えている大柄の男がしゃべったのだ。
前方の方を見ると、何やら大きい鉄の塊のような物が止まっている。
あれに連れて行かれるのだろうか。。
「安心して下さい。帰るだけなのですから。まぁちょっと脳の方はいじくらせて頂きますけどね。」
白衣の男が気色の悪い表情をして言う。
この男の本性が少しわかったかもしれない、と思うと同時に襲ってくる恐怖に身が震えそうになる。
「私が・・何をしたっていうんですか・・。」
声を震わせながらすがるように呟く。
「別にあなたは何もしていませんよ。恨むなら、そうですねぇ、自分の運命でも恨んでください。」
おもしろがるように言う白衣の男。
どう抵抗しても無理そうなので、次第と全身の力が抜けていく。
「おや、もう終わりですか?」
ついに追い詰めたとばかりに笑う男。
「誰か・・・助けて・・誰か・・・」
もうほとんど誰も聞こえないような声で呟く。
頬を伝っていく涙が儚くも地面へと落ちていく。
思い出すのはここ最近の事だけだが、とても充実していた気がする。
優しい顔でほほ笑むエルハイム、とても陽気なハルト、そしてちょっと性格が怖いが親切なセロ。
なにより一番浮かんでくるのは、いつもは軽いノリだが一番に心配してくれ、優しく頭を叩いてくれる彼女の姿。
大粒の涙がどんどん溢れ出てくる。
「・・・リスさん・・」
小さくその名前を呼ぶ。
「クリスさん・・・!!」
聞こえるはずも無い、ここにいるはずも無いその名前を精一杯叫ぶ。
その瞬間だ。
突然自分を抱えている大柄の男の頭が前方へはねていく感覚。
その勢いで体ごと吹っ飛ばされ、自分も飛ばされそうなところをグィっと腕を掴まれ静止させられる。
男が後頭部に蹴りをくらったようだ。
何事かと思って掴まれいる腕の方を見たら
「呼んだ?」
いつもの軽いノリで笑う彼女の姿があった。
「あ・・あぅ・・あっ・・」
もう声にならなかった。
泣いていいのか、喜んでいいのかわからない。でも涙は溢れ出てきた。
「まってね、今ほどいてあげるから。」
そう言って、エリィを縛っている両腕の縄をほどく。
「く、クリスさぁん!!」
今度は声が出た。いままでの緊張から解放されたのか、大粒の涙を流しながら抱きつくエリィ。
「あーはいはい。わかったからわかったから。」
やはり照れ隠しなのか、軽い口調で答えるが視線はエリィの方へと向いている。
「これで3回目よ、利子高いからね~。」
「えぇ!!」
突然泣くのを止め、驚いた表情をしながらクリスの顔を見るエリィ。
けれどもその表情はとても柔らかい顔をしているようだった。
「やってくれましたね・・。」
ふと男の声がしたのでそちらを振り向くと白衣の男がこちらを睨みつけていた。
どうやら結構お怒りのようだ。
「何、そんなにそこのボスがやられたのが気に入らないの?」
エリィを自分の後ろに隠しつつクリスが言う。
「ふん、こんな男どうでもいいのですよ。所詮捨て駒ですからね。」
突然妙な事を言った。
「捨て駒?」
怪訝そうな表情でクリスが問うと
「ええ、そうですよ!私がこんな街のゴロツキの部下なわけがないでしょう!私はもっと偉大なお方に就いているのですよ!!」
手を大の字に広げて白衣の男が言う。
「な、なによ急に。あんたの頭は蹴ってないわよ?」
さっきとあまりにも態度が違うので、ちょっと気おされる。
一方頭を蹴飛ばされたヴィルゴは遠くの方でのびている。
「まぁいいでしょう。こういう時の為に細工をしておいたのですからね。」
白衣の男が突如指をパチンと鳴らした。
それと同時にさっきまで伸びていたはずのヴィルゴが、音も無く立ち上がり、こちらに向き直る。
「な、何したのよ。」
その奇妙すぎる動きに少し動揺しながらクリスが尋ねる。
「あなたはサタナキア、というものを聞いたことがありますか?」
白衣の男が薄らじみた笑いを浮かべながら聞き返す。
その瞬間、クリスに戦慄が走る。
知らないわけがない。かつてこの国を蹂躙した悪魔中の悪魔だ。
聖職者、それも退魔を司っているのであればなおさらだ。
「あれは、なぜ突然と姿を消しましたかね?」
