表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/65

第3章 第12話 物件探しとオークションの結果

 オークション最終日の翌日。


 皆しっかり早起きして早朝鍛錬に励み、朝食後に再び鍛錬。昼食をとってから探索者シーカーギルドに行った。


 順番待ちの列に並び、受付嬢に館の購入について相談をしてみた。ギルドの方から何かしらの援助や紹介がないか?という感じで様子見をする。


「チーム・ハウスという事ですね?探索者シーカー向けの物件は探索者シーカーズギルドにも情報がきてますので、資料を見てみますか?」


「あるんですか?お願いします。応接室か何か部屋を借りても?」


「ご案内しますね」


 六人でテーブルを囲んで座れる部屋に通してもらい、受け取った物件情報を皆で覗き込む。


「東門広場の近く。家を改造しても問題にならない。月額家賃の借家はなし。館の購入で考える。部屋数は六人分と侍女、館の護衛を入れた六人分の部屋が必要。庭が狭かったり無いような物件はなし。出来るだけ東門に近いエリアで絞る」


 探すための前提条件を決めて、条件に合わない物件は弾いていく。


 残った物件の敷地面積や館の間取り図、立地を確認して、有りか無しかを判断し、除外フィルターを潜り抜けた物件の情報を並べて更に皆で検討会をする。


 風呂の条件を満たす物件はないと思っているので、風呂場や排水周り、トイレなどをリフォームを前提に据えて良さそうな物件を絞っていく。


 最終的に三軒に絞れたので、その書類の写しと内見を頼んだ。職員さんに引率され、ギルドの馬車で候補の三軒を回る。


 いずれも東門付近の物件なので立地面では三つとも合格。風呂場の増築やトイレ等、水回りの改造を前提にする。増改築後を前提にイメージで比較検討する。


 裏庭側に増築するのが一軒、前庭側に増築するのが一軒、館の側面に増築するのが一軒。


 前庭側に増築すると訓練場(庭)が狭くなるので優先度を下げる。


 風呂場の増築を館の側面か裏庭になる二軒を候補に、皆で相談。


 東門側の建物は大氾濫スタンピードで街に入り込まれた時のため、石造りの頑丈な家が多い。

 館の側面に風呂場を増改築して水回りの改造を検討する建物の方は、洒落た四階建ての木造建築だった。リフォームはやり易そうだが館の安全面を考えると微妙かもしれない。


 館の裏庭側に増改築する方はいかにも頑丈そうな石造りの四階建ての建築物で、敷地をぐるっと囲む壁もあってまるで砦のよう。


 内見した結果、建物の頑丈さを理由に石造りの物件の方に決めた。見た目は質実剛健、館のふりをした要塞。これもまた浪漫。


 【彼岸花リコリス】は女性陣が多くて全員が美女美少女なので、セキュリティ対策の強化は絶対に必要だと思っている。増改築の際に職人さん達と結託して色々仕掛けを作れないかと夢が膨らむ。


 肝心な館のお値段の方だが、前提として東門方面は地価が安いらしい。大氾濫スタンピードで一番危険なのが東門方面なので、納得の理由だ。


 そんな事情もあり、ギルドの職員さんにお値段を確認してみると、一億五千万ゼニ―という提示価格だった。思ったよりも結構安い。オークションに出すまでも無い素材は大量に売却済みのため、オークションの報酬が入る前の今でもオークションの手が届いてしまう。

 悠里は自分でも金銭感覚がバグってるなと思いつつ話を詰めていく。


 ギルドの職員さんに増改築について相談すると、商業ギルドの方に石造建築物の専門家も居るので、そちらを雇ってリフォームするのが良いとアドバイスを貰えた。購入が決まれば職員さんから商業ギルドの方に連絡して手配してくれるらしい。実にデキる職員さんだ。


 皆で顔を寄せ合って最終確認をした結果、この要塞みたいな館の購入で合意がとれた。


「物件決めました。こっちの石造りの方にします」


「お買い上げですね。承知いたしました。よろしければギルドに戻って契約しましょう。増改築のリフォームについては商業ギルドを通して職人を雇う形になりますので、別料金です。それはご了承くださいね?」


