第六話 ② ~電車の中で、老後はこうなりたいな。と思える夫婦に会いました~
第六話 