第六話 ⑥ ~みんなで焼肉を食ったあとは身体を動かして消化しました~
第六話 ⑥
それはある意味異様な光景だったのかも知れない。
『なぁ、あのテーブル見てみろよ?』
『聖女様に野球部のエースにバスケ部の美少女レギュラー二人に学年次席の桐崎かよ』
『あそこだけなんか空気違うね?』
『いや、ガチで空気が違うだろ?』
『なんで全員昼飯が焼肉なんだよ?』
『わかんねぇよ何なんだよアレ。なんかの儀式かよ?』
「ねぇ、いーんちょー。私ら目立ってない?」
と、佐藤さんが言う。
「まぁ、男女五人が全員焼肉食ってたら目立つよな」
「いや、でも仕方ないだろ!!黒瀬さんがあんな美味そうに焼肉の話したら焼肉の口になるだろ!!」
「あはは。まぁでもみんな焼肉頼めて良かったよね。売り切れちゃうかと思った」
「皆さん早く食べましょう。美味しい焼肉が冷めてしまいます」
と黒瀬さん。もう目がもう焼肉しか見てなかった。
「黒瀬さんの焼肉圧が強い。でもそうだね、冷めないうちに食べようか」
俺たちは、いただきます。と声を揃えると、タレの味がしっかりと染みた焼肉に舌鼓を打った。
「やべぇうめぇぞ!!」
「学食で初めて焼肉食べたけど、美味しいね」
「朱里。これはバスケ部には内緒にしておこう。売り切れてしまう」
皆が口々に感想を言っている。
「黒瀬さんはこれを毎日食べてたんだよね?」
俺はその中で、無言で焼肉を食べている黒瀬さんに声を掛ける。
黒瀬さんは口の中の焼肉をよく噛んでから飲み込み、水を一口飲んでから答える。
「そうですね。毎日焼肉セットでした。塩、タレが基本ですが、稀にヤンニョムチキン味がありました」
「ヤンニョムチキンなのに牛肉なんだね」
「そうですね。ですがピリ辛でなかなか美味しかったですよ」
ふふ、と笑いながら黒瀬さんが言う。
「そうなんだ。これからはちょっと学食の焼肉セットを見ていくようにしようかな」
今日だけで良く笑ってくれるようになった。
少しだけ仲良くなれる手応えを感じながら、俺は残っていた焼肉を食していった。
昼ごはんを食べたあとは、そのまま食堂に残り、五人で他愛のない会話をして仲を深められたと思う。
お腹が脹れ、眠くなる五時間目だが、その日は体育だった。
男子はソフトボール。女子は体育館でバスケだった。
「おっしゃあ!!俺の出番だぜ!!」
野球部の健が威勢よく『右打席』に立つ。
本来右投げ左打ちの健だが、体育のソフトボールの時間では効きとは逆の打席に立つ。
流石に現役野球部のクリーンナップが本気だす訳には行かないからだろう。
でもまあ、やつはそれでもバリバリ打ち返すけど。
だが、俺はそんな奴の無敵ロードに土を付けてやろうと、ピッチャーマウンドに立つ。
「健。お前の打率十割もここまでだ」
俺はそう言うと、ソフトボールを健に突き付ける。
「おもしれぇ!!やってみろ」
バットを構える健。
俺は振りかぶり、動画で見た『ウィンドミル』でボールを投げ込む。
「うおおおおぉ!!!!」
バスン!!
俺の放ったライズボールに、フルスイングした健のバットが空を切る。
ぶっちゃけあいつが空振りしたのも始めてだ。
「やるじゃねぇか悠斗」
ニヤリと笑いながら健が再びバットを構える
俺は少しだけ握りに変化をつけ、ウィンドミルで投げ込む。
「だぁりぁあああ!!!!」
バスン!!
俺の放った沈むボールに、フルスイングした健のバットが空を切る。
ツーストライク。遂にやつを追い込んだぞ。
だが、問題はここからだろう。
これまでは二回ともホームラン狙いのフルスイングだが、ここからはシャープなスイングに変えてくるはずだ。
俺は一球様子を見るために高めに外すようにライズボールを投げ込む。釣られて振れば儲けもの。
バスン!!
健は余裕を持って見逃す。
「手を出さねぇな」
「悠斗の性格なら三球勝負は無いってわかってたぜ」
「なるほどな」
俺はそう言うと、次を勝負と決める。
おそらく、健もそのつもりだろう。
俺は勝負球を選択する。
くらえ!!
俺は渾身の力を込めて、ド真ん中にストレートを投げ込む。
「うおおおおぉ!!!!」
ガン!!
健のバットが俺のストレートを捉える。
しかし少し差し込まれた健の打球は、投手の俺に向かって飛んでくる。
だが、十分補給可能な速度だ。
バシン!!
健の打球をしっかり受け止め、アウトにする。
「負けたか……」
「本気の左打席じゃないのに何悔しがってるんだよ」
「それでも打てると思ったんだがな。まぁ仕方ねぇか」
今度から悠斗が投手の時は左で打つぜ。
そう言って健は打席を離れた。
そして、健の打席が終わったので俺は次の打者のクラスメイトにむかって、
「よーし。あとはみんなで沢山打って遊ぼうぜ!!」
そう言って普通の下手投げで打ち頃の速球を投げる。
「桐崎やっぱわかってんな!!」
「あんなガチでやられたら打てねぇからな」
「バカスカ打ってやるぜー」
時間が来るまで俺はみんなのバッティングピッチャーをやりながら、かなり熱を持った右腕を休めながら適当にぽんぽんと投げたのだった。