第4章 第12話 鉱山迷宮の攻略再開
宿に戻り悠里の部屋で作戦会議となった。
「さて。日緋色金合金製の打刀と脇差の目途は立ったね。費用の方は全然問題ないけど、打刀だけで四ヶ月。その後に脇差と考えると八ヶ月。それぞれに結構な時間がかかる。その間どうするか?この街で借家を借りるか、家を買って使うか、それとも宿を借りっぱなしにするか。宿は借りるにしてもグレードの落ちる二人部屋や一人部屋で節約するのもアリ。勿論、別の街に行ってから時期がきたら帰ってくるのアリだと思う」
悠里が指折り今後の方針を挙げると、カルラが手を挙げた。
「ユーリ様。≪上級≫組としてはマインレーヴェに残って鉱山迷宮で修行したいです」
「「「「同じく」」」」
レティシア、クローディア、ユーフェミア、メノアも同意する。悠里は一つ頷き、アリスレーゼ、ミヤビ、アマリエに顔を向けると三人も頷いた。
「それじゃマインレーヴェに滞在して鉱山迷宮に通うのは確定かな。次はその間の住処だけどどうしようか」
「魔馬の世話を探索者ギルドの厩舎に任せられるなら、宿は引き払って迷宮中心の箱馬車生活でも良いと思う。あれに泊まるの結構快適だし」
湊が手を挙げてそう発言した。悠里は魔馬の預ける先を失念していた事に気付いて自分の額をぺちっと叩いた。
「あぁ、そうだね。魔馬の預け先が重要だったね。ギルドで預かってもらえるか確認してくる」
悠里はひとっ走り探索者ギルドの厩舎に行き、スタッフに聞いてみた。
「魔馬ですか?お預かり料金は頂きますが、お世話は可能ですよ。今は空きの馬房もありますし」
「では魔馬四頭を宿から連れてきます。こちらで四頭分の馬房の確保とかお願いしますね」
悠里は馬房のキープをお願いして、宿まで戻って早速仲間に情報を共有した。
「という訳で、預かり料金はかかるけど預かってもらえるらしい。早速宿からギルドに移したいんだけど、馬引き役三人ついてきてくれる?」
これはアリスレーゼ、ミヤビ、アマリエの三人が引き受けてくれて、四人で四頭の魔馬を引いてギルドの厩舎に連れて行き、係員に引き渡した。
「とりあえず四ヶ月分の預かりをお願いします。その後にまた四ヶ月の延長をお願いするかもです」
「はい、承ります。会計と預かり証は本舎の受付になりますので、支払いが済んだらまた来てもらえますか?」
「分かりました。行ってきます」
例により人気のないスキンヘッド氏のところで厩舎の長期間預かりの手続きと支払いを行い、厩舎に戻るとスキンヘッド氏のサイン入りの預かり証兼領収証を確認して正式に魔馬四頭をギルドに預けた。
「またしばらく迷宮に潜るけど、絶対帰ってくるからここで待ってて?」
魔馬達の首筋を撫でながら四頭に言い聞かせるように言葉をかけ、四人は宿に戻った。
◆◆◆◆
「魔馬もギルドに預けた。宿もチェックアウトした。消耗品や食料の補充もした。装備の状態確認も済んだ。よし、鉱山迷宮の攻略の再開と行こうか!」
悠里の号令に合わせ皆で鉱山迷宮の入り口へと歩き出す。
今回もメインは≪上級≫組に任せて鍛錬を積んでもらい、危なそうだったり間引きが必要なら悠里達≪特級≫組も手を貸すことにしている。
魔力と氣の鍛錬の意味で天銀合金製の武具を継続して使う予定で、主武器が壊れたら予備武器に変えるが、街に戻った時に≪マインレーヴェ百器店≫で神鉄鋼合金製か魔脈鉄鋼合金製の武具に買い直して再開する予定にした。
何しろ鉱山迷宮の魔物は大体硬い。
魔力と氣の浸透した武器でないと装甲を貫けない。悠里達≪特級≫組は天銀合金製の武器でも今のところ問題なく魔物を斃せるが、≪上級≫組の練度だと割と苦戦している。
鉱山迷宮の入口の小屋で入場記録を付けてから迷宮入りする。
