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第3章 第2話 シルトヴェルドの散策

 シルトヴェルド到着二日目。


 快適な室内で泥のように眠った三人は、宿の一階にある食堂で朝食を食べながら今日の予定を話し合っていた。


「まずはこの街で、探索者シーカー活動をする上で必要な情報を集めよう。真っ先に探索者シーカーズギルドからで」


 悠里がそう宣言すると、湊と祥悟が頷いた。


「まずは三人で探索者シーカーズギルドに赴き、探索者シーカー活動に関連する各種設備やお勧めの店などの情報を入手する。次に、入手した情報を基に紹介された各種施設を見て回る。こんな感じかな?」


 ギルドに入りカウンターを眺めると、昨日対応してくれた薄い水色の髪の受付嬢を見つけ、その順番待ち列に並ぶ。


「(この水色髪ってやっぱ地毛だよな…?こっちの世界の人間と地球の人間とは、やっぱり違う生物なんだろうな……)」


 おいしい食事処や適正価格で在庫の豊富な武具屋、オーダーメイド品を頼める腕の良い鍛冶屋、お手頃な価格で品揃えの良い古着屋、オーダーメイドの衣装を注文できるテイラー、ギルドと懇意で良心的な魔道具工房、最後には優良な奴隷館の情報まで入手できた。

 土地勘がないため大雑把な手書きの地図を描いてもらい、それを基に店を探す予定だ。


 探索者シーカー関連の設備は東門広場の方面に集約してあるって、東門の周辺だけで十分生活できそうな街作りになっていた。それもこれも噂の魔境ことクラレントの森に一番近い門が東門だからである。魔物相手の戦力は最前線に住まわせるという合理的な街作りだと思った。



「さて、それじゃ紹介してもらったお店を一通り見に行ってみようか」


 悠里が湊と祥悟に振り返って宣言する。


「朝飯食べたばかりだから、他のところからで頼む」


 祥悟のリクエストに湊も頷いているため、とりあえず探索者シーカーらしく武具店から行ってみることにする。改めて街並みを眺めてみると、王都に比べて一軒一軒が堅牢な石造りの建物が多く、木造建築はあまり見かけなかった。これも街自体が要塞と言われる所以だろうか。


 東門広場の探索者シーカーズギルドから街の中心にある広場の方へと向かっていくと、広場に面した良い立地に、堅牢な石造りの五階建ての建物が見えてきた。


「多分あのデカい建物が適正価格で在庫の豊富な武具屋さんじゃないかな?」


「【レンドルミュール武具店】だって。当たりみたいね」


 地図に書き込まれた建物の特徴と店舗名が一致している。シルトヴェルド領最大の武具店という肩書は伊達じゃないらしい。


 店舗に入ると直ぐに案内役の店員が出迎えにやってきた。


「いらっしゃいませ。レンドルミュール武具店へようこそ。お客様方は探索者シーカーとお見受けいたします。何かお求めの物はお決まりでしょうか?」


 さらっとこちらの稼業を当ててきた。考えてみれば兵士や騎士以外で革鎧をきて剣を佩いていれば、十中八九で探索者シーカーか傭兵である。柔らかい物腰ではあるが、盗難防止のお目付け役兼案内係なのだろう。


「おはようございます。お察しの通り、私達は昨日シルトヴェルドに到着したばかりの探索者シーカーです。ギルドの紹介で適正価格の在庫豊富なお店と聞いてお店を拝見しに参りました」


 丁寧な接客には丁寧に返すべき。悠里が代表して店員に答える。


「実は武器も防具も買い替えたばかりで今回は買う物がある訳ではないのですが、天銀ミスリル合金製の武器を見せてもらえないでしょうか。品物と価格の現物を確認させてもらい、これからシルトヴェルドでお金を稼ぐ目標にしたいと思っています」


 正直に今回は買い物しない事を伝え、将来の顧客扱いで商品を見せてもらえるようにと交渉してみた。


「成程、承知いたしました。そういうお話であれば私が天銀ミスリル合金製の武具のところまでご案内させていただきますね」


 人当たりの良い店員さんに案内されて、四階の高級武具コーナーの一角に移動した。


「こちらに展示されている物以外にも在庫はございますので、詳しいご要望がございましたらご案内いたします」


 悠里達が良く使う大身槍や長剣を眺めていると湊の視線が一振の刀剣に釘付けになっていた。見ていたのは日本刀型の打刀で五千万ゼニ―の値札が付いていた。湊の口から、「やっぱりあるんだ……」と小さな呟きが漏れていた。

