第1章 第9話 講習後半
休養日の翌日。
探索者ギルドの初心者合宿の後半二週間は、いわゆる【≪生活魔法≫】の講習と王都近郊の森を舞台に野営をしながらの実地訓練が予定されている。
≪生活魔法≫は【飲料水】、【火種】、【清浄】、【虫除け】、【洗浄】、【穴掘り】、【消臭】、【乾燥】【照明】などの、魔法の入門編ともいえる基礎魔法群を指す。人によって得意不得意もあるので、チーム単位で揃っていれば不便なく活動できるという目安、あるいは指針があるらしい。
探索者希望の二一名は多かれ少なかれ魔法に対する憧れがあり、皆率先して学ぶ意欲をみせていた。結果、魔法が不得手な者でも最低一つは使えるようになっている。
先に卒業していった現地人の六名は一つのチームを組んだそうで、チーム単位でいえば≪生活魔法≫も完備していたらしい。
数日間の≪生活魔法≫修得期間を経て、野営活動の実習へと移る。
「今回は五人チームが三班と、六人チームが一班、計四班に分かれて活動します。班分けはこちらで決めました」
メイア教官による班別けは以下。
一班。町田グループ六名。
相模原太: 前衛。タンク役。
古淵リオン: 前衛。速攻型アタッカー。斥候役。
町田一誠: 前衛。バランサー。
矢部裕斗: 後衛。結界魔法。
淵野辺琴子: 後衛。攻撃魔法。
成瀬美玖: 後衛。治癒魔法。
二班。桜木グループA 五名。
桜木遥: 前衛。バランサー。
山手香織: 前衛。速攻型アタッカー。
杉田新: 中衛。斥候役。
根岸美月: 後衛。攻撃魔法。
本郷大輔: 後衛。治癒魔法。
三班。桜木グループB 四名に藤沢を入れた計五名。
台場洋光: 前衛。タンク役。
石川十兵衛: 前衛。速度型アタッカー。
藤沢圭吾: 前衛。バランサー。
関内久二: 中衛。斥候役。
磯子結衣: 後衛。治癒魔法。
四班。相原チーム三名と鴨居と小机を入れた計五名。
小机創: 前衛。タンク役。
鴨居浩司: 前衛。アタッカー。
相原悠里: 前衛。バランサー。
片倉湊: 前衛。バランサー。
橋本祥悟: 中衛。斥候役。
余り物を詰め込んだ様な四班だけバランスが微妙ではあるが、他は普段の交流関係を基に、なるべくバランスを検討した苦労が偲ばれる。
「(苦労を掛けるね、メイア教官)」
班分け結果を確認しつつ、心の声で労いの言葉を送った。
「今回は魔物との戦闘も多くなる予定です。四つの班が集まるのは野営地とし、基本は班ごとにばらけて行動してください。それと、今回は各班に指導員一名を付けます。治癒魔法役のいない四班は、治癒魔法が使える指導員が付きますので、ご安心ください」
メイア教官の斜め後ろに控えていた三人が一歩前に出て挨拶をする。
「二班の指導員をするユーノスです。治癒魔法も使えます」
「三班の指導員、レモネラです。治癒魔法も使えます」
「四班の指導員で、リネットです。治癒魔法も使えます」
メイア教官は獣人族の女性で外見年齢は悠里達と同じくらいの一〇代後半である。ユーノス教官は耳長族の男性で、外見年齢は二〇代前半にみえるが、実年齢は不詳だ。
レモネラ教官とリネット教官は普人種で、二人とも二〇代前半から半ばと思われる女性である。
指導員一班: メイア教官
指導員二班: ユーノス教官、治癒魔法役能力持ち
指導員三班: レモネラ教官、治癒魔法役能力持ち
指導員四班: リネット教官、治癒魔法役能力持ち
各班は担当の教官の前に整列して、それぞれファーストネームで挨拶を交わした。
◆◆◆◆
ギルドから貸し出してもらう野営道具を各自で点検し、点検が終わると各自が【異空間収納】に道具をしまっていく。配布された水薬も容器が割れ物のため、各自が【異空間収納】にしまっている。
