兎とくまのカフェテリア
涼やかな風鈴の音がして扉が開き、
それを聞いた小柄な従業員が客を持て成しに行った。
「いらっしゃいませー何名様ですか?」
朗らかな笑顔の彼は、少しウエーブがかった赤毛を揺らしながら、
くりっとした翡翠色の目を向けた。
それを見た客の女性はその愛らしさに頬を緩めて答えた。
「あ、予約していた禅です。」
「三名様でご予約の禅様ですね?テラス席でよろしかったでしょうか?」
「はい、おねがいします。」
「こちらへどうぞー!」
元気よく答えた彼は彼女たちを席へと案内するのであった。
案内された席にはペールブルーのテーブルクロス
そして飾られているのはピンクのブバリア。
よく通う常連さんが誕生日なので、
その誕生花を今日飾ったと笑顔で説明した後、注文を聞いた。
「では、『アリスの迷子なお茶会セット』を一つ。
『ドロシーの腹ペコ道中セット』を一つ、
そして『子豚のレンガ焼きセット』。
以上でよろしいでしょうか?
お飲み物は食後と食前、どっちがいいですかー?」
「セットと一緒に持ってきてください。」
「かしこまりましたー!それではごゆっくりーー!」
元気よく注文を受け、厨房へと行く彼。
それをほほえましく皆で眺めるまでがこの店での日常風景なのである。
ここは東京から少し離れた場所に佇む小さなカフェ。
壁はお砂糖のように真っ白で屋根はまるでイチゴの様に真っ赤、
窓には観葉植物、そしてテラスの周りには花壇があり、愛らしい花々が咲いている。
カフェの中は温かみのある木製の家具が迎え入れ、
各テーブルには毎日違う花が生けられている。
ここはカフェ「ラビットベアー」
皆の癒しになればと日々がんばってる二人のお店である。
さて、ところ変わって厨房では、
様々な調理器具をまるで自分の手足のように扱う、
大柄な男が手際よく注文をさばいていた。
この男、店長兼シェフである。
丸太のような手からどうやって作り出しているのか、
かわいらしく繊細なプレートが次から次へと生み出されている。
調理の邪魔にならないように刈り上げにしている黒髪は、
その厳つい顔と鋭い黒い瞳と相まって何とも言えないすごみが……
だが作り上げているのはファンシーなプレートである。
かわいらしく!繊細で!!ファンシーな!!プレートである!!
「海熊ーー!午前の分は終わったぜ!
これで夕方のパーテイーまでゆっくりできるな!」
「兎空くん、もうちょっと静かに…わかったから…
あと言葉使い…お客様に聞こえちゃうよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!
うお!これ、唐揚げ?!なんかすげえ?!」
「チューリップの唐揚げの持ち手部分を白い紙でドレスみたいにしたんだ…
えへへ」
「器用だなあ~。不楽さんもきっと気に入ってくれるな!」
「今の僕たちがいるのもあの人のお陰だから、少しでも感謝したくて…
大好物の唐揚げを色々作ってみたんだ!
あ、ちゃんとサラダやお菓子も作ったよ?」
「おおおお!!このサラダお花畑みたいじゃん?!え、この花全部食えんの?!
まてまて、このケーキ何層あるんだ?!
チーズケーキ風ミルクレープ?
ぜってえうまいやつだ。断言する。
あーでもマジであの人には感謝だよ。
でなきゃいつまでも俺たち、店長と従業員って関係だったと思うし。」
「う、うん。
まさか兎空くんが僕と付き合ってくれるなんて思ってもみなかったよ。」
「俺だって海熊はノンケだと思ってたから何も言う気がなかったしなあ…」
そう言いながら海熊の手を取り自身の頬に置く兎空、
そんな彼を優しく見つめ微笑みながら、
「こんな僕を受け入れてくれてありがとう。兎空くん」
と、感謝の言葉を言うと。
「こんな言うなし。」
そして意味深に笑いながら、
「お前は俺が唯一すべてを受け入れるって決めた男なんだから。なあ?」
と、言った後海熊を引き寄せキスをした。
「と、兎空くん?!」
「さーってパーテイーの準備準備っと―。」
児戯にも等しいキスに真っ赤になった愛しい人を置いて、
兎空はホールへと戻る。
これはいつも夜の方でやられっぱなしな彼のかわいらしい反撃である。
あと数時間で彼らが結ばれるきっかけとなった恩人である彼女が訪れる。
白いダリアとピンクのガーベラの花束を渡して、
大きなミルクレープのケーキを前に、
万感の思いを込めて伝えよう、
「「誕生日、おめでとう!!」」
と。
ここはカフェ「ラビットベアー」
大きな熊さんと小さな兎さんが
イチャイチャしながら日々がんばってる二人のお店である。
Xでよくかまってくださるフラクさんへの誕生日プレゼントです!
だいぶ遅刻してますが、そこはご愛敬で。←
それでは失礼!(ぺこり)