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第2章 第4話 成長

 王都北の森、滞在二日目。


 朝一で見つけた大物食人鬼族(オーガ)の首を刎ねることに成功した悠里は、その後もプラーナの纏いが絶好調だった。



 見つけた二体目以降の食人鬼族オーガは悠里が片腕か片足を斬り飛ばし、トドメは湊と祥悟に譲って二人のプラーナ操作の実践経験を積ませるように立ち回った。


 祥悟と湊はそれぞれ“首を刎ねる”ところまでは届かず、しかし首を中程まで斬り込んで頸椎で刃が止まるくらいまでには切断力が向上していた。幾度かは頸椎の隙間、椎間板に刃が通れば首を刎ねるのに成功していたが、精確に狙える程ではないため、左薙ぎで左頸部を狙っていれば頸部大動脈を切断してほぼ即死だし、喉の前方を大きく浅く抜ける軌道であれば、脊髄で止まらずに気管や食道を薙ぎ切れるため、左から右にスパッと振り抜けている。


「もう少しで安定して首を刎ねれそうなんだけどなぁ……。悔しい」


 湊が悠里をジト目で見ながらそう言った。


「俺の【仙氣功】は【プラーナ操作】の上位互換っぽいと祥悟も言ってたし。仕方無いんじゃない?」


「やだ!私が先生だったのに!教え子が出来ることを先生が出来ないのは悔しいの!!」


 湊が駄々をこねるように首をイヤイヤと横に振るってごねる。余程悔しいのか若干涙目である。


「そうは言ってもな……?純粋に技術じゃ全然負けてるし。まだまだ当分は片倉が先生のままだと思うんだけど……」


 悠里が湊の興奮を押さえようとそう話しかけるが、湊は首をイヤイヤと横に振って拒絶する。


「子供か!」


 悠里が思わず突っ込むが、湊を余計に刺激するだけだった。



「ヒソヒソ(一撃で食人鬼族オーガの首を半分斬れてれば、実質的に撃破なので一緒では?)」


「ヒソヒソ(だよね?食人鬼族オーガを一撃で斃せるならもう≪中級≫クラスの戦闘力じゃないの?)」


「ヒソヒソ(即死させれているんだからどっちでも良いじゃん?試し斬り気分かな?)」


 後続三人はヒソヒソと呆れ気味に感想を言い合っていた。



 昼休憩を挟んで狩りを再開しようかというところで、行動方針の再確認が行われた。


食人鬼族オーガも大体一撃で殺せるようになってきたし、次はどうしようかね?」


 悠里の言葉にそれぞれが思案する。


「俺は食人鬼族オーガ継続でも良いし、もう少し奥に行ってみても良いかなと思うけど?」


 祥悟の言葉に湊も同意する。


「そうね……。まだ首を刎ねられてないのは悔しいけれど、もう少し強い敵を相手にしても良いかも」


 祥悟と湊の意見に対し、逆にネロ達は怖気づいてしまう。


「え、更に奥ですか?今でも殆ど役に立ってない私たちが?ちょっと怖くて無理かなーなんて……」


「そ、そうね……。食人鬼族オーガの次って何がでるんでしたっけ?下調べなしだと流石に厳しいと思うのですが……」


「私もまだ早いかなぁと思ったり……。食人鬼族オーガ豚頭族オークじゃ駄目ですかね?」


 三人が及び腰な意見を口にする。エンリフェの下調べに関する発言に悠里が頷いた。


「下調べか。そうだね。下調べなしは、やっぱり調子に乗り過ぎたかな。三人とも止めてくれてありがとう」


 悠里がネロ達三人に頭を下げて礼を伝えた。


「えっ、いや、その、こっちこそ臆病ですみません。……怒らないんですか?」


 シエラが申し訳なさそうに頭を下げ、恐る恐るといった様子で悠里、祥悟、湊の目を順に見返した。


「え?怒る必要ある?勇み足を止めてくれて感謝しかないんだけど」


 悠里はキョトンとシエラを見返し、祥悟も悠里に頷いて自省を述べる。


「だよな?【プラーナ操作】が上達して食人鬼族オーガに通じるようになってきて、浮かれて調子に乗って部分があるなって思ったし」


「そうね。食人鬼族オーガより強いのと戦うなら情報得てからの方が正しい意見だと思うし、食人鬼族オーガがもっと雑に斃せるようになってからの方が安全マージン的にも正しい意見だと思う」


