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第1章 第1話 神隠し

本作品は全面リライトした版です。旧の方は削除しました

 市立祥徳高校いちりつしょうとくこうこうの二年目の一〇月。相原あいはら悠里ゆうりは二年B組のクラスメイト達と共に、修学旅行中の観光バスに乗っていた。


 最初はテンションの高かったクラスメイト達も、天候は快晴であるが変わり映えしない景色と特に案内する見所もない区間に、暇を持て余すようになっていく。

 茶髪のボブカットの添乗員、鶴間つるま香莉奈かりなも生徒達が暇を持て余して飽きているのを感じとると、乗客である生徒達の暇潰しにカラオケで盛り上がってもらうことにする。


 一番手は“二年B組の残念系イケメン”こと町田まちだ一誠いっせいだった。

 一誠は細身ながら割と絞り込まれた筋肉のついた良い身体付きをしており、黙っていればイケメンである。しかし口を開けば空気を読まないオタクトークを連発する残念キャラ。そんな一誠を筆頭に漫研仲間のオタクグループがマイクを占拠して、流行りのアニソンを熱唱していた。


 二年B組のオタクグループは男三名女比三名の計六名で、全員が漫研の部員でもある。一誠も黙っていればイケメンで通る容姿をしているが、他に日仏ハーフの金髪碧眼の美少女の古淵こぶちリオン、小柄で華奢なショートカットの淵野辺ふちのべ琴子ことこ、名前に因んだ長髪のツインテールにしている女子の成瀬なるせ美玖みくも可愛らしい容姿だ。全体的に外見のレベルが高く、黙っていれば華のあるグループに見える一団がこのクラスのオタクグループである。同グループの男子二名は長身瘦せ型の矢部やべ裕斗ゆうと、がっちりしたラガーマン体型の相模さがみ原太げんたで、同じ漫研仲間として非常に仲の良いグループである。


 オタグループがはじめたアニソン縛りに倣ったかのように、パリピのウェーイ系グループこと桜木さくらぎはるかのグループもアニソンで続いていた。

 桜木達はオタクという程ではなくとも、面白いと噂のアニメなら観てみるくらいには理解があり、激推ししていたアニメの主題歌が年末の歌番組に呼ばれなかったことに息巻いていた程に理解あるウェーイ勢である。


 中でもリーダー格の桜木遥は身長が一八七センチとこのクラスで二番目に背が高く、スポーツ万能で容姿も男らしい風情で整っており、クラス内のウェーイ勢の代表格だった。


 桜木のグループは人数が多い。

 野球部の関内せきうち久二きゅうじ、剣道部の石川いしかわ十兵衛じゅうべえ、サッカー部の杉田すぎたあらた、柔道部の台場だいば洋光ひろみつ、バスケ部の本郷ほんごう大輔だいすけと体育会系のバラエティに富み、女子も軽音所属で茶髪や金髪の派手目で目立つ女子が三名組である山手やまて香織かおり根岸ねぎし美月みつき磯子いそご結衣ゆいと、一転して大人しい雰囲気の図書委員、大船おおふな時子ときこが所属している。

 軽音所属の女子三名は茶髪や金髪など、堂々と校則違反を嗜み登校するウェーイ勢らしい振る舞いだった。図書委員の時子だけは大人し目の容姿をしているのだが、金髪巻き髪の結衣と幼馴染であり、外見関係なしの親友としてグループに引き入れている背景があった。


 その他のグループとしては女子の運動系部活動を中心とした運動部系のグループと、幼馴染集団である藤沢グループがあり、互いが対立するようなこともなく共存している。


 運動部系グループだとあずま神奈かんながバスケ部で、菊池きくち唯子ゆいこ大口おおぐちつぐみがバレー部、陸上部の長津田ながつた青葉あおば、水泳部の市場いちば藤花とうかという女子六名に対し、男子は空手部の鴨居かもい浩司こうじと柔道部の小机こづくえつくるの二名だけが所属していた。彼ら彼女らはいわゆる運動部ガチ勢で、日常会話にプロテインやら筋トレの話でてくるような集団である。


 幼馴染集団の藤沢ふじさわグループはリーダー格の藤沢ふじさわ圭吾けいごが身長一九〇センチ台(まだ成長中)でクラスで一番背が高く、よくバスケ部やバレー部から勧誘を受けているくらいには運動神経も良い方だ。

