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第7話『光佑君とは昔同じ町に住んでたからね。幼馴染みたいな物だよ』

中学生となり、光佑君たちが入学してきた。


ボクが事故で死んでいないから、お姉ちゃんとは付かず離れずみたいな絶妙な距離だが、これから何かが起きないとも限らない。


視えている未来では、お姉ちゃんは光佑君と付き合う事で死に向かってしまう。


付き合わなければ、ずっと先まで生きていられるのだ。


何が何でも阻止してみせる。


そうボクは心に決めて、日々を過ごしていた。


そして、どうやって光佑君に近づこうかと考えていたある日の帰り道、ボクは急に振ってきた未来のイメージに胸を押さえながら膝を付いた。


荒く呼吸を繰り返しながら、その最悪の映像に吐き気を覚えつつ、それを防ぐ方法に思考を巡らせる。


視えた未来では、数分後に帰宅途中の光佑君と彼の妹である陽菜ちゃんが怪しげな二人組に攫われる。


しかも、連れ去られた先の家では酷く自分勝手な女が居て、光佑君を傷つけたばかりか、陽菜ちゃんに取り返しのつかない傷を付ける未来が視えたのだ。


何とかしなくてはいけない!


ボクは胸の痛みを無視し、流れ落ちる汗を拭いながら立ち上がった。


しかし、間に合わない。


相手は車だ。こっちも車か何かを用意しなくては……。


「東雲先輩? 苦しそうですけど。大丈夫ですか?」


「……っ、君は、大野少年か。良い所に来た。少し手を貸してくれないか?」


「手? 分かりました。何をすれば良いですか?」


「この道の先で、誘拐事件が起こる。それを止めて欲しいんだ。相手は車だが、今からその自転車で走れば間に合うはず」


「分かりました。なら後ろに乗って下さい」


「え?」


「東雲先輩も放置できません。一緒に行きましょう」


「大丈夫かい? ボクは重いよ?」


「鍛えてますから」


「そうか。分かった。じゃあお願いするよ」


ボクは震える体で大野少年の背中に捕まり、勢いよく走り出す自転車に乗って道路を走る。


とんでもない速度だったが、既に誘拐犯共は二人に接触しており、このままでは間に合わないと判断して、大野少年に方向転換をお願いした。


「駄目だ。大野少年。このまま行っても間に合わない。先回りしよう」


「どっちに向かえば良いですか!?」


「山向こうの町だ。向こうは遠回りするが、最短を走れば山一つで済む。行けるかい?」


「余裕ですよ!」


「それは頼もしいね」


それから大野少年の自転車はまるで速度を落とす事なく走り続け、目的の家に到着した。


向こうは既に家の中に入っているらしく、誘拐に使われたと思われる車もそこにある。


「この家ですか?」


「うん。そうだね。奥に行こうか」


ボクは大野少年を伴って庭の奥へと進み、そしてここだと思われる窓を見つけた。


そして耳を澄ませば中から争うような声が聞こえて来ていた。


時間は無い。


ボクは震えそうになる体を抑えながら、中に語り掛けた。


なるべく穏やかに、自信満々である様に語る方が威圧になる。


そう考えて、ボクは淡々と中の人物に対して語り続けた。


そして、その交渉の甲斐もあり中から光佑君の声が聞こえ、ボクはその声が聞こえたであろう大野少年と頷きあった。


焦らぬ様に。心を強く保ち、大野少年に語り掛ける。


「む。どうやら中は大変な事になっているね? 大野少年。頼めるかい?」


大野少年はバットを取り出すと勢いよく窓に叩きつけた。


ボクはそれと同時に足場をうまく使い、窓から中へと侵入する。


イメージは漫画に出てくる格好いいキャラクターだ。


どんな事件も不敵に笑いながら解決し、ヒロインに希望を与える。そんな姿だ。


ボクに希望を与えてくれた天野の様に。長瀬の様に。


あらゆる困難を打ち砕き、お姉ちゃんや光佑君というヒロインを死から救うのだ。


「な、なによ。あなた!」


「ボクかい? ボクは通りすがりの正義の味方さ。悪党を退治して、子供たちに夢と希望を届けるのがボクの役目だ」


キラキラと輝くような目でボクを見る光佑君や大野少年、そして陽菜ちゃんの目線を受けながら、ボクは自信満々に笑う。


そうある事が当たり前の様に。


ボクは、笑うのだ。




誘拐事件から、ボクと光佑君は一気に距離が近づいた。


今までは、お姉ちゃんを通しての関係だったというのに、光佑君から近づいてきている。


多分誘拐事件で助けに行った事が良い方向に転がったのだろう。


良いことだ。


実に順調だと言える。


しかし、しかしだ。


ボクが見ていた未来よりも、随分と光佑君のアタックが強い様に想えるのは気のせいだろうか?


