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第3章 第3話 新しい仲間とクラレントの森デビュー

 翌朝、早朝訓練を行ってから朝食は宿で食べ、探索者シーカーズギルドに向かう。義務ではないが、クラレントの森に入ることをギルドに伝えてから森に入るのを推奨されている。森に行ったきり帰って来ないチームもいる訳で、ギルド側としても誰が森に行っているかを把握しておきたいという理由である。未だにチーム名も決めていないため、メンバー三人分の名前を記載しておく。


「ねぇ、貴方達。これからクラレントの森に入るの?三人で?」


 手続き中、後ろから声を掛けられて振り向くと、フードを目深に被った少女が立っていた。


「はい。そのつもりで出発の手続きをしていたところですよ」


 悠里がそう答えるとフードの少女は一歩近付き、何かを決意するように深呼吸をして胸の前で 右拳を握りしめて言った。


「お願い。私も一緒に連れて行って」


 突然の同行希望にきょとんとする。


「えーと?失礼ですが貴方も探索者シーカーですか?役割的にどのようなことが出来るのでしょうか?」

 

 突然の展開に呆気にとられつつ、悠里が冷静を装って質問で返した。


「えぇ、一応≪上級≫ランクの探索者シーカーで、治癒魔法と攻撃系や特殊な魔法も使える。弓と剣もそれなりに使えるから、結構役に立てると思う」


「成程、それは優秀ですね。こちらは見ての通り前衛ばかり三人のチームで、こちらの祥悟が斥候を兼ねています。ランクは≪中級≫、チーム名は未定です。今お話しした通り、貴女より格下のチームになります。それでも良いのですか?やめておきます?」


 相手に情報を開示させた以上、悠里達の情報も返すべきだと考え、偽りなく答えた。そうした上でもなお同行したいのかを確かめる。


「えぇ、それでもお願い。貴方達の実力についてはちょっとだけど知っている。すぐに≪上級≫ランクになるんじゃないかと思っている」


 格下宣言をしたのに食い下がられ、その上こちらの腕は知っているという。


「そ、そうですか……。では一つだけ聞かせてください。貴女、王都からシルトヴェルドまで後ろに付いて来ていた方ですよね?」


 悠里の質問に虚を突かれたのか、フードの少女が息をのむ気配で感じた。祥悟と湊も驚いた様子で彼女をじっと見つめている。


「……その通り。気付かれていたのに吃驚した。貴方達の実力を見ているのも察しの通り」


「あぁ、やはりですか。どこかで覚えのある気配だったので、もしかしてと思いました」


 少女の告白を聞いて悠里は納得した様子で頷き返した。


「ちょっと待って下さいね。私の一存では決められないので、チーム内で相談させてください」


『(どうする?悪意は無さそうだし、隠し事も下手そう。後衛は欲しいと思っていたし、お試しで組んでみるのもアリかと思うんだけど?)』


 悠里の念話に祥悟と湊がそれぞれ答える。


『(後衛戦力が欲しかったのは事実だし、お試しからなら)』


『(私も相原君と同じ感想。天然さんの気配がするわ)』


 チーム内の意見がお試しによる受け入れでまとまったところで三人は頷き合い、悠里が少女に手を差し出した。


「お試しからで良ければ同行しましょう。私は悠里です。よろしく」


「俺は祥悟。斥候兼任の前衛。よろしく」


「私は湊よ。よろしく」


 チーム三人からお試し参加の許可が出たのに安堵したのか、フードの少女が両手でガッツポーズを取っている。その喜び様に悠里達の口角が緩む。


「ありがとう。私は≪上級≫探索者シーカーで、名前はエフィと呼んで欲しい」


 エフィがフードをおろして素顔を晒し、名前を名乗ってから三人と握手を交わした。その素顔は悠里達と同年代か若干年上の美少女にみえた。細長い笹穂型の耳から耳長族エルフと思われる。男女の性差が少ない外見が普通だと講習で習っていたが、エフィは悠里達からみて明らかに美少女と分かる顔で、胸部装甲は湊より大きい。プラチナ色の癖のない長髪と宝石のような碧眼も美しく、身長は湊より若干低い。一五五センチから一五八センチの間くらいだろうか。