たしかにもう20年近くその姿は発見されていない。
「まさか・・・。」
そう言った時だ、突然ヴィルゴの体が膨れ上がったかと思ったら、肌という肌が裂け、中から獣のような毛が生えた肌が露出してくる。
その大きさは何倍にも膨れ上がり、軽くこの邸宅の高さになろうかという位大きくなったのだ。
もう以前のヴィルゴの面影は全くない。頭部からは山羊のような尖った大きな角が二本、両側頭部から生え出ており、瞳は鮮血の如く赤い。
そう、その姿はまさしく突然と消えたサタナキアに近い。
近いという表現を使うのは、所々が違うだけでなく、伝承で伝えられたよりも何倍も大きく、一番の違いは人間の支配下に置かれているという所だ。
「これが私達の研究作品ですよ。」
白衣の男がニヤつきながら話す。
「ま、まさかあの悪魔を支配したの・・?」
「支配、とはちょっと違いますね。これはサタナキアの細胞をちょっとこの男に移植しただけですよ。まぁ色々改良はしていますがね。」
息を吐くように恐ろしいことを言う。
「さすがに支配するにはそれ相応のリスクが必要です。それではダメなんですよ。もっと扱い易くしないと・・!」
「それで生きた人間を媒体にしたってわけ・・。この外道が。」
言っている意味はわからないが、人の道に反したことをしている、というのはわかる。
「ク、クリスさん!来ます!」
エリィがあわあわ言いながら指差す方向を見ると、ヴィルゴだったモノ、細胞を使ったのだからクローンとも言うべきか。
サタナキア・クローンの大きな右腕が振り下ろされようとしていた。
「ヴゥワァアアアア!!」
もはや人間の声とは似ても似つかない声で叫びながらその腕を振り下ろす。
エリィを抱えながらサタナキア・クローンがいる方とは逆の方へ走りだす。
図体がでかい分よけるのは余裕だ。
しかし、
「参ったわね、あのでかさじゃ。」
走りながら悩むクリス。
「銃なんて今頃撃った所で蚊に刺された程度だろうしねぇ。どうしよっかエリィ?」
「わ、私に聞かないで下さい!!」
クリスに抱えられたままのエリィが叫ぶ。
右へ左へと飛ぶ衝撃で、検査着のままだったせいか、布がぴらぴらとめくれ上がる。
それを必死に押さえながらエリィが言う。
「ど、どうするんですか!あんな大きいの当たったらぺしゃんこですよ!」
「うーん。」
などと唸っていると
「な、なんだあの馬鹿でけぇ化け物は!!」
突如邸宅の方からでかい声がする。
黒服達を片付けて後を追ったのであろう、ハルトとエルハイムの姿があった。
それを見つけたクリスが近寄る。
「おいクリス!なんだありゃ!!」
相当びっくりしたのかハルトがまだ叫んでいる。
「そんな大きな声ださなくても聞こえてるわよ。」
抱きかかえていたエリィをそっと降ろしながら答えるクリス。
「あの姿見たことあるわ、たしか・・。」
そうエルハイムが言おうとした所で
「あーはいはい、もうその下りはさっきやったから後でやってね。」
めんどくさそうにクリスが言う。
「ちょ、ちょっと!少しは言わせてよ!!」
むきーとなって怒るエルハイム。
この状況なのに今までと変わらないやりとりについ笑ってしまうエリィ。
「何よ、なんかおもしろいことでもあったの?」
クリスがそれを見て聞いてみると
「い、いえ。なんか1日しかたってないのになつかしくって・・。」
笑っているはずなのに涙が出てくる。
「まったく、本当泣き虫ねぇ。」
そう言いながらも軽くエリィの頭をなでる。
「どうでもいいけどあのでかいのこっち来るんですけど!!」
ハルトがまだ騒いでいる。
「さて、じゃあ取りあえずやっちゃいますか。」
そう言ってクリスがサタナキア・クローンの方へと向き直る。
「え!あんな大きいのどうやるんですか!!」
心配になりながら言うエリィに
「ハルト、エルハイム。エリィをお願い。」
後方にいる二人にエリィを託しつつ、軽く手を振る。
「やるのね、わかったわ。」
「オーケー!派手にぶちかませ!」
2人がそう言うとエリィを抱えて邸宅の近くへと走っていく。
「く、クリスさん!!!」
エリィの叫ぶ声が聞こえる。