武器と防具に関してもギルドからの貸し出し品である。主武器と副武器までは武装しておく。予備の武器や、状況次第で使うかもしれない武器は【異空間収納】に備えとして用意した。
湊が監督して湊、悠里、祥悟、圭吾の四人の武器だけは手入れがしてある。他の班は手入れをしていないらしい様子が窺えた。
「各班、荷物チェックと顔合わせが終わったら、それぞれの担当馬車で演習フィールドに移動します」
「リネット教官、よろしくお願いします」
「えぇ、よろしく。四班の馬車はこっちよ」
湊の挨拶にリネットが笑顔で頷き、馬車に案内してくれた。
◆◆◆◆
馬車で移動すること約一時間。王都近郊、北側の森林エリアへとやってきた。途中、他の班はそれぞれ別の開始地点に散っている。
リネット教官の指示で下車すると、各自が凝った身体を解しながらリネット教官の次なる言葉を待つ。
「四班は明確に前衛過多。大型の魔獣を囲んで戦うにしても、同士討ちに注意を払わなければ戦えない」
リネット教官が四班の受講生達を見回した。
「逆に、量が多い小物が相手なら、守るべき後衛を気にせず立ち回れるとも言える。諸君らには、今回はそういう傾向のあるエリアに案内した。あくまで傾向だ。大物が出ないとも限らない。私が治癒魔法役を出来るからといって油断せず、命を懸けた本番だと心得て臨むように」
リネット教官の訓示に悠里達は頷いた。
小剣二振を携えた祥悟が、斥候役として先行する。本来は弓も携行したいところであるが、肝心の弓の使用経験が足りていない。簡単なレクチャーは受けているが、狙った通りに矢を飛ばせる自信がなく、それならば石礫でも投擲した方が良いと判断した。
祥悟は【隠形】と【五感強化】を維持しつつ、【気配察知】を繰り返して周囲を警戒しながら進む。祥悟から少し離れた後ろに鴨居と小机が続き、最後に湊と悠里、リネット教官が背後を警戒しながら進んで行く。
先頭を行く祥悟が脚を止め、停止のハンドサインを出した。後続の鴨居と小机もハンドサインに気付いて足を止める。
祥悟は敵性の気配を察知して木陰から周囲の様子を窺う。
「ギャッ!ギギャッ!」
「(小鬼族の威嚇声?それとも悲鳴か?)」
祥悟が耳を澄ませて歩を進めてみると、茂みの向こう側、窪地気味の段差の下で、小鬼族が野猪を相手に狩りをしている様子を捉えた。一〇匹の小鬼族が暴れる野猪を囲んで、手にした獲物を突き立てている。小鬼族側にも被害が出ている様で、倒れて動かないものもいた。
「(おっとこれは……。漁夫の利狙いで仕掛けられるな?)」
祥悟が後続に振り返ると、左手の人差し指を唇に当てて“静かに”のジェスチャーをしつつ、右手で呼び寄せる仕草を繰り返す。
その様子に鴨居と小机が身を屈めつつ祥悟の元に向かい、その後ろから悠里と湊も続いて行く。一同は藪の向こう側の様子を確認すると、それぞれ獲物に指を掛けた。
「決着が着いたら飛び込むぞ?」
祥悟が小声でそう言うと、特に異論もなく皆が頷き返した。
その場で息を顰めて決着が着くのを待つ。小鬼族単体と野猪単体であれば野猪の方が手強い。個体的に劣るとはいえ、小鬼族は数で押し込んでいる。そう間もない内に野猪が力尽き、小鬼族達が倒れた野猪に群がって武器を何度も振り下ろす。完全に動かなくなったのを確認すると、勝鬨をあげる。
「「「ギャッギャッ!ギャギャーッ!」」」
武器を突き上げ小躍りするように身体を左右に揺らし、死闘の勝利を喜んでいる。
「んじゃ、いくぞ?」
「おっけー」
鴨居が突撃を宣言し、小机が同意して大楯と槍を構えた。二人の戦闘開始の宣言に追随し、悠里や祥悟、湊も武器を構えて立ち上がる。
