136話 暴走
「ねぇ、このリンゴを一握りしたらどうなるんだろうなぁ」
私はリンゴを握りつぶそうとしていたがアデラリードは早口になってその行為を止めた。
「ちょっとまって、何でもするからそのリンゴをそこに置いて」
「どうして?これアデラリードの依り代だね」
「そうだ、そうだがそれを一旦おいてくれ」
私はアデラリードの言葉を聞かずにリンゴに力を入れていった。
「どうして?無駄な人が死に、お前たちは見ているだけだった。どうしてこの現状をじっと見ていたんだ」
「それはただ……信者が暴走しただけだ、きっとそうだ」
私はアデラリードの声を聞いていたが全く嘘をついている様子は無かった。
(どうして嘘をついている気配が無いんだ、もしかして本当の事と嘘の事の声色が一緒なのか?)
「私を疑っているのね!?」
「いや敵だから疑うだろ」
私はリンゴを再び握りつぶそうとしたがアデラリードが止めた。
「やめて!それが砕けると私も消えるんだよ!」
「それは知っている、罪と共に砕け散ればいい」
「でも残された信者はきっと次の過激派の神がトップになるか揉める、そして草木は枯れ、この大地は朽ちる」
その言葉に私はリンゴを握りつぶすのを止めた。それと同時にセラフィスが部屋に入ってきた。
「そこまでだアデラリード」
「それにだって、私を殺せば神殺しの大罪がお前に降りかかる、信者はお前を殺しに来るだろう」
アデラリードの言っていることは本当に起こりうることだ、自身が信仰している神が殺されたとなると殺した奴を殺すだろう。
「あっそ、ならリンゴを食べたら怪物になるのはどういう事だ?」
「それは信者が勝手にやったことだろう!」
話が進まない中、セラフィスはアデラリードの腹を貫いていいた。
「話が長い」
アデラリードは腹の穴をふさぐと再びセラフィスが腹を貫いた。
「それで、あなたのリンゴは一体何なの?」
私はそう言う圧を与えるとアデラリードは走って出口に向かっていった。
(逃げたか)
だがアデラリードは箱一杯のリンゴを持ってきた。
「どうか、これで誤解を解いてくれ」
私はリンゴの色を見た、明らかに色が赤っぽく、みずみずしかった。
(何だこれ、味も色も水分量も違う……ならあのリンゴは何だったんだ?)
「何もかもが違う、これはあの国で食べた物と別物だ」
その味は何度も何度も試行錯誤をして生み出された紙の果物のようだった。
「まぁ、過激派のボスを名乗ってるけど実際は平和を望んで過激派の神やその信者をまとめてるんだ」
「へぇ、私は今の神の体制が気に食わないから野蛮なことをしてると思ってた」
セラフィスはそう言うとどこからかジェルヴェーズの声が聞こえてきた。
「おいスイたち大丈夫か!?」
「大丈夫だ、なんなら過激派はリンゴ派だったって事なら分かった。
「リンゴ派って何じゃそれ」
ジェルヴェーズは戸惑いながら私たちにこういった。
「アデラリードをどうするんだ?」
私はアデラリードの依り代を持ち主に投げて返した。
「もちろん殺さない。ジェルヴェーズ、通話を切ってくれ」
ジェルヴェーズの声が聞こえなくなると私はこういった。
「なら私たちとリンゴを作らないか?土地は用意する」
「……何を言ってるんだ?」
「今までの禊だと考えればいいだろう」
そう言うと私たちはみんながいる場所に戻ることにした。
「だってよ、よかったな、スイに生かされて」
セラフィスはアデラリードにそう伝えると私の後を追って行ったのだった。
(これで神の戦争、完全決着かな)
私たちは神の戦争を完全決着させたのだった。