コミックス2巻発売記念SS『後輩魔法使いの目標』
『酔っ払い令嬢が英雄と知らず求婚した結果』コミックス2巻が本日発売となりました!発売を記念いたしまして番外編を投稿いたします。
今回はCV千葉翔也さんがボイスコミックスで初登場!担当してくださったクレメント視点のお話になります。
「これは離れの書庫に移動させるか」
ある日の夜、クレメントは屋敷にある勉強部屋の本棚を整理していた。
彼は私室と次期侯爵として仕事をする執務室の他に、魔法書を保管する部屋――勉強部屋を所有しているのだ。
ただ勉強部屋は『いつでも読めるようにしたい』という理由で、私室の隣にあった従者用の控室を改装して作ったものであまり広くはない。
年に一度、古い魔法書を屋敷の書庫に移動させ、新しい魔法書を入れる場所を確保する必要があった。
「あ、残念な魔法ランキング」
クレメントは、書物を整理していて見つけた論文の懐かしさに笑みを零した。
残念な魔法ランキングとは、魔法学校で発表されたヴィエラの卒業論文だ。
「あれから、6年か――」
クレメントは卒業論文の表紙を眺めながら、脳裏によみがえる当時の思い出を振り返った。
***
クレメントが十七歳のとき。
ヴィエラは魔法学校の最高学年になった。
彼女はクレメントが密かに惹かれている、ひとつ上のゼミの先輩。同じゼミに所属しているため、ほぼ毎日顔合わせてきた。
しかしヴィエラが卒業してしまったら、彼女が紡ぐ基本に忠実な魔法、領地を思う優しさ、屈託のない笑顔に触れられる日々も終わり。
(卒業してほしくないな。研究を完成させるためとか、何かしらの理由でもう一年、在学延長してくれたり……は、ないな。妹の学費を稼ぎたいヴィエラ先輩は、すぐに働く選択をする。それにお祖母様を納得させるためには、ヴィエラ先輩には予定通り卒業してもらいつつ、卒論発表も成功してもらわないと……!)
ヴィエラへの恋心を自覚したクレメントは、すぐに当主である父に縁談について相談した。
しかし、家門の事実上の権力者である祖母が首を縦に振らなかった。幸いにも完全に否定されなかったが、『何かしらの成果を出さないと、婚約者として認めない』というなかなかハードルの高い条件を求められた。
だからヴィエラには、卒業論文で一定の評価を得てほしいところ。
(そういえばヴィエラ先輩から、卒業論文のテーマをまだ聞いていなかったな。よし、テーマを聞いて、最高の論文になるよう手伝おう!)
クレメントは授業が終わり次第、ゼミの教室へと真っすぐに向かった。
そうしてヴィエラに卒業論文のテーマを聞いたのだが。
「残念魔法ランキングを作る? えっと……お役立ち魔法ではなく? どうして、あえて残念魔法を??」
あまりにも想定外のテーマに動揺したクレメントは、素直に疑問を投げかけた。
一方でヴィエラは、「よくぞ聞いてくれました!」と楽しそうに応える。
「こんな魔法あったら便利なのに、どうしてないのかな……と思って調べたら、実はすでに開発されてるんです! でもそれらの魔法には致命的な副産物があって、使われていないようなのです」
「便利以上に、欠点が上回っていると」
「はい。そのせいで、その魔法が実在していることすら忘れられている状況なのです。このままでは残念な部分をなくせる技術が生まれても、忘れられているから、改善されずに放置されてしまうでしょう。そんなの……勿体ない!」
説明に熱くなったのか、ヴィエラは小さな拳を作って椅子から立ち上がる。
「これまでの開発者のヒラメキと熱意、労力とお金。頑張って開発してきたものが、このまま無駄になっていくのは実に勿体ない! テーマ名には“残念”とついていますが興味を引くためで、本来の目的は、魔法使いに覚えてもらい続けるためのもの。そうしていつか欠点を改善できる糸口が見つかれば、残念魔法の研究が再開され、魔法技術の発展にも繋がるし、残念魔法が最高魔法に変わる日がくるはずです! って、語りすぎましたね」