鴨居は空手で慣れた格闘スタイルを取り、篭手と脛当が防具であると同時に武器である。
小机は大楯に槍を持ち、柔道部の面影はない。本人的には重心の置き方や相手の崩し方で術理は応用できると言っていた。
祥悟は小剣二振を抜き両手に一振ずつ構える二刀流スタイルをとり、湊は直剣を腰に佩いて両手で槍を構えている。
湊に戦闘技術を学ぼうと考えている悠里も、湊に倣って腰に直剣を佩き、両手で槍を構えた。槍の持ち方や構え方も湊の模倣である。
リネット教官以外の全員の戦闘準備が整ったのをみて、鴨居が藪から飛び出して斜面を滑り、小鬼族に襲い掛かった。
鴨居に背を向けていた小鬼族に勢いの乗った前蹴りを叩き込むと、小鬼族はぐしゃりと脊髄を粉砕され、鴨居の勢いのままに転がって行った。
続けて斜面を滑り降りてくる人間を認識し、小鬼族はパニックになりつつも応戦し始めた。
槍を構えた三人もそれぞれが違う小鬼族を目指して穂先を突き出し、その小柄な胴を貫いて行く。
斜面側からやってきた新手に槍を構えて立ち向かおうとした小鬼族は、背後からその首を掻き切られて、疑問符の浮いた表情で倒れ込んだ。【隠形】で背後に回り込んだ祥悟の攻撃である。
不意討ちで先手をとって一瞬で半数を削り、それぞれがバラバラに手近な小鬼族に追撃していく。鴨居が続け様に二匹目、三匹目の頭部を殴打して殴り殺したところで、小鬼族は全滅していた。
「良いね。上出来だ」
斜面の上からリネット教官が声を掛けてきた。
「小鬼族の討伐証明は左耳。魔石も忘れず回収」
短くリネット教官が指示を出し、五人はそれぞれにナイフで耳を削いだり魔石をほじくり出していく。
「あー、リネット教官。野猪の方はどうしましょう?ここで血抜きと解体でも良いですけど、野狼とか匂いでやってきませんかね?」
悠里が小鬼族達の戦利品を指差して問う。
「そうだな。血抜きと解体はもう習っただろう?」
リネット教官が後頭部を掻きつつ悠里に問う。
「はい、先週やりました」
「それなら今回はお前たちの【異空間収納】で持ち帰って、後でギルドの解体場に頼もうか。自分で解体したいなら解体場で練習すればいい」
「了解です」
悠里は視線を野猪に向けて、【異空間収納】を意識する。すると野猪は波紋を立てて水面に沈み込む様に、とぷんと異空間へと収納されていった。
その後、悠里達四班は犬鬼の集団や再び小鬼族の集団、難易度が上がって豚頭族の集団まで相手にした。
犬鬼と小鬼族は討伐証明部位と魔石しか回収しないが、豚頭族は死体を丸ごと【異空間収納】に収納して持ち帰る。食肉として庶民の味方らしく、【異空間収納】持ちであれば捨て置く理由がなかった。
因みに自分達の食料として加工するのなら、ジビエ臭さはあるが野猪の方が良い。≪迷い人≫には二足歩行する豚頭族肉は精神的なハードルが高かった。
「うん。森歩きもそれなりに出来るようになったじゃないか。採取物の見逃しはままあるが及第点だろう」
とはリネット教官の弁である。
「初心者合宿の範囲としては合格という解釈で良いですか?」
と悠里が問えば、リネット教官は満足そうに頷き返してくれた。
「そうだな。≪駆け出し≫は抜けて十分≪初心者≫を名乗れるだろう」
リネット教官の返しに、悠里達は顔を見合わせて口角を緩ませた。
初日は森に流れる川原に天幕を張って野営した。見張りは二名体制で交代しながら休みをとる。敵性生物のいる環境下ではなかなか眠れなかったものが、今ではそれなりにちゃんと休むことができるようになっていた。野営に慣れてきたのは良いことなのだが、緊張感が無くなってきたと考えると良し悪しである。
