清算~私も身ぎれいな方がいい~
短編小説をいくつか読んで、夢で見たものを形にしました。
久しぶりに執筆したので拙いかもしれませんが、サクッと読めますので、読んで頂ければ幸いです
1カ月の魔獣退治を終えて、ブラッドソードを携え、魔獣の返り血がついた銀の甲冑をまとったブラッドウェイが、自身が納めるバフェイ辺境伯領の邸宅に帰ってきた。いまだ成人前だというのに、ブラッドウェイは体格が大きく、辺境領騎士団長を務めるだけあってよく目立つ。
ただ、領民がブラッドウェイに向ける目は、いつもと違う。
忌むべき者を見る目、哀れみの目、不安の目。
――何かある。
ブラッドウェイは城へと急いだ。
鎧を脱いだブラッドウェイは、服を着替えて執務室に向かう。執務室は威厳に満ちた口ひげを蓄えた壮年の父、バフェイ辺境伯がいた。普段なら、執務室にはいない扇で口元を隠しながら鋭い眼光を向ける母もいた。小柄で機転が利く弟ルイスから、不在時に何があったか聞いた。
ブラッドウェイは事の次第を聞いて、ため息を吐く。
「私も身ぎれいな方がいい」
嫌味な言い方をして、家族は頷きあった。
伯爵令嬢マリアンヌは、自室にて焦れていた。
バフェイ辺境領での魔獣退治が終わって3週間、3日とたたず手紙が来るはずなのに、いまだ来ない。お茶会の連絡もないし、プレゼントもない。
「お嬢様、旦那様と奥様がお呼びです」
執事に言われ、マリアンヌはブラッドウェイに何かあったのかと、慌てて部屋を飛び出した。
「マリアンヌ! あなた、何をしたの!」
応接間に居た母が扇で口元を隠す余裕すらなく叫んだ。
「え?」
マリアンヌは、意味不明で立ち尽くしている。
「マリアンヌ、お前の瑕疵による婚約破棄の通知だ。衆目の前での破棄よりマシだと思え。あちらは賠償をお望みだ。金は私費から出すように」
父が怒りに満ちた声を出す。
「どうして? 私……私……」
マリアンヌの声が震えていた。
「ブラッドウェイ令息からの最後の言葉だ。私も身ぎれいな方がいい」
マリアンヌの眼前に、小さなカードが突きつけられた。
マリアンヌは口元を抑えて、膝から床につく。
マリアンヌは嫁入りして、女主人として領地を運営し、不在の間夫を補佐すべしと幼い頃から教えられてきた。
ブラッドウェイは文武両道で、嫁入りしても夫の不在時しか力を揮う時がない。
だから、ブラッドウェイを尻に敷き、バフェイ辺境領の運営を1人でしたかったのだ。
魔獣退治で出掛けている間に、バフェイ辺境領へ赴き、カフェにてブラッドウェイの話をした。いわく、「領地運営など面倒だ」「魔獣退治も面倒だ」「なにもしないでいいなら、それでいい」「鎧が汚れる仕事も面倒だ。身ぎれいな方がいい」
侍女たちも使い、領民の中にブラッドウェイへの疑心暗鬼が膨らむようにした。
あたかも、ブラッドウェイが貴族の仕事をおろそかにしていると取られるように。そして嫁入り後、領民がブラッドウェイではなくマリアンヌを頼りにするように。
――身ぎれいな方がいい。
ブラッドウェイの最後の言葉で、マリアンヌが何をしたのかバフェイ辺境伯家は全て知っているのだと仄めかしていた。そして、ブラッドウェイをおとしめたマリアンヌに、愛想を尽かしたということも。
社交界では、愚かにも女主人の意味を履き違えたご令嬢の話題で持ちきりである。バフェイ辺境伯の奥方が、茶会に招かれる度に、扇で口元を隠しながら『いいご令嬢はいらっしゃらないかしら』と最後に言葉を付け足した上で、全ての顛末を語っているからである。
時の人、マリアンヌは社交界に姿を出せない。両親が肩を落としてパーティに向かう姿を、マリアンヌは自室から見ることしかできない。
両親は激怒して、隣国の豪商第3夫人の座を取り付けてきた。知識はあれど、習慣の違う国に馴染める自信がマリアンヌにはない。領地運営には自信があるのに。両親は、貴族との婚姻は絶対にさせなかった。マリアンヌの悪名が轟いたこともあるが、バフェイ辺境伯家側からの要求でもある。
今後一切の関わり合いと謝罪は許さない。たとえ後悔していようとも。マリアンヌは『全てを履き違えた令嬢』として伝説になってもらう。
これが、バフェイ辺境伯家の清算であった。




