第3章 第7話 【彼岸花《リコリス》】とオークション
チーム名を【彼岸花】で登録完了すると、悠里も祥悟も気分が晴れたようで鍛錬に身が入りはじめた。日本刀の扱いは湊が皆に指導している。武術方面ではエフィも一緒に湊の生徒なのだ。
早朝訓練と午前中の訓練は身体を使う系の鍛錬を行い、午後からは魔力関連と魔法の鍛錬を行う。
オークションが終わるまでは探索にも出かける予定がないため、このルーティンで生活を続けていった。
悠里達のチーム名が【彼岸花】で決まったことは探索者ギルドから一気に広まり、「財宝を発掘した者達」とか「希少な魔物素材を持ち帰った者達」みたいな呼び方から、【彼岸花】と呼ばれ方が変わっていった。悠里達は改めてチーム名って必要なんだな、と思った。
今回のオークションは大量に出品物があるため、三日に分けて連日行われることになっている。
初日と二日目は魔物素材のオークションが行われ、三日目に発掘された財宝の番となる。
国内の色々なところから貴族や豪商が集まり、発表されている目録から何を狙いたいかなどの会話があちこちで行われていた。オークション参加者はそうやって盛り上がっているのだが、その護衛でやってきた者達は滞在期間中の自由行動の時間を楽しんでいる。
別の街が拠点で今回は護衛依頼でシルトヴェルドにやってきたという、“地元では強いんだぜ”と自信を持っている者たちが、ギルドの訓練場に顔をだして力試しをしたがる。
そして訓練中にやってきた余所者に絡まれて不愉快にならない訳がなく、頻繁に喧嘩のような模擬戦が発生している。
この日は以前に木工屋で依頼していた木刀の受け取りに木工屋に顔を出し、【彼岸花】の全員が一振ずつ手にして店の裏で試しに素振りをさせてもらった。重量やバランス、形状など日本刀の訓練用木刀としてかなり好感触だった。更に注文した四振の他に追加で四振も作ってくれていたので、そちらも併せて購入させてもらった。悠里は感謝を込めて森の奥で拾った倒木をいくつか木工屋に卸した。
「木材の価値は私達にはあまり分からないので、使えそうならお納めください」
と伝えると、貰い過ぎだと慌てられたのだが、無事に受けとってもらえた。
気分良くギルドの訓練場に入って新しい木刀で稽古をしようとしていると、いかにも“ならず者”な者たちに絡まれた。
「よう、地元のヒヨッコか?良い女二人も連れてるじゃんか。俺達に“貸して”くれよ」
「「「ギャハハハ!」」」
最近こういう馬鹿は居なくなったと思っていたのだが、オークション直前で新しく入ってきた輩なのだろう。
周囲では小声で「うわ~、あいつら【彼岸花】に絡んじゃったよ。死ぬかな?」みたいにヒソヒソされている。憐れまれている本人達は自分達の威圧に周りが怖気づいていると思い込んでいるのがまた滑稽だった。
馬鹿どもが湊やエフィに手を伸ばしてきたのでそれぞれ悠里と祥悟が腕を掴み、そのまま握り潰した。
「「?!ギャアアッ俺の腕がッ!!」」
「てめら不意打ちかよ!!クソが!!」
そして始まる阿鼻叫喚。
「うちのお姫さま達は安かねぇぞ?身の程弁えろよ」
悠里が輩どもに啖呵を切ると、舐められたと思った馬鹿どもが真剣を抜いて刃を向けてきた。
「真剣を抜いたな?その意味わかっているか?」
悠里と祥悟が馬鹿者達に向けて威圧を放つと明らかに怖気付きだした。だが、抜いた剣を収めるのもプライドが許さないのか、錯乱して真剣で斬り掛かってきた。
悠里と祥悟は氣と魔力を制御して手に持っていた木刀にまで力を通し、相手の真剣を全て真っ向から薙ぎ払い、折っていった。
一瞬で真剣が折られ呆然とする馬鹿達全員の腕と足を木刀で砕いて回る。
両手両足を潰され訓練場に倒れ伏し、失禁しながら涙を流して「ご、ごべんなざいぃぃ、ご、ごろさないでぇぇ」と命乞いをする馬鹿どもを訓練場の端まで蹴り転がして放置した。
一連の出来事を見ていたシルトヴェルドの探索者達はやっぱりと笑っていて、【彼岸花】を初見の余所者達は、喧嘩を売ってはいけない相手が混ざっていることに恐怖した。
この一見のおかげで他所から来た腕自慢達も大人しくなり、オークションの当日まで訓練場での喧嘩は殆どなくなったのである。
◆◆◆◆
オークション開催初日。主催者側から一言挨拶を頼まれている【彼岸花】メンバー達は、正装代わりとしてお揃いの軽金属鎧姿で腰に打刀と脇差を差した状態で会場入りした。素人がみても天銀合金製かそれ以上の逸品だと理解できる存在感が、見る者を圧倒する。
『(やっぱこれ目立つね)』
悠里が念話でぼやく。
『(だな。でもこれ着ておけば舐められないでしょ。必要だよ)』
祥悟が同意しつつ必要性を説く。
『(四人ともお揃いの衣装だと何処かの騎士団みたいで、私は結構好きよ?)』
湊は楽しんでいるらしい。
『(ん。着慣れないから浮いてないかちょっと心配)』
『(全然大丈夫だよ?【自動サイズ調整】のおかげで身体にぴったりだし、すごく馴染んで見えてる)』
悠里がエフィの不安は不要だとフォローする。
スタッフに案内されて舞台の袖に控える4人。会場のざわめきがよく聞こえる。かなり客が入っている様だ。
舞台上に照明が点き、オークショニアが舞台上のハンマー台に立つとハンマーを二回打ち付け、【拡声】の魔道具で演説をはじめる。
