第六話 ② ~少しずつ黒瀬さんと仲良くなれてる気がしました~
第六話 ②
黒瀬さんとそんなやり取りをしていると、教室に少しづつクラスメイト達が入ってくる。
「おはよう、桐崎。なんだ早いな」
「おはよう。ちょっと教室でゆっくり本でも読もうと思ってさ」
「なんだーえっちな本かよー?」
と、言ってからかってくるクラスメイト。
や、辞めてくれ。隣から来る黒瀬さんの視線が痛い。
「……い、いや、普通のライトノベルだから……」
と、言葉を濁す。
「まぁ、桐崎が読んでるとただのライトノベルも頭良さそうな本に見えてくる不思議があるよ」
なんてったって去年の学年二位だからな。
「ははは、まぁ去年はずっと黒瀬さんに負けてきたからね」
そう言って隣を振り向く。
「今年は勝たせてもらうよ、黒瀬さん」
その言葉に少しだけ驚いた表情を浮かべる彼女。
だが、小さく唇の端を持ち上げ、不敵な笑みを浮かべる。
「そう簡単に、首席の座は譲りませんよ」
そう言ってきた。
「へぇ、桐崎。聖……黒瀬さんと仲良かったのか?」
意外そうにそう言う彼に俺は、
「最近少し話すようになったんだ」
と答える。
こういう姿を見せていくことで、少しずつ彼女をクラスに馴染ませていきたい。
そう思っていた。
まずはクラスメイトが、黒瀬さんのことを『聖女様』と呼ばないようになることから始めていきたい。
随分と教室に人が増えてきた。
「腹減った!!悠斗!!なんか食いもん持ってねぇか!!??」
朝練を終えた健が騒々しく教室に入ってくる。
「……朝に俺が握ったおにぎりならあるぞ」
「珍しいな。雫ちゃんの弁当はどうした?」
「今日は俺に用事があって早起きしたから作って貰ってない。明日からはまた作ってもらう予定だ」
「そうか。おにぎりくれ!!」
「貸し一だからな」
そう言って塩むすびを健に投げる。
「もうお前に貸しを返しきれる気がしない!!」
「期待しねぇで待ってるよ」
そんな会話を健としてると、
「あー疲れたよー」
「春休みでずいぶんと身体がなまってたよね」
そんな会話をしながら朝練を終えた朱里さんと佐藤さんが教室に入って来る。
「お疲れ様二人とも。スポーツドリンクがあるけど飲むかな?」
俺はそう言ってカバンの中に入れていた少し大きめの水筒を取り出す。
「ありがとう悠斗くん!!飲む飲む!!」
「いーんちょー私もいいの?」
「おい、悠斗!!俺にもくれ!!」
そういう三人に、俺はカバンの中から使い捨ての紙コップを取り出す。
3人にそれを手渡すと、そこに良く冷やした『少し薄めに作ったスポーツドリンク』を注いだ。
「吸収率を高める為に薄めに作ってるから」
ぐびっとスポーツドリンクを飲み干した健が、コップを突き出す。
はいはいおかわりな。
もういっぱい注いでやると、女の子二人も遠慮がちにコップを出してくる。
三人にもういっぱいを注ぐ。
そして、一番に飲み干した健が俺に言う。
「悠斗」
「なんだ?」
「マネージャーを……」
「断る」
「だよなぁ……」
「当たり前だろ、何言ってんだ馬鹿野郎」
俺は呆れたようにそう言うと、
「まぁ、朝練終わりに教室でスポーツドリンク飲めるようにするくらいはしてやるよ」
「悠斗様!!」
「まぁ、お前のためじゃねぇけどな」
朱里さんのためのついでだついで!!
俺はそう思いながら少し軽くなった水筒をカバンにしまおうとしたところ、
「桐崎くん」
と、隣の黒瀬さんから声がかかる。
「なに、黒瀬さん?」
と聞くと、
「その薄く作ったスポーツドリンクと言うのに興味がわきました。私もひとついただいても良いでしょうか?」
「うーん。運動した人には美味しく感じるらしいけど、普通の人にはちょっと味のついた水みたいなもんだと思うけどね」
俺はそう言いながら、紙コップをひとつ取りだし、黒瀬さんに手渡す。
「こぼさないように気をつけてね」
そう言ってスポーツドリンクをとくとくと注ぐ。
半分くらい入れたところで、
「そのくらいで大丈夫です」
と言われる。
「おっけー」
俺は注ぐのを止めると、水筒の中にはスポーツドリンクが少しだけ残った感じだった。
残りすくねぇし飲みきるか。
俺はそう考えると、少しはしたないが口を大きく開けて残ったスポーツドリンクを直接流し込む。
「悠斗くん、ぎょーぎわるーい」
朱里さんがからかうように言ってくる。
「はは、もう残り少なかったからね」
俺は苦笑いを浮かべると、隣の黒瀬さんに振り向く
「どう、黒瀬さん。あんまり美味しいもんじゃないでしょ?」
と、聞くと
「そうですね。ただ、なんだかクセになりそうな味でした」
とコップの中のスポーツドリンクを飲み干した黒瀬さんがそう答えた。
そんな彼女を見て、
この僅かな間で随分と打ち解けられた気がするな。
と、俺はそう思えた。