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第六話 ⑥ ~俺がやらかしてしまうのは、どうしようもないのかもしれない~

 第六話 ⑥




 詩織さんと読書をしていると、だんだんと教室に人が増えて行く。


 朝の教室で、俺と彼女がこうして並んで時間を過ごしているのは周知の事実なので、以前のような騒ぎはもう起きない。


 ただ、今日はそれとは別の話で騒ぎにはなっていた。


「桐崎、予算会議の動画見たぜ!!俺、会長のために生徒会に金入れるぜ!!」


 と、石崎が言ったのを皮切りに、俺のクラスのみんなは生徒会に募金をしてくれるような発言が溢れた。あの動画配信はやはり効果的だった。


 少しだけみんなを騙してるような罪悪感はあったけど、まぁ金が無いのは事実だし。蒼井さんが言った言葉も嘘ではない。


『少し大袈裟に拡大解釈をしただけ』だ。


 ……こういう所が、ペテン師だって言われる所以か。


「ありがとうな、石崎にみんなも!!」


 俺は笑顔でみんなにお礼をする。


 そうしていると、SHRまでは少し時間があるところで一人の先輩が教室にやって来た。


「生徒会の副会長の桐崎君はいる?」


 そう言って教室の中を覗いたのは、演劇部の部長だった。


「はい。居ますよ。演劇部部長の永瀬(ながせ)先輩ですよね。どうしましたか?」


 俺はそう言って教室の入り口へと歩いて行く。


 演劇部の部長らしく背筋がピンと伸びて、姿勢もよく、言葉もハキハキしてるのが特徴の女性だ。


「……え?私って名乗ったっけ?」


 と言う永瀬先輩。


「こうしてお話するのは初めてですが、予算会議の時に誰から質問を受けるか分かりませんので、各部の部長の顔と名前くらいは一致させてますよ」


 俺のその言葉が意外だったのか、永瀬先輩は少し驚いていた。


「君はすごいね。さすがに驚いたよね」


「……いえ。この位は普通ですよ。別に全校生徒の顔と名前を覚えてる訳では無いので。永瀬先輩の場合は、演劇部らしく姿勢も綺麗ですし、発音もしっかりしてて話が聞き取りやすいです。去年の自分がお手本にしていた先輩でもありましたからね」


 そう。言葉がどもってばかりだった去年の自分。

 姿勢の良さや発声を学ぶために、演劇部をこっそり覗いてたこともある。


 その時、印象に残って居たのがこの先輩だ。


 俺がそうしたことを話すと、永瀬先輩は少しだけ照れたように顔を赤くする。


「……君が怜音に、女たらしのハーレム王だと言われる理由が良くわかったよ」

「……え?何か言いましたか?」


 永瀬先輩にしては珍しく、良く聞き取れない発言をされてしまった。


「はぁ……君にこうして会いに来たのは理由があってね」


 と、今度は永瀬先輩の言葉が聞き取れた。


「はい。何となく予想は出来ますが、伺います」


 俺が聞く体勢を取ると、永瀬先輩は話し始める。


「今度の夏休みに定期公演があってね、そこで必要な衣装が五着あるんだ。それを買うとなると基本の活動費から出すと今後が厳しくなるのが目に見えているんだ。だから予算の追加を申請したいんだよね」


 普通に買うと三万円近くしてしまう。部員の数が六名だから半分もいきなり消えるのはキツいんだよね。


 と、言う永瀬先輩。


 俺は少しだけ思案して、先輩に提案する。


「夏休みまでまだ時間があります。『手芸部』に衣装の作成を依頼してみてはいかがでしょうか?」

「……え?」


 俺は自分の案を永瀬先輩に説明する。


「自分が設定した『出来高項目』に、『他の部活への貢献』というものがあります」

「そう言えば、そんなものがあったような……」


「主に吹奏楽部とかが、他の部活の応援で演奏したりした時に発生する出来高ですが、今回のように、演劇部の依頼する服を手芸部が作れば、手芸部の出来高にもなりますし、演劇部としても、材料費程度で済めば費用の削減にも繋がると思います」

「……なるほど。確かに良い案だね」


 と、永瀬先輩は前向きに考えてくれてるみたいだ。


「手芸部としても、自分たちが作った衣装が演劇部の公演でたくさんの人の目に映る。嬉しいと思いますよ。もしかしたら、演劇部の公演を見に来るかも知れません」


 観客が増える。そんなメリットもあります。


 と俺は補足した。


「うん。とても良いアイディアだね!!その方向で動いてみるよ!!」

「はい。お役に立てたようで光栄です」


 俺はそう言って頭を下げる。


「お礼を言うのはこっちだよ。ありがとう、副会長!!」


 永瀬先輩はそう言うと、笑顔で教室を後にした。



 それを見送った俺は、ある種の達成感を得て席に戻ろうとすると、


「…………じー」

「し、詩織さん……どうしたの?」


 ジトーとした目で俺を見てくる詩織さんが居た。


「また、一人堕としてしまいましたね。流石は悠斗くん。女たらしのハーレム王ですね」

「そ、そんなことは無いと思うんだけど……」


 と、俺は少しだけ焦ったように言うが、周りを見ると


 クラスメイトからもジトーとした目で見られていた。


「桐崎……今のは藤崎さんには黙っておいてやるよ」


 と、言う石崎。


「あ、ありがとう……」



 行動や言動に気をつけよう。


 そう思った矢先にやらかしてしまう。


 こればっかりはどうしようもないのかもしれない……






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