5.帰還
五八一号惑星の衛星軌道上では、現地指令部を乗せた宇宙船が、周回軌道をゆっくりと進みながら待機していた。
そこへ、惑星から近づいてくる物体があった。それは帰還用の往復ロケットと思われた。アリスとボブが、回収された記録とサンプルとともに乗っているはずのロケットだった。
しかし、二人が乗った宇宙船の大気圏突入後の通信途絶から、まだ一時間も経過していなかった。
チャールズ指揮官は通信要員に近寄り、感情を出さずに、あくまでも淡々とした態度で聞いた。
「接近するロケットは、惑星の地表から来たものか?」
「はい、そのように思われます。現在、この恒星系付近を航行する宇宙船やロケットはありません」
「では、呼びかけに応答は?」
「応答はありません」
「今後の、接近の予想される進路は?」
「はい。計画で想定されている帰還の航路を進んでいます」
そのとき別の監視要員が声を上げた。
「指揮官! ロケットが減速をはじめました。それから、ドッキング作業への移行を知らせるビーコンを発しています」
「分かった。ロケットはひとまず、自動制御で事前に想定された進路を進んでいる、と考えてよいか?」
「はい」
「通信の呼びかけは継続しろ。では、救護班と防疫班、それに技術班もエアロック付近で待機、医療室の要員も持ち場につけ」
ただならぬ事態が起きていると考えたチャールズ指揮官は、矢継ぎ早に指示を出した。
いよいよ、緊急体制を整えた現地指令部に、帰還ロケットはゆっくりと接近した。皆が固唾をのんで見守るなか、ドッキングは無地に完了した。
だが、それ以上の反応は何も無かった。
外部からの数回の呼びかけにものかかわらず反応がないと分かると、技術班がエアロックを解除した。続いて防疫班と救護班がロケットのコックピット内へ進入した。
そこには宇宙服を身につけた二人が、操縦席に鎮座していた。
救護班の一人が恐る恐るそのバイザーをのぞきこんだ。二人は、痩せこけて深いシワが刻まれた老人そのものの顔をしていた。だが奇妙にも、二人のその顔は、満足げな表情を浮かべているようにも感じられた。
救護班の別の一人が、絞りだすように言った。
「指揮官……二人のバイタルは、全てに反応がありません。二人とも、すでに死亡しています!」