一階の転移魔法陣のホールの床に転移魔法陣が彫られていて、その中心に腰程の高さの柱が立っており、その上に水晶玉の様な魔道具が置かれている。一緒に移動するメンバーが魔法陣の範囲に乗ったのを確認して水晶玉に魔力を通すと、景色が一瞬で切り替わる。ホールの壁に書かれている数字が一階だったのが五〇階層になっている事を確認し、ホールから出て隣接した部屋から五一階層へと降りていく。
このフロアからは探索者ギルドの公式地図がない。自分達で地図を作りながら手探りで攻略していく。
五一階層で最初に出くわした魔物は鉱山族サイズのゴーレムで、手には戦斧か戦鎚、戦棍等の武器を所持している。
ゴーレムは身体全体が鉱物なのでかなり硬い。首を刎ねようが両足を斬り落とそうが動き続ける。弱点である魔核の魔石を破壊しなければ機能停止に至らない。魔物の魔石は通常はそれだけで商品になるためできるだけ破壊せずに持ち帰る物だが、鉱山迷宮では魔核の破壊が必要な魔物が多い。魔石は駄目になるが売却利益の大きな鉱物資源が残るので、割り切って壊しに行く。
ちなみにゴーレムは無生物なので【異空間収納】に生け捕り(?)できるのでは?と試してみたが、魔核が無事な間は収納できなかった。魔核を破壊し機能を停止したゴーレムは【異空間収納】に入るので、魔核は壊す前提で戦うようにしている。
鉱山族サイズのゴーレムは身体全体が魔鋼製で、魔核を守る胸部が天銀で補強されていた。悠里達は丸ごと収納してしまうので関係ないが、魔法の鞄だけで戦利品を持ち帰るのなら、この天銀の補強部位だけを持ち帰るのが効率的なのだろう。
五一階層では他にヤドカリや蠍など鉱物質の生体部位をもった魔物も現れた。そちらの方は首を刎ねたり潰したりするだけでも倒せるので、魔核の魔石を壊さずに回収できた。
このような感じで、一階層あたり二日から四日程で下層への階段のあるホールと転移魔法陣のホールに辿り着く。四日かかった時は不正解なルートが多かった場合で、二日で辿り着く時は不正解なルートを通るのが少なかった場合である。
最初から地図があれば一階層あたり一日もかからないだろう。悠里達の場合、ギルド公式以外で正確な地図を手に入れるアテがなかった。鉱山迷宮に潜っているチームやクランなら、自分達で開拓したルートを早々他チームに譲ったりしないのだ。
五〇階層から七〇階層まではこの調子で約六〇日で進めた。七〇層のあたりになるとゴーレムは魔鋼製だった身体は大体が天銀製の身体になり、魔核を守るところに神鉄鋼か魔透鉱で補強されている様になっていた。
神鉄鋼や魔透鉱が採れるようになってくると、この街を拠点に活動している採掘者と呼ばれる種類の探索者のチームやクランを見かけるようになってくる。獲物の横取りにならないように距離を置いてルートを変えたり、手は出さず奥に進むことを宣言して素通りしたりする。このあたりで見かける採掘者は街のトップ層なので、意外と行儀が良い。
七〇層の攻略中に≪上級≫組のメンバー達の天銀合金製のメイン装備が壊れはじめ、サブ武器や≪特級≫組が予備で持っていた天銀合金製の装備を貸すようになった。悠里の中では壊れると分かっていて“雪月花”を渡すのはNGだったので、それ以外の物を使ってもらった。
「私達の魔力と氣の練度じゃ、そろそろキツイねぇ」
カルラがぼやき、レティシアとクローディア、メノアも頷いた。
悠里チームの≪上級≫組のミヤビ、アリスレーゼ、アマリエは天銀合金製の武器で何とかできているが、そろそろ武装の【自動修復】が間に合わなくなってきている。
ちなみに≪特級≫組は天銀合金製の武器で余裕でやれている。
「キツイかぁ……。それじゃあ攻略中の七二階層が終わったら街に戻って、魔脈鉄鋼合金製か神鉄鋼合金製の武装に切り替えよう」
