第4章 第6話 王都の館にお引越しと街歩き
※修正ミスで消してた文章があったので追記しました(2025/09/11)
エッジブランド魔境伯邸で魔境伯と側近の方や、お世話になった使用人達にも焼き菓子と一緒にお礼をして回った。
一通り挨拶を終えた【彼岸花】メンバーは、王都の【彼岸花邸】に引っ越しした。手荷物等は全て【異空間収納】や魔法の鞄で行ったため、ほぼ身一つでの移動であった。
【彼岸花邸】では執事のヴィンセントと侍従長のアリーナに改めて挨拶し、各々が決めた自室で荷解きを行う。といっても魔法の鞄や【異空間収納】に入れっぱなしの方が大抵は良いので、机の上に紙やインク壺、浴室に石鹸や洗髪料などの設置くらいで終わってしまうのだが。女子の部屋は装飾や調度品の追加をしたりしているのかも知れない。
昼食を館で食べた後、一階のリビングに【彼岸花】メンバー達に集まってもらい、悠里からの相談兼会議である。
「家名と家紋をどうするか。家紋は【彼岸花】と刀をモチーフに幾つか候補を考えてきた」
斜めに描いた彼岸花と抜き身の刀が×の字にクロスするもの、縦軸の彼岸花の下に、抜き身の刀が鎮座しているもの、縦軸の彼岸花に十字の横棒部分を刀にしたもの、などの簡単な図案を幾つか提示した。十字の物と×の字の物で好みが分かれたが、多数派だった×の字で重なった物を採用した。
「家紋の相談は分かるけど、家名って相談要る?」
祥悟に聞かれて悠里が頷いた。
「ミナト・アイハラよりミナト・カタクラの方がしっくりくるし、ユーリ・フォン・アイハラじゃなくてユーリ・フォン・カタクラの方が語感が良い気がして」
「ユーリ・フォン・カタクラ?ミナト・カタクラ、ミナト・アイハラ、ユーリ・フォン・アイハラ……」
ミナトが顎に握りこぶしの親指を当てながら名前の響きを転がして吟味し、頷いた。
「うん、個人的にはアリよりのアリ。お婿さん的な意味でむしろ良い。ユーリ・フォン・カタクラ討滅伯。良いじゃない」
「じゃあ、ミナト・カタクラ、エフィ・カタクラ、アリスレーゼ・カタクラ、ミヤビ・カタクラ、アマリエ・カタクラで良いかな?」
「「「「「異議なし」」」」」
正式に同じ家名を名乗るのが決まり、実家の家門を追放された組も満足そうにしている。
「祥悟も家紋と家名をどうするか、考えた方が良いぞ?名誉伯爵なんだから正式に登録されることになるんだし」
「俺は普通にショーゴ・フォン・ハシモト、レティシア・ハシモト、カルラ・ハシモト、メノア・ハシモト、クローディア・ハシモト、ユーフェミア・ハシモト……語感は良くないな?家名持ちでそっち使いたい人いる?」
祥悟が自分の彼女達に聞いてみるが、奴隷落ちの際に家門から追い出された者達なので、特に意見は出ず。
「異議なしかな?じゃあ家名はハシモトで決まり。家紋は縦の彼岸花の下、茎の方に×の字に刀入れるのでどうだ?」
「あ、そっちの意匠の方がカッコよかったかも。まぁ仕方ない」
悠里が祥悟の家門案に一番反応を示したが、そちらもあっさりと決定し、【彼岸花】の貴族家としての準備が、少しずつ出来上がりつつあった。
午後は久しぶりの街歩きに出かけた。エッジブランド家を出たことで護衛が居なくなり、それなりに自由な時間を過ごすことができる。ただ一二人は流石に多いので、六人ずつの二チームに分かれての街歩きを楽しんだ。
悠里と祥悟以外は全員が女子の二チームなので、自然と衣服や装飾品などの店を覗くことが多かった。
「部屋着は兎も角、街歩きや探索用には最低限天銀合金糸で編んだ服にしてね?」
後ろから悠里が声をかける。この世界、治安のよい王都であっても刃傷沙汰に巻き込まれる可能性がある。身を守るための資産がある以上、安全面に手を抜く訳にはいかない。
「あ!片倉さんだ!」
「え?あ、菊名さん?」
接客にやってきた店員が、元クラスメイトの菊名唯子だった。その声に反応したのか、長津田青葉が寄ってきた。他に接客中の大口鶫の後ろ姿も見えたが、こっちは接客中で目線をチラッと向けただけだった。
「菊名さん達は何かお店やるって言ってたもんね。もうお店が持てたの?」