 このグループは基本的に小学校からずっと一緒の幼馴染グループで、藤沢圭吾の身長差カップルである身長一五〇センチの小柄な彼女こと片瀬かたせ詠子よみこ、詠子の幼馴染兼親友の鵠沼くげぬま芽衣めい、藤沢圭吾の腐れ縁仲間の本町ほんまち牧瀬まきせ善行ぜんぎょうはやての計五人組の気心知れた仲の良い集団。

 

 悠里自身は身長は一七五センチで一誠と同じくらいの身長と体格、いわゆる細マッチョ体型だ。

 悠里の幼馴染の橋本はしもと祥悟しょうごは一八六センチと悠里より頭半分と少し背が高く、クラスで三番目の高身長である。また、祥悟はナチュラルボーンで筋肉質であり、特に鍛えている訳でもないのに高身長に見合った身体能力を持っていた。この幼馴染二名は特にどこのグループにも属さず、場のノリで適当に渡り歩く、渡り鳥タイプ。


 悠里は深夜アニメの類はスマホで暇な時にみているので、町田のオタクグループや桜木のウェーイ勢グループが歌っている歌が何という作品の主題歌も、四割ほどは理解していた。クラスメイト達の歌声を聴きながら、アニメのオープニング映像やエンディング映像を脳裏に再生し、聴き役専門に回ってそれなりに場を楽しんでいる。


 このクラスはいわゆるクラス・カースト的な序列意識が低く、仲の良し悪しやイジリは在れど、イジメの類とは無縁だった。そんな恵まれたクラス環境に属していることに、悠里は居心地の良さを感じていた。


 今も桜木グループの軽音女子三人が歌うアイドル物の日常系アニメ、と思わせて実はサスペンス作品だったという意外性にやられた某アニメの主題歌を何とはなしに聴いている。


 長いトンネル内のオレンジ色の灯りにバス内が照らされていて、バスの前方からはトンネルの出口の光が見え始め、バス内に光が差し込んでトンネルを抜けたと思った瞬間、車体から突然ガタガタガタッと悪路を走る妙な感触がしたかと思うと、バスが速度を落としていく。


(ん?なんだ?砂利道……?)


 悠里は何事かと通路側の席から身を乗り出して前方をみてみると、それまで走っていた現代的な舗装された道路がなく、草木が疎らな荒れ地めいた、だだっ広い平野が広がっている。


「……は?」


 意味の分からない余りの展開に思考が停止し、今までの弛緩した空気が霧散した。

 

「あれ?何か変じゃね?ていうか全部変じゃね?」


 悠里の隣、窓際の席に座る幼馴染の腐れ縁こと橋本はしもと祥悟しょうごが、頬杖を崩して呆然と窓の外を見て言った。悠里は祥悟越しに窓の外を見ようと振り返るが、悠里より背の高い一八六センチの祥悟が露骨に邪魔で、立ち上がって祥悟に覆いかぶさるようにして窓に張り付き、車窓の向こうをじっと眺める。

 バスの横側も、前方に見えたような平原が広がっていて、遠くには美しい山脈が長く連なっていた。


「……様子っていうか、景色がオカシイな?“トンネルを抜けたらそこは平原であった”って、今時の日本でありえるか?使われなくなった田舎の旧道路とかでもなきゃそうはならないだろ……」


 悠里が祥悟越しに車窓に張り付いたまま言う。

 

「な?トンネル抜けただけでこの景色はないっしょ……?なにこれ?」

 

 祥悟が状況の変化に顔を強張らせて悠里に同意を求めるが、同意を求められた悠里としても「そうだね、おかしいね?」という同意しか返せない。



「……バスの後ろ、山もトンネルもないんだけど?どゆこと?」


 最後尾の長席を占拠していた桜木グループでミルクティー色の茶髪で横髪を巻き毛にしている根岸ねぎし美月みつきが席に膝立ちして後方を覗き込み、戸惑いの声を上げた。


 トンネルを抜けた直後である。背後にはトンネルと、トンネルが必要だった原因となる山があって然るべきだったのに、それが無い。後方にも前面や側面と同様に、広い平原が続いているだけである。


「……ホントだ。トンネルもアスファルトもなくなってるし。何で?“トンネル抜けたら異世界だった”ってこと?」


 オタクグループの金髪碧眼の日仏ハーフ美少女、古淵こぶちリオンが立ち上がり後部の窓越しに車体の背後を確認して、声をあげた。その言葉にオタクグループはじめ、クラス全体がざわつきはじめる。