だからこう答えてやる事にする。
「エリィ!道はね、誰かに与えられるもんじゃないのよ!切り開くもんなの!!よくそこで見ておきなさい!!」
まるで今のエリィの心境を見透かされたようなそんな返事が返ってくる。
「大丈夫だエリィちゃん、なんの問題もねぇ!」
ハルトの声がする。
二人共クリスの心配をすることなく遠くへと走り去っていく。
それくらい信頼しているのだ。
「クリスさん・・・。」
期待と不安が入り混じりながら、それでも目をそらさずに見守るエリィ。
「遠くへ行ったわね。」
後ろの3人を確認しつつ、前へと向き直る。
「仲間を守ってナイト気取りですか!実に殊勝なことですねぇ!!」
白衣の男が嘲け笑う。
「大分悪役が板についてきたんじゃない?でもそんなフラグ立てて大丈夫かしら?」
一人になっても相変わらずの軽口を叩くクリス。
「フラグ?何の事です?」
「あんたには一生わからないわよ!」
そう言い意識を内部、自分の内側へと集中させる。
人間には精神力限界レベルという物が存在する。いってみれば自分の限界のようなものだ。精神力を力に変換して扱う者は大抵このレベルを引き上げる為に修行などを行う。例を挙げれば一般的な魔術師、聖職者と呼ばれるもので5。その下の下級魔術師で大体4が平均であろう。このレベルが上がるに連れて強力なスキルを扱うことができる。
ちなみにクリスの今の状態の限界レベルは7。すでに他の魔術師などを凌駕している。
が、それでも足りない。何しろ相手はあの悪魔だ。
いくらクローンといえども強化版といってるぐらいだ。並大抵のスキルでは通用しない。
敵の猛攻を避けつつ、さらに意識を集中させる。
人によって様々だが、自分のレベルを高める為に色々な抽象的な物が存在する。スイッチが切り替わる、などという表現もそれだ。クリスの場合、それがレベルに応じて時計仕掛けのガラスのようなものを割ることによって一段階づつレベルが上がっていく。
思い描くのは丸型のガラスでできた時計が砕けていく映像。
1段階、2段階、3段階と限界レベルまで自分の精神力を高めていく。
徐々にクリスの身体に白く淡いオーラのようなものが纏い始める。
「何をしようとこの状況は変わりませんよ!!」
男の声が聞こえるが、そんなものは気にならない。
6段階、7段階・・・!
通常時での限界レベルに達する。
「それでこいつが倒せますか!!」
そこまでと悟ったか、クリスを叩き潰すようバフォメット・クローンに命令する。
「誰が、これが限界なんて言ったわよ!!」
そう言うと同時に、一際大きい時計仕掛けのガラスが砕ける音がする。
その瞬間、身体を纏っていたオーラが一際激しくなり、燃え滾る炎のように煌きだす。
ガラスがどんどん砕けていく音。
その枚数合計で10枚。
「なっ!!」
肉眼でもわかるぐらいに精神力の激しさが増している。
「これでもまだ倒せるなんて言える?」
すでに真っ直ぐ敵を見据えているクリスの右の瞳に赤い十字が浮かび上がっている。
「sacred maiden's eye(神の奴隷の眼)」
遠くで見ていたエルハイムが呟く。
「え?」
エリィが聞き返す。
「彼女がかけがえの無いものと引き換えに手に入れた力よ。ああなった彼女は、無敵よ。」
「かけがえのない・・もの・・?」
「よく見ててあげて。彼女の覚悟を。」
悲しそうな表情で言うエルハイム。
「はい・・!」
何かを読み取ったのか、強く頷くエリィ。
「そんなまやかしに騙されるものですか!!」
恐怖を払拭するように、サタナキア・クローンに命令する。
クリスの目の前に大きな巨体が立ちはだかり、その丸太のような腕を振り下ろす。
「・・・。」
真っ直ぐ敵を見据えたまま動かないクリス。
振り下ろされた腕がクリスを捉えようかとした瞬間。
一際輝く光の壁にその腕は阻まれる。
「ば、ばかなっ!!」
先ほどの銃弾を弾いていた壁とは明らかに威力が違う。
この5メートル以上はあるかと思われる巨体が振り下ろした腕を弾いたのだ。しかも何のそぶりもせずに。
「もう終わり?」
恐怖にも似た声がする。
「なら、こっちから行くわよ!」
