第七話 ⑥ ~詩織さんとの初めてのデート~ 悠斗視点
第七話 ⑥
食事を終えた俺たちは、佐々木さんの妹さんのお店へと足を運ぶ。
二階の一角にあるメガネ屋さんは、新装開店をしたばかりなので、すごく綺麗だったけど、お客さんは居ないみたいだ。
ちょっと失礼だけど、待ち時間が無いのは良い事だ。なんて思ってしまった。
俺たちはお店の中に入ると、カウンターに居た女性が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませー」
愛想の良い笑顔を浮かべているその女性は、確かに佐々木さんと少し似ていた。
「佐々木哲人さんの紹介で来ました。新装開店おめでとうございます」
俺はそう言って頭を下げる。
美里さんはそんな俺に少しだけ驚いたあと、
「兄から話は聞いてますよ。ものすごいイケメンと美少女のカップルが来るからね。と」
俺たちを見て笑った。
「あはは。カップルじゃないんですよ」
と、俺は美里さんの言葉を否定する。
「そうなんですか。それは失礼しました。そう言えば兄からは『友人関係』と言われていましたね」
そう言って美里さんは発言を訂正した。
だけど、俺はその発言も否定する。
「いや、『友人』でもないんです」
「…………え?」
「ゆ、悠斗くん…………?」
俺の言葉に、美里さんだけでなく、詩織さんも驚いたような声を上げる。
そう。俺にとって、詩織さんは『交際してる彼女』では無い。
だけど、もう俺の『大切な友達』なんかでも無い。
「詩織さんは、俺にとって『とても大切な女性』です」
「……ゆ、悠斗……くん」
そう言う俺を、詩織さんは泣きそうな目で見てきた。
あはは。そんな顔しないで欲しいかな。
「あはは……君たちの関係性にはあまり口を出さない方が良さそうだ」
美里さんはそう言って苦笑いを浮かべた。
俺は話を切り上げ、本題に入る。
「哲人さんから伺っているかも知れませんが、オシャレを意識したメガネをひとつ欲しいと思ってまして。見繕って貰いたいと思ってます。それと、詩織さんにもひとつプレゼントをしようと思っています。彼女は視力が悪い訳では無いので、伊達眼鏡になるかと思います」
俺がそう言うと、美里さんは嬉しそうに頷いた。
「実は今週の月曜日にオープンしたんですが、お客さんが全然来なくて、変なおじさんとか、冷やかしとかばかりで、……君たちが初めての購入希望のお客様なんです!!」
いっぱいサービスしちゃうからね!!
「ありがとうございます。あとで買った眼鏡を着けた自撮り写真を店名を載せてSNSにアップしますよ。少しばかりでも広告効果になればと思います」
俺のその言葉に、美里さんは本当に嬉しそうにしていた。
そして、俺は視力検査を始める。
気球を見るアレだ。
「ねぇ君……今の眼鏡。度が合ってないでしょ?」
「……はい」
少し見えづらいなぁって思ってた。
カチャン、カチャンと検査の用のメガネのレンズを変えていく。
「……うん。二つ度を上げないとだね」
「……はい」
「こんなメガネを使うくらいだし、君。コンタクトレンズは嫌いでしょ?」
「……良くおわかりで」
俺がそう答えると、美里さんは少しだけ笑って言う。
「一本は普段使い用にして、もう一本はオシャレ用で二本買わない?二本目を半額にするセールをしてるんだけど、サービスしてさらに半額にしてあげるよ?」
「買います」
俺は即答した。
「毎度あり!!じゃあフレームを選ぼうか!!」
気さくに話してくれるようになった美里さん。
きっと敬語を使うのは慣れてなかったのだろう。
正直なところ、こっちの方が楽だ。
「美里さん。こんなことを言うのはアレですけど、敬語よりそっちの方が話しやすくて良いです」
美里さんの魅力が出てて良いと思います。
俺がそう言うと、美里さんは笑いながら、
「じゃあこれからもこういう接客にしようかな!!」
と、笑顔で言っていた。
くいくい……
……ん?袖が引っ張られている?
俺は振り向くと、詩織さんが頬をふくらませていた。
「…………また、堕とそうとしてますね?」
「え!?」
そ、そんなつもりは微塵もない!!
「…………はぁ。悠斗くんのソレはもう病気みたいなものだと思うようにします」
ため息を吐く詩織さん。
ほ、本当に言葉選びには気をつけよう……
俺はフレーム選びながら自分の発言を反省した。




