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第1章 第6話 一般常識

 鑑定と面談を行った翌朝、昨夜と同様に炊き出しで食事を摂らせてもらい、大講堂に移動する。

 本日からこの世界、この国で生きる上での一般常識を教えてもらう時間だった。


「一般教養の教官を務めるメイアです。よろしくお願いします」


 やってきた教官は同年代と思われる若さの女性スタッフで、名をメイアと名乗る。麦藁色の髪に三角の獣耳が立っていて、大人を含めた≪迷い人≫全員が頭上の獣耳に視線を送りつつ、長机に着席したままの座礼で応えた。メイアの獣耳は音を拾うようにぴこぴこと動いているため、飾りではなく本物だろうと思われる。


「……?あ、この耳が珍しいですか?」


 ≪迷い人≫全員が自分の耳に注目している事に気付き、耳を指差しながらぴこぴこと動かしてみせた。


「その……本物ですよね?はじめてみました」


 前列に座っていた鶴間が遠慮がちに問う。その反応を見てメイアが頷き、言葉を続ける。


「皆さんの元の世界では獣人族ビースターが居なかったのですね?」


「その獣人族ビースターどころか、外見的にはこちらで言う“普人種ヒューム”しか居ない世界でした。私達は外見的には普人種ヒュームに見えますけど、別世界から来た以上、似てるだけでもしかしたら別の種族かもしれませんし……」


 前方の席に陣取っている湊が応えた。


「なるほど。それでしたらこの世界の人間の種族や見た目の特徴なんかも説明した方が良いですね」


 この世界では、人間ニンゲンの括りには普人種ヒュームをはじめ獣人種ビースター耳長族エルフ鉱山族ドワーフ小人族リリパット竜人族ドラケン吸血族ヴァンプ鬼人族エッジホーンズなどの多種族が含まれている。神話では最初に普人種ヒュームが作られ、普人種ヒュームを基に、特徴を変えた改良種として他種族が産まれたという。


 普人種ヒュームは≪迷い人≫達と大差のない外見をしており、地域によって外見的な特徴が多少変わる。骨格や肌、髪、瞳などの色に違いが現れるそうだ。

 今回の≪迷い人≫の殆どは黒髪黒瞳で彫りの浅い顔立ちだが、東部諸島国家に類似する人種がいるらしい。

 シエロギスタン王国では普人種ヒュームの顔立ちは若干彫りの浅い東欧顔で、イメージとしては日本人と白人のハーフ風の顔立ちが特徴だという。身分や家庭事情で成長期の栄養の良し悪しがあり、豊かな食生活を送れている貴族などは現代人と同じくらいの平均身長だが、貧しい家庭やスラムの孤児などは全体的に現代人より小柄らしい。栄養事情による身長や体格の違いは普人種ヒュームに限らず全種族の傾向という事だった。


 獣人族ビースターは獣耳と獣の尻尾を持ち、氏族によって耳や尻尾の形状に差異があるらしい。しかしこの差異で細かく氏族名まで分類する習慣がなく、混血も進んでいるため親族でも耳や尻尾の形状に違いが出来るのが普通だという。普人種ヒュームと比べて五感が鋭く、臭いや音に敏感で夜目が利く傾向がある。また、普人種ヒュームと比べると魔力マナで劣るもののプラーナは豊富で、普人種ヒュームに比べて身体能力に自信を持つという。無論例外的に魔力マナに優れた獣人族ビースターもいて、狐人や狸人にその傾向がみられる。


 耳長族エルフは笹穂型の長耳をした普人種ヒュームの様な種族で、普人種ヒュームと比べて中性的な美形が一般的で男女の性差が少ない傾向にある。長命だが繁殖力に劣り、人口が少なく、耳長族エルフの集落で暮らすのを好む。また普人種ヒュームより純粋な身体能力は低いが魔力マナに優れ、魔力を使った身体強化まで考慮すると大抵の普人種ヒュームより優れている。弓術や魔法、精霊術に重きを置くが、かといって近接戦闘を野卑と蔑んでいることはない。


 鉱山族ドワーフ耳長族エルフ程ではないが若干長耳で長命種でもあり、男女共に背は低く、男性は男性的な特徴が強くて髭と筋肉を誇り、女性は女性的な特徴が強くて、トランジスタグラマーな体型をしている。成人しても身長は一三〇センチ程から背の高い者でも一五〇センチ程だ。

 鉱山族ドワーフ普人種ヒュームに比べて筋力に優れ、種族的に炭鉱開発や鍛冶仕事、彫金細工など細かな手作業に強い職人気質を持っている。一般的に武器や防具は鉱山族ドワーフ製が高品質のブランドマークになっている。