二日目。川沿いに上流へ向かっていると、祥悟が敵性生物の気配を察知した。敵に見つからないように木陰から様子を窺うと、豚頭族より上背があり、筋肉質の赤銅色の肌をした人型生物がいた。
「……あれは食人鬼族だな。幸いなことに単体だ。それでも初心者には荷が重い相手だが、どうする?」
リネット教官が受講生達に問う。
「“初心者”には荷が重いということですが、もう少し具体的には?」
湊が眉根を寄せてリネット教官に聞き直す。
「推奨されるのは≪下級≫からだ。豚頭族よりデカくてパワーもスピードもあり、筋肉質で頑丈。豚頭族と一対一で勝てるお前たちなら倒せると思うが、 ≪初心者≫の範囲からは逸脱する。ここで退いても減点は無しだ」
リネットの回答を聞き、思案する。
「単体なら、五人掛かりで十分に勝ち目がありそうに思えますが……。因みにリネット教官なら一人でも倒せますか?」
湊の確認にリネットが首肯を返す。
「それは勿論。そうじゃなければ引率に呼ばれないさ」
悠里は四班メンバーの顔を見回し、戦意の様子を確認すると頷いて答えた。
「とりあえず五人でやってみようか。危なそうな時はリネット教官、フォローをお願いします」
「心得た」
リネット教官の面白いモノを見付けたような笑みに若干引っ掛かりつつ、五人は食人鬼族の追跡を続ける。少しでも有利を取れる地形、あるいは状況を待つ。
暫く様子を伺っていると、食人鬼族が川原に出て川の水を飲みはじめた。
「……行こう」
悠里が小さく宣言してメンバーを見回すと、皆が首肯を返した。
「小机と片倉と俺で背後から駆け込んで先手をとる。鴨居は脚も速いから左手から回り込んで横っ腹か背後から奇襲してくれ。祥悟は何時も通りに」
軽く打ち合わせをして散開すると、藪から槍を構えた三人が飛び出す。川原の砂利を踏む音で食人鬼族が背後を振り返り、駆けて来る人間をみとめて腰を上げ、咆哮する。
「グオオォッ!!」
食人鬼族は赤銅色の肌をしならせ、手にした大振りな棍棒を振りかぶった。
悠里と湊は即座に左右に展開し、回り込みながら接近する。中央の小机は大楯を構えて振り下ろしの一撃をいなす構えで迫る。
食人鬼族の振り下ろしの一撃は小机の構えた大楯に滑らせるようにいなされ、地面を叩いた。小机が振り下ろしをいなし切ったのと同時に、三名の槍が食人鬼族の身体へと突き立てられる。
「ガアァァッ!!」
「硬ッ!!」
三人の槍の穂先は皮膚を貫き筋肉に届いたが、硬い。槍は分厚い筋肉で止まり、致命傷には程遠い。食人鬼族は左手で突き立った槍を払い、右手に持った棍棒を大きく横薙ぎに振るう。
ブオンと振り回された棍棒の軌道に小机が割り込み、斜めに構えた大楯で掬い上げるように棍棒の軌道を斜め上へとずらした。軌道の反らされた棍棒の下を湊と悠里は身を屈めてやり過ごす。
「胴は槍が通らない!頭狙いで!」
小机と悠里は湊の指示に従い、槍を引くと、食人鬼族の頭部へとその穂先を向けた。顔面の筋肉は胴体より薄く、皮膚と表情筋を裂いて頭蓋骨へと穂先が届く。頭蓋骨に阻まれ穂先が滑るが、咥内、鼻腔、耳孔、眼球と、頭蓋骨の隙間に突き立てることが出来れば、致命傷を与えられる可能性が高まる。
食人鬼族は頭部に集中して槍を突き出されるのを嫌がり、左手と棍棒で槍を打ち払うように防御する。何度も突き出される槍を嫌って食人鬼族が大きく後退した。
そのタイミングで回り込んでいた鴨居が駆けつけ、助走の勢いを乗せた前蹴りが食人鬼族の右脇腹に突き刺さった。食人鬼族はくの字に身体を曲げて膝が落ち、左手を地に着けた。
「おぉ?!効いたな!!肝臓の位置は人間と同じかぁ?」