「翼先輩!!」


「あぁ、君か。光佑君」


「はい! 姿を見かけたので! おはようございます!」


「うん。おはよう」


「それで、ですね。今度の土曜日に練習試合があるのですが、是非見に来てくれませんか?」


「今度の土曜日か。うん。良いよ。見に行くよ」


「ありがとうございます! 待ってますね!! では、失礼します!」


ボクは走り去っていく光佑君を見送りながら笑って手を振る。


実に楽しそうだ。


それは良いのだけれど、廊下で呼び止められ、こんな風に誘われるのはいささか恥ずかしい所もある。


確かお姉ちゃんを誘う時は、もっと静かな感じだったと思うんだけど、何がどうしてこうなったのか。


人とは難しいものだなと思う。


そして、その難しい人の代表選手みたいな真帆の前で座りながら尋問を受け、ボクは本当に人は難しいなと改めて感じるのだった。


「で? どういう事?」


「どうと言われても、困るんだけど」


「いつの間に、あの立花光佑と親しくなったのかって聞いてるのよ」


「光佑君とは昔同じ町に住んでたからね。幼馴染みたいな物だよ」


「ふぅーん。それだけ?」


「まぁ、それだけ。かな」


「それにしてはおかしいわね。幼馴染だから仲がいいって言うんなら、アンタの姉の環先輩だって仲良くしててもおかしくないのに、あの二人の関係は普通の知り合い程度に見えるんだけど?」


「まぁ、それは、そうだね」


「何かあったでしょ」


「……黙秘権を」


「行使できるわけ無いでしょ!! 吐け!! 吐きなさい!!」


ボクは激しく真帆に揺さぶられながら、誘拐事件について偶然見かけ、大野少年と一緒に解決したという話を吐いた。


それを聞くなり、先ほど以上に目が鋭くなった真帆にボクは怯え逃げようとしたが、腕を掴まれ逃げる事が出来ない。


「アンタ。舐めてんの?」


「い、いや。舐めてない、よ?」


「何度も勘違い共に襲われそうになったアホが! 自分から変態の住処に飛び込んでどうする!!? 警察に言え! 警察に!!」


「そ、それじゃ手遅れになるかもしれなかったから」


「手遅れなのはお前の頭じゃ!! 一緒に捕まってたら、どうするつもりだ!!」


「大丈夫だよ。大野少年が居たし。それにボクだって強いんだよ?」


「フーン。そう」


ボクがそう言いながら拳を握り締めたのを見て、真帆の目が鋭く、冷たくなる。


そして、ボクの手首を掴むと勢いよく引っ張って、ボクを抱きしめた。


「どうしたの? 強いんでしょ? 抵抗して逃げなさいよ」


「え? いや、ちょっ」


「どうしたの? 強いんでしょ。私なんか振り払ってみせなさいよ」


その挑発のような真帆の言葉に、ボクは何も言う事が出来なかった。


そして何もすることが出来ない。


それどころか体は硬直して、心臓が高鳴っていく。


『よく……我慢したな、偉いぞ』


頭の中では、ここに居るはずのない人の声が、あの時の感覚が蘇っていた。


自然と呼吸が荒くなって、涙が滲んできてしまう。


「翼!!」


「……っ! まほ?」


「少しは分かった? アンタは強くなんかない。傷ついてるのに、それを隠して強がってるだけなの」


「そんな事……!」


「無いって言える? この状況に何も出来ないアンタが」


「……う」


「ねぇ、分かってよ。翼。私、怖いの。いつかアンタが取り返しのつかない場所に、もう戻れない場所に行っちゃうんじゃないかって、怖い」


「真帆。ごめん」


「謝るなら二度とやるな」


「……うん。分かった。気を付ける」


「約束だからね」


「分かってるよ」


ボクは笑顔でそう言った。


その笑顔に真帆は唇を噛み締めていたけれど、ボクは何も気づかないフリをする。


そうすれば、何も見なくて良いから。

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