そう言った瞬間に青白い光を纏った右腕を振り上げる。
振り上げた先、その拳から青いオーラが飛んでいったと思えば、巨体にぶつかった瞬間に爆散する。兆度十字を描くように。
その衝撃で、あの巨体が大きく後方へゆらぐ。
「グォォオオオオオオ!!」
巨体が叫び声を上げる。
「ああ、あんた悪魔だったもんね。効果は抜群だと思うわよ。」
こんな状態でも彼女の軽口は止まらない。
そう、今放ったのは聖職者でも下級のスキル、クルス・レイジだ。
ただ、以前洞窟で放ったエリィの物とは比べ物にならない。
「どうやらみくびっていたようですねぇ!」
一度サタナキア・クローンを下がらせ、力を溜めさせる。
そして両腕を前に突き出すと、突如空間に切れ目ができ、そこからサタナキアの象徴ともいえる大鎌を呼び出した。
その大鎌から黒く、混沌としたオーラを全身に漂わせている。
「本気で潰させてもらいますよ!クリス=リンベル!!」
白衣の男が叫ぶ。
「あんたもう完全に悪役キャラに代わったわね!」
そう言い、上着に忍ばせておいた残り一個のマナの石を取り出す。
それを右手で握り締め、レベル10の精神力を注ぎ込む。
膨大な精神力を篭められたそれは、形態を維持できずに破裂する。
その時に発動する力をさらに自分の精神力で押しとどめる。
これで準備は完了だ。
「くるぞ!!」
今度はハルトが叫ぶ。
「くるって、何がです!?」
「クリスの決め技だよ!!衝撃にそなえろ!」
「え!?えっ!!」
戸惑うエリィを覆うように上からハルトが被さる。
「ものすげぇのがでるからな、よく見ておくんだ!!」
「は、はい!!」
いまだに戸惑いながらもその凄さはもう実感していた。
クリスの前に突き出された右腕、そこからあふれ出す精神力の塊で作られた風圧で遠くはなれたこちらまで爆風が降り注いでいる。
「悪役は悪役らしく・・・。」
目を瞑り意識を集中させながら呟く。
その間にも巨体から繰り出される大鎌がクリスを捕らえようとしている。
「裁きを受けなさい!」
クリスの目が開くと同時に、前面に繰り出された右腕が開かれる。
「レイズ・セイクリッド・ロア!!」
その瞬間、空気を切り裂くかのような閃光がサタナキア・クローンを貫き、それより一呼吸遅れて放たれた莫大な精神力の塊が光の柱となって頭上から巨体を飲み込む。
それと共に行き場の無くなった空気が、まるでその空間から弾かれるように四散し、爆風となって木々や外壁をなぎ倒す。
「グゥォオオオオオアアアアアアア!!!!」
断末魔の叫びと共にサタナキア・クローンの身体が徐々に消えていく。
まるで光の柱に吸い込まれるかのように。
「人より造られし悪魔の王よ、潔く冥府へ還りなさい。」
その言葉と共に光の柱が消え、そこにあったもの、サタナキア・クローンの姿はどこにもいなくなっていた。
変わりにその場所に変身した影響なのか、体中が灰と化し風に吹かれてボロボロと崩れ去っていくヴィルゴの姿があった。
余韻に浸りたいがまだ気は抜けない。もう一人残っているのだ。
そう思って白衣の男がいた方角を見ると、もういない。
「あ、あれ?」
そう言って辺りを見渡すと、先ほどまで邸宅に横付けされていたカートのエンジン音がするのが聞こえる。
「しまった!また逃げられる!!」
追いかけようと走りだそうとするが、急に膝が折れてガクンと崩れ落ちそうになる。なんとか寸前で踏みとどまったが。
どうやら精神力を使いすぎたらしい。大きな力の代償とも言うべきか。
「だぁー!こんな時に切れるなぁー!」
大きな声で叫ぶが、もちろんそんな事で回復などするわけがない。
そんなことやっているうちにカートが動きだし、白衣の男の声が聞こえる。
「今日はいいものを見せてもらいましたよ!俄然あなたにも興味が沸いてきましたよクリス=リンベル!!」
「いちいちフルネームで呼ぶんじゃないわよ!変態白衣男!!」
精神力が尽きかけていることを悟られないように、大きな声で言い返す。
「あっはっは!しばらく彼女の事は預けておきますよ!こちらも修正しなければなりませんからね!!」
修正?