 湊もシエラ達に諫められて素直に反省していた。


「そ、そうですか……?聞いて貰えて良かったです」


 シエラ達三人の以前のチームでは、前衛陣の三人が自信家で我が強く、諫めたり窘めたりしてもそれを聞かないばかりか、臆病過ぎると怒りを買うことが多かった。そんな経験があったため、シエラ達三人は他のチームメンバー達に反対する意見を出すことに妙な引け目や遠慮が出ていた。


 シエラと共にネロとエンリフェもほっとして表情が柔らかくなった。


「さて、食人鬼族オーガ狙いを継続するとして、どうしようかね?この辺りはもう残ってないだろうし、もっと西側に行くか王都への帰還のことも考えて東側に行くか?」


 悠里が改めて二択を提示した。


「食料の備蓄的にはまだまだ行けると思いますので、どちら側に進んでも良いかと」


 エンリフェが森の深い側に行かず、同程度の深さの東西なら、特に反対意見はない旨を発言した。


「私は東側が良いかなと思います。例の巨大陥没穴の件がどうなったかも気になりますし。討伐隊が出るなら参加するのも良いかと思います」


 ネロは巨大陥没穴の豚頭族オーク退治の案件も気になっているらしい。


「そうだね。確かに陥没穴の豚頭族オーク退治の件は気になる。東側に行ってみよう」


 悠里がネロの意見を採用して方針を決めると、祥悟が東へと進路をかえて進みだした。


 暫く進むと、≪敵発見≫のハンドサインを出す祥悟が見えた。≪静かに、来い≫のジェスチャーで悠里達は祥悟の隠れた木陰へと移動する。

 祥悟が親指で指し示す方をこそりと窺ってみると、身長二メートル五〇センチに届きそうな大型の食人鬼族オーガがこちらへと向かって歩いてきているところだった。不意討ちできる位置関係ではないが、今の実力なら正面からの突撃で何とでも出来ると判断し、悠里は≪襲撃開始(ゴー・サイン)≫を出した。

 湊と祥悟が頷くのを確認して悠里が木陰から躍り出て食人鬼族オーガへと駆ける。祥悟と湊は悠里の左右から駆け、前方で半包囲する様に展開していく。


「グルルァァアアッ!!」


 人間ニンゲンの接近に気付いた食人鬼族オーガが威嚇の咆哮を上げ、迎撃態勢に入った。


「【樹縛】ッ!!」


 エンリフェの【樹木魔法】が発動し、食人鬼族オーガの足元の樹木の根が伸び撓って食人鬼族オーガに絡みつき、その動きを阻害する。


 【樹縛】で得られた僅かな隙を活かすべく、悠里が正面から食人鬼族オーガの左太腿の膝上を狙う。一回転して遠心力を乗せた大身槍の左薙ぎを放った。


「(片足もらった!!)」


 悠里の放った左薙ぎは食人鬼族オーガの皮と肉を斬り裂いてその刃を埋め、大腿骨で少し引っかかったが、力尽くでそのまま振り切り、骨も両断して左へと抜けた。


「ン゛ア゛ア゛?!」


 片足を落とされ、バランスを欠いた食人鬼族オーガはその場に両手と片膝をついて倒れ、【樹縛】による拘束で身動きが取れなくなる。


 そこに左右から駆け込んできた湊と祥悟が、食人鬼族オーガの下がっている首筋にそれぞれ突貫チャージを決め、刺し傷を広げるように前後に振り払う。二人掛かりの刺突から薙ぎ払いの連携で食人鬼族オーガの首が刎ね落とされた。