「わかりました」


「今日のうちに先方に確認を入れておきますので、早ければ明日の午前中にでも経過が報告できるかと」


 一旦探索者(シーカーズ)ギルドに戻り、応接室で契約作業。現金一括払いであの物件を購入した。増改築の職人に関しては、商業ギルドの方に手配してもらえる事になった。


 館のリフォームが済むまでは宿屋暮らしのままだが、今から増改築のリフォームが楽しみである。



 次に、使用人達をどうするか考える。家を留守にすることも多いので、住み込みで働いてくれて館の管理を信用できる人材に任せたい。とは言えそんな人材のアテはない。

 悩んでいると、アリスレーゼから「奴隷で揃えれば?」と言われて、それを採用することにした。


 ギルドに来たついでに、訓練場でアリスレーゼとミヤビを悠里が指導する。

 二人が魔力マナプラーナの操作、制御に苦戦している間に、悠里は湊と祥悟と共にエフィから魔法を習う。そしてエフィはエフィで木刀を素振りしながら魔力マナプラーナの練度をあげる鍛錬をしている。


 ここしばらくギルドや街中でたむろしていた他所の探索者シーカー達が、護衛対象の帰路の護衛依頼を受けたり出発の準備に物資の調達に出たりして、人が減った気がする。絡んでくる馬鹿もいない。久しぶりにゆっくりできていた。


 夕方になって外食して宿に戻ると、受付のスタッフさんから声を掛けられた。


「【彼岸花リコリス】の皆様、おかえりなさいませ。オークションハウスの方からのお手紙をお預かりしております。どうぞお受け取りください」


「はい、受領いたしました。ありがとうございます」


 悠里はその場で封を開いて手紙に目を通す。


 挨拶的な定型文を除いて略せば「お支払い準備が出来たので取りに来てください」ということだった。


「オークションハウスの支払い準備が終わったので取りに来てね。という内容だった。明日にでも行こうか」


「「「「「わかった(分かりました)」」」」」


「あとは、今日頼んだ家の増改築の職人さんの手配待ちだね」


 各自部屋に戻ると順番に風呂に入ってすっきりする。清潔維持だけなら【清浄】や【洗浄】で十分なのだが、街にいる間くらいは風呂に浸かってリラックスしたい。


 風呂が済めば後は寝るまで各自の自由時間である。自由と言いつつ各自何かしらの鍛錬に時間を浸かってしまうので、結局毎日起きている時間の殆どを鍛錬に当ててしまう。それは悠里達とは別の部屋のアリスレーゼとミヤビも同様で、悠里達の目がないところでも魔力マナプラーナの操作、制御を鍛えている。


 皆が思い思いに過ごして眠くなったら寝室に眠りにいくのだった。



 翌朝の早朝鍛錬から昼食までをいつも通りに過ごし、午後からオークションハウスに行ってみる。

 オークションの営業時間が夜なので人がいるか不安だったが、開催準備や清掃などでスタッフ達は働いていた。今日は舞台に立つ訳でもないので、革鎧をきた探索者シーカースタイルである。衣装が違うので気付いてもらえるか不安だったが、女性陣の顔をみて【彼岸花リコリス】だと気付いたスタッフが、応接室にまで案内してくれた。


 応接室で待機していると女性スタッフがお茶を用意してくれたので、おいしくいただく。香りが良く落ち着くタイプのハーブティーだと思われる。


 皆でお茶を楽しんでいるとオークションハウスのオーナーや盛り上げ上手のオークショニアが台車を連れてやってきた。


「お疲れ様です。先日の三日間は対応ありがとうございました」


 悠里が代表して挨拶し、それにオーナーとオークショニアが笑顔で応える。


「いえいえ、貴重な魔物素材に歴史的価値すらある財宝の数々でしたからね。こちらも張り切ってやらせてもらいました」


 オークション側の代表二名が朗らかな笑顔なので、支払いと引き渡しの作業は無事に目途がたったのだと想像できた。


「最後の宝物二点なんて、盛り上がりも凄かったですよね。落札額にもびっくりしました」


 済んだ仕事の思い出話的に会話を開始し、キリの良いところで本題に入る。


「さて、昨夜に支払い準備が出来たとの連絡を受けて今日お伺いさせていただいた訳ですが、そちらの台車が?」


「えぇ、こちらが総売上額の九割、【彼岸花リコリス】の皆さんの取り分となります。一割はこちらの売上として頂いておりますので、運んできた額は純粋に皆さまの利益となります。まぁ、税金が怖くなるかもしれませんがね?さて、こちらが内訳となる目録です。先にご確認ください」


