拾われた男と3番目のお姫様【3】
場所を移動し、エレオノーラの私室。
中に入ると専属メイドのアリシアがベッドメイクを終え、一息ついているところであった。
栗色の髪をし、長い髪を編み込んでまとめる小動物のように愛らしい顔立ちの女の子だ。
黒髪が最も強い魔女であるなか、茶色の髪色はごくごく一般的なものであった。
ボロボロのリベルトの手を引いてエレオノーラが部屋に戻ると、アリシアはぎょっとして固まってしまう。
顔を青ざめさせ、じろじろとリベルトを凝視していた。
それが普通の反応であることがわからないエレオノーラはニコッとアリシアに近寄っていく。
「アリシア。リベルトに湯を浴びさせたいから準備してくれる? あと、洋裁店の方を呼んでほしいの」
「はい、わかりました。……リベルトって、まさかそれのことですか?」
怪訝そうな見る目はアリシアにしては珍しい。
普段は穏やかでニコニコとしているアリシアがここまで嫌悪を見せるのははじめてであった。
「そうよ。お母様が拾ったのを私がもらったの」
「男じゃないですか。そんなのどうするんですか?」
「あー、そうね。そこまで考えてなかったわ」
リオナの気まぐれにより拾われたものの、すぐに飽きたためにエレオノーラに渡ってきた。
考えもなく拾ってきたのがよくわかる。
女王であり、自由奔放なリオナ。
務めのために視察で男の居住区に行ったのだろうが、男を拾ってくるとは前代未聞。
衝動型で、飽き性で、まるで好奇心旺盛な子どものような母であった。
(うーん。まずは汚れを落とさないと。せっかく綺麗な色なのにもったいないわ)
「それは後で考えるわ。なるべく早くお願いね」
「……はい」
エレオノーラはエレオノーラでそこまで深く考えない癖があった。
そんなエレオノーラに慣れてはいるものの、アリシアからすると男がいると事実は不快でしかなかった。
「男なんか結界内部に入れたら危ないのに。 攻撃に強い護衛を増やしてもらいましょう」
独り言のつもりで呟いたのだろうが、エレオノーラの耳に届いてしまう。
エレオノーラは人より周りの声というものには敏感だ。
深く考えないのは思考を支配されないための自己防衛でもあった。
アリシアの毒を聞き、これが当たり前の反応だと察する。
男は野蛮で危険な生き物だと教えられてきた。歴史がそれを物語っている。
女は男から身を守るために魔法を使うようになった。
それが魔女の教育だ。
身を守る手段を身に着けた魔女は、やがて男と女を明確に区別し、層を分けて生きるようにした。
居住地の境目に結界をはり、男は入れないようになっている。
そして男女の交流はなくなり、およそ百年もの時が経過した。
その結果、魔法の使える女が優位に立ち、女尊男卑の世界になっていった。
子どもも今では男がいなくても授かることが可能だ。
一部の魔女しか出来ない繊細な魔法で、その方法は秘められているが、痛みもなく、子も産める。
女の苦悩から解放され、魔女こそ志向の生き物だと考えるようになる。
女にとって男は必要のない生き物。苦痛を与える生き物であり、嫌悪すべき対象であった。