ヴィエラはハッと我に返ったようで、照れ笑いを浮かべながら椅子に座り直した。
そんな彼女を見つめながらクレメントは、密かに心打たれていた。
貧乏性を発揮しつつ、魔法の未来を楽しそうに語るヴィエラは純粋に魔法を好いている姿。見ていて眩しい。
(ヴィエラ先輩の魔法に対する姿勢、好きだなぁ)
恋だけでなく、魔法使いとして、人としての敬意の高まりを感じる。
そもそも恋をする前から、ヴィエラの魔法には惚れていたのだが、改めて再認識することになった。
だが直後、いきいきしていたはずのヴィエラの表情が、しょぼんと萎れた。
「ヴィエラ先輩、どうしたんですか?」
「残念な魔法をリストアップしたところまでは良かったのですが……どうやってランキングを作ればいいかと」
「どうって、できるだけ多くの人に投票してもらえば……」
「ですよね。でも私――……魔法の練習とアルバイトばかりで、ゼミ以外で知り合いがいないんです。私では、十人くらいしか票が集められません!」
「それはランキングとして駄目なやつ!」
あまりにも票が少ないとランキングとして機能せず、卒論としての信憑性も低くなってしまうではないか。
思わずクレメントは突っ込んでしまったが、ふと気が付く。
(アルバイトはともかく、ヴィエラ先輩が魔法の練習に時間をつぎ込んでいるのは、僕があの魔法もこの魔法も教えてほしいとお願いするから、それに応えるため……ヴィエラ先輩の交流の狭さは僕のせいじゃないか!)
クレメントは心の中で激しく頭を抱えた。振り回している申し訳なさと身勝手な罪悪感に頭が痛い。
(ここは僕がきちんと責任を取らないと)
自分が撒いた問題は、どうにかしたい。使えるものは使うべきだと、腹をくくる。
「ヴィエラ先輩、票集めなら任せてください。僕が侯爵家生まれだってことお忘れで?」
それから自分の持っているツテを使って、各方面へとアンケート実施と教室訪問について通達し、アポイントメントを取り付けた。
ヴィエラと一緒に魔法学校内のゼミに足を運んで、アンケートを回収する期間は非常に有意義だった。
残念魔法がどんな魔法か説明するヴィエラの話はとても勉強になるし、何より放課後ずっと一緒にいられるという事実がたまらなく幸せだった。
そうして残念魔法ランキングは無事に完成。
卒論発表会では、ヴィエラの目論見通り先生たちの心を掴み高評価。ランキングに協力した生徒たちは、自分が投票した魔法の順位について盛り上がり、発表は成功に終わったのだった。
***
「楽しかったなぁ。しかも、残念魔法が本当に役に立つとは」
思い出から現実に意識を戻したクレメントは、ふっと笑みを零した。
ヴィエラが誘拐された際、追跡で使った魔法は残念魔法ランキング五位の“ストーカー魔法”である。
もしヴィエラの卒業論文に協力していなかったら、名前はもちろん、魔法式も知らないままで、彼女を見つけることができなかったかもしれない。
致命的な欠陥があるから――と魔法の可能性を見捨てず、卒論のテーマにしたヴィエラはやはり魔法使いとして素晴らしいし、改めて魔法は面白いと思える。
「ヴィエラ先輩は、すごいや」
そんな尊敬する先輩は今、国最強と言われる婿と故郷に帰り、領地のために魔法の技術を活かそうと奮闘している。
最強の婿であるルカーシュが全面的に支援するようだから、きっと上手くいくだろう。
「負けてられないな」
魔法使いとしても。貴族の次期当主としても――いつまでも後輩気分でヴィエラの背中を追いかけ続けるつもりはない。
だから目標として、ヴィエラが自分を奮い立たせる存在である限り残しておこう。
志を胸に、クレメントは卒業論文を本棚の一番上の端に入れた。
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※ボイコミは本日昼頃に公開予定※
かんぱーい!