「よし、食人鬼族オーガ豚頭族オークと大差ないくらいに斃せるようになってきたね」


 湊が飛び散った食人鬼族オーガの返り血を【洗浄】で洗い流し、自身が浴びた血液と武器は【清浄】で落としすっきりさせる。祥悟も自身を【清浄】すると食人鬼族オーガの死骸を回収し、討伐現場の血糊は【洗浄】で流して【消臭】しておく。


「あぁ、食人鬼族オーガも問題なく斃せるようになってきたな。上級豚頭族ハイ・オークの高位の指揮官クラスってのがどのくらい強いのか分からないけど。食人鬼族オーガより強かったりするんかね?」


 祥悟が討伐現場の掃除を終えると大身槍を【異空間収納】にしまい、探索再開のため斥候に出ていった。


「高位の豚頭族オークか……。ネロ達は何か知ってる?俺達は森で見つけた上級豚頭族ハイ・オークのチームリーダーみたいなのは斃してるけど、もっと群れを率いてるような統率者っぽいやつの話とか」


 悠里が現地人ネイティブ組に聞いてみる。


「んー。豚頭族オークエンペラーが生まれると国が亡ぶとか御伽噺や昔話にありますね」


 ネロが人差し指を顎に添えながら思い出しつつ答えた。


豚頭族オークキングでも、豚頭族オークの数次第で軍隊か≪上級≫や≪特級≫ランクの探索者シーカー達に振られる案件と聞きます」


 エンリフェが真面目な顔で答えた。


「高位の豚頭族オークという言い方ですと、一般的には将軍ジェネラル階級以上のことを指すと思います。将軍ジェネラル食人鬼族オーガより強くて頭も良く、略奪した武装を身に着けたりしていて、単体だと≪中級≫レベルですが、群れを組織的に運用したりするので、総合的に見て≪上位≫ランクの案件ですよ」


 シエラの解説でなんとなくイメージは掴めた。悠里達がようやく苦労せず斃せるようになってきた食人鬼族オーガが≪下級≫ランク以上推奨なのだから、豚頭族オーク将軍ジェネラル食人鬼族オーガより明らかに強い。


「なるほど。豚頭族オークの討伐隊に混ざれても、俺達は雑兵担当だな。三人ともありがとう」


 悠里は現地人ネイティブ組に礼を述べると前に向き直り、祥悟の背中を追う。


「とか言いつつ、機会チャンスがあれば将軍ジェネラルの首も殺る気なんでしょ?」


 悠里に湊がボソッと声を掛け、悠里はバツの悪い困った顔を返した。


「ははは、そんな機会チャンスがあればね。わざわざリスクを取ってでも首を狙いにいく気はないよ。仲間の命の方が大事だ。それより、討伐隊が組まれて混ざるなら、一誠チームや桜木チーム、藤沢チームとも一緒になるかもね?」


 悠里の返しに湊も柔らかく笑った。


「そう?それなら安心ね。他のチームがいたらどうやって過ごしていたかとか聞きたいところね」


「桜木チームと藤沢チームはこの北の森のどこかに居そうだけど、一誠チームは読めないな……。あいつらは意外と別の街に移ってるか、王都に残ってるなら≪ダンジョン≫にアタックしてるかもしれない」


 悠里が他チームの様子を想像して頬を緩ませていると、祥悟が≪敵発見≫のハンドサインを出して来た。≪静かに、来い≫のジェスチャーを確認して静かに祥悟の隣に行くと、木陰から確認できたのは二体の食人鬼族オーガ。一体は二メートル四〇センチ程のがっしりした体型で、もう一体は二メートル二〇センチ程の一体目に比べれば若干細身な印象である。