オークションの参加者へのお礼からはじまり、今日から三日間の出品予定の流れの説明と続き、特別ゲストの紹介として舞台の袖に立っていた四人が呼ばれた。
四人は悠里を先頭に舞台上に進んだ。舞台上で会場をぐるっと眺めると本当に満員御礼という様子で圧倒される。オークショニアが【拡声】の魔道具を悠里に渡すと、悠里は一歩前に出て挨拶を始める。
「皆さん初めまして。あるいはお久しぶりです。私達はシルトヴェルドの探索者ギルド所属の探索者チーム、【彼岸花】と申します。私が代表の悠里です。
この度はご縁に恵まれまして、沢山の魔物素材や未発見の遺跡で手に入れた財宝などを出品させていただきました。
今回は三日間連日の開催であるのに加え、財宝は最終日に設定されています。皆さまが貴重な素材や財宝をどのように競り合い、オークションを愉しまれるのか。私達4人は観客として拝見したいと思っています。
どうか最終日までお愉しみいただけますよう、心よりお祈り申し上げます」
悠里は挨拶を終えると、オークショニアに【拡声】魔道具を返して他三人と共に舞台袖に掃けていった。
「ふぅ、あんな感じで大丈夫でしたかね?」
舞台袖に引っ込んだ悠里がスタッフに聞くと、スタッフの方はにっこりと笑顔で頷いてくれた。スタッフに案内されて舞台袖からVIP席に移動し、用意された席に着席した。
舞台上ではオークショニアが出品される素材の説明や希少性などを説明し、参加者たちの購買意欲を湧かせようと仕事をしているのが見える。
先ず一点目の商品が舞台上に運び込まれてきた。クラレントの森の割と深い場所で狩った甲殻竜の素材達である。素材全セットではなく、それぞれ別商品として落札してもらうらしく、舞台上で演出された素材をオークショニアが熱く語る。
「最初にいきなり深いところの素材を出すとは思わなかったわ」
湊が悠里に話し掛け、悠里もそれに頷いて答えた。
「てっきり浅いところから順に出していくのかと思っていたよ。最初の一点目からお客様に強いインパクトを与えるのが狙いなのかな?」
「ん。最初に価値観を狂わせて二点目以降の価格感を麻痺させる手法。昔みたことがある」
悠里はエフィの説明に納得し、なるほどなーとおもった。オークションのハンドサインや札の上げ方など、細かいルールを知らないので「なんだか分からないけど競ってる」くらいの感覚でオークションを眺める。甲殻竜の素材が全て落札されると、次に浅いところで出る魔物の毛皮の絨毯のような物が広げられた。あの毛皮は他の成体と比べて明らかにサイズ感がデカいやつだったので、
「普通じゃないサイズの毛皮、珍しいでしょ!」という感じなのか二点目も競り合いがはじまった。
「エフィの読み通りの展開になってたね。これは途中途中で高い素材を挟んで客を飽きさせないように展開しているのかな?」
「たぶんそう」
エフィの返事を聞いて、オークショニア視点の客の愉しませ方にも色々と工夫があるんだなと思った。
隣の祥悟に振り返ってどんな顔で見てるのかと確認してみたら、祥悟は既に寝ていた。オークション自体にあまり興味がないらしい。
まぁ、悠里自身も自分達の出品物が対象なので用意された席に座っているだけだ。本音としては、全部終わってから落札結果の目録と売上を貰えればそれで良いと思っている。
そのため、オークショニアが熱く語り客を楽しませようとアレコレ工夫を凝らしているのをみていても暇で飽きてきた。
だからといってここで素振りや魔法の練習をしはじめる訳にもいかず、目立たないように氣と魔力の操作、制御の訓練をはじめた。
寝ている祥悟は兎も角、湊とエフィも同じように暇だったようで、悠里の真似をしてコソ錬をはじめた。
それでも本当は魔法や剣の練習をしたいという思いがあるので、挨拶も終わったし帰っても良いかな?と考えながらVIP席を見回してみると、当然ながら知らない顔ばかりであった。しかし皆が仕立ての良い衣服を着ている様子から、貴族の重要人物達なんだろうな、と思う。
しかしながら貴族の人脈を作るつもりもなかったので、VIP室で待機しているスタッフの傍に行って話しかけた。
「スタッフさん、すみません。【彼岸花】なんですけど、帰っちゃダメですか?」
スタッフさんは聞かれ慣れているのか微笑んで答えてくれた。
「最初の舞台挨拶も終わりましたので、帰られても大丈夫です。出口までご案内しましょうか?」
「あぁ、そうなんですね。それは助かります。他メンバー達も呼んできますね」
悠里は席に移動すると寝ている祥悟を起こし、湊とエフィにも帰って良いという話を伝えた。すると当然のように全員が帰りたがり、スタッフさんに案内してもらってオークション会場を後にした。
このオークションハウスは街の中央区のあたりにある。宿まで戻るのに馬車なども用意していないため、四人は徒歩で街をあるいて宿に帰った。
各自自室で鎧を脱いで楽な恰好になると、リビングに集まってオークションの件の雑談をする。結局、“商品を落とす”ための参加じゃないと、面白くも何ともないという結論に落ち着いた。
帰り際にスタッフさんに確認したのだが、二日目と三日目も来る必要はないとの事だったので、あとはオークションハウスに任せて普段通り生活させてもらうことにした。




