第七話 ⑧ ~片親の寂しさを感じる歳はもう終わったと思ってる~
第七話 ⑧
「おかえり悠斗」
「ただいま、親父」
バイトを終えて帰ってくると、親父が晩酌をしていた。
ビール片手に今日はあたりめを食っている。
「どうした?なんだか今日はいつもより疲れた顔をしてるな」
「……わかるのか?」
「そりゃあ俺はお前の親だからな。息子のことくらいは朝飯前だ」
時間的には晩飯後だかな!!
と言いながら、親父はゲラゲラと笑う。
俺は雫が作ってくれていた夕飯のカレーライスを温める。
明日のお弁当はカレーかな?
そんなことを考えていると、
「お前にこれをあげよう」
と親父が何やらチケットを出てきた。
「お前に彼女が出来たと知ったからな、これをデートにでも使ってくれればとな」
内容を確認すると、行こうと思っていた水族館のペアチケットだった。
「これでチンアナゴを見て来なさい」
「なんでチンアナゴ限定なんだよ……」
電子レンジから温まったカレーを取りだし、俺はラップを破り捨てる。
冷蔵庫から麦茶と福神漬けの入った器を取り出し、福神漬けをカレーに盛りつける。
福神漬けを冷蔵庫にしまい、俺は席に着く。
カレーを一口食べ、やっぱり雫の料理は美味いな。と舌鼓を打っていると、
「水族館と言えば、イルカ、ペンギン、チンアナゴだろ?」
「……なんで司さんと一緒のこと言うんだよ……」
カレーを咀嚼し、嚥下する。
麦茶を飲んで口をリセットする。
「まぁでもチケットは嬉しいよ。ちょうど水族館でデートしようと思ってたところだから。ありがたく頂くよ」
「そうか、そう言ってもらえると嬉しいぞ」
親父はそう言うと、ビールを飲んでニヤリと笑う。
「俺が母さんと初めてキスをしたのも水族館だ」
「……へぇ、俺は公園だよ」
親父がそんなことを言ってくるので、俺も適当に返す。
「ほぅ、手が早いな。もうしたのか?」
「ほっぺにキスされた」
俺がそう言うと親父が笑う。
「ほっぺにチューなんて今どき小学生だってしてるぞ!!」
「うるせえな。キスはキスだ」
不貞腐れたように俺はカレーを頬張る。
「俺がしたキスの話は唇と唇だよ」
「両親のそんな話なんか気持ち悪くて聞きたくないね」
「そんな事言うなよ。昔は思い出話を聞きたがってただろ?」
「昔の話はもういいだろ?それに母親のことを知りたがる歳はもう終わった」
「そうか……」
親父はそう言うと、仏壇に飾られた母親の写真を見つめる。
若い頃の母親の笑顔の写真だ。
「お前も大人になったってことだな」
そんなことを言う親父。
何言ってんだよ……
俺なんか、まだまだ子供だ。
大人になりたいとは思っていても、なかなか上手くいかない。
俺は皿に残ったカレーを咀嚼しながら、朱里さんをどうやってデートに誘うかと、黒瀬さんにどうやって弁解するかを考えていた。