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第九話 ⑫ ~波乱の一日・夕方~ 朱里視点

 第九話 ⑫



 朱里視点




「朱里が桐崎くんと付き合ってるなんて、バスケ部みんな知ってたよ?」

「……え?」


 部活が始まる前、更衣室で部員のみんなに悠斗くんとの交際を打ち明けると、そのほとんどから「知ってたよー」という言葉が帰ってくる。


「え?朝練前にあんなイチャイチャしながら登校しておいて、バレてないとでも思ってたの?」

「……み、見られてた感じ?」


 頷くみんな。は、恥ずかしい!!


「だからさ、バスケ部はみんな朱里の味方だよ?」


 学食でのひとまくも見てたようで。


「まぁ、ここには優子しか朱里のクラスメイトは居ないから、なかなかあなたのクラスの雰囲気まで変えるのは難しいけど、応援はしてるからね!!」

「あ、ありがとう!!」


 バスケ部のみんなが私を応援してくれる。

 それがとてもこころ強かった。


「よーし。じゃあ部活頑張ろうか!!」


 私はそう言うと、勢いよく体育館へと飛び出す。


「朱里!!準備体操とストレッチしっかりやんなよー」

「わかってるー!!」


 心と身体がかなり軽くなった。


 教室の中に居た時とは違う開放的な気分を私は感じていた。


 黒瀬さんがどれだけ策略を巡らせても負けないぞ!!


 そう言う決心を固めていた。





 でも、やっぱり。私の心と身体は本調子じゃなかったみたいで。


 気持ちが空回りしてしまってたんだ。







 それが起きたのは、ミニゲームをしてる時だった。


 私はゆーこちゃんからパスを受け取ると、ドリブルで相手陣地に切り込む。


「させないよ、朱里!!」


 ディフェンスが直ぐに入る。

 でも、


「甘いよ!!」


 私は得意の後ろに飛びながら打つシュートを放つ。


 パスン!!


 私の放ったボールはリングを通り抜けた。


 グキ……


 と言う音が聞こえた気がした。


 右足首に激痛が走る。


「朱里!!大丈夫!!??」


 着地を失敗した。ということに気がついたのは、あまりの痛みに、足を押えて倒れた時だった。


「痛い……」


 私は唇を噛み締める。


 多分……捻挫だ。


 どの程度かはわからないが、一週間は安静で、その後三週間は様子見かぁ……


 なんてことが頭に過ぎる。


 準備体操もストレッチもしっかりしたけど、やっちゃう時はやっちゃうよなぁ……


 なんてことも思っていた。


 怪我をすると思考がはやくなるなぁ。


 私は半身を起こし、目の前に居た部長に声をかける。


「部長すみません。今日は早退して病院行きます」


 その言葉と共に頭を下げる。


「朱里。わかってると思うけど、無理はしないこと。捻挫は癖になるからね?」

「……はい」

「私たちは次の夏の大会が最後だけど、あんたはまだ先がある。だから絶対に完治するまで無理しないこと」

「……はい」


 そこまで言うと、部長はニコリと笑う。


「あんたの代わりなんていくらだって居るんだから!!ゆっくり治しなさい!!」


 私は部長の優しさに泣きそうになった。


「朱里、肩貸すよ。部長!!私も早退します!!朱里の病院に着いてきます!!」

「ゆーこちゃん……」


 私はゆーこちゃんに肩を借りて、コートの外に出る。


「軽いね、朱里。もっと筋肉つけなきゃ」

「そ、そこはテクニックでカバー……」

「フェイダウェイの着地ミスってる人間のテクニックかぁ……」

「うぅ……ゆーこちゃん、優しくない」

「ばかね。こういうのを言うのも友達の役目でしょ?」

「ふふ、ありがとう」


 私たちは更衣室に言って、着替えをする。


「とりあえず。悠斗くんにはバイトが終わったらメッセージしようと思う」


 仕事中だし、あまり心配かけたくないから。


「まぁ、いーんちょーなら下手したらバイト早退してでも駆けつけそうだよね」


 そうなんだよね。バスケと捻挫なんて友達みたいなもんだから、いちいち気にしてたらキリがない。


 とりあえずお母さんに電話して、車で迎えに来てもらって、それからゆーこちゃんと一緒に病院で診察を受けよう。


 正直なところ。怪我した時って一人だとどんどん不安になってくるから、ゆーこちゃんが居るとすごく心強い。



 お母さんに電話すると、私の捻挫なんてもう慣れたもので、

 すぐに車を出してくれた。




「朱里、大丈夫?」


 車から降りたお母さんが心配そうに声を掛けてきた。


「うん。まぁただの捻挫だよ。靭帯切れたとかそういうのじゃないよ」


 だから安心してよ。


 膝の靭帯が切れるとか、バスケならある……


 だから、過度なプレイや練習。そして準備不足は厳禁だ。


 今回は多分普通の捻挫だからそこまでは。


 まぁ、見てもらわないと分からないけど。


「ゆーこちゃんも来てくれるのよね?朱里の話し相手になってあげて?」


 と、お母さんがゆーこちゃんも車に乗るように促す。


「ありがとうございます。朱里やつは口ではこんなこと言ってますけど、本当は不安でいっぱいのはずですから!!」


 と、ゆーこちゃん。


 はは、見破られてる。


 今日はただでさえ色々あったから、気が滅入ってる……


 ゆーこちゃんが居てくれて、本当に良かった……



 私たちは三人で行きつけの病院に向かった。



 そして、診断の結果。やっぱり捻挫。


 一週間の安静と三週間は様子見。


 その間は上半身の筋トレと、体幹の強化だな。


 あーあ……アレきついんだよなぁ……


「まぁでも普通の捻挫で良かったね」


「良いか悪いかで言えばそうだね。まぁこの機会に体幹鍛えるよぉ」


「はは、アレきついよねぇ……」


 お母さんは、私を家まで送ったあと、ゆーこちゃんを学校まで送るって言っていた。

 本当はゆーこちゃんの家って言ってたけど、彼女の自転車が学校にあるから、ゆーこちゃんが学校でお願いしますって言ったよう。


 お母さんがゆーこちゃんを連れて、学校へと車を走らせる。


 家には私一人だった。




 ……はぁ。なんか、嫌になるなぁ……


 今日は一日ずっと嫌な気分だった。


 その上怪我までして……


 心がへこんでいく。


 お風呂も入れないからシャワーで済ませないと。


 はぁーあ。


 時計を見ると、二十時だった。


 悠斗くんのバイトが終わって、家に帰ったあたりでメッセージしよ。


 そしてら少しは気分が晴れるかな?


 私はそんなことを思いながら、松葉杖をつきながら自室へと歩いた。






 もっともっと、嫌な気分になることが、この後待ってるとも知らずに……



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