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第九話 ⑯ ~波乱の一日・夜~ 後編 悠斗視点

 第九話 ⑯




『藤崎朱里』


 と電話の相手が表示されたスマホを手に、俺は一瞬固まる。


 嫌な予感がする。冷や汗が止まらない。動悸が早くなる。呼吸が浅くなり、回数が増えていく。


 目がチカチカする。頭がクラクラする。足がフラフラする。


「……出ないのですか?」

「……っ!!」


 黒瀬さんのセリフで我に返り、俺は電話に出た。


 待たせた時間は一秒くらいだろうが、俺にはすごく長い時間に感じられた。


「もしもし……」


 俺は朱里さんに話しかける。


『ねぇ、悠斗くん。今どこに居るの?』

「……え?」


 今、どこに、居るの?


 何故そんなことを聞く……


 まさかっ!!


 俺は目の前の黒瀬さんを見る。


「ふふふ……」


 彼女は今朝から浮かべるようになった、妖艶な笑みを浮かべている。


『黒瀬さんの家、かな?』

「……っ!!??」


 俺の息を飲むような反応は、もはや答えだった。


『……黒瀬さんと悠斗くんが仲良さそうに帰ってる写真がね、女子のグループに流れてるの』

「…………」


 何も言葉が出なかった。


 なぜ俺は、黒瀬さんを送ると、朱里さんへの連絡を怠った。


 なぜ俺は、山野先生に言われた、黒瀬さんの行動力について失念していた。


 何度、俺は、間違いを……っ!!


『ねぇ、悠斗くん……なんで、そういうこと、しちゃうのかな……』


 優しい悠斗くんが好き。でも、誰にでも優しい悠斗くんは……きらいだよ……

 私は、私だけに優しくして欲しいって、思っちゃうよ……

 ねぇ、悠斗くん……私って、重い?


 何も言えない。


 無言で彼女の声を聞く時間が増える。


 そして、そんな俺のスマホを、黒瀬さんが奪う。


「……え!?」


 彼女の手奪われたスマホを見て愕然とする俺。


 まずい!!何を言われるか!!


「もしもし、藤崎さんですね?」


『……え?黒瀬さん?』


 黒瀬さんは通話形態をスピーカーに変えていた。


 朱里さんの声が、俺にも聞こえる。


「大変申し訳ございません。悠斗くんには私が無理を言って送って貰ったんですよ?」

『……っ!!白々しい……』

「あ、申し遅れましたが、今の通話はスピーカーになっておりますので」

『なっ!!』

「悠斗くんに聞かれている。というのを前提にお話しましょうか?」

『黒瀬さんと、話すことなんて、ないよ』


 悠斗くんにスマホを返して。


 と、朱里さんの声が聞こえた。

 とても冷めた声だった。


「ふふふ、そうですか、それは残念です。私はお話したかったのですが。では藤崎さん。最後にひとつだけ。聞いていただけますか?」


 とても小さな声で、黒瀬さんは、朱里さんに何かを言っていた。俺は、それを聞き取れなかった。


 だが、黒瀬さんはとても満足そうにスマホを俺に返してきた。


 そして、俺に言う。


「悠斗くん。今日は送っていただいてありがとうございました。また明日からも仲良くしてくださいね」


 そう言って、マンションの自室へと帰って行った。


「……朱里さん」

『ねぇ、悠斗くん。私ね、今日部活で捻挫しちゃったんだ』


 えっ!!??


『あぁ、心配しないでいいよ?バスケと捻挫なんて友達みたいなもんだし。まぁ一週間は安静かな』

「……そうなんだ」

『それでね、一週間くらいはお父さんかお母さんの車で送って貰う予定なんだ』


 だから、朝一緒に登校しなくていいよ。


 と言われた。


「…………」


 何故だろう。別れを突きつけられたかのような焦燥感に襲われる。一週間。一週間だ。その期間を一緒に登校しない。そう言われただけなのに。……だけ?だけじゃないっ!!

 今、この状況下でそういうことを言われるのはっ!!


「……あ、あの!!朱里さ……」

『でもね、悠斗くん』


 俺の言葉を遮るように。朱里さんが言う。


『明日だけは登校前に時間を貰えないかな?』

「時間?」

『うん。朝は早いけど六時に、私の家の前の公園に来て』


 そこで、話したいことがあるから。


「……そうか」

『うん。早いけど、頑張ってきてね。じゃあ切るね』


 あとさ、考えをまとめたいから、このあとメッセとか電話とかおやすみとかいらないから。


「……わかった」

『さよなら。悠斗くん』


 プツ……


 電話が切れた。


 俺はひとつ息を吐く。



 さよなら。悠斗くん。か。



 優しい悠斗くんが好き。でも、誰にでも優しい悠斗くんは……きらいだよ……

 私は、私だけに優しくして欲しいって、思っちゃうよ……




 彼女の本音だ。


 佐藤さんにも言われてたじゃないか……


 明日。俺は彼女に何を言われるのか。


 とりあえず、寝坊の心配はないと確信を持って言える。


 こんな状態で、眠れる訳が、なかった。

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