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神隠しにあった俺達はこの異世界で生きていく~異世界では脳筋戦闘職が天職でした~  作者: 篠見 雨
第4章 クラン【彼岸花《リコリス》】と聖なる鎧
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第4章 第2話 エッジブランド家にて

 ぞろぞろと一二人で中央広場まで歩いていき、午後を丸々使って八人の隷属契約魔法の解除、平民の市民権の付与など、お金を支払う手続きをあれこれ済まして夕方には家に帰り着いた。


 リビングに新しいソファを設置して一二人でテーブルを囲めるようにすると、悠里から話をしはじめる。


「皆、奴隷解放と平民化の件、おめでとう。出会い方こそ奴隷館で主と従者の関係からだったけど。クラン【彼岸花リコリス】は良い家族に成れたと思っている。隷属契約は無くなったけど守秘契約の方は残したままでごめん。

 信用していないとかじゃなくて、皆に責任のない形で情報を抜かれる事が無いようにという防衛策なので許してほしい」


 悠里の話に皆が頷いて理解を示す。


「近いうちに魔境伯からの連絡が来て一緒に王都へ行くようなので、いつでも出かけられるように荷物は魔法の鞄(マジック・バッグ)にまとめておいてね。とりあえず今日はこんなところかな?時間も遅くなったし食事にしようか」


彼岸花リコリスの館】は料理番達が食事の用意にキッチンに移動し、食事に呼ばれるまでは思い思いに過ごすのだった。


◆◆◆◆


 クランの皆を奴隷から解放して翌日には魔境伯家からの先触れが来て、更にその翌日に、迎えの馬車がやってきて魔境伯の城に案内された。


 会議室らしき部屋で待機していると、従者に先導された魔境伯と側近が部屋に入ってきた。


「待たせたね、【彼岸花リコリス】の諸君」


「お久しぶりです、魔境伯閣下」


「早速で悪いが馬車で移動を開始しよう。【空間拡張】と【空間安定化】が効いた馬車を割り当てるので気楽にしてくれ」


「ギルド長からは護衛も兼ねると聞いていたのですが?」


「魔境伯軍から二〇〇騎が馬車を護送する。大丈夫だと思うが、もし手に余るような敵が現れたら協力して欲しい」


「かしこまりました。そういうことであれば遠慮せず馬車を使わせていただきますね」


「あぁ、そうしてくれ。もう間もなく出発の準備ができる頃だ。表に出て乗車しておこう」


 魔境伯家の引率で宛がわれた馬車は、魔馬四頭が曳く箱馬車だった。従者の方に扉を開けられ乗り込んでみると、そこは一二人が十分すごせるリビングが広がっていた。


「うわ~、すげぇ!あるとは思ってたけど実物に乗るのはまた格別だな?」


 祥悟がテンション高くリビングに上がり込んでいった。それに続いて他の皆が乗り込んでいく。魔境伯家の侍女が一名、馬車に専属で付き身の回りのお世話をしてくれるらしい。早速ハーブ茶を淹れてくれた。


「リビングの奥になりますが、キッチンとダイニング、大部屋が四つにお手洗いなどがございます。ご案内が必要であればなんなりとお申し付けください」


 部屋まであるらしい。ここまで空間拡張された部屋はギルドの解体所や倉庫以来ではないだろうか。


 以前、王都からシルトヴェルドの街に来た時は馬車を護衛しながら徒歩で二週間かかったが、今回は徒歩組がいないため、一週間かかるかどうかという予定らしい。


 魔境伯家の馬車は本当に快適で、夜は大部屋に置かれた大きなベッドで見張りも行わずにぐっすり寝れる。一部屋は渋る侍女に頭を下げて使ってもらい、女子組で三部屋を使用してもらう。ベッドが大きいので三、四人でも余裕で寝られるらしい。


 男子二名はリビングのソファで横になった。野営に慣れた身としてはソファで寝るのも十分贅沢である。


 初日の野営時に馬車から降りて野営地を回ってみたのだが、騎士団員達に畏まられた。自分は一般平民のため、そのような態度は不要だと言って聞かせたのだが、街壁上からみた【彼岸花リコリス】の活躍を熱く語られて、とてもいたたまれない気持ちになった。


 それ以後は不用意に馬車から出ずに過ごしている。いくら広いからといって馬車内で激しく身体を動かす訳にもいかず、ひたすらプラーナ操作と魔力マナ操作の練度上げに使っている。