「どーいうことよそれっ!」
必死に叫ぶが、どんどん離れていくカートにもう声は届かないだろう。
「またお会いしましょう!ちなみに私の名前はアイデンヴェ・・」
何か最後に言いかけてたが空気を読まないカートがどんどん遠ざかっていく為ほとんど聞こえなかった。
「アイデンヴェ?アイデン=ヴェー?」
よくわからないが、まぁ別にいいかってことでとりあえず深く考えないことにした。
それよりも、今この惨状で取り残されている自分達の方がまずい。
あれだけの爆発や化け物が出たんじゃあ、自警団が来るのももう時間の問題だ。
説明するのもめんどくさいし、とっとと逃げてしまおう。
まだ走れる体力は残っているので、急いでエリィ達の下へと掛けて行く。
「・・・。」
さっきからずっと固まったままでいるのはエリィだ。
「おーい、エリィちゃーん?エリィー?」
ハルトが声をかけたり、顔の目の前で手を振ったりするが、一向に動く気配がしない。
「どうしたもんかね。衝撃で頭でもやっちゃったかね。」
とりあえずお手上げ状態で動向を見守っていると
「す・・す・・。」
何か聞こえてきた。ついでに体中が小刻みに震えているのがわかる。
「す?」
ハルトが聞き返す。
「すごぉおおおおい!!!な、なんですかあれ!!!!」
やっと思考が追いついてきたらしく、大きな声ではしゃぐエリィ。
「あれが彼女の力よ。まぁ時間制限はあるけどね。」
隣にいたエルハイムが答える。
「それはウ○トラマン的な?」
「エリィ!それはいっちゃだめ!誰かに怒られるわ!!」
エルハイムが必死に止めようとするが
「おー。○ル○○マン的な感じだなー。」
「ほとんど答えいっちゃってるじゃないの!!」
ハルトの一言に全て台無しにされた。
そんなやり取りをしていると遠くの方からクリスが走ってくるのがみえる。
「あ!クリスさんが来ましたよ!!」
エリィが真っ先に気づき、大きく手を振る。
が、当の本人はこの上なく必死な顔をしている。
「はれ?どうしたんでしょうか?」
不思議に思ってエリィが首を傾げる。
「さぁ?」
「どうしたのかしらね?」
他の二人もよくわからない見たいだ。
こちらに来るクリスをよくみると、邸宅の外の方へ必死に指を指している。
「外に何かあるのかしら?」
そう思ってエルハイムがそちらへ向くと
「・・・げっ!」
外壁の影から見える鎧と剣を持った連中が玄関前に集まるのが見えるではないか。
「や、やべぇ!」
ハルトも気づいたらしくあたふたしている。
「ふぇ?どうしたんです?」
何もわからないエリィが聞く。
「自警団よ!こんな状況見られたんじゃ、あたし達が犯人に間違えられちゃうわ!」
エルハイムまで慌てふためく状況だ、この場にいるのはよほどまずいのだろう。
「何やってのよあんたたち!!」
3人に追いついたクリスがそう叫びつつ
「ぼさっとしてないで逃げるわよ!!」
抜き去っていく。
「え、えー!!置いていかないでくださーい!!」
エリィが追いかけようとするが、さらわれた時の格好の為、足も裸足のままだ。上手く走れない。
「つかまってろ、エリィちゃん!!」
それを見たハルトがエリィを抱きかかえつつクリスの後を追う。
「それでどうやって逃げるの!もう正面玄関は自警団がいて無理よ!」
クリスに置いていかれないように必死に走りながらエルハイムが聞く。ここだけの話、エルハイムは運動が大の苦手だ。
すでに息を大きく切らしている。
「あたしがここに侵入する時に入った穴があるわ!そこから逃げるわよ!」
邸宅を裏から回るように走り抜け、クリスが入った外壁の穴の方へと向かう。
そこでふと疑問に思う。
「あんた達どうやって入ったのよ。」
「ぇ、玄関に誰もいなかったからそのままぶち壊して入ったけど?」
何か問題でも?とでも言うようにハルトが答える。
「はぁ~あたしの苦労は・・。」
走りながら軽く項垂れる。
そうこうしてる内に外壁の穴の方へと近づいていく。
よく見るとそこに人影が見える。
「やばい!」
クリスが慌てて制止させる。
にも関わらず、その人影はこちらに気づいたらしくこちらに近づいてくる。
「ばれたかっ!」
エリィを降ろし、叩き潰していこうと戦闘態勢に入るハルト。
