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第六話 ① ~早朝の教室で黒瀬さんの微笑みを見ました~

不穏な前話のラスト


ここから遂に聖女様が動き始めます

 第六話 ①



 朝練に向かった朱里さんに別れを告げ、俺は二年一組の教室へと入る。

 当然だとでも言うべきか、誰も居ない教室は静まり返っていた。


 俺はその静けさを堪能しながら自分の席に座る。


 カバンの中から今日使う教科書とノート、筆記用具を机の引き出しの中に入れる。

 そして、読みかけのライトノベルを取り出し、机の上に置く。

 軽くなったカバンを机の横にひっかけ、俺はライトノベルを読み始める。


 電子書籍も読む。

 小説投稿サイトの作品も読む。

 だけど、やはり紙の本は良い。


 俺はそんなことを考えながら本を読んでた。


 だいたい三十分程経った頃だろうか。


 ガラリと教室の扉が開いた音がした。


 朝練にしては遅い。登校にしては早すぎる。


 そんな微妙な時間に誰が来たんだ?


 ゆっくりと顔を教室の扉に向ける。


「おはようございます。桐崎くん」


 そこには、黒瀬さんが立っていた。


「お、おはよう。黒瀬さん」


 予想外の人物に驚きを隠せない俺。しかも、黒瀬さんの方から挨拶をしてきた。

 ダブルパンチだった。

 しかし、これはひとつチャンスかも知らない。


 俺はふぅと息を吐くと、彼女に声を掛ける


「びっくりしたよ、黒瀬さん。今日は随分と早いんだね」


 相手に安心感を与えるトーンを意識して、俺はそう言う。


「はい。いつも電車で駅を乗り過ごしても良いように早く家を出るのですが、今日は乗り過ごすことなく電車を降りることが出来ました」


 特に予定もなかったので、そのまま学校へ来た次第です。


 と続けた。


 なるほど。彼女にとっては、『小説に没頭して駅を乗り過ごす』と言うのは日常茶飯事な訳だ。

 しかも、それを見越して早く出るって、なんかちょっとズレてるよな。


 そんな彼女のちょっとおかしな思考回路に、少しだけ親近感を覚えた。


 彼女は俺たちと同じ高校生。ちょっとした欠点とかもある普通の女の子なんだ。


 そういう風に考えていると、彼女は俺の手元にあるライトノベルに目を付けた。


「それが桐崎くんが良く読んでる小説……その、らいとのべると言うものですか?」

「うん。そうだよ。黒瀬さんが良く読んでるようなハードカバーの小説とは違って、どちらかと言うと漫画みたいな気分で気軽に読める小説だね」

「なるほど。本屋さんでよく見かけます。可愛らしいイラストが表紙を飾っているのが特徴ですね」

「へぇ、良く知ってるね。そうなんだ。あとは表紙だけじゃなくて、作中の重要なシーンとかにもイラストが入ったりする。……こんな風にね」


 俺はそう言って、手にしたライトノベルをパラパラと開いて見せる。


 そこには主人公がヒロインのスカートの中に顔を突っ込んでるシーンのイラストがあった。


「あ!!間違えた!!」

「……えっちですね」


 ジトリとした目で俺を見る黒瀬さん。


 違うんだ!!主人公がカッコよく必殺技を放つシーンのイラストを見せようとしたのに!!


 俺は慌てて違うシーンのイラスト。

 本来見せようと思ったシーンのイラストを彼女に見せる。


「その……エッチなのだけじゃなくて、こう言うのもあって……」

「なるほど、先程のえっちな人がこんなことをしてるんですね」


 と、少しだけ表情を和らげる黒瀬さん。

 よ、良かった……軽蔑されたかと思った……


 仲良くなろうと思ったらいきなり軽蔑されるとか幸先悪すぎだろって思ったけど、なんとか持ち直したか……


 俺が冷や汗をだらだらかいてると、少しだけ思案した黒瀬さんが俺に問いかけてくる。


「桐崎くん。もし良ければ、そのらいとのべると言うものを読ませていただけませんか?」

「え?」


 少しだけ意外な問いに、俺は聞き直してしまう。


「普段は読まない様なものなので、少しだけ興味が出てきました。あ、ですが、」


 あまりえっちなのはだめですよ?


 と続けてきた。


「桐崎くんのオススメというのを読ませてください」


 そう言う黒瀬さんに俺は、


「わかった。いくつか見繕って、明日辺り持ってくるよ」


 と、快諾する。


 その返事に黒瀬さんは、


「ありがとうございます、桐崎くん。楽しみにしてますね」


 と言いながら、『微笑んだ』


「……」


 危なかった。


 美少女の笑顔ってのはなんでこんなに破壊力があるんだ。


 この胸の高鳴りは朱里さんへの裏切りだ。


 俺は奥歯を噛み締め、これ以上心を乱さないように気を付けながら、読みかけのライトノベルへと視線を移した。


 内容なんて、まるで頭に入ってこなかったのは言うまでもない。

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