第3章 第6話 ≪上級≫クラス入りとチーム名決め
近頃シルトヴェルドの街で出される商品が凄いという噂は王都まで届いていた。高品質の魔物素材に素晴らしい財宝が出品さえる予定ということで、瞬く間に王都の貴族層にも話が広がった。王都からシルトヴェルドの街へオークションに参加する貴族達が、続々とシルトヴェルドの街にやって来るのだった。
そんな状態になったシルトヴェルドの街でもお祭りの雰囲気に街がそわそわしている気配が出てきた。これからの宿屋事情が心配になった悠里達は、オークションが終わって貴族達が帰るまでに部屋を断固維持するべく、一ヶ月の期間延長を職員に相談してみた。
その際、職員さんが四人部屋で各部屋には施錠ができる寝室が四部屋とリビングがあり、台所やダイニング、浴槽まで完備しているという超VIPルームを提案された。
「(一泊一〇〇万ゼニーとか要求されそう……)」
相当お高い部屋だろうと思って消極的に価格を聞いてみたところ、浴槽付きの個室四部屋の合計金額より多少高い程度の激安価格で提案された。
話を聞いてみると、最近探索者ギルドや商業ギルドの関係者達からの噂で、悠里達が超VIP扱いだという事に気付いたそうだ。更にシルトヴェルドで開催される大規模なオークションにも出品者として大きく関わっている事も分かり、妙な貴族にVIP室を貸すくらいなら悠里達に是非使って欲しいという、お店側の事情も伝えられた。
そういうことであればと、お言葉に甘えさせて頂くことにした。この宿に泊まるときは毎日のように大寸胴鍋やら容器やらを厨房に持ち込み、料理を大量購入させてもらっている。厨房スタッフの皆さんとすっかり顔馴染みとなっていた。最初こそ【異空間収納】の性能は目を剝かれたが、敢えて触れず語らずで情報を守ってくれている。
良い宿には良いスタッフがいて、良いサービスも受けられるのだ。
◆◆◆◆
翌日、ギルドの解体場リーダーに会いに行って話がどうなったかを聞いてみたところ、鍛冶職人達は魔法鉱石の合金の塊という視点で破損状態に関係なく買い取ってくれるそうだ。
上手く倒せて状態の良いゴーレム達は、悠里達が持ち込んだ財宝類と共にオークションで出品されることが決まったという。
「ということは、魔物の解体のお願いはこれで一段落ですね。長期間連日対応して頂き、ありがとうございました。また大遠征した時にはもっと良い素材を探してきますので、その時はまたお願いします」
悠里の挨拶に「え、また?」みたいな顔を返されたが、それには気付かないフリをした。
◆◆◆◆
獲ってきた魔物素材も片付き、オークションまであと一ヶ月程の時間が出来た。その空いた時間は森に潜るには短いため、そのまま訓練の時間に充てることにした。
魔力操作と魔力制御、魔法の指導はエフィ師匠から勉強している。
身体を鈍らせない様に早朝訓練の他にも日本刀の扱い方を湊から習っている。武器を日本刀をメインに使うことにしたので、日本刀型の木刀が欲しくなった。訓練場では普通に置かれている剣は直剣ばかりで違和感があるのだ。つい雪月花の使い方に戻るというか。模擬戦で木刀を使いたいので、自前の木刀をオーダーメイドで作ってもらう事にした。
木工屋で刀と似た形の木刀の作成依頼をした。その際、どの木材を使うかと色々聞かれたが詳しくないため、「とにかく頑丈で重い物を四振」とリクエストにした。
また、森で拾ってきた大量の倒木が【異空間収納】にあるのを思い出し、木工屋として使える素材かを聞いてみた。訓練用の木剣や馬車の車軸など、耐久性が必要な木材製品では理想的な強度の良い樹だと店主が太鼓判を押してくれた。お礼代わりに倒木を一本プレゼントすることにし、店主に選ばせて丸ごと一本を提供した。
その樹は断面も黒みがかっていて非常に硬くて重く、細工が難しいが、扱えて嬉しいと言ってもらえた。
木刀の出来上がり次第では、持ってきた倒木の卸先にしても良いかもしれない。
オークションまでの間、森では出来なかったランニングも再開している。変わったのは、エフィ師匠による訓練内容の強度アップである。氣と魔力を同時に操作しながら全力疾走させられる。
当然、素振りしながらも氣と魔力の操作、模擬戦しながらも氣と魔力の操作、弓矢や大身槍、格闘術の訓練中にも氣と魔力操作……。何をしていても常に自然と行えるようにという、エフィ師匠からの真剣な指導である。
正直厳しいと思うが、自分達が生き残るためには少しでも強くならなきゃいけない。頑張れば頑張っただけ成長している自分を想像すれば、サボれる訳がない。
次の大遠征に向けての準備期間として訓練漬けの日々である。午前中の鍛錬が終わると食事を挟み、午後からはエフィ師匠から色々な魔法の指導を受けている。エフィ師匠から徹底的に鍛え得られた魔力操作と魔力制御の成果が、新しい魔法の習得に活きてきた。今では【矢避け】や魔法や物理攻撃から身を守る【障壁魔法】、【泥濘】のような支援系魔法も教わっている。攻撃系魔法を教えてもらえるのもそう遠くないだろうと思う。
訓練場の主のように通い詰めていると、貴族の護衛でこの街にやってきたのか見慣れない探索者達を見かけるようになってきた。そういう奴等が時折絡んでくるのだ。やれ良い女だなちょっと貸せよだの金を寄越せだの武器を差し出せだの……。面倒極まりないが、この街で無体を働く者には先んじて洗礼をしておかねばなるまい。