 悠里もリオンの解釈に納得しかけ、産毛が逆立つような、ぞっとした気分を味わった。


 バス添乗員で職歴の浅い鶴間つるまも突然の状況に動転しつつ、バス運転手の長後ちょうご時継ときつぐと共に車内アナウンスで落ち着くようにと呼び掛けようとし、マイクの拡声機能が機能していない事に気付くと大きく声を張り上げる。


「皆さん落ち着いて下さい!私達も状況が分かりませんが、パニックを起こすと危険です!状況を確認しますので、皆さんは座席でお待ち下さい!」


 同乗していた担任教師の横田よこた浜治はまじ(三〇歳童貞)も、とりあえず生徒達を落ち着くように呼び掛けて状況把握に努めようと、バスの添乗員と運転手との大人三名で話し合いをはじめた。


 とはいえ、状況の把握といってもバスの運転手と添乗員の二人からしても初めての異変に混乱しており、とりあえずは停車してしまったバスの周囲を窺ってみる。


 混乱しているのは生徒達も同じで、状況把握をしたいという気持ちは皆同じだ。クラスの半分程の生徒達は大人三人と共にバスから下車し、周囲の確認に向かう。


「おい、皆!勝手にバスから離れるなよ?この訳の分からない状況で、絶対はぐれたりはするんじゃないぞ!」


 この混乱した状況でも、クラス担任の横田よこたが勤めて冷静そうに振る舞っていた。


「やっぱり後ろ、トンネルどころか山すらないよ?」


 明るい茶髪をツーサイドアップにまとめた根岸ねぎし美月みつきが、バスの後ろ側に回ってみて、そう口にする。ついさっき潜ったはずの山もトンネルもなく、遠すぎる場所に薄っすらと山脈が見えていた。あからさまに距離が離れすぎており、今抜けたトンネルとは無関係と判断する。


「アスファルトどころか建物も、対向車線すらも見当たらないな……」


 桜木グループの石川いしかわ十兵衛じゅうべえが落ち着かそうにキョロキョロと周りを見回していた。


「スマホ、電波入ってない」


 同じく桜木グループの白に近い程の金髪を巻き毛にした山手やまて香織かおりが、スマホを取り出して操作をしようとし、圏外になっていることに気付いく。


 混乱するクラスメイト達を尻目に、悠里は若干離れた場所にみえた小高い丘を目指す。周囲を見回して様子を探るにしても、高所からみた方が得られる情報が多いのでは、と思っての行動である。丘を登って周囲を見回してみると、バスから丘を挟んで反対側、数百メートル離れた位置にわだちと思われる車輪の跡と、轍沿いに遠くまで続く道らしきものを発見した。


「悠里、なにか見付かったか?」


 後ろからついてきた祥悟が悠里の横に立ち、訊いてくる。


「あそこ、道っぽいものが見えないか?多分、轍だと思うんだけど、どうだ?」


 悠里が祥悟に答えて道を指差した。身長差で若干悠里が祥悟を見上げる角度となる。声を掛けた祥悟は悠里の指先の指し示す方を眺め、首肯した。


「あぁ、確かに轍っぽいな。車輪に何度も踏み均された感じか?多分道だろうな」


 祥悟が悠里に振り返らず、道の左右、その行き先を見渡しながら答えた。


「……助けを求めるなら道沿いに移動してみるのが一番かね?道の左右の先はどちらも遠くの山脈くらいしか見えないけど……。地平線みたいにだだっ広い。北海道の田舎の道みたいだな?」


 祥悟が若干見下ろす角度で悠里を見て言うと、悠里も頷いて答える。


「道に出たら、左右どちらかに移動していけば人里に出るかも?そのくらいしかパッと対策が思いつかねぇよ」


 悠里の言葉に祥悟は頷いて同意をすると、根本的な疑問を悠里に問う。


「確かに道の先には人里とかあるかもだけど……そもそもここ何処よ?分からないのが分かった感じ?」


 祥悟の困り顔に悠里も困り顔で返す。


「だな。原因不明で意味不明な場所にバスごと放り出された時点で、分からないことだらけだよ……。あの轍ができた道らしきものが人里探しのヒントになりそうってことが分かって、とりあえずは御の字かな」


