最高層の身分と底辺の魔女【2】
「別に男なんていなくても問題ないし! 子どもだって作れるんだし!」
ビビアナは口をとがらせて、足をバタバタとさせる。
それをルドヴィカが無言で手で制止した。
「リスクとしては男を妊娠したときね。絶対やだぁ」
腹を立てるも、ルドヴィカに対しては反抗しないビビアナ。
ふくれっ面で髪の毛をいじりだす。
かつては子を設けるには男が必要だった。
今はそれも魔法の力があれば子を作ることが出来る。
ただし性別を選ぶことはできない。
子を宿す方法に至っては完全秘匿となっており、リオナと一部の魔女が知る情報であった。
魔法による妊娠は痛みがない。
育つまでのフォローに至っても徹底されている。
産む際には痛みもなく産めることから女性の苦悩をなくした環境であった。
「リベルトは大人しいですわ。歴史書に残るような女を襲う生き物では……」
「はい、そこまで。男の話をしても何にもならないでしょう」
鋭い目元でエレオノーラとビビアナの会話を終わらせる。
「お食事をしましょう。そろそろ母上もいらっしゃるから」
「ごめんねぇ、遅くなっちゃったぁ!」
タイミングよくひらひらした服をまとって駆けてくる。
艶やかな波打つ髪を惜しげなく、靡かせる。
気ままな自由人、妖艶で自尊心の高いリオナが序列トップの席に腰掛け、お腹を撫でる。
「あーあ、お腹すいちゃったー」
「お待ちしてました。母上はもう少し時間を守るよう努力してくださいな」
「別にいいのよ。私が一番。女王なのよ。私より偉い人なんていないんだから文句なんて言わせなーい」
キレイに伸びた爪を撫でて、口角をあげる。
「ルドヴィカは私より魔力も高いけどね。これだけしっかりしてれば次期女王もバッチリよ」
リオナの誉め言葉にルドヴィカは頬を染める。
自分より高い位置にいるリオナから目をかけられてることがうれしいようだ。
だがそんなルドヴィカの喜びもリオナは気まぐれな発言で突き落とす。
「そろそろ子を持つことを考えてもいいかもねぇ」
「子は……産まねばなりませんか? 少しでも男に関わると思うとゾッとします」
「魔法でチャチャッと終わるから大丈夫よ。ちゃんと考えるのよー」
「……はい」
目を伏せて、目の前のスープに口をつけるルドヴィカ。
だがその手は遅い。
ルドヴィカによって男は魔法も使えない下等生物。
汚い最下層の存在だと区別している。
リベルトは最下層にいたはずだ。
彼みたいな人なら怖くない。
野蛮だなんて固定概念はなくなる。
何も心配なく、家族に大切な存在だと認められたかったが、口にすることは出来なかった。
(リベルトにもご飯持っていかないとね。厨房に言わないと)
リベルトは細い。
きっと本来は本に書いてあったようにもう少し逞しさがあるはずだ。
しっかりとした食事をして、健康を取り戻してほしい。
エレオノーラの切なる願いであった。
「そうだ、今度パーティーを開こうと思ってるの。あなたたちも参加してね」
「はい、母上」
「お母さま、私は遠慮いたします」
リオナの誘いにエレオノーラはすぐさま断りを入れる。
「えー、またぁ? だからお友達が出来ないのよぉ?」
「あはは……」
(私と友達になりたがる人なんていないわよ)
そんな毒を心でぼやく。
白い王族なんて、飾りにもならない。
見栄と利益のための繋がりを求める貴族にエレオノーラは用なしだ。
しいていえば笑いものにして楽しむ娯楽王女であった。
「母上。エレナの立場もお考えになってください。私だったら耐えられぬ苦痛をエレナは耐えているのですから」
「むぅ……放っておけばいいのに。そんなのねじ伏せちゃえ」
「母上とエレナは違うのです」
「はーい」
ニコニコと聞いているが、エレオノーラの心には棘が刺さっていく。
リオナにもルドヴィカにも悪気はない。
エレオノーラを思うからこそのそれぞれの意見であった。
大切にされているはずなのに、イヤになる。
こんな色に生まれたかったわけじゃない。
それでも私を家族として扱ってくれるのだから、文句なんて言えるはずがなかった。
血が繋がってなければ、王族でなければ、エレオノーラはただの石ころだ。
こんな暗い気持ちになるのは嫌で、深く考えないよう感情をかき消すのであった。