探索者やチンピラ共をボコして追い払う。たまにチンピラかと思ってボコしたらお貴族様だったりということもあるが、仕返しする気も起きなくなるまでボコボコのボコにしてあげる。徹底的に痛めつけ、その後治癒魔法で完全回復させてやり、再びボコボコのボコにしては完全回復させてやる。これを繰り返していると心が折れて従順になるのだ。言葉で言って聞かせて分からないのなら身体に教え込む。そう、これは教育なのだ。
ちなみにイヤーカフスの魔道具で普人種の耳にして顔出しで歩いているエフィだが、耳長族狙いの良からぬ者は寄って来なくなったが、単純に美少女過ぎるのでよく見られている。しかし大抵は四人で過ごしているため、祥悟と悠里で女子二人をボディーガードをしている。
オークションまであと半月になった頃、ギルド長のシャーレンリットに呼び出された。四人で執務室に伺う。
「よくきた。まぁソファに座ってくれ」
シャーレンリットに着席を勧められたので四人で座って待っていると、向かいにシャーレンリットが座った。
「ユーリ君達三人は今≪中級≫クラスで、エフィ君だけ≪上級≫クラスだったな?」
「?はい、そうですが?」
「悪いけど三人とも今日から≪上級≫クラスに昇進ね」
「は?」
突然の事に疑問が浮かぶ。
「今疑問に思ったよね?うん、君達ならそういう反応だろうと思ってたさ。
でもね。冷静によく考えてみて欲しい。二ヶ月に渡ってクラレントの森でサバイバルして生還した事もそうだが、模擬戦では≪上級≫クラスをボコボコにしていて、狩ってきた獲物の数も質もとんでもない成果を叩き出し、解体場が連日お祭り騒ぎのようになった元凶で、未発見の森の古城なる物も発見し、財宝を持ち帰ったときている。
これだけの功績があって≪中級≫はないだろう、と皆が思うんだよね。私も指摘されてオカシイナ?と思った。なので今日から君達は≪上級≫クラスに昇進です。受付で探索者プレートの更新をしてね」
シャーレンリットの名前入りで悠里、祥悟、湊の三名を≪上級≫クラスに認定する と書かれた指示書を渡された。
「評価された結果ということであれば、ありがたく≪上級≫クラスの件、拝命させてもらいます」
「あぁ、よろしく。それとね、チーム名いい加減に決めておいた方が良いよ?いつまでも無名チームのままじゃオークションの時とか勝手に不本意な二つ名を付けられて呼ばれるようになっちゃうからね?」
「チーム名……そうですね、上級になったことだし仲間と考えてみます」
本舎の一階に降りてカウンターに並び、順番が来たところでシャーレンリットから渡された指示書と三人のギルドプレートを渡す。受付嬢は指示書を読んで頷くと、笑顔で返事をしてくれた。
「かしこまりました。それではギルドプレートをお預かりしますね」
トレーに乗せられた三人分のギルドプレートを持って事務所に行き、≪上級≫クラスの証、金製プレートを三つ、トレーに乗せた状態で戻ってきた。三人はそれぞれ自分のプレートを手に取って本人認証の機能を確かめ、首にかけた。
「ん。三人ともおめでとう。やっぱりすぐ≪上級≫になったね」
エフィからの祝辞に笑顔で返す。
「「「ありがとう、エフィ(師匠)」」」
「それはさておき、チーム名は考えないとだね?」
「そうだね。結構緊急の課題だね……」
悠里と祥悟はその日からチーム名を考えるのが頭から離れず、素振り中もおざなりになっていて湊とエフィに怒られた。
「そんなに難しい名前を考えてるの?」
湊に呆れられ、悠里と祥悟が頭を下げる。
「ごめんなさい……。でも自分達で名乗るのに恥ずかしくない名前って真面目に考えると、全然と思いつかなくて……」
「そうそう、期限のある重要案件だからさ、ちょっと必死になってる。今までで最強の敵かも」
悠里と祥悟が本気で困った顔をしている。
湊が蟀谷を抑えつつ溜息をついて、暫し考える。
「彼岸花、桜花、黒金、篝火、灯火、行雲流水、羅針盤。パッと思いついたのだけだけど、こういうのでどう?」
湊のチーム名候補の案を聞き、悠里と祥悟の困り顔が晴れた。
「すごいね片倉。恥ずかしくないし自分で名乗るのも抵抗ない」
「だな、片倉に案を出してもらえるなら直ぐ決められそうだ」
「ん。でも黒金は避けた方が良いかも」
エフィがその名前にだけ駄目出しをした。
「え?なんで?」
悠里がエフィに意図を聞き返すと、エフィが答える。
「ん?黒金って多分、私達の髪の色だと思う。仲間が増えた時に黒髪でも金髪でもなかったら、仲間外れみたいで可哀そう」
「なるほど、そういうことか」
エフィの指摘に納得がいって湊に目をやると、湊は悠里に頷き返した。当たっていたらしい。
「俺は【彼岸花】か【桜花】が良いかな?篝火とか灯火とかだと、希望の光みたいなイメージでなんか恥ずかしい」
「俺もその二つならどちらでも良いよ」
祥悟が最初の二案を希望し、悠里もそれに同意した。
「ん……その二つなら【彼岸花】を勧める。【桜花】という≪特級≫チームがあるから」
エフィの情報を聞いて、選択肢から【桜花】が消えた。有名チームと同じ名前を付けたら恥ずかしい。
「それじゃ【彼岸花】で良い?」
湊が三人を見渡しながら確認すると、「異議なし」と満場一致で採択された。
「決まったなら今から受付に申請に行きましょう?さっさと片付けてちゃんと鍛錬に集中してね」
湊の指示により四人は訓練場から本舎に移動して、【彼岸花】というチーム名を登録したのだった。




