第四話 ⑥ ~新学期・友人ふたりが何だか良い雰囲気でした~
第四話 ⑥
「ぐぅ……負けた」
「はっはっは!!いーんちょーもかなり強かったけど、私の方が上だったね!!」
流石は戦姫。受けはそこまででは無いが、攻めに回ると手が付けられない。
初戦はその圧倒的な攻めに押し切られて惨敗。
二戦目は逆にこちらから仕掛けることに成功して辛勝
一勝一敗で迎えた勝負の三戦目。
ギリギリの戦いを演じてきたが、最後は実力の差で押し切られた。
かなり悔しがってる俺に、後ろで眺めていた朱里さんが声をかけてくれる。
「惜しかったねー悠斗くん。でもすごいよ」
ゆーこちゃんが第三戦までやってるの初めてみたから。
と続けた。
「そうそういーんちょー。私がここまで追い詰められたのは前の大会の決勝くらいだよ」
確かその戦いはネットにアップされてたな。
そう、その動画で戦姫の攻めをを見てたから、二戦目での辛勝に繋がったわけで。
「あれ?そう言えば武藤くんはどこに行ったんだろう?」
いつの間にか姿を消していた健に首を傾げる朱里さん。
「あぁ、あいつなら多分……」
ストラックアウトのところだと思うんだよなあ
と思い、移動するとやはり居た。
「うおおおおぉ!!!!」
軟球を握りしめ、全力で球を的に投げ込む大男の姿があった。
「おい、馬鹿野郎。肩壊すぞ」
俺は呆れたようにそう言うと、健はニヤリと笑いながら。
「俺の肩と肘はガラスだぜ」
「はいはい。防弾ガラスなんだろ」
意外とコントロールもいい健は、九枚全ての的をぶち抜いていた。
「なぁ悠斗。バッティングで勝負しようぜ」
ゲージから出てきた健は軽く汗を拭いながらバッティングが出来るゲージを指さす。
「いいぞ。お前の教えてきたトレーニングに何故か素振りがあったからな。バットは毎日振ってる」
「そうだと思ったから提案したんだ。その豆が潰れた手は野球部でもそうはいないぜ」
「ははは、まぁ現役野球部のクリーンナップにどこまで立ち向かえるかわからんが、お手柔らかに頼むよ」
俺はそう言うと、制服の上着を脱いで、ネクタイを外す。
「朱里さん、申し訳ないんだけどこれ持ってて貰えるかな?」
俺はそう言って彼女に脱いだ制服とネクタイを差し出す。
「うん、いーよ。悠斗くん、頑張ってね!!」
「あぁ、なるべく空振りしないように頑張るよ」
制服とネクタイを朱里さんに渡すと、後ろから佐藤さんが来ていた。どうやら格ゲーは辞めてきたようだ。
「朱里がいーんちょーの制服預かるなら、私が武藤のを持っててやるよ」
「お、マジか?ありがとよ!!」
地面に直置き予定だった健の制服は、佐藤さんが持つことになった。
「よし、悠斗。俺は130kmを打つぜ」
「なら俺は110kmかな」
お互い自分に合った球速のゲージに入る。
「勝負は30球。ヒット性の当たりとホームランの数で勝負だ」
「おっけー」
俺はそう言うとバットを構える。
足は肩幅より少し広め。グリップは耳の少し後ろ。
マシンのタイミングに合わせて左足を少し引いて、
投げる瞬間に左足を踏み込む。
ボールは良く見て、バットは手ではなく腰の回転で、身体に巻き込むようにして、
「打つ!!」
カーン!!
健から昔教わったボールの打ち方を思い出しながらバットを振ると、澄んだ音と共にボールが勢いよく弾き返される。
最初のスイングにしては良い感じだ。
カーン!!カーン!!カーン!!
「おい、悠斗」
「なんだよ、健」
110kmの速球を軽快にはじき返していると、俺より20kmも速い速球をいとも簡単にはじき返してる健が言ってくる。
「野球部入れ」
「ヤダよ」
健の誘いを即答で断る。
「お前なら俺の後ろを任せられると思ったんだがな」
「お世辞でも嬉しいよ。まぁ体育の時とかに活躍出来るように今後も素振りはしておくよ」
そんな話をしていると、30球が終わった。
俺はほぼすべての球をヒット性に出来たが、健はそれプラスホームランを二発叩き込んでいた。
「負けたかー」
「おいおい悠斗。現役野球部が帰宅部に負けたらカッコつかねぇよ」
そんな会話をしながらゲージを出ると、
「悠斗くん、お疲れ様!!はい、飲み物!!」
外で待っていた朱里さんがスポーツドリンクをくれる。
「ありがとう朱里さん。いやぁ頑張ったけど負けちゃったからちょっとかっこ悪い姿だったかな」
俺はそれを受け取り、苦笑いを浮かべる。
「ううん!!そんな事ないよ、ボールを打ってる時の悠斗くん、かっこよかったよ!!」
「ありがとう朱里さん。そう言って貰えると嬉しいよ」
と、俺はドリンクを飲みながら視線を健に向ける。
すると、
「ほら、飲みな」
「せんきゅー」
「いーんちょー相手に何本気出してんの?」
「馬鹿野郎、あいつはかなり強敵だぞ。そういうお前だって格ゲーで悠斗をコテンパンにしたんだろ?」
「ギリギリだったけどね。いーんちょーマジ強い」
「なぁ、今度俺にも格ゲー教えろよ」
「いいよ。その代わり今度私にも野球教えてよ」
「おっけー」
「ねぇ悠斗くん」
「あぁ、わかる」
「あの二人、なんかいい感じだよね」
「恋愛感情ってことかはわかんないけど、相性は悪くないだろうね」
「ゆーこちゃんにも春が来た!!」
「健も満更ではなさそうだし、暖かい目で見守ってあげよう」
談笑する二人を見つめながら、俺は朱里さんと頷きあった。