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幼馴染に赤い鎖でつながれている  作者: 中の人
#幼馴染と繋がりたい

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23/68

23.【紫苑視点】できるだけ独り占めしていたい

 今更になって脈絡のない発言を後悔する。

 好きな人の有無を聞いたあとに、昼食を共にしたいと要求する。神川が隣にいたら勘ぐられてしまうレベルで不自然だ。


 神川と恋バナを交わしていたと聞いてから、私は内心焦っていた。

 いつか来ると思っていた、芹香の新たなる春の息吹。

 やっと手にした友人の座よりもさらに特別な位置へと、べつの女子が並ぶ嫉妬心。


 どうしても、彼女に問わずにはいられなかった。

 いま、意中の人はいるのかと。


 聞きたくないのに、知りたい。

 二律背反の感情を抱え、後悔すると分かっているのに私は欲に負けてしまった。


 そもそも本人から言い出さない限りは、根掘り葉掘り恋愛事情を聞くのはタブーだ。

 それでも芹香は、正直に答えてくれた。


 あれだけモテる彼女がいまフリーであることが奇跡なのだから、いると答えることはなんら不思議ではない。

 身構えていたためか思ったよりダメージは受けなかったが、それでも胸には喪失の穴が空いた。


 でも、これで安心して友人として接することができる。

 痛みは気にしないふりをして、今の立場で十分だと思わなくてはならないのだ。



「じゃーん」

 ランチョンマットを敷いた弁当箱の蓋を、芹香が得意げな台詞とともに開ける。


 二段目は、唐揚げやだし巻き卵やナポリタンといった定番のおかず。

 そして一段目には、色とりどりの果物の断面図が見えるフルーツロールがぎっしりと並べられていた。


 料理は目でも食べるとはよく言ったもので、鮮やかな見栄えを眺めているだけでも胃に食欲が滾ってくる。


「すごくないこれ? 初挑戦にしてはなかなか綺麗にできたと思うんだけど」

「うん、すごい。女子力高いだけあるね」


 練習するとは昨日聞いたけど、まさか今日のお弁当に持ってくるとは思わなかった。


「茶色弁当じゃ地味だから、芹香さんなりに女子力高そうな弁当にしてみたのです」

「え、私の今日の弁当茶色まみれだけど」


 芹香に作ったあの弁当が例外で、私の弁当はたいてい地味なお品書きだ。茶色のものはだいたい美味しいと相場が決まっている。


 蓋を開けて芹香に見せる。ミートボール、さば味噌煮、切り干し大根、肉じゃが。

 主食は鶏そぼろのおにぎりと、マヨネーズで和えたからあげを包んだノリ巻。

 どこに出しても恥ずかしくないほどの茶色率だった。


「めっちゃうまそう。イキってすいませんでした」

「よかったら、ご飯ものひとつあげる」

「……え? どして?」

「せっちゃん、お米派でしょ。フルーツロールだけじゃあとでお腹空くと思う」


 たまたまだけど、今日はご飯を詰めるんじゃなくておにぎりにしていてよかった。


「あー、だいじょぶ。そういうこともあろうかと、さっき購買部で軽食買ってきたから」

「そ、そう……準備いいね」


 余計なお世話だったことに肩がすぼまり、手に汗がにじむ。

 それくらい想定できたことだったろうと、脳内で反省会が始まる。目の前の相手と会話をせずに勝手に結論を出そうとするのは、私の悪い癖だ。


「まあでも、味を聞きたかったところだからちょうどいいか。ひとつずつ交換しようよ」

 これもらうね、と芹香が箸を伸ばしてから巻きをつまんだ。そのまま、整った口へ運んでいく。


「カロリーの暴力と分かっていても、美味いものは脂肪と糖で出来てるんだよねえ」


 マヨが効いててうまいうまい、と何度も頷きつつ芹香は舌鼓を打っていた。

 好物を目の前にした子供のように両手で海苔巻きを掴み、頬張っていく姿は微笑ましい。見たかった表情を自然に見せてくれる彼女に、自然と口角が上がる。


「なんでもつまんでいいから、ちょっとしーちゃんも食べてみて」

「えっと、ご馳走になります」