「ヒソヒソ(二体か……)」


 悠里が食人鬼オーガ二体の様子を見て眉根を寄せた。


「ヒソヒソ(別行動になるまで様子見して、個別に撃破か?)」


 祥悟が悠里に訊くが、悠里は難しい顔のままで二匹を眺めている。


「……ヒソヒソ(あれ、多分(つがい)だ。小さい方に若干胸があるし、多分雌)」


 悠里の発言に目を丸くして、皆が違いを確認しようとする。


「ヒソヒソ(え、どっちも雄かと思ってた……言われて見たら確かに雌かも)」


 湊も指摘されてはじめて気付いた様子で二体を見比べていた。

 現地人ネイティブの三人は気付いていたのか、特に反応はない。


「ヒソヒソ(それで、つがいだとしてどうするんです?)」


 ネロが話を進めようとして口を挟んだ。


「ヒソヒソ(つがいだとして、また子供オークのいる巣があるかも。それも探すなら泳がせる必要がある。けれど、豚頭族オークの討伐隊の件もあるしそこまで時間を掛けられない。とりあえずあの二体を同時に相手して進もうか。途中で子供の気配が見つかったら巣を探して駆除するってことで)」


 ネロの疑問に悠里が答えつつ、この後の動きについても決めて指示を出した。


「ヒソヒソ(なるほどです)」


 ネロも納得したのか頷いて応えた。


「ヒソヒソ(なら【泥濘】の魔法で片方の邪魔をするので、その間にフリーの方を斃してください)


 エンリフェも行動方針を決めて皆に宣言をする。


「ヒソヒソ(了解。それじゃいくよ)」


 悠里が指を三本立てて振り下ろしながら三、二、一、とカウントごとに指を減らしてゼロのタイミングで≪襲撃開始(ゴー・サイン)≫を出して一斉に木陰から飛び出した。


 六人の人間ニンゲンの出現に食人鬼族オーガは一瞬驚くが、すぐに嗜虐的な捕食者の笑みを浮かべて迎撃に出てきた。


「【泥濘】いきます!!」


 エンリフェから【泥濘】の魔法が飛び、雄の個体の足元が泥沼に沈んだ。範囲を広めに作った【泥濘】のため、這い出ようとするが時間を要するだろう。


 その間に悠里、祥悟、湊の三人が、雌の個体に殺到する。


 先頭を駆ける悠里が身体ごと回転させつつ遠心力を乗せた大身槍の右薙ぎを叩き込み、雌食人鬼族(オーガ)の右膝を両断した。


「ン゛グァ゛ァ゛ァ゛ッ?!」


 バランスを崩した雌食人鬼族(オーガ)が地面に両手をつき、顔を上げて憤怒の表情で悠里達を睨み付ける。


 悠里の左右から駆け付けてきた湊と祥悟の二人が突貫チャージを首元に突き込み、両の穂先が深く突き刺さって雌の食人鬼族(オーガ)を即死させた。


 続いて【泥濘】に足を取られ憤怒を撒き散らす雄の食人鬼族(オーガ)が【泥濘】の泥沼を這い出る前に三人掛かりで突貫チャージを行う。


 食人鬼族オーガは両腕で槍二本を抑えてみせたが、一本は首筋を深く穿って抜けた。首に負ったダメージにより、雄食人鬼族(オーガ)は二人の槍二本を手放してしまう。

 自由になった二本の大身槍は【泥濘】の左右に回り込み、横合いからその穂先を何度も突き出した。食人鬼族オーガは泥沼の中で暫く暴れたがすぐに力尽き、【泥濘】に沈んでいった。


 祥悟が泥濘に沈んだ食人鬼族オーガの死骸を【異空間収納】に収め、乾いた地面に移動させて排出し、【洗浄】で泥を洗い落し、【異空間収納】に収め直した。

 雌食人鬼族(オーガ)の方は湊が回収済みである。


「よし、誰も怪我してないな?移動を再開しよう」


 悠里の宣言で一行は東へ向かい、移動を再開していった。


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