しかし、よく見るとその人影がやけに小さい。
しかも大きく手を振っているではないか。
「ん?」
クリスが気になって目を凝らしてみると、どうにもさっき見たような感じがする。
「おーい!早くこっちですよー!」
自警団に聞こえないくらいの声でこちらに呼びかけている。
そう、そこにいたのは楓だ。
「楓!?」
そう言いつつ、穴の方へと向かう。
「早く入ってください!自警団の人がきちゃいます!」
どうやらこの侵入口を守っていてくれたらしい。
「カエデさーん!」
そんなことは露知らず抱きつくエリィに
「わ、わかりましたから後にしましょう!バレちゃいますよぅ!」
照れながらも、早く入れとばかりに催促する楓であった。
無事に穴を抜け、邸宅の外へと出る。
自警団はまだこちらに気づいていないらしく、特にやってくる気配もない。
「何にも悪いことしてないんだけどなぁ。」
ハルトがぼやくが、真犯人が逃走してしまった以上、上手くいい訳しても聞き入れてもらえないだろう。
それにエリィのこともある。
彼女の素性がわからないとわかれば、簡単には返してくれないはすだ。
それに白衣の男が最後に言っていたことも気になる。余計に公には出したくない。
そう考えながら走っていると、街のメインストリートの所まで戻ってきていた。
とりあえずここまでくれば問題は無いだろう。
辺りはもう完全に日が照らし始めている。今日もいい天気みたいだ。
「さて、と。」
皆が息を切らして休んでいる所に、涼しい顔をしながらクリスがエリィの方へと振り向く。
本当はもうぶっ倒れたいくらい体力を消耗しているが、それを彼女に見せるのもまた心配されそうなので我慢する。
「エリィ!」
なるべく悟られないよう、元気な声で呼ぶ。
「は、はい!!」
地面に下ろされそのまま正座していたエリィが、突然呼ばれてビックリしたらしく膝立ちになって答える。
「あなた、今後どうするか考えてる?」
答えはわかっているが、とりあえず聞いてみる。
「え!あ・・ぁぁ・・何も考えてなかったです・・。」
案の定、俯きがちに答えるエリィ。万が一何かしら決まっていたらと思ったが、大丈夫なようだ。少し安心する。
「よし!じゃあウチへ来なさい!」
少し照れくさくなりながらも、そう言う。
「え!?クリスさんちですか!?」
予想外の事だったらしく、顔をびっくりしながら上げて聞く。
「何よー。不満~?」
「ち、違います!すごく、うれしいです・・。」
きっとこの感情は嬉しさなのだろう。また涙が出てくる。
「で、でもいいんですか・・?素性のわからない私なんか・・。」
「そんな泣き顔で心配されてもねぇ。それにもう素性も何もないでしょ。」
エリィの肩を優しく叩きながら答える。
「ハルト、まだ空きあったわよね?」
クリスが聞くと、合点がいったようにうなずきながら
「ああ。まだまだいっぱいあるぜ!」
ニカッと笑いながら答える。
「じゃあ決まりね。あぁ、もちろん住むからには働いてもらうからね!」
「何でもします!!」
泣き顔から一転、満面の笑みでそう言うエリィ。
「今、何でもって言ったわね、ふふふ・・・。」
突如怪しげな笑みを浮かべるクリス。
「な、何をさせる気ですか・・・!」
ついうれしくて返事したものの、本当に大丈夫か少し不安になったエリィであった。
~息抜きタイム その8~
「で、何をすればいいんです?」
「まず掃除でしょ、それと洗濯に~。あっ料理できる?あと肩もんで~。」
「家政婦ですか!!」
「大丈夫だ、問題ない。」
「だからもうイーノックはいいですって。」
「今のあたしじゃないわよ?」
「え?」
「え?」
「「ほんものー!?」」
「全く好き勝手やってくれやがって。」
誰もいなくなったヴィルゴファミリー宅の庭でそう呟いているのは、鈍く光る銀の鎧を身に纏い、暗い青色の髪が特徴的な男。
大体30台ぐらいか、くしゃくしゃになったタバコを咥えながら震源地と思われる場所を調べていた。
「隊長!!」
誰かが彼をそう呼びながら近づいてくる。
「ん、セシルか。」
呼び声に答えるようにその方へと振り返ると、これまた鎧を着た、今度は女性が現れる。
「ガルヴァディス隊長!」
セシルと呼ばれた女性が男性の名前を言う。