 オーナーから目録を預かって目を通す。品目が多すぎるので目が滑るのだが、総計だけはちゃんと確認した。確認してから仲間の顔をみて、また目録に目を落とし確認した。


「これはオークションハウス側の利益を抜いて、【彼岸花リコリス】の支払い分の記録ということで間違いないですよね?」


「えぇ、間違いございません」


 オーナーはニコニコ顔で、取り乱している悠里を楽しそうにみている。


「悠里?」


 様子のオカシイ相棒に祥悟が声を掛ける。悠里は祥悟に向き直ると目録を手渡した。


「……一八〇億ゼニー?あれ?桁見間違ったか?」


 自分の目を疑ってごしごしと目を擦り、もう一度目録をみて、間違っていないことを確認して唖然とした。祥悟の読み上げた金額を聞いて湊、エフィ、アリスレーゼとミヤビまでぽかんと口が空いている。


「間違いございませんよ?本当は総売上額が約二〇〇億ゼニ―に少し足りないくらいの総額でした。お届けする金額を綺麗に整えるのに、端数を切り上げで丸めさせてもらいました。


 そこから一割がオークションハウスで頂く手数料のため、約二〇億ゼニ―が私どもの売上です。おかげさまで、スタッフ達に良いボーナスが出せそうです」


「さて、【彼岸花リコリス】の皆さまへのお支払いについてですが、いかがいたしましょう?ミスリル貨などの使いにくい貨幣より、使い易い大金貨までの貨幣で細かくしてお渡しした方が良いかと思いそのように台車に積んできたのですが……?」


「あ、はい。細かい方が助かります。配慮ありがとうございます」


 とりあえず台車にのった貨幣をざっくり確認してみる。一枚五〇〇万ゼニーの大金貨が一〇〇枚のタワーを一八本。一枚一〇〇万ゼニーの中金貨が一〇〇枚のタワーを九〇本。


「きっちり丁度のお支払いですね。受領いたします。ありがとうございました」


「中金貨を崩すなら商業ギルドに相談すれば両替に対応してもらえると思いますよ」


 悠里は二人に頭を下げると、台車に近づいて手を翳し、ごそっと【異空間収納】に貨幣を回収した。

 オーナーとオークショニアはあれだけの量の素材を持ち帰った事実から【異空間収納】持ちだと確信していたため、特に驚きはないようだ。


 目録と目録の写しに悠里がサインをして受領証とし、取り引きが完了となった。


「またお宝を頼みますぞ?もちろん奥地の魔物素材でも大歓迎です」


「はい、この街に居る限りオークションではこちらを利用させてもらいますので、またよろしくお願いします。あと、仲間達との売上の分配とかの話をしたいので、もう少しこの部屋借りてて良いですか?」


「えぇ、勿論です。終わりましたらスタッフにお声がけくださいね?」



 オーナーとオークショニアが退室すると、悠里はソファに背を預けて座り直した。


「あー。驚き過ぎて頭が回らない。でも分配のことやっとかなきゃだね」


 悠里は【異空間収納】から紙とペンを取り出して計算しはじめた。


「うちのチームは、共用活動資金に八割プールして、残り二割を仲間で分け合うルール。


 売上一八〇億ゼニーの内、八割が一四四億ゼニー。これが共有活動資金に入る。

 チームの衣食住と武器防具は、基本的にこの共有活動資金から出している。

 残りの三六億が個人への分配になる。趣味の物とか嗜好品、買い食いなんかは個人資産から買うように。


 それで、今回は俺と祥悟と片倉とエフィの四人で対応した案件なので、個人資産は四人で割って九億ゼニーずつが四人の配当だ。


 アリスレーゼとミヤビは今回は配当を出せないけど、その分衣食住はしっかり保証するから勘弁してね」


 計算した紙をひらひらさせながら悠里が皆に伝え、各自にお金を手渡した。チームの共用資産に関しては、悠里が専用の革袋に入れて【異空間収納】に収めている。



「いきなり世界が変わったな。宝くじでも当たったみたいじゃん?」


「そうね。必要な物は殆どチームの共有資産から出してもらってるし、個人資産をそんなに貰っても使い道に困るわ」


「ん。今までの人生で一番お金持ちになった」


 個人配当を受け取る三人は、その大きすぎる額の使い道が思いつかず黙考する。


「主殿?その言い方だと私やミヤビが参加した案件だと、私とミヤビにも配当があるように聞こえるのだが?」


「え?あるぞ?奴隷が嫌になったら自分を買い戻して自由になったって良い。そして自由になったからと言って、俺達の仲間から抜ける訳じゃない。一緒に居たかったら居てくれていい。チーム外の誰かと結婚したいとか、何か事情や都合があって去るなら、せめて送別会くらいはやらせて欲しい」