 三人と握手を交わし合うとエフィはすぐにフードをかぶり直し、咳払いをして理由を説明する。


「普段はフードを目深に被るようにしているの。吸血族ヴァンプみたいだと思うかもしれないけど、これには事情があって。顔を隠す理由は……その、男性によく絡まれたり、奴隷狩りに目をつけられたりと、面倒な経験が結構色々あるので、その対策なの」


 顔を隠している理由について、素顔をみたので全面的に納得できてしまった。三人は気にしないようにと笑って許した。


 森に入るメンバーの記帳にエフィの名も入れて、四人チームで東門をくぐってクラレントの森へと向かって歩いていった。


◆◆◆◆


 東門から出て街道沿いに東へ進んでいく。シルトヴェルドは王国の最東端の都市でここより東には街も村もない。そのくせ街道という様子で道が整備されているのは、クラレントの森へ足を運ぶ探索者シーカー達のためである。


 道中、荷台に獲物の素材を沢山積み込んだ馬車や、人力で曳く台車で荷物を運んでいるチームなどともすれ違った。


 さすが探索者シーカーの街と言われるだけある交通量だと感じた。


「ねぇ?台車とか荷馬車とかないのは貴方達には不要だからよね?何度か【異空間収納】を使っていたのを見たんだけど」


 エフィが隣を歩く湊に話し掛けた。


「あ、それも見てたのね。そうよ。私達三人は≪迷い人≫で、全員が【異空間収納】を使えるの」


「え、そうなんだ?あまり見かけない人種の普人種ヒュームだなと思っていたけど、≪迷い人≫だったのね……。会うのも話するのも初めてよ」


 エフィが驚いていたのを微笑まし気に笑いつつ、湊が続ける。


「【生活魔法】程度なら私達も使えるから、水にも困らないし食料も【異空間収納】にたっぷり入れてあるから食事にも困らないで済むわ。狩った獲物は一々解体せず丸ごと【異空間収納】に入れて持ち帰えるので、高額換金部位だけを持ち帰る必要がなくて。便利よ」


 湊の開示した情報にエフィは「予想以上のチームね……」と呟いていた。



 半日かけて歩いたところでぽつぽつと樹木が見え始め、森の手前にまでくると石壁で囲まれた野営場があった。中には沢山の天幕や馬車が係留されているのがみえた。


 野営するには時間が早すぎるため、野営場で食事休憩をとってから早速森に入ることにした。悠里達は人目が多いところで【異空間収納】から温かい料理を出すのは悪手と思っているので、野営場に設営されていた屋台で食事を済ませた。



 食事後は早速森に入ることした。祥悟が先行して斥候役をこなし、湊、エフィ、悠里の順で森に入っていく。クラレントの森の浅いところには他の探索者シーカー達が居るため獲物が全然みつからず、どんどん森の奥へ歩く羽目になった。


 祥悟がやっと見つけた魔物は熊型の魔物で、栗毛の体毛をしている。頭の上から肩甲骨あたりまでに赤いたてがみが生えているような魔物で、前足の上腕には籠手のように甲殻めいた質感があってかなり頑丈そうにみえる。魔物はこちらに気付くとその場で二本足で立ち上がり、悠里達に向かって吠える。二本足立ちされると身長は三メートルほどで、見るからに屈強そうな体格も相まって中々の迫力だった。


「エフィは剣と弓も出来るっていってたけど、とりあえず後衛ポジションに回ってもらって良い?」


 悠里がエフィに声を掛けた。


「わかった」


 エフィは悠里に返事をすると肩掛け鞄から身長程の長い杖を取り出し構えた。【異空間収納】では無く、鞄の中が空間拡張されたような収納道具に見える。


「まずは足止め。【泥濘】」


 エフィが魔物の足元を泥沼にして、機動力を奪った。沈んでいく足元に慌てて四本脚立ちに戻り泥沼から逃げ出そうともがいている。


 そこに湊と祥悟が泥沼の外から大身槍の突貫チャージで突っ込み、一方的に攻撃する。攻撃を食らいながら何とか泥沼から這い出そうとする魔物の正面には悠里が回り込んでおり、雪月花でその首を刎ねた。