 小人族リリパット鉱山族ドワーフより若干背が低く、体型も男女ともに細い子供体型をしている。しかし顔立ちはしっかり年齢を重ね、普人種ヒュームと同じくらいの老化速度である。小柄で手先が器用なため、斥候職や繊細な織物作りなどの職人に強い傾向を持つ。


 竜人族ドラケン普人種ヒュームに近い外見に竜種の名残と言われる角や爪、部分的に鱗が合ったりする。鱗になる場所は肘や膝などが一般的だが、個体差が大きくでる。普人種ヒュームに比べ長命で身体能力に優れ、繁殖力に劣る。魔法は個人差により火が得意だったり水が得意だったりし、得意な種類の魔法は普人種ヒュームより上手く扱うが、苦手な種類では劣るという特徴があるらしい。背丈は普人種ヒュームより平均して頭一個分ほど背が高い。


 吸血族ヴァンプ人間ニンゲン亜人種あじんしゅの血液が甘く香しい物と感じるらしく、嗜好品として他人の血液を好む。あくまで嗜好品であり、生命維持に血液が必要な訳ではない。他人種と共生して献血で血液の提供を受け、対価を支払ってお互い納得の上で摂取するのが平和的な解決法とされている。肌は白いが日光に過敏で、すぐに日焼けしたり火傷のようになってしまいがちのため、フード付きのローブ等を好んで着用したり夜勤を好む。身体能力と魔力マナのどちらでも普人種ヒュームを遥かに凌ぎ、自動再生能力まで持っている長命種族だが、繁殖力が非常に弱く個体数が耳長族エルフより少ない。また、吸血族ヴァンプには陽下吸血族デイ・ウォーカーという日光の弱点を完全に克服した上位種がおり、吸血族ヴァンプ社会で高位の爵位が与えられ、他種族との交渉窓口としても活躍している。


 鬼人族エッジホーンズは外見は普人種ヒュームに近く、前髪の生え際辺りに二本の、日本刀の切先の様な角を持つ。耳長族エルフと同様に長命種だが繁殖力は普人種ヒューム獣人族ビースターには劣るが他の長命種よりも優れており、街中でも見かけ易い種族でもある。背丈は平均的に普人種ヒュームより頭半個分高く、体格は筋肉質で鉱山族ドワーフ並の剛力を誇る。戦闘適性が高く、種族的にも傭兵や兵士、探索者シーカーなどの戦闘職を好む傾向がある。



 人間ニンゲンには含まれないが、知性があって人間ニンゲンと交流できる種族に亜人種ヒューマノイドという区分けがあり、爬虫人種リザードマン人馬種ケンタウロス蜘蛛人種アラクネ人魚種マーマン人蛇種ラミアなどが知られている。


 昆虫の翅をもった小さい人型種族の妖精種フェアリーなどもいるが、亜人種ではなく精霊エレメントに近い種族とされている。



「……という感じです。あくまで傾向ですから、何事にも例外はあるものと思ってください」


 メイアの人種についての講義を皆が興味津々で聴いていた。


 種族や人種についての話の次は硬貨についての説明であった。


 爪程の四角い小鉄貨幣が一ゼニー、一回り大きく四角で中央に穴が空いている鉄貨幣が五ゼニー。

 爪程の小さな四角い小銅貨が一〇ゼニー、一回り大きく中央に穴が空いている四角い銅貨が五〇ゼニー。丸い小銅貨が一〇〇ゼニー、一回り大きく丸い大銅貨が五〇〇ゼニー。

 爪程の小銀貨が一,〇〇〇ゼニー、一回り大きな銀貨が五,〇〇〇ゼニー。更に大きな大銀貨が一〇,〇〇〇ゼニー。

 爪程の小金貨が五〇〇,〇〇〇ゼニー。一回り大きな金貨が一,〇〇〇,〇〇〇ゼニ―、大金貨が五,〇〇〇,〇〇〇ゼニ―。

 爪程の小白金貨が一〇,〇〇〇,〇〇〇ゼニー、一回り大きな白金貨が二五〇,〇〇〇,〇〇〇ゼニー、大白金貨が五〇,〇〇〇,〇〇〇ゼニー。


 ここまでが市井で普段使いする貨幣となり、これより価値の高い貨幣として天銀ミスリル貨などもあるが、土地や屋敷など大きな買い物や、国家の事業などで大金が動く時しかお目に掛かれない。


 炊き出しで食べさせてもらっている食事が市井でいえば五〇〇ゼニー程の買い物にあたるらしい。屋台の串焼きなども相場としては三〇〇ゼニーから六〇〇ゼニ―程はするという。