「なんとかね。地球文化というか日本文化?あちこちに残ってるし迷い人の先人達に良いところはとられてる感じだけど、服飾店な感じでやれるようになってきたよ。片倉さんは探索者ギルドだったよね。こちらの綺麗な人達がチームメンバー?」
「それと後ろに悠里君が」
「お久しぶり」
後ろで眺めていた悠里にも水が向けられたので、挨拶を返した。
「相原君もいるんじゃーん!てことは橋本君も?」
「祥悟は別行動中だけど、一緒のチームみたいなもんだよ」
湊と悠里が店員と話をしていると、エフィが見上げてきた。
「≪迷い人≫の同胞?」
悠里はエフィに頷き返して補足も入れて答える。
「そう。同じ≪迷い人≫で探索者にならなかった組の一つかな?他にも官職公職に就いた人達もいたはず」
エフィに答えた後、天銀合金糸の服については店員に聞いた方が早いと思い、唯子に訊いてみる。
「あ、菊名。ここって天銀合金糸の服とか扱ってる?」
「え?そんな高級品扱えないよ!」
「日本っぽい衣服のラインナップはオリジナル商品?」
「うん、ウチでデザインして仕立て屋の見習いの工房とかに作ってもらってる。藤花と叶に神奈もそっちで働いてるよ」
「へぇ。それじゃさ、お代は先払いするから、天銀合金糸でこの子達に似合う服を作れる?」
「先払いで貰えるなら挑戦してみても良いけど……相原君、先払いってお金持ち?」
「結構ね。名前ばかりだけど、一応貴族にもなってしまったよ」
悠里は唯子と会計カウンターの方へ移動し、そこで木箱を取り出して渡す。
「とりあえず一億ゼニー。これで天銀合金糸の布を買って可愛いやつ作ってあげて」
「……さらっと出す額にびっくりだよ」
唯子は木箱を急いで【異空間収納】にしまってから悠里に頷き返した。
「出来上がったらどうすれば良い?」
「貴族街にある【彼岸花の館】ってとこに住んでるから、そこにお願い。ざっと地図描くと……」
悠里は唯子に手書きの簡易な地図と説明を書き入れた紙を渡した。
「で、デザインはどんなのが良い?」
「学校の制服みたいに揃いだと可愛いかな?同じ制服の男子バージョンもお願い。出来が良ければ追加注文で私服タイプも買いに来るよ」
「分かった、ちょっと頑張ってみる」
悠里が唯子にオーダーについて話をしている間に接客中だった鶫も湊の方に行っていた。
久しぶりの元クラスメイト達との再会で話に花が咲いたようだが、湊以外のエフィ達四人もあれこれ服を合わせられたり飾り付けられたりしていた。
クラスメイトの店【ヨコハマヤ】を出てからも、女子達の興味が惹かれる店を次々と梯子していく。途中で魔道具の装飾品を扱っている店を見つけて商品を見ていたところ、【状態異常耐性】と【自動サイズ調整】のついた指輪が置いてあるのを見付け、揃いの指輪を六つ買って全員で身に着けることにした。
「ん。これは知ってる。≪迷い人≫由来の文化で、俺の女だぞって主張」
「≪迷い人≫由来だったの?知らなかったわ」
あながち間違いでもない解釈を説明したエフィと、文化の由来に初耳だと驚くアリスレーゼとアマリエ。湊は当然だがミヤビも知っていたらしく、早速悠里に左手を差し出し、指輪を嵌めて欲しそうに指輪を手渡していた。
「あー、うん。全員ね、全員つけるから落ち着いてね」
夕方近くまで街をぶらぶら歩き、夕食の時間には館で祥悟達と合流したのだった。
「祥悟、菊名さん達が服飾のショップを出してたよ。そこでオーダーメイドに天銀合金糸の制服風の衣装とか注文してきた。そっちも興味あったら行ってみると良いぞ」
「菊名さん達が?確かにショップやるとか言ってたな。制服風ならこっちのメンバー達にも同じの着せて並ばせてみたいな……。悠里の男用のも?」
「あぁ、頼んでおいた。店の場所はね……」
ざっくりした地図と店の外観について描いたメモを祥悟に渡す。
「ありがとさん。近い内に行って頼んでくるよ」
祥悟がメモを受け取ると柔らかく笑う。きっと嫁さん達に制服風の衣装を着た姿をイメージしているのだろう。若干ニヤけているのが悠里からみても分かった。
(祥悟ってそんなに制服好きだったっけ?まぁ嫁さん達に異文化交流の体験させられると思えば普通……か?)