 悠里の言葉に祥悟も同意し、二人は一度バスの方へ戻る事にした。



 バスのところまで戻ると、一誠達オタクグループが割と落ち着いた様子で話し合っている。


「もしかして……異世界ってやつ?」


 小柄でほっそりした体型のショートカット女子、淵野辺ふちのべ琴子ことこが若干興奮気味に言った。


「まじか、召喚されちゃった系?」


 ラガーマン体型で肌が褐色の相模さがみ原太げんたが、琴子の発言に乗っかる。


「いや、でも召喚なら召喚の儀式をしていた人達と顔合わせする展開だろ?ストーンサークルみたいな特殊な装置っぽい物も見当たらないし、召喚されたって線は弱くないか?理由は分らんが転移の方がしっくりくる」


 オタクグループのリーダー格である町田まちだ一誠いっせいが、腕を組みながら懐疑的に言う。


「それだと、≪神隠し≫が近そうかな?」


 金髪碧眼の美少女リオンが、おとがいに指を当てて見当をつける。


「“トンネル抜けたらそこは異世界だった……”。有名アニメの神隠しそのままだな?」


 一八〇センチの長身痩躯の矢部やべ裕斗ゆうとが頷きつつ乗っかった。


「それな。名前取られるやつな」


 相模さがみ原太げんた矢部やべ裕斗ゆうとに合いの手を入れる。


「でも神隠しだと日本か海外のどこかのド田舎に来ちゃった、ってパターンもあり得るんじゃない?」


 ロングなツインテール女子の成瀬なるせ美玖みくが、可能性に一石を投じた。


「それは、確かに」


 一誠もここが地球ではないという根拠が見付からず、見知らぬド田舎説を切り捨てることができない。


「ステータス!ステータスオープン!メニュー!メニューオープン!鑑定!」


 リオンが腕を振り下ろしたり突き出したりしながら、アレコレと試行錯誤している。しかしお約束的な、所謂ステータス画面、あるいはメニュー画面は現れないようだ。 


 悠里はオタクグループの話を耳に入れつつ、傍に立っていた担任教師の横田よこたに声を掛けた。


「横田先生、あちらの丘の向こう側に、轍のような道っぽいものが見えました」


「相原か。ふむ……。電波もつながらず何も分からない現状だ。その道を辿って人里を探すくらいしか、出来そうなことはないな……」


「そうですね……。とりあえずバスに戻って、見付けた道沿いに走ってもらいませんか?」


「あぁ、そうだな。ちょっと話をしてくる」


 担任教師の横田はバスの添乗員と運転手に話に行き、その方向で動いてみることに決めた。

 運転手の長後ちょうごはバスの運転席に着いてエンジンを点火しようとするが、バスのエンジンが動き出すことはない。


「駄目です……。バスは動かせそうにないです。歩く、しかないですね」


 長後が困り果てた顔で横田に答える。


「……それなら、せめて荷物だけでも回収しませんか?」


 鶴間つるまが言うと長後と横田は頷き、行動しはじめた。バス車体下部の格納庫を開けて、各自の荷物を取り出していく。格納庫に備えで入れていた防災グッズも取り出し、僅かながら食料と飲料水も持ち出しす。



「二-Bの生徒集合!」


 担任教師の横田が周辺の探索に出ていた生徒達を呼び戻しに走らせ、バスの横に全員を集合させた。バスに残っていた者達も呼んで外で並ばせていた。


「見ての通り、状況不明の非常事態だ。相原があの丘の反対側に道らしきものを見付けてきてくれた。道沿いに行けば人里に出られる可能性が高い。だがバスはエンジンが動かなくなっており、バスでの移動は無理だ。残念だが、各自荷物を持って徒歩での移動する」


 横田が状況と判断を端的に周知し、防災グッズもバラして分散させ、体力のあるメンバー達にその運搬を頼んだ。長期保存の飲料水や非常食なども手分けして運ぶ。


「食料と飲料水は生命線になる可能性がある。くれぐれも勝手は謹んでくれ」


 横田が飲料水と非常食を勝手に消費しないように言い含めた。


「てかこの状況って何なわけ?町田達オタクグループが言ってたように異世界なの?」


 クラスの中で派手目な桜木グループの女子で、金髪に脱色したロングヘアで、毛先を巻き髪にした磯子いそご結衣ゆいが声をあげる。


「繰り返すが分らん!私見では状況的にバスが≪神隠し≫に遭って、見知らぬ土地にやってきてしまった、という町田達の解釈が一番しっくり来ると俺は思う。地球の何処かなのか、それとも別の世界なのか、今のところまだ何も分らん!」


