第七話 ② ~詩織さんとの初めてのデート~ 悠斗視点
第七話 ②
ポチを飛ばして駅へとたどり着いた俺は、愛車を無料の駐輪場に停めて、しっかりと防犯対策をする。
そして、駅まで歩いていく最中。若い女性から視線を感じていた。
ふむ。眼鏡でもまあまあいけるのかな?
眼鏡に対して野暮ったい印象を持っていたけど、少しオシャレを意識したアイテムとして一個くらいは持っておいてもいいかもしれないな。
どうにもコンタクトレンズは慣れないし。
なんてことを考えながら、俺は駅へと歩いて行く。
そして、構内に入り、電車の時刻を確認する。
よし。そんなに待たないで済みそうだ。
それに、これなら待ち合わせの三十分前くらいには到着できそうだな。
流石にそれより早くに来ている。なんてことは無いだろう。
なんかの漫画では、一時間前に来てた。とかのシーンがあるけど。そこまでするなら、もはや待ち合わせ時間に問題がありそうだ。
そんなことを考えていると、乗る電車がやってくる。
電車に乗りこみ、周りを見ると、詩織さんの姿は無かった。
……ふむ。この電車に乗ってない。という事は、これより前か後の電車を利用する。って事だよな。
俺は椅子には座らず、扉に背中を預ける事にした。
少しだけ洋服のシワを気にした形だ。
そして、ポケットからスマホを取りだし、電子書籍を開く。
『私は愛人でも構わないから』
詩織さんに勧められたライトノベルだ。
タイトルは衝撃的だが、中身はしっかりとしていて、話の内容も引き込まれる。最近のライトノベルはこうした『攻めた内容』のものが増えてきたと思ってる。
『ライト』なものから『ベビー』なものになっているような……
二番目の彼女とか……
そんなことを考えながら読み進めていると、待ち合わせの駅を知らせるアナウンスが流れる。
おっと。どっかの詩織さんみたいに駅を乗り過ごすところだったな。
俺は苦笑いを浮かべながら、開いた扉から電車を降りる。
構内を歩いていき、待ち合わせ場所に指定していたバスターミナルのある駅口へと向かう。
この後は二人でバスに乗って、ショッピングモールに行く予定だ。
詩織さんの話によると、以前そこの本屋さんで買い物をしたところ、かなり本が充実していた。
との話を聞いていたためだ。
そうして歩いていると、バスターミナルの前に到着する。
時刻は九時半。待ち合わせの三十分前だ。
周りを見渡すと、詩織さんの姿は無かった。
ふぅ、良かった。俺の方が先に来れたみたいだ。
俺は少しだけ安堵の溜息を吐くと、
「やあ、桐崎くんじゃないか?」
「……佐々木さん。ですか?」
以前。モデルをやらないか?と誘いをかけてきた佐々木さんが、目の前に現れる。
「覚えていてくれたんだね。ありがとう」
と、佐々木さんは笑顔で答える。
「はい。とても紳士的な方だと思っていましたので。……その、モデルのお誘いは電話にて断りを入れさせていだいたと思いますが」
少しだけ申し訳なく思いながら俺がそう言うと、
「そうだね。いや、なかなか残念だとは思ったけど、理由を聞いたら納得したよ。それにしても」
と、佐々木さんは俺の眼鏡姿を見て、言う。
「眼鏡も似合うと思うけど、もう少しオシャレを意識した眼鏡が欲しいと思わなかったかい?」
「……すごいですね。さっきそう思ってたところです」
俺は少しだけ驚きながら、彼にそう返した。
「あはは。これでもファッション雑誌編集者の端くれだからね。そうだ。君さえ良ければこのお店に行ってみるといいよ」
佐々木さんはそう言うと、カバンから一枚のパンフレットと、名刺入れから名刺一枚取り出して、俺に渡してきた。
『ファッションを意識した眼鏡をご希望のお客様へ。アイレンズ・ミサト』
『アイレンズ・ミサト 店長 佐々木 美里』
佐々木と言う苗字。なるほど……
「もしかして、ご兄妹のお店ですか?」
と、俺が聞くと、
「そうなんだ。最近、妹が始めたお店でね。ショッピングモールの一角に作ったんだよね。だから、もし良かったら覗いて見て欲しい」
僕の名前を出せば、割り引いてくれると思うよ?
と佐々木さんはニコリと笑った。
彼の名刺は、財布の中に入っている。
俺は彼に頭を下げる。
「ありがとうございます。ちょうど友人とショッピングモールに行く予定がありますので、その時に一緒に覗いてみようと思います」
「あはは。君の友人と言うのは、君の後ろにいるとんでもない美少女のことかな?」
「……え?」
俺はそう言って振り向くと、
「あ、すみません。お二人のお邪魔をしてしまいましたか?」
「し、詩織さん……」
少しだけ申し訳無さそうな表情をした、とんでもない美少女がオシャレな格好で俺の後ろに佇んでいた。
「彼女にモデルの依頼をしたい。と思うくらいだけど、そう言うのが好きそうなタイプじゃなさそうだ。むしろ嫌いなくらいだろう」
「そうですね。だと思います」
俺は佐々木さんの言葉に首を縦に振る。
「じゃあ、気が向いたら妹の店に行って見てくれ。では、桐崎くん、さようなら」
と、佐々木さんはそう言って去って行った。
「……妹のお店。悠斗くん。えっちなお店ですか?」
「違うから!!」
ジトーっとした目を向ける詩織さんに俺はツッコミを入れる。
「ふふふ。わかってますよ。からかっただけです」
と、詩織さんは笑っていた。
「……っ!!」
私服姿の詩織さんは、彼女の魅力を存分に引き出し、とんでもなく可愛らしい様相をしていた。
そして、その彼女の微笑みに、心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。
こ、こんなんで一日やっていけるのか?
俺は朝からかなり不安になったのだった……