 貨幣は種類も多く間違えられない話のため、皆がメモを取りながら真面目に聴いていた。



「……貨幣についてはこんな感じですね。公職や官職に付けば給金の月額は金貨二、三枚からはじまり、能力や実績に応じて給金が上がっていく感じです。公職や官職の良いところは給金が安定して貰えることですね。商売人の場合、良くも悪くも腕次第の自己責任です」


 そこで湊が手を挙げて質問する。


「すみません、駆け出しの探索者シーカーの日当や月給の相場はどのくらいでしょうか?」


「薬草採取や配達代行、下水道の掃除などの戦闘のない依頼であれば、日当で小銀貨五枚から大銀貨一枚くらいが相場かと思います。危険度の低い魔物の討伐をこなせるようになると、日当や素材売却などで大銀貨一枚から大銀貨三枚くらいはいけます。討伐難易度の高い魔物を狩るようになると、金貨や大金貨が動くようになりますので、是非頑張ってください」


 話を訊く限りでは、一ゼニーが一円だと思えば良さそうな気がした。


「そうなりますと、宿代なども考えれば駆け出しの探索者シーカーはかなり生活が厳しそうですね……?」


「そうですね。確かに厳しいと思います。しかし皆さんの場合は良い能力をお持ちのようですから、初心者合宿が終われば簡単な討伐依頼から取り掛かれるかと思います。合宿期間は宿舎に宿泊出来て食事も炊き出しで食べられますし、初心者用に先輩探索者(シーカー)が使っていた中古の武装を借りる事もできますので、初心者合宿でしっかり基礎を固めてから探索者シーカー活動をはじめる事をお勧めします」


「なるほど。その初心者合宿ですが、期間はどのくらいでしょうか?」


「基本的に四週間、つまり約一ヶ月で卒業となりますが、成績次第では二週間で卒業になる場合もあります」


「なるほど……。回答ありがとうございます」


 湊がおとがいに指を当てて思案している。それを横目で見つつ、念話で礼を言う。


『(片倉、良い質問してくれてありがとう。俺も聞きたい部分だったから助かったよ)』


『(それはどういたしまして?私達なら小鬼族ゴブリンの討伐経験もある訳だし、討伐依頼から取り掛かれそうね)』


『(そうだな。合宿を二週間で卒業して、討伐依頼からのスタートを目指そう)』


『(えぇ、頑張りましょう)』



◆◆◆◆



 午後の講習ではシエロギスタン王国の成り立ちをさらっと流し、近隣国との仲についての解説を受けた。


「……という感じで隣接国のヴァジラジール王国とはあまり仲が良くない訳ですが、この主張はあくまでシエロギスタン王国側の視点と主張です。ヴァジラジール王国側からすれば違った視点と主張がある事を忘れないようにしましょう。探索者シーカーズギルドは国境を越える組織なので、皆さんもいつか別の国の探索者シーカーズギルドに立ち寄る可能性もありますしね?」


 探索者シーカーズギルドの特徴である中立組織として、あくまで公平に意見を述べていることが分かった。



「次に、この国の貴族層についての解説をしますね……」


 貴族層は一代限りの騎士爵と準男爵があり、世襲可能な爵位としては男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵と位が上がっていく。騎士爵から男爵までが下級貴族、子爵と伯爵で中級貴族、侯爵以上が大貴族と考えれば良いらしい。場合によっては侯爵より豊かな伯爵がいたりもするので、あくまで目安である。


 それと、貴族は領地持ちの貴族と領地を持たない宮仕えの法服貴族があって、国の中枢で大臣をやっている貴族が領地を持っていない、などというパターンも普通にあるらしい。貴族=領主という認識では無いとのことだった。

 また、特殊な階級として辺境伯と魔境伯、迷宮伯があり、それぞれ侯爵相当の位として扱われるらしい。公爵は実質的に王家の分家のような物なので、侯爵相当が貴族としての最上位と考えられる。


 綺麗なお題目で言えば貴族は「ノブレス・オブリージュ」を実践すべき誇りある立場となるのだが、世襲制の弊害で生まれながらの特権層と曲解し、「生まれが偉いから貴族は偉い」、みたいな理論が染みついている貴族も多いという。正しくは権利と義務の話であり、人としての特権という考えが方が間違っているのだが、面倒な貴族が多いのも現実である。貴族と接する際は細心の注意を払って、貴族相手の大人の対応を身に付けましょう、という話であった。


