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第九話 ④ ~波乱の一日・朝~ 悠斗視点

 第九話 ④



『私の忠告を無視したバカへ。こんなのが出回ってるぞ!!朱里はこっちで何とかしとくから、お前は猛省しろ!!』


 もうそろそろみんな来る頃かな?


 なんて思ってた時だった。


 スマホがブルりと震えたので、読書を中断して画面を見ると、RAINの通知が来ていた。


 そして、届いたメッセージを見て愕然とした。


 なんだよ……これ……


 佐藤さんからの怒りのメッセージと共に送られてきたのは、黒瀬さんとの写真だった。


 今日の写真!?一体いつ!!いや、この黒瀬さんのカメラ目線は!!知ってたのか!?


 俺は慌てて隣の黒瀬さんを見る。


「ふふ、どうしましたか?悠斗くん」


 そこには妖艶に笑う黒瀬さん。

 彼女のそんな表情……初めて見た……


「黒瀬さん……これ、知ってて……」


 俺は佐藤さんから送られてきた画像を黒瀬さんに見せる。


「あら、良く撮れてますね。流石は斉藤さんの最新スマホですね」

「そ、そう言う事じゃなくて……っ!!」


 俺の唇をまた人差し指で押さえる黒瀬さん。


「ふふふ、そんなに興奮しなくてもわかってますよ?」


 それに、本番はここからです。


「え……」


 その時だった、


「おはよう、桐崎くん!!」

「桐崎ー、お前黒瀬さんといつの間にそんな仲良くなったんだよー!!」

「さっきまで外から見てたけど、随分と親密そうじゃないか?」


 教室の扉がガラリと開き、クラスメイトがなだれ込んでくる。


 い、何時から居た!?


 何処から見られてた!!??


 混乱する俺。思考が纏まらない。


 どうすればいい。何を言えばいい!?


 この状況で、今俺に何が出来……


「まぁまぁ皆さん。そんなに慌てないでください」


 興奮するクラスメイトに、黒瀬さんが両手を前に出して落ち着くように言う。


「……く、黒瀬さん……」


 良かった。誤解を解いてくれ……


「あんまり『悠斗くん』に詰め寄らないでください。彼が困ってますよ?」

「……っ!!??」


 い、今このタイミングで名前呼び!!??


 ま、まさか……黒瀬さん、これを見越して……


 今まで俺を、俺以外も苗字で呼んでいた黒瀬さんが、今この場で俺を名前で呼ぶ意味。

 それが、何を現すのか。クラスメイトがどう考えるかなんて、考えるまでもない……っ!!


 案の定。黒瀬さんの名前呼びに反応するクラスメイト。


 ダメだ。止められない……


 俺は脱力するように、椅子に座る。


「あんまり黒瀬さんに優しくしすぎない方がいいよ」

「なんか、あの手の女の子って男慣れしてないと思うから、ちょっと優しくされたらコロッと行っちゃう気がするよ」


 佐藤さんから言われてた。あまり優しくしすぎるなと。


「自分では浮気のつもりなんかなくても、他人から見たらそう見える。なんてざらだからね?」


 雫からも言われていた。他人からの目を気にしろと。


 なんで俺はその言葉を聞き流していた。


 その結果がこれか……


 その時、教室の扉が開き、朝練を終えた健と佐藤さんと朱里さんが入ってくる。


「悠斗!!喉乾いた!!」


 教室内の声をかき消すように、健が声を張り上げる。


 その声に、ザワついていた教室が静かになる。


「あ、ああ……健。今日も用意してあるんだ……」


 俺はそう言いながら、水筒と紙コップを取り出す。


「佐藤さんとあ、朱里さんも飲むよね……」


 俺はおずおずと、二人に問いかける。


「あぁ、いーんちょー貰うよ」

「うん。私も貰うよ悠斗くん」


 二人は笑顔で紙コップを受け取る。


 その笑顔が怖かった……


 そして、俺はいつものように黒瀬さんにも聞く。


「く、黒瀬さんも飲むかな?」


 俺のその問いに、黒瀬さんは微笑む。


「えぇ、私もいただきますね。『悠斗くん』」

「……っ!!」


 黒瀬さんによる俺の名前呼び。

 それを初めて聞いた三人が俺を見た。


「ふふ、皆さん驚かれてますね。私たちもだいぶ親密な間柄になれたと思いましたので、名前で呼んでもいいですか?と聞いたところ、悠斗くんから了承をいただいた次第であります」

「そ、そうなんだ……」


 その言葉に、朱里さんが絶望的な表情をする。


「武藤くんや藤崎さんは彼を名前で呼んでますので、私だけ仲間外れは嫌ですよ?それに、毎朝彼とは大切な時間を過ごしてきました。いつまでも苗字で呼ぶのは変かと思いまして」


 そう言って黒瀬さんは妖艶に笑う。


 誰だよ、この女を聖女とか言った奴は


 健が紙コップを握り潰し、ボソリと呟いたのが聞こえた。



「ねぇ、黒瀬さん。桐崎くんとはつきあってるのぉ??」



 その時。クラスメイトのひとりが声を上げる。


 そ、そうだ!!ここでキチンと黒瀬さんが否定してくれれば丸く収まるはず!!


 俺はそんな淡い希望を抱いた。


 しかし、それは儚く散った。


「ふふ、そうですね。彼とは毎朝二人きりで読書をするなど、大切な時間を過ごしてきました。とても親密な間柄になれたと思います。こうして私が彼を名前で呼ぶのを許してくれました。ですが、その質問に対する回答は、『まだ』そういう関係ではない。とだけお答えします」


「……っ!!」


 や、やられた……


 そんな言い方、『交際前提レベルの両片思い』みたいなもんじゃないか!!


 クラスメイトはその言葉に色めき立つ。


 その様子を満足気に眺める黒瀬さん。


 チラリと朱里さんを見る。


「…………っ」


 朱里さんは唇を噛み締め、じっと耐えている。


 今ここで、俺が朱里さんと交際してる。

 黒瀬さんとはなんでもないんだ。


 なんて言える雰囲気ではなかった……



「うーし!!お前ら席に付け!!なに高校2年にもなって騒いでるんだ!!??」


 ガラリと教室の扉が開き、山野先生が入ってくる。


「おい桐崎!!学級委員のお前が居ながら何してる!!」


 ブチ切れしてる山野先生。


「は、はい!!すみません!!」


 俺は立ち上がり、謝罪の言葉を叫ぶ。


「昼の休憩時間に進路指導室に来い!!反省文だ!!」


 あ、そうか……その場で話をしろ。と言う意味だ。


 俺は先生の言葉の裏を読み取り、


「わ、わかりました!!何枚でも書きます!!」


 と、叫んだ。


 そこで、チャイムが鳴った。


「ショートホームルームを始める。桐崎、号令だ!!」


 山野先生……ありがとうございます。


 俺は場を収めてくれた先生に感謝しながら、号令を行った。

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