「なんだ、見つかったか?」
物々しく聞こえたので目的の物があったのだろうか。
「隊長!ものすごく噛み易いのでアクセル隊長って呼んでいいですか!!」
「今までのクールな空気返して!!」
こいつはいつも俺が冷静な感じになるとこうボケてくる。
「なんて呼んでもいいから早くみつけてこい。」
頭を押さえながらしっしっと追いやる。
「じゃあアクセルちゃん、でいいでしょうか!」
「もう隊長じゃなくなってるじゃねぇか!!」
それに乗ってしまう俺も俺か。
「え~ダメですか~?」
うるうる目で見つめてくる。
「ダメにきまってんだろうが!!早く行け!!」
残念そうに俯きながら邸宅の方へと戻るセシルを見送りながら、泣きたいのはこっちだよ、などと思いながらもう一度頭の中を整理する。
とりあえず、また後手に回ったらしい。
彼の名前はアクセル=ガルヴァディス。カルベルスタット騎士団(自警団とも言われる。)に所属している騎士だ。
その中でも遊撃部隊という、単独で各地方での捜査をする権利を持つことが許される独立捜査権というのを持っている部隊の隊長でもある。
この権利を持つものはそこまで多くなく、地方には地方の自警団が関与する物なのだが、この権利を持っている場合それに当てはまることなく捜査をできる。
いわゆる所轄の縄張りという概念が存在しないのだ。
なぜそんな彼がここにいるかというと、ある情報でヴィルゴファミリーが、彼の追っている組織と繋がりがあるという事を掴んだからだ。
だがついた時にはもう遅かった。
ここだけ竜巻でも起きたのかと思われるくらいに庭の草木が薙ぎ倒され、邸宅の外壁までもがボロボロに崩れている。
今彼が立っている場所、そこから兆度円を書くように被害が出ている為、恐らくここが震源地だろう。
間違いない、これは戦闘の跡だ。
しかもただの戦闘じゃない。地面には自分の半身はあるだろうかという位大きな足跡が無数にある。
つまりそれくらい巨大な何かがいたということになる。
それなのに邸宅の外に出ることなく、ここで消えているということは、それを打ち倒すくらいのスキルを使ったということだ。
彼の心当たりではこんな芸当ができるのは一人しか思いつかない。
「今度は何やってんのかね、おじょーちゃんは。」
頭をポリポリ掻きながらとりあえず考えるのを止める。これ以上は何も見つからない。
あとは邸宅の方を調べているセシルを待つか。
彼女は一応あれでも副隊長だ。
遊撃隊というのは複数存在していて、アクセルはそれの1番隊になる。セシルはそこの副隊長だ。
大体が少数精鋭なので、ほとんどは彼女とペアで行動していることが多い。
今回もそうだ。
ただ、事件が起きたのが街内だったので今は他の仲間、普段街の警備を担っている人も集まっている。
「・・・たいちょ~!」
また遠くから声が聞こえてくる。セシルだ。
まぁどうせ何も痕跡など残してはいないだろうが、それを言っては元も子もないので一応聞く。
「見つかったかー?」
「今日は魚じゃなくて肉が食べたいですー!」
「飯のこと何かきいてねぇよ!!」
あれは真面目なのか不真面目なのかよくわからない。
でもまぁ一応副隊長なのだ。役には立つ。
「あ、ちなみに隊長が捜してたのは無かったですよ。全部爆破してありました。」
「先にそれを言え!」
セシルの頭をスパーンとハリセンのような物で殴る。
何で持ってるかって?必要だからだ。
黒髪のセミロングヘアがふらふらと揺れる。ひっぱたかれたショックで頭がふらふらしているのだ。
「ちゃ、ちゃんと調べてきたのに~。」
まぁこれはおいといて。
やはり証拠は残さない。また狐の尻尾探しからスタートだ。
「狐の尻尾捜してるんですか隊長は?」
「人の揚げ足とるんじゃねーよ!!」
またも頭をハリセンでひっぱたきながら思う。
何かとても大きな事が始まっているのではないか、と。
朝日がそんなことを告げているのでは無いかと思うぐらいにギラギラと輝いていた。
~息抜きタイム その9~
「この後は焼肉屋で反省会ですね!?」
「朝っぱらから食えるかんなもん!!」
第4節 完
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