 この辺りは現代日本人として反感を覚える価値観なのだが、「郷に入っては郷に従え」である。権力という名の暴力を受けないように立ち回る事も必要な処世術だった。



 貴族関連の話が一段落すると、次は兵士についての話に移った。街中を巡回したり門番をしていたりする兵士は≪衛兵≫という分類で、いわゆる警察組織のような扱いのようだ。衛兵とは別に貴族の多くは≪私兵≫を持ち、辺境伯や魔境伯、迷宮伯などは隣国や魔境、迷宮からの脅威に備えるため、≪私軍≫を持つという。貴族は配下に騎士爵を与える権限を持ち、爵位を与えるのであれば爵位に見合った給金も支払うことになる。そのため、豊かな領地でないと大きな騎士団を形成する事はできない。


 では騎士はというと、爵位としての騎士爵と所属団体としての騎士が少し異なる。王国には第一騎士団から第八騎士団までの国軍が存在し、騎士団に所属する者は騎士と呼ばれる役どころにある。

 ところが騎士の中には平民出身で平民のまま騎士をしている者もおり、必ずしも騎士爵を持っている訳ではないという。

 騎士として団体に所属し、武功を挙げるなどして騎士爵に陞爵しょうしゃくされても準男爵と同じく一代限りの貴族扱いのため、家族としては平民と何ら変わらないのだ。


 こういった背景もあり、男爵から子爵にかけての下級貴族は準男爵や騎士爵を下に見て平民と変わらないと馬鹿にする習性があるらしい。


 貴族制度はつくづく世襲制の悪い点が凝縮されるものである。しかし、優秀な血筋には優秀な人材が生まれることもまた事実であり、連綿と磨き抜かれてきた貴族家の血統ではその血筋を誇るに値する優秀な人材も実在するのだった。


 遠回しに言っているが、要は貴族には優秀な人材とボンクラな人材の二極化が激しいという事である。



 ここまでで一日目の講義が終わりかけたのだが、一誠からの要望で時間や距離の単位についての話をしてもらうことになった。


 悠里達は今まで当たり前のように日本と同じ単位で考えていたが、こちらの世界がいわゆるヤード・ポンド法の規則に即している可能性を感じ、早々に不安の芽を摘むことになったのだ。


 結果としては日本で使い慣れたセンチ・キロ法に即しており、一ヶ月は三〇日で一二ヶ月で一年。一日は二四時間と、かなり地球と日本に即した分かり易い単位で皆が安堵した。しかも単位が地球での呼称と同じなあたり、過去の迷い人の功績が伺えた。



 少しばかり延長となったが、初日の一般教養の講義はここまでであった。

 一般教養、即ち常識についての講習は、異世界からの≪迷い人≫には正しく必要な講習だと皆が感じた一日であった。



◆◆◆◆



 二日目の講習は、この世界の野菜や食肉についての授業からはじまった。食材の名前、一般的な調理方法、市井での常識から教わっていく。昼には調理実習を兼ねて炊き出しを自分達で作り食した。実際に調理して食べる事ではじめて理解できる物があるのだ。


 野菜としては外観や食味が地球の野菜と似ている事が分かったため、然程拒否反応も出なかったのだが、食肉に関してはカルチャーショックがあった。


 この世界では食肉用の家畜は贅沢品となっており、市井で口にする食肉は、大方が野生動物や魔物の肉であった。動物型はまだマシであるが、場合によっては人間ニンゲンを食べて成長した個体かも知れないのだ。それだけでも気持ち悪さを感じるところに、更に豚頭族オークなど二足歩行の魔物の肉まで食肉扱いされていた。


 いくら魔物で人間ニンゲンにカテゴライズされていないとはいえ、二足歩行でコミュニティを作る魔物を食材として見る観点には拒否反応を訴える者が続出した。


 このままだと、屋台で串焼きを買うだけでも何の肉か確認する癖がつきそうだった。夕食に炊き出しで出された肉を警戒しながら食べると、悔しいことに美味しい豚肉の味である。つまり食材は豚っぽいアレであろう。敢えて訊く勇気は蛮勇だとおもった。


 探索者シーカー活動での魔物退治は、自分達で食べるための食肉確保も必要だと感じた。 美味くて拒否反応を感じない食肉探し。それもまた探索者シーカーらしい生き方かもしれないと悠里は思う。


 因みに祥悟は全く気にせず受け入れていて、逆に湊は顔が青褪めていた。悠里の心情としては湊寄りのため、探索者シーカー活動では食肉の確保について意見が合いそうだと感じた。



◆◆◆◆



 講習三日目には、国内の地理と領地を大雑把な地図っぽいラクガキで教えられていた。もっと精緻な地図を要求してしまうのは地球での地図を知っているからだろう。メイアには何が不満なのかが分からないという顔をされてしまった。