 大氾濫スタンピードの最中、悠里は一つの壁を越えたと確信している。以前にもそういうことはあった。食人鬼オーガが斬れるようになった時、森の古城で鉱物ゴーレムを一撃で機能停止させられるようになった時、そして今回、斬撃を延長させられるようになった時。


 馬車内なので斬撃延長の訓練は出来ないが、プラーナ魔力マナを混ぜたモノを意識し、体外で制御する訓練をはじめている。まだまだ拙く速さも量も大きさも足らないが、これが極まれば剣で殴殺し、手刀で斬殺し、拳で圧潰できるような、理不尽な何かに成れる気がする。


 床に結跏趺坐で座りひたすら集中し続けていると、その集中しきった様子を見た祥悟や湊が悪戯を思いついてイシシと笑い、頭の上や掌の上に果実を置いた。悠里は集中しきっていてそれに気付かない。


「すごい集中力だな。今なら殴られても気付かないかも?」


 祥悟がそう笑うと、湊は首を傾げて別の意見だった。


「そう?逆に反射で防衛して手加減なしなんてありそう。無我の境地ってやつ?」


 湊の言葉に祥悟はげっと呻く。


「やったのが果物置くだけでよかったよ。反射で殺されたら堪らん」


◆◆◆◆


 二〇〇騎に護衛された馬車二台は特に襲われることもなく王都に着いた。一団は粛々とエッジブランド魔境伯家の屋敷へと入っていく。二〇〇騎もの騎馬隊を楽々と収容できる敷地はさすが高位貴族である。


「【彼岸花リコリス】の諸君には部屋に案内させる。晩餐の時間に呼びに行かせるので、一緒にどうだ?」


「はい、正装の準備は各自一着分のため、探索者シーカーらしい身なりで大変恐縮なのですが、それでもよろしければ」


「あぁ、身なりなど気にせんよ。宮中の法服貴族どもと違い、我が家は質実剛健だからな。今夜は楽しく食べ、飲み、語らう場にして欲しい」


「お心遣い、感謝します」


「んむ。ではまた後でな」


 その後、一人一部屋ずつゲストルームを割り当てられた。質実剛健と謳っていたが、それでも高位貴族の屋敷である。無駄な調度品はないのだろうが、置かれた全てが高級品だというのは分かった。


