表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/283

第九話 ② ~波乱の一日・早朝~ 聖女様視点

 第九話 ②



 聖女様視点


 今日。私は朝の教室に行くかを悩んでいました。


 桐崎くんが好きだとわかった昨日の夜。

 どんな顔をして彼に会えば良いかわかりませんでした。


 しかし、私は決めたはずです。

 桐崎くんから拒否をされない限りは、自分から離れることはしないと。


 それに、今まで来ていた人間が、急に来なくなる。

 優しい桐崎くんのことです。きっと心配してしまうでしょう。


 ……彼女では無い、私であっても。


 彼から借りたライトノベルは全て読み終えていました。


 私はその本達を紙袋に入れ、カバンの中に丁寧にしまいます。


 この本があったからこそ、私たちは繋がって居られました。


 桐崎くんは、また本を貸してくれるでしょうか。


 私は少しだけ不安になりましたが、貸してと言えば彼は貸してくれるはずです。

 そのくらいの信頼関係は築けて居ると思いたいです。


「そうだ……名前で呼んでみてはどうでしょう……」


 ライトノベルでもありました。

 別に付き合ってなくても、特別な信頼関係があれば名前で呼び合える関係でいられると。


「……悠斗……くん」


 試しに口にしてみました。


 顔が熱くなりました……


 でも、呼べます。


 きっと彼は、私の事を『詩織』と呼ぶことは無いでしょう。

 ですが、私が彼を名前で呼ぶのは問題無いはずです。


 彼の友達の武藤くんも悠斗と名前で呼んでます。


 そうだ。仲間はずれは嫌です。という言葉で彼を説得しましょう。


「よし、行きましょう」


 私は身だしなみを整え、最近始めたお化粧もし、彼の待つ教室へと向かいました。












「……居ました」


 教室に着いた私は、扉の窓から中の様子を覗き見ます。


 そこには、読書をする桐崎くん……いえ、悠斗くんが居ました。


 その姿を見た瞬間。心臓がドキドキと大きく脈打ち、呼吸が早くなり、私の顔が赤くなりました。


 ……恋とはこんなにも、私の心と体を乱すんですね。


 私は大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着けます。


 大丈夫。行けます。


 私は教室の扉を開け、悠斗くんに朝の挨拶を、


「おはよう、黒瀬さん」


「……おはようございます、桐崎くん」


 私からしようとした朝の挨拶は、悠斗くんからしていただけました。

 予定が少し狂い、心が乱れます。


「どうしたの、黒瀬さん。少し顔が赤い気がするけど……」


 ば、バレて……っ


「……っ!!いえ、大丈夫です」


 私はそう言うと、悠斗くんの隣に座ります。


 あ、悪手でした……ドキドキが止まりませんっ


「あぁ、そうだ。黒瀬さん、はいこれ」


 悠斗くんはその言葉と共に、ライトノベルが何冊か入った紙袋を私に渡してくれました。


「そろそろ読み終わった頃かなーって」

「ありがとうございます。ちょうど読み終わっていたので、続きは無いかなと思っていたところです」


 少しだけ落ち着いてきたわたしは、カバンの中から読み終わったライトノベルが入った紙袋を悠斗くんに返します。


「非常に楽しく読ませていただきました」

「いえいえ、俺も楽しんでもらえたなら嬉しいよ」


 悠斗くんはそう言うと、私から受け取った紙袋をカバンに入れました。


 私は、悠斗くんから受けとった紙袋を開きました。

 そこには私が読んでいた作品の続刊がズラリと入っていました。


「わぁ……またこんなに……」


 貸してください。と言わなくてもこんなにも、私のために本を用意してくれる。

 悠斗くんの優しさに心が踊りました。


「今貸してたライトノベルの続きなんだ。一巻でのまとまりもあったけど、二巻以降もすごく面白いから期待して欲しい」

「嬉しいです……ありがとうございます……」


 私はまるで宝物をいただいたように、紙袋を抱きしめました。

 これがある限りは、彼と一緒に居られる。


 ちらりと悠斗くんを見ると、少しだけ顔を赤くしてました。

 もしかして、少しは私の事を意識していただけてるのでしょうか?


 だったら、まだ私にもチャンスが……っ!!


「あ、あの!!桐崎くん!!」

「な、なにかな?」


 私は意を決して悠斗くんに切り出します。


「そ、その……私たち、仲良くなったと思いませんか!!??」

「そ、そうだね。全く話してなかった去年より、全然話すようになったし」

「ですよね!!仲良しですよね!!」

「う、うん?な、仲良し……」

「仲良しですよね!!」

「はい。仲良しです……」


 言質取りました!!

 ここが勝負どころです!!

 私は一気に畳み掛けます。


「そ、その……仲良しなので、桐崎くんのことを名前で呼んでもいいですか……?」

「……え?」

「で、ですから!!」


 ゆ、悠斗くん……と、呼んでもいいですか……?


 す、少し噛んでしまいました……


 少しだけ悠斗くんは困った顔をしています。


 だったら……あの手で行きましょう。


「武藤くんも、藤崎さんも、その、名前で呼んでますので……仲間はずれは嫌です……」


 少しだけ寂しそうな雰囲気を出しながら私は言いました。


 そして、彼は思案して、言いました。


「わ、わかったよ……」


 や、やりました!!


「ありがとうございます。悠斗くん!!」

「……っ!!」


 私は満面の笑みで彼の名前を呼びました。


 悠斗くん。驚いてます。


 ですが、やはり彼は少し続けて来ました。


「だけど、ごめんね。黒瀬さんのことは名前では呼べな……っん」

「わかってますよ?」


 彼が言いたいことはわかってます。


 なので、その唇を私が押えました。


 そして、そのまま告げます。


「悠斗くんと名前呼ぶのは私だけでいいです」

「……そうか」


 ふふ、安心した表情です。


 でも、悠斗くん覚悟してくださいね?、


「そのうち『詩織』って呼ばせてみせます」


 これは私の決意表明です。


 誰に後ろ指をさされようと関係ありません。


 もう、私は決めました。


 どうしても、悠斗くんが欲しい。


 彼と一緒の道を歩んで行きたい。


 その為ならなんだってしましょう。








 そう。今この瞬間を、教室の外の扉から覗き見して、あまつさえ私たちの写真を撮っているクラスメイトの彼女を利用してでも……。








 ふふ、彼女は確か……斉藤さんでしたね?


 驚いた表情をしてます。


 彼はそれに気づかずに、読書をしてます。


「ふふ、悠斗くん。私も続きを読みますね」


 私は彼から借りたライトノベルを一冊取り出しました。


 そして、教室の外でカメラを構えている彼女に向かって私は視線を向けます。


 斉藤さんはこちらに気が付かれたことを知り、慌ててます。


 私はそんな彼女にウィンクを飛ばし、人差し指を立てて


「シー」


 とやりました。


 少しだけ笑った斉藤さんは私のその姿を写真に撮ってました。



 ふふ、沢山撮っていいですよ?



 私は隠し撮りが嫌いでしたが、この時だけは沢山撮って欲しいと心から思いました。


 ふふふ……


 さぁ、藤崎さん。


 覚悟してくださいね?


 あなたの大切な彼氏は、


 私がいただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