 大雑把な地図っぽいラクガキに領地名とその領主、特産品などの地図に紐付いた情報を覚える講義で、メモだけして必要な時にメモを見返せば良いかと、頭に詰め込むことを早々にギブアップした。



 講習四日目。この日はこの世界の御伽噺、神話、有名な英雄譚などの話が中心だった。現地人と話を合わせるには確かに知っていた方が円滑になるだろうと感じた。この世界特有の慣用句やことわざも混ぜて話されていたため、自然と地球での表現と紐づけて覚えることができた。三日目より集中して講義を聞くことができた。



 講習五日目。一般教養の最終日である。この日は朝から皆に革袋が渡された。中身は鉄貨と銅貨、銀貨までの各種貨幣が入っていた。


「最終日はお小遣いを使って王都の観光をしてきてください。お財布はスリに気を付けて、盗られないように頑張ってくださいね」


 との事だった。


 悠里は祥悟と湊とで三人で出掛ける事にした。神隠し前には祥悟と二人なのが通常運行だったので、そこに湊が加わるなど考えたこともなかった。それが今では普通になってしまい、人生とは分からないものだと感慨に浸ってみる。


 三人はとりあえず露店のならぶ大通りや店舗を適当に見て回り、お金は飲食にだけ使う感じで王都を散策した。


 王都に到着した初日に探索者シーカーズギルドの敷地に入り、以来ずっとそこで暮らしているため、今回が初めての王都散策だ。


 今回は資金が少ないので買い物は出来ないが、いずれは買おうと武器防具の店も見て回った。刀が無いかなと探してみたが、曲刀はどちらかというとサーベルに近い物か幅広の曲刀であるファルシオン型くらいしか見付からなかった。


「片倉の古武術って、西洋型の直剣でも出来そう?」


 気になったのはそこである。未だ満足に習える時間が取れてはいないが、悠里は湊に弟子入り予定なのだ。


「う~ん……。形状的に抜刀術は難しいと思うけど、基本的な使い方なら多分大丈夫だと思う……。でも刀と直剣じゃ握り方が違うから、こっちの世界の剣術を学ぶ方が良いのかも?」


「そうか~。ま、とりあえず直剣で試してみるよ。借りれる中古品にもありそうだしさ」


 悠里と湊のやり取りを聞いて祥悟も直剣を手に取ってみる。


「思ったより刃が短いのが多いな?」


 祥悟が素朴な感想を口にすると、湊が振り返った。


「それは橋本君の背が高いからだよ。私の身長だとそのくらいの長さじゃないと鞘から抜けないからね?」


 湊に言われて試しに腰に当てて剣を抜いてみて、納得した。


「確かに。俺の身長なら抜けるけど片倉は無理になりそうだな。悠里も長剣抜くのギリギリじゃないか?」


「だな。バスタードソードとか使ってみたかったけど、いざという時にすぐに抜けないのは致命的だ」


「その長さを問題なくさっと抜けるのは、うちのクラスだと藤沢だけじゃないか?あいつ手足長いし」


「そうかもな。文字通り身の丈にあった長さの武器を選ぶようにするわ」


 その後、しばらく街中をうろうろして色んな物を見て歩き、今後必要になりそうな物の相場を見て学んでいった。


「そういえばギルドの中にも探索者シーカー用品の店が入ってたよな?薬とかあそこで買えるのかな?」


 祥悟が思い出したように疑問を口にした。


「傷薬的なやつ?薬草を集める依頼があるって言うんだから、そりゃあるんじゃないか?」


 ギルドに戻る道程でアクセサリー屋に湊が引っ掛かって少し足を止めていたが、ギルドの店の方が気になったのか、すぐに追いついてきた。



 ギルド内のショップでは街中でみた道具が相場通りの適正価格で並んでいた。自由に買い物ができるだけの資金が出来たなら、ギルド内のショップを贔屓に使おうと心に留めておいた。



 王都の観光を終えると大講堂に集合し、メイアにどんな観光をしてきたか報告をして最終日の講習が終了した。

 担当教官をしてくれたメイアによると、この一般教養の学習態度や結果についても報告書が提出されるらしい。地理関連以外はそれなりに真面目に受けていたので大丈夫だと思いたいカミングアウトであった。



 明日からは悠里たち三人は探索者シーカーズギルドの初心者合宿の方に顔を出す予定である。横田などの非戦闘職を希望している面々は、どこか別の職場体験の場が用意されるのだろう。


 クラス全体で集まって何かをするのも、今日で終わりになりそうだと感じた。


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