肝臓を突き上げられたことで食人鬼族は大きく体勢を崩し、 横隔膜が押し上げられて呼吸を阻害する。腹膜に響いたダメージに息も絶え絶えとなった食人鬼族は、鴨居の更なる追撃を受ける。右拳の鉤打ちが食人鬼族の右鎖骨を粉砕し、棍棒を持った右腕がガクッと下がった。
膝をついた食人鬼族が立ち上がろうと軸足の左脚に重心を掛けたところで、気配を消して迫っていた祥悟が、二振の小剣で食人鬼族の膝裏の腱に突き立てた。
「硬ってぇな!」
順手に持っていた小剣を一振を鞘に戻し、残る一振を逆手の両手持ちに持ち替え、全身を使った渾身の振り下ろしで、その切先を膝裏に再び突き立てる。今度は筋繊維の隙間を縫って靭帯を損傷させることに成功し、柄を両手でグイッと押し込んで捩じり腱を断つ。
「ギゥァッ!!」
食人鬼族が無事な左腕で纏わりつく祥悟を弾き飛ばす。食人鬼族は軸足に走った痛みで立ち上がるのにも失敗し、完全に死に体となっていた。
「グッ……ギィ……」
頭と両手が下がった食人鬼族の顔面に槍持ちの集中攻撃が入る。槍の穂先は頬を裂き肉を削ぎ骨を削ってダメージを積み重ねる。
小机の穂先が食人鬼族の左眼を抉り、食人鬼族が絶叫した。その咥内に湊の槍が潜り込み、口蓋を貫いて頭蓋骨内部を蹂躙した。
「ギ……ッ!!」
食人鬼族の身体がビクンッと引き攣り、動きが止まって俯せに倒れ込んだ。
「……倒せた、のか?」
小机が呟き、鴨居が試しに食人鬼族を【異空間収納】に収容してみせたことで討伐の成功を確信し、ようやく緊張が解れていった。
「……やたら硬かったな」
祥悟がぼやき、槍持ち三人が同意する。
「確かにスペックは豚頭族の上位互換でしょうけど……。硬くなりすぎですよ……」
湊がジト目でリネット教官をみるが、リネット教官は腕を組んで上機嫌に笑っていた。
「カカカッ!とはいえ倒せただろう!」
悠里は戦闘の流れを決定付けた鴨居に拳合わせをすると礼を言った。
「鴨居ありがとさん。鴨居の攻撃力があって助かったよ」
「ん?あんま実感ないけどそこまでだったか?」
鴨居自身はそこまで硬いとは感じていなかったため、他メンバーとは温度差があった。これが【剛力】の効果ということか、と鴨井以外の四人が悟った。
「槍や剣、刃物で付けられた傷がどれも浅いんだ。なかなか致命傷を与えられなかった。湊がトドメを刺せたのも、鴨居が食人鬼族の動きを止めてくれたお陰だ」
「お、おう?まぁ誰も怪我しなくて良かったな?」
鴨居の困惑気味なリアクションをみてリネット教官が口を開く。
「コージの【剛力】は分かり易く強力だけど、【身体強化】や【氣操作】だって練度が上がれば膂力は上がるし、武器ごと強化できるようにもなる。その頃には【剛力】も身に付いているかも知れないけどな。頑張れ、新人共」
リネット教官からそんな話を聞いて、【剛力】を持っていない四人は少し気分を持ち直した。無ければ今後で身につければ良いし、身につけているものも練度を上げれば使えるようになる。
「後は自分らの努力次第、と」
その後、再び川原を上流目指して歩き、適当なところで昼食をとる。食事は王都で買ってきた屋台飯や果実水である。【異空間収納】を持たない一般の探索者だと不味い保存食か現地調達した獲物を捌いて調理するの二択なので、自分達の能力が「当たり」だと言われた事にも納得がいくのだった。
その後、四班の森林エリアを舞台にした合宿は予定通りに進み、小鬼族、犬鬼、豚頭族、野狼、野猪あたりを対象とした狩猟経験を積んだ。食人鬼族は合宿中に追加で二体は倒している。一体は燃焼時に毒煙を出す低木を燃やした煙で毒殺し、もう一体は魔法で掘った穴に誘導して落として混乱から回復する前に集中攻撃によってトドメをさした。
各自が探索者として自立するための初心者合宿は、一人の欠員もなく無事に卒業するのだった。




