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最終話 ~気持ちの伝え方・俺は藤崎朱里を世界で一番愛している~ 中編

 最終話 中編





 雫に気合いを入れられた俺は、電車では無く、愛車のポチであの公園に向かっていた。


 理由はひとつだけ。まぁ、でもそれは全てが上手くいったら。


 早朝の風が雫にはたかれ、熱を持った頬を撫でていく。


 あれは効いた、とても痛かった。心に響いた一撃だった。


「また、ちゃんと。雫におにぃと呼ばれるためにも、朱里さんを救うためにも、そして何より、俺自身のために、男をみせろよ、桐崎悠斗!!」


 車通りの少ない道路を走り、俺は約束の公園へと愛車を走らせた。










 時刻は五時五十分


 約束の時間の十分前に、俺は公園に到着した。


 ベンチには、既に朱里さんが座っていた。


 俺は公園の入口に愛車を止めてヘルメットを脱ぎ、鍵をかけて、彼女の座るベンチへと歩く。


「……おはよう、朱里さん。待たせてごめん」


 俺のその言葉に、朱里さんが顔を上げる。


「ううん。そんなに待ってな……ふふ、どうしたの?その顔」


 朱里さんは、俺の頬を見て、小さく笑う。


 理由はどうあれ、こうして笑顔を見せてくれるなら、この紅葉にも感謝だ。


「雫に気合いを入れてもらった。とても痛かったよ」

「そっか」


 俺は朱里さんの隣に腰を下ろす。


「あのね、悠斗くん。私から話してもいい?」


 俺に向かってそう言う朱里さん。


「わかった」


 俺はそう言って頷いた。


 朱里さんは小さく、ありがとう。と言うと、こっちを見た。


「ねぇ、悠斗くん。私が朝練をしてる時、黒瀬さんと毎朝読書してたのは、約束とかしてたの?」

「してないよ。初日はたまたまだったと思う。俺が読んでるライトノベルに、黒瀬さんが興味を持ってたから、純粋な布教の心で進めてた。その後は、黒瀬さんが狙って来てたとは思うけど。約束をしてたとか、そういうのはないよ」

「……そうか。なら仕方ないね」


 じゃあさ。と続ける。


「昨日の夜。黒瀬さんと一緒に帰ってたよね。あれは何で?」

「黒瀬さんは俺が働いている店を知っててね。だいたい二十時頃に夕飯を買いに来るんだ。でも昨日は俺があがる直前に来てね。暗いし、危ないから送ることにした。これは俺のミスなんだけど、本当は黒瀬さんを送る話を朱里さんにするはずだったんだ。でも。その日仕事で少しミスをしてね。それをカバーしてたらメッセージを忘れてしまったんだ」


 本当にごめん。


 も俺は頭を下げた。


「ううん。いいよ。多分そうだと思ってたから」


 朱里さんはそう言うと、寂しそうに笑った。


 そして、


「悠斗くんは……優しいね」


 と言った。


「私は……優しい悠斗くんが好き。それをさ……私のわがままで無くしちゃうのはさ、違うって思ったんだ……」

「朱里さん……」


 朱里さんは俺の目を見て笑う。


「だからさ、悠斗くんはそのままで居て?私が……それを……我慢……」


 そこまで言ったところで、朱里さんの頬を、涙が一筋、落ちた。


「あ、あれ……やだ、どうして……こんな、こんなはずじゃないのに……」


 朱里さんは涙を拭うが、止まらない……


「やだ、やだよ……私、わがままな女じゃないよ?許してあげる女の子だよ……?だから、嫌いにならないで……っ!!そう……言いたかった……だけなのに!!」


 これじゃあ悠斗くんに嫌われちゃう……っ!!





 俺は、一体何をしていたんだ……


 こんなにも彼女を傷つけておきながら、なぜ今までのうのうと生きてこれた……


 何故。彼女が朝練に向かった時に、教室に行った?

 共に過ごすつもりなら、体育館に応援に行ったって良かったじゃないか。

 昨日の送る方法だって、金に糸目をつけなければタクシーを呼んでも良かった。


 なにを、なにをしてるんだ、桐崎悠斗!!


 伝えなければならない。


 彼女に。この、誰よりも優しくて、思いやりがあって、俺を好きでいてくれる、藤崎朱里さんに。


 何が振られるかもしれないだ!!


 こんなにも愛されているのに!!


 俺の気持ちを全て、全て、全て、何も余すことなく伝えなければならない。


 ……どうすればいい。


 言葉では足りない……


 ごめん。なんて言葉では足りない。


 好きだ。なんて言葉では示しきれない。



 ……そして、俺は決心した。


 殴られるかもしれない。


 嫌われるかもしれない。


 もしかしたら、これが原因で……別れを告げられるかも知らない。


 他人から見たら最低の行為かも知らない。


 でも、今の俺が出来る、気持ちを伝える手段は、これしか無かった。






「『朱里』」


 俺は彼女の名前を呼ぶ。


「……え?悠斗くん……」


 俺は、彼女の身体を抱きしめる。

 その身体はとても小さく、そして冷たかった。


 その身体を抱きしめながら言う。








「俺は、桐崎悠斗は、藤崎朱里を世界で一番愛している……」






 そう言って、俺は、彼女の唇に、自分の唇を重ね合わせた。

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