「今、要らないって言われるのかと思って一瞬不安になったぞ?」


「奴隷のままで何も困ることがないのが逆に困りもものですけど」


 アリスレーゼとミヤビは待遇に不満はないようだ。


◆◆◆◆


 オークションハウスを後にして、次は探索者シーカーズギルドに向かう。

 

 探索者シーカーズギルドに着くと何時も通りに順番待ちし、カウンターの順番が回ってきてから受付嬢に声をかけた。


「こんにちは。昨日ギルドの紹介で家を購入したんですけど、その増改築の業者手配について担当の方いますか?」


「こんにちは、【彼岸花リコリス】の皆さま。担当を呼んでまいりますので少々お待ちください」


 受付嬢が事務コーナーに引っ込み、昨日案内してくれた職員さんを呼んできてくれた。


「【彼岸花リコリス】の皆さま、いらっしゃいませ。増改築の業者の件ですよね?」


「はい、それの件です。もう見つかりましたか?」


「えぇ、午前中に連絡が取れてます。これから業者と現地で相談しますか?」


「行けるなら是非」


「かしこまりました。職人の責任者を呼んできますので、先に現地で待っていてもらえますか?」


「了解です。お願いします」


 物件は探索者シーカーズギルドのすぐ近くのため、短距離すぎて馬車を使う方が面倒くさい。 ギルドの職員さんからは昨日の時点で鍵を受け取っているので、門を開けて庭で待つ。


「お待たせしました。それでは、現地を見ながら相談しましょうか」

 連れてきた業者さんと顔合わせをすると、職員さんはさっさとギルドに帰って行った。悠里は業者さんを連れて室内や室外を回って水回りの増改築の希望を説明していく。


 現在の間取りだと浴場を作るスペースがないことを話し、男女別に浴場が欲しこと、浴室の広さや湯舟のサイズ、【浄水】機能と【湯沸かし】機能の魔道具の設置、【温水】と【冷水】を切り替えて出せる水道の魔道具、水道魔道具の切り替えでカランからシャワーヘッドに水の出る場所が変わる仕組み等、生活を快適に変えるために欲張りな注文を伝えていく。


 その浴場設備の増設は裏庭を想定していて、本館と直結か通路で繋げて行き来できるようにしたいこと、浴場の排水関連と共にトイレの改良(下水や汚物の臭いの上がってこない配管構造など)でトイレ以上の改善案を添えて相談する。それとトイレは各階に設置したいので、一階~四階のどこにトイレを増設するか、スペース確保が難しいなら浴場の建物の二階から四階にそれぞれトイレを乗せて立てるか、など。結構細かく相談した。


 業者さんは要件を満たせるように悠里の話を逐一漏らさずメモしてくれている。メモから実現できるかは腕次第だろうが、要件を満たせるように努力している姿は好感がもてた。


 新規の依頼の後に本館内の設備や部屋を点検して回り、補修が必要そうな場所の洗い出しと対策案を相談して補修についてもお任せした。本館設備も補修が入る予定になったので、家具の運び込みは本館の工事完了後ということで打ち合わせも済んだ。


 色々と話し込んでしまったが、悠里達がどうして欲しいのかのイメージは、ちゃんと共有できたとおもう。高価な魔道具をいくつも使う予定なので、資材費込みの工事費用を、一括の先払いで支払っておいた。


 業者さんに対応可能な工事時期とその期間を確認すると、別件を止めてでもこちらを先に工事すると言っていた。そんな圧力を掛けたつもりはないのだが、早く対応してくれる分にはありがたいので感謝する。


 因みに土魔法使いや石工は問題なく間に合わせられるが、新しい工事方法や構造案の方が初作業となるので、少し時間をかけて二週間以内の完成を目指すらしい。完成が楽しみである。


 そんな感じで悠里があちこちで業者さんと話し込んでる間、チームメンバー達は暇だったのか庭で鍛錬をしていた。業者さんとの打ち合わせが終わったところで皆に声を掛けて外食に出かけ、食事を済ませてから宿へ帰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