 ベッドに横になる程の時間はないだろうし、手持無沙汰にソファで寛ぐ。コンコンコンとノックの音がしたので「開いてます、どうぞ」と声をかけると湊が入ってきた。


「お邪魔します」


「いらっしゃい。ゲストルームに一人は落ち着かなかった?」


「うん、なんかそわそわしちゃって……。そのうち他の子も来ちゃうんじゃないかな?」


「あー……。片倉?ちょっと話があるんだけど、良いか?」


「あ~、えっと、あれのことです?」


 察した湊が耳まで真っ赤にして窺うように悠里を見上げる。


「うん、多分。もうちょっと雰囲気とか機会とかあるだろって思うけど、早く伝えたいと思ったから」


「はい……。煮るなり焼くなり好きにしてください」


『(声にするのは俺も恥ずかしいから、念話でごめん。まずは恋人として付き合ってください)』


『(……ッ!!はい、お願いしますッ!!)』


「よかった……。これで勘違いだったり断られたりしてたら恥ずか死ぬとこだったよ」


 悠里が身体から力を抜いて、ソファに深く身を預けた。


「世の中の皆、こういう恥ずかしい思いしながら乗り越えてきたと思うと、度胸があるな、とかすごい勇気だな、とか思っちゃう」


「言えてる。大地の大幻獣(ベヒモス)と戦った時より踏ん切りがつかなかった」


「あ~、えっと。今の今で話す事でもないとは思うんだけど……」


「なに?念話にしとく?」


「じゃあそれで……」


『(はい、どうぞ)』


『(うん、ありがとう。えーっと、他の子もちゃんと考えて受け入れてあげて欲しいな、と。地球の日本に育った価値観が邪魔するかもだけど、私達はもう家族だからさ)』


『(あ~。他の子達も真面目に言ってたってこと?とりあえず分かった。あとさ、こっちもお願いがあるんだけど良い?)』


『(なに?)』


『(湊って呼ばせて。湊も悠里って呼んで)』


『(ッ、わかったよ、悠里君)』


『(よろしく、湊)』


『(あ、そうだ。念押ししとくけど正妻は私ね?これだけは絶対譲らないよ?)』


『(うん、それで良いよ)』


『(あと浮気したら捥ぐよ)』


『(……さっき他の子もって言ってなかった?)』


『(家族でちゃんと恋人や結婚した相手なら別に浮気じゃないよ?他所の女と隠れてこっそりとかはユルサナイ。ゼッタイ)』


『(……あ、ハイ……)」


◆◆◆◆


 その後、呼びに来た使用人達に連れられて【彼岸花リコリス】の皆が集まってきて、ダイニングルームの扉の前で皆が合流した。


 通されたダイニングルームには魔境伯とその家族らしき正妻や側室、子供達が待っていた。


「改めて、お招き頂き感謝いたします、エッジブランド魔境伯様」


「んむ、楽にしてくれ。今日は【彼岸花リコリス】の皆に会って話をしてみたいと家族が言うものでね?もう王都でも大地の大幻獣(ベヒモス)の件が噂になっているらしい」


「それは光栄なことです。ご家族の皆さま、クラン【彼岸花リコリス】、リーダーの悠里です。それぞれ自己紹介を」


 悠里は横並びになった皆に挨拶するように求めると、湊と祥悟、エフィ、アリスレーゼ、ミヤビと続き、分家組メンバーはユーフェミアからクローディア、レティシア、カルラ、メノア、アマリエと続いた。


 【彼岸花リコリス】側の紹介が終わるとエッジブランド家の紹介がはじまった。正妻のエリザ、側室の二人カトレアとセルテア、嫡男のマサムネ、次男のトモナリ、三男のヤスツナ、長女のハル、次女のナツ、三女のアキの子供六名。どう聞いても転移者か転生者かが先祖に居そうなネーミングばかりだった。嫡男と次男は成人済で執務を手伝いながら仕事を覚えているところで、三男と息女三人は学生の身とのこと。


 子供達は噂の大地の大幻獣(ベヒモス)がどんなだったか、どうやって倒したのか、そういったことを聞くのに夢中であった。奥方三人は湊達の関係や馴れ初めなどで盛り上がっている。


 肩肘はらない晩餐とは聞いていたが、ここまで気楽に過ごせるとは思っていなかった。是非実物の大地の大幻獣(ベヒモス)を見たいともいわれたが、そこは魔境伯が「いずれ王都でお披露目されるのを待つように」と窘めていた。


 楽しい晩餐を過ごさせてもらった後、使用人達の案内で各自ゲストルームへと帰り各部屋に備えられた浴室で身体を清めてから休ませてもらった。


◆◆◆◆


 翌日、エリザ夫人が手配した仕立て屋(テーラー)に全員が正装の注文を数着ずつ行い、午後からはダンス教室がはじまった。


 エッジブランド魔境伯は【彼岸花リコリス】の皆が貴族の社交の場に呼ばれることを懸念あるいは想定して動いており、なるべく恥をかかずに済むようにと事前の教育をしてくれている。


 貴族の世界に飛び込む気は全くないが、世話になっているエッジブランド魔境伯には迷惑をかけたくない。折角のご厚意ということで普段しない経験をさせてもらうことになった。

 エフィ、アリスレーゼ、ミヤビ、レティシア、アマリエ、ユーフェミアは社交界経験者でダンスも上手く、悠里達は普段と逆転して教えてもらう側になっていた。


 王都入りして一週間後、休養日を一日もらえた。気晴らしに街へ出ようとしたら護衛を付けると言い出された。一二人に対し更に護衛では多すぎる。街を見て楽しむどころではない。外出は諦めて、代わりに訓練場で鍛錬する許可をもらった。


 魔境伯軍が訓練しているところに端を借りて身体を動かすつもりだったが、いざ身体を動かしだすと魔境伯軍の皆さまが遠巻きにギャラリーになっていた。


「あの!【彼岸花リコリス】の皆さま、もしよければ我々に一手ご指南いただけませんか!」


 年若い士官が代表して交渉にきた。ただ見られているのも微妙な気がしていたので、快く模擬戦を買って出た。


 さすが専業兵士。実戦慣れした魔境伯軍というところか、探索者シーカーズギルドで飛び入りしてくる模擬戦希望の者達より余程精強であった。

 これはこれで楽しむことができて、良い気晴らしにさせてもらった。


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― 新着の感想 ―
悠里くん腹くくりましたね! 湊ちゃん正妻おめでとう! 式典も楽しみですねぇ!!
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