 悠里は湊の様子に口角が緩む思いであったが、同時に金稼ぎに真剣にならないといけないなとも考えた。


 他の天銀ミスリル合金製の直剣などの価格は大体一千万ゼニ―前後となっていたため、日本刀型のその剣だけが特別な逸品なのだろう。


天銀ミスリル合金製の武器を揃えるのに、必要な資金がいくらくらいなのか、大変参考になりました。本日はご案内いただきまして感謝いたします。これから頑張って資金を調達し、いずれ購入にお伺いさせてもらいます」


 一行は店員に丁寧に礼をし、退店した。



「これはかなり本腰入れてお金稼ぎしないとだね」


 悠里が湊に振り返ってそう言うと、湊は日本刀型を本気で欲しいと思っていたことがバレバレだったと知り、照れ笑いで顔が真っ赤になっていた。


「でもいきなり五千万は難しいだろう?まずは一千万くらいの天銀ミスリル合金製の武器を揃えてから、より強い魔物を倒せるようにして稼ぐのでどうだ?」


 祥悟も湊の視線が何に釘付けになっていたのか理解した上で、現実的に段階を踏むことを提案した。


「それはそうだな。魔鋼合金製の武器と天銀ミスリル合金製の武器では全く別物レベルの斬れ味だったし、高い素材は強い魔物から獲れると思えば段階は踏んだ方が良いね」


「うん、私もそれで良いと思う。シルトヴェルドに来ていきなり目標ができちゃったね」


 祥悟の提案に悠里と湊も同意した。


 武具屋を覗いた後は古着屋で着替えを買い、武具と衣服のオーダーメイドの工房は今回は見送った。天銀ミスリル合金製の武器に手が届くようになってから見に行った方が良いとの判断である。


 魔道具工房には寄ってみたが、何に使うのか使途不明な道具が多かった。便利そうな道具でも生活魔法で代用できる物だったり、手の届かない額だったりしてここの店でも買い物せずに見学だけで退店した。水薬ポーション系はギルドの売店より安かったため、今度買い足す時にはここに寄っても良いかなと思った。


「あとは奴隷館だっけか。日本的な常識だと腰が引けるけど、どうする?」


 悠里が二人に問う。


「こっちの世界では借金返すための働き口の斡旋みたいな奴隷とか、意外とクリーンだって聞いたけど。優良店だっていうからには、あまりヤバいのも居ないんじゃないか?」


「個人的には治癒魔法に習熟するまでは避けておきたいかな……」


「治癒魔法?それはどういう意味で?」


 湊の回答に疑問を持った悠里が聞き返す。


「ほら、奴隷落ちっていうのも原因は色々だし、中には四肢欠損とかで探索者を続けられなくなった人とかも居ると思うのね。そういう人たちをみて同情心が湧いちゃった時に、自分達で怪我や病気を治してあげられる力があれば、低価格で優秀な人材を仲間に出来るかもと思って。そういう手札のない今見て同情心だけ湧いちゃったら、何か辛いかなと思って」


 湊の胸の内を聞いて納得した。


「分かった。俺達が欠損や病気を治せるようになるか、それが出来る仲間が見つかってからってことで」


「うん、ありがとう」



 奴隷館の話をしていた頃には昼飯時になり、ギルドで教えてもらったお勧めの食事処を探しに行くことにした。

 お勧めの一軒目は地球でいうところのイタリアン料理の店で、パスタやピザなど≪迷い人≫由来としか思えない品揃えで、久しぶりに食べる味の再現度に大変満足できた。



 午後はまた探索者シーカーズギルドに戻り、資料庫でシルトヴェルド周辺からクラレントの森の魔物にかけての魔物の情報収集をした。夕方になったところで下調べを切り上げ、実際に掲示してある討伐系の依頼票を眺めて傾向を頭に入れておく。


 悠里達は早速明日から、クラレントの森へ狩りに行くことにした。 


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