悠里から武装変更の言葉が聞けてホッとする≪上級≫組。七二階層の最後の方は≪特級≫組も手伝ってなんとか乗り越えた。転移魔法陣で七二階層から一階層に転移し、久しぶりに外の空気を吸う。
宿で二人部屋を六室を予約して一週間を休養日にした。明後日には≪マインレーヴェ百器店≫で≪上級≫組の装備選びの予定を入れておく。
約二ヶ月も鉱山迷宮に潜り【異空間収納】から出した箱馬車で生活していたため、地上に戻ってきた解放感で皆が羽を伸ばして思い思いに過ごしている。
その間、悠里と湊は食料などの消耗品の買い増しという全然色気のないデートをしたり、探索者ギルドに預けている魔馬達とのコミュニケーションの時間を過ごした。前回より更に長かった不在に不満が溜まっていたのか、珍しく甘噛みされるのを甘んじて受け入れた。ギルドの本舎で魔馬の預け料を追加で半年分を支払い、延長しておく。
悠里は何時の間にか一日目は湊、二日目はエフィ、三日目は全員で≪マインレーヴェ百器店≫、四日目はアリスレーゼ、五日目はミヤビ、六日目はアマリエ、七日目はまた全員と出かけることになっていた。知らないところで予定が決められていたが、クランメンバーかつ同チームということもあって嫁同士の仲が良いのは感謝である。
三日目、クラン全員で≪マインレーヴェ百器店≫に行く。
竜人族のレティシア、クローディア、鬼人族のカルラ、ミヤビ、獣人族のメノアは魔力より氣の方が強いため、氣の通りの良い神鉄鋼合金製の武器と防具にした。
陽下吸血族のアリスレーゼとアマリエ、耳長族のユーフェミアは魔力の方が強いので、魔力の通りが良い魔脈鉄鋼合金製の武器と防具を選んでいる。
八人分の装備の総入れ替えで五十億ゼニーに近い出費となったが、使わない財産より命の方が優先である。それぞれ同じ工房から納品された物なのかデザインが共通していたのも高評価だった。
なお、鉱山迷宮で“採掘してきた”鉱物資源を売らずに保存している。日緋色金合金の装備を揃えるまでには、探索者ギルドが提携している精錬所でインゴットに精錬してもらう予定だ。
一週間休んだ後は再び鉱山迷宮行きである。前回踏破した七二階層に転移して、七三階層を攻略するところからの再開だ。七二階層までの魔物と同等で、天銀製の身体に魔透鉱や神鉄鋼の補強がされているものや、同等の生体素材が採れる相手である。
新しく購入してきた神鉄鋼の斧槍や長剣、小剣、大戦斧に魔脈鉄鋼の刀、剛弓などを用いて戦う≪上級≫組。前回苦戦していた魔法金属系の素材部位も、今回は容易に貫けるようになっていた。
「天銀合金製の武器の時より大分楽です」
メノアが小剣片手に手応えに満足そうに頷き、他の七人も同様に嬉しそうな顔をしている。
「ん。でも神鉄鋼の人は魔力も通りにくいけど通すように。魔脈鉄鋼の人は氣を頑張って通す。通り難い方も通す練習をしておかないと、【彼岸花】流の鍛錬にならない。日緋色金合金の武器に変えるのを目標に、手を抜かないように」
エフィの注意喚起に、≪上級≫組全員が気を引き締めて頷いた。
オーダーしている日緋色金合金製の刀が揃った後、日緋色金の柱斬りに挑戦しなかった五人も、天銀合金製の武器で輪切りに出来るようになっていてほしい。それができるようになっていれば、追加で日緋色金合金製武器を発注して全員に行き渡らせてやれる。
日緋色金合金製を使いこなせるレベルで魔力と氣の制御ができるようになってから日緋色金合金製の武具を持てば、チームとしての地力が二段、三段飛ばしで強くなれる。
一行が鉱山迷宮を攻略する目的は、戦利品による大金でも名誉でもなく、鍛錬兼鍛錬の成果の確認なのであった。