 少し迷って、缶詰のみかんが入っているものを取る。ラップを剥がして、一口サイズのフルーツロールを口に入れた。

 痛むことを想定して保冷剤を入れていたのか、冷気が口内に広がっていく。咀嚼すると柔らかいパンの弾力と、みずみずしい果肉を舌先に覚えた。


 クリームの優しい甘さとみかんの甘酸っぱさが混じって、後味もすっきりしている。

 美味しさを伝えるため、私は指で○のかたちを作った。


「初めて食べたけど……甘さも控えめで美味しいと思う」

「よかったー。なんか改善点とかある?」

「偉そうにケチはつけられないわよ」

「一回目で完璧にできるわけないじゃん。もっと美味しく食べてほしいからこそ、厳しい目で見てほしいのです」


 芹香の目は真剣だ。無難な褒め言葉ではなく、さらなる高みを目指すためのアドバイスを必要としている。

 ここは日和らず、心を鬼にして伝えるべきなのだろう。もうひとつフルーツロールを頂いて、時間をかけて味わう。


「……強いて言うなら、クリームがゆるいかも。あと、パンがちょっと湿っぽいかな」

「あー、確かに。果物を切った際の水分でパンがふやけちゃって、かつクリームの泡立てが足りなかったせいか」


 芹香は携帯電話のメモ帳に打ち込んでいた。

 意見から即座に原因を見つけて、改善点を言語化できるこの人の頭の回転の速さには感心させられる。


 観覧席が設けられてる体育館はかなり珍しいと思うが、誰の目も気にせず個人が思い思いに食事できるこの空間はいいものだと思う。

 夏になれば暑さで食事どころではなくなるから、いまの時期しかいられないのが難点だが。


「ごちそうさまー。明日はどうする?」

「え……っと、明日は教室で。そのうちまたここに来ようね」

「おーけー」


 私は自分の席で勉強、芹香はいつものグループと食事。

 お互いそれを分かっているから、教室でという言葉は一緒に食べないことを意味する。


 本音は、いつも昼休みを一緒に過ごしたい。芹香の時間を、できるだけ独り占めしていたい。

 だけど親しい立場を盾に首輪で縛り付けるのは、誰に対してもやってはいけないことだ。

 長続きする人間関係とは、適切な距離感が保たれているものだから。



 今日もまた、種目はバレー。

 といっても今日と明後日で連休前の体育は終わるから、実質これが最後のチーム分けとなるだろう。


 いつも通り、体育教師がPCで無作為に選別したグループ表を見ながら指定の位置に並ぶ。

 そこで初めて、芹香と同じチームになった。


「バレーの授業もいよいよ最後ということで、これまで培ってきたチームプレーの総決算となります。みんなで協力しあって、勝利をつかめるように頑張りましょう」


 体育教師の大まかな目的を耳に入れつつ、情報を整理する。

 これまでは組んだら即試合、が授業の流れとなっていたけど。今日は1時間まるまる練習やミーティングとなる。試合は明後日だ。


 毎回チーム分けがランダムだったのもこのためか。

 クラスメイトの癖をどれだけ把握しているかが、勝利の鍵となる。

 相手チームの特色、自チームの強みと弱点。これらを整理して、戦うスタイルを確立していく。


 教師の話が終わり、私達はコートに移動した。


 ルールは、これまで通り6人制の3セットマッチ。(2セット先取したほうが勝ち)

 うちのチームは私、芹香、柿沼さん、たまに芹香のグループに混じっている尾花おばな松岡まつおか

 それと、この中では唯一のバレー部である椿つばきさん。


 ざっと見た感じ、グループ全体の雰囲気は友人同士でつながっている子が多いため悪くはない。

 集まって早速、芹香が椿さんへと声をかけた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 離れていた時間を埋めるようにお互いの情報に飢えてる二人。 >聞きたくないのに、知りたい。 ささいな発言に一喜一憂、しかしネガティブw 神川さんに勘ぐられたほうがいいんだけどな(笑) […
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