「良い支援魔法だったよ。おかげで楽ができた」


 悠里がエフィに振り返り、笑顔で感謝を示す。エフィは魔物を倒し終わったところで泥沼を解除しており、祥悟が転がった首と身体を【異空間収納】に回収した。


「どういたしまして?この感じでフォロー中心なら、早々魔力切れにならなくて済みそうかな」

 エフィの方も悠里達の立ち回りに文句はない。手際よく片付けたのをみて、自分の直観が正しかったと感じて満足していた。



 その後、陽が落ちるまで森の奥へ奥へと進みながら、魔物を狩り続けた。熊型、狼型、蛇型、巨大蜘蛛に上位豚鬼ハイ・オークの類も狩っていった。


 陽が落ちてきたところで野営準備を始める。天幕は組み立て済みの状態で出てくるし、テーブルや椅子まで用意され、テーブルの上には温かな料理が並べられた。


「……【異空間収納】持ちってすごいのね?私の魔法の鞄(マジック・バッグ)じゃこんな贅沢な使い方は出来ないわよ」


 呆れたような、しかし便利さに感心するやらで複雑に思いつつも素直にテーブルについて4人で食事を楽しんだ。


「あ、そうそう。ここら辺一帯に認識阻害の【空間魔法】を掛けておいたから、多分魔物は入ってこないと思う。安心して寝て良いからね」


 悠里がエフィに言い聞かせるように言った。


「もし認識阻害の空間内に魔物や他人が入ってきたら警報がなるようにしてあるから、その時は起きて応戦が必要だけどね」


「この魔力で包まれたみたいな感覚は【空間魔法】だったの?結界魔法かと思ったわ」


 エフィが周囲を包んでいる魔力の感じ方に興味ありそうな顔をしていた。


「そういえばエフィって治癒魔法も使えるって言ってたよね。どのくらいの傷まで対応できそうなの?」


 湊がエフィに聞いた。


「大抵の傷や病気なら治せると思う。生きてさえいれば四肢欠損も回復できる」


 エフィの回答に今度は悠里達が驚いた。


「それは……多分すごいんだよね?王都で知り合った治癒魔法の使い手は、骨折や裂傷なら塞げるけど、欠損までは無理って言ってたよ」


 湊の感想にエフィが照れつつ笑う。


「ふふっ実は二〇〇年くらい前に姫巫女という役職の経験がある。姫巫女は耳長族エルフの郷の中だけで使われる呼称で、他国でいうところの聖女にあたる」


 二〇〇年前。聖女。姫巫女。突然のカミングアウト、パワー・ワードの連発に悠里達は更に驚かされた。


「二〇〇年前というのも驚いたけど、聖女のような存在だったというのも驚いた……。エフィはもしかしてものすごく有名人だったりする?」


 湊がエフィにそう訊ねると、エフィは首を横に振った。


耳長族エルフの中ではそれなりに有名。けど、外の人間社会ではただの耳長族エルフに過ぎない。長く生きているの分、それなりに権力者にコネクションがあったりはするけど」


 エフィはそういうが、外の世界の権力者とコネがある時点で有名人に違いないと思った。多分、自分が有名人だと理解していない天然さんだと。


「それじゃ、例えば欠損とか酷い怪我をしてる奴隷を見請けして、その怪我を治してあげたりもできるの?」


 湊が身を乗り出して聞いてみると、エフィは肯定した。


「出来る出来ないで言えば、出来る。けど、迂闊に欠損まで治せる事が広まっちゃうと、今度は自分の生活が大変なことになっちゃうので、あまり表沙汰にはしたくない感じ」


 エフィの回答を聞いて湊はおとがいに指を当てて思案し、エフィに頼み事をした。


「それなら、暇な時で良いから私達に治癒魔法を教えてくれないかな?自分達で欠損を治癒できるようになれば、エフィが隠したいのも守れると思うし」


 湊のエフィに配慮したお願いを聞いて、エフィは微笑んだ。


「こんなに便利で快適な野営ができるのも貴女達のおかげ。こういう手隙の時に教えるくらい構わない。治癒魔法に限らず、攻撃魔法や特殊な魔法もその段階になったら教えてあげる」


「ほんと?!やった、すごい先生ができた!」


「え、俺達も教えてもらえるの?」


「もちろん」


「ありがとう。それじゃ俺達三人はエフィの弟子だね。師匠、よろしく」


 エフィの承諾を以って、悠里達三人に魔法の師匠ができた瞬間であった。


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