 言い切った横田が一誠に顔を向けると、一誠は横田に頷き返して同意を示していた。オタクグループの長身痩躯、矢部やべ裕斗ゆうとが長後と鶴間に話し掛ける。


「運転手さん、非常時の道具は防災グッズだけですか?発煙筒や脱出用ハンマーとか、バールみたいな工具とか、何かしら武器になりそうな物とかないですかね?」


長後が車内に戻って発煙筒と緊急脱出用のハンマーを回収してきた。


「バールのような物もあれば良かったのですが、このくらいしかないです」


 長後が持って来た発煙筒とハンマーを見せた。


「発煙筒は人を見付けてこちらに気付いてもらいたいような時に使えますね。ハンマーは武器にするには小さいですが……誰が使う?危ない動物とか出て来た時にこれで戦う勇気のある人、いない?」


 一誠が受け取ったハンマーをひらひらと振りながら二-Bの面々を見渡して様子を窺う。


「……立候補がいないなら、俺がやってみようか?」


 藤沢グループの藤沢ふじさわ圭吾けいごが手を挙げた。藤沢は特に武道の経験はないが、このクラスでは唯一の一九〇センチ台の高身長を持ち、素の体格と身体能力で上位に位置している。女子にハンマーを持たせるくらいなら、身体スペック的に自分が使った方が良さそうだ、と判断した。


「それじゃあ藤沢君、ハンマーを頼む」


「任された」


 一誠に頼まれ、藤沢が頷き返してハンマーを受け取る。


「とはいえ、武器を持って戦うとかしたことないし。俺がやられたら誰かにハンマーを任せるぞ」


 藤沢は肩を竦めながら運動部系の生徒達を見渡してそう言った。


「創作でイメージする異世界っていうなら、狂暴な魔物とかも居るかもね?空手部と柔道部は素手で何とか頑張って」


 名前に因んでツインテールにしている成瀬なるせ美玖みくが冗談っぽく武道系部活動のメンバー達に話を振る。


「いや、ないわー。対人戦だって試合しかしたことないのに、危ない動物とかどう対処すればいいかわからねぇよ」


 桜木グループの柔道部員、台場だいば洋光ひろみつが引き攣った顔で応えた。


「そうだな、袖とか襟とかついてて二本足で立つ相手ならともかく、四つ足とか上半身裸で油塗ってたりするだけで何も出来なくなる予感しかしない」


 運動部グループの柔道部員、小机こづくえつくるも眉間に皺を寄せて追随する。


「俺も犬くらいなら倒せると思うけど、ヒグマとか出てきたらどうにもならんとおもうぞ?」


 運動部グループに混ざって校外の空手道場に通っている鴨居かもい浩司こうじも、自信なさげに肩を竦めた。


「とりあえず、移動をはじめよう。陽のある内に屋根のある場所に着ければいいのだが……」


 横田の仕切りで、生徒達も一緒に移動を開始する。


「あの!危ない生物と戦う可能性があるって話ですよね?」


 それまで黙って様子見をしていた、黒髪ロングを高めの位置でポニーテールにまとめたクラス委員長の片倉かたくらみなとが声と手を挙げ、注目を集めた。


「危ない状況にならないのが一番ですけど、念のため他の皆も備えませんか?」


「というと……?」


 横田がみなとの発言の意図について、聞き返す。


「エコバッグか何かで手頃な石を集めながら移動しませんか?いざという時、慣れない接近戦をするよりも、集めた石を至近距離で思い切り投げつけた方が、余程効果的だと思うんです。それと、石を詰めたエコバッグを振り回したりすれば、それも十分凶器になるかと」


「なる程。確かに何があるか分からないし、いざという時に武器があると思えば悪くない。片倉の意見に賛同するよ」


 湊からの提案に横田が頷いて、生徒達はエコバッグや帆布の折り畳みカバンを持った者達が次々と袋を広げていく。一行は、歩きながら石という原始的な“武器”を蓄えながら進むことにした。


◆◆◆◆



 同日、遡ることトンネルの通過中。二年B組のバスの後を二年C組のバスがついて走っていたが、トンネルを抜けたところで二年B組のバスが忽然と消えた様子が、二年C組のバスの車載カメラに記録されていた。


 バス一台丸ごとの失踪事件は日本はおろか世界でも報道され、オカルト研究者やライトノベル層の有識者達から、「神隠しバス事件」として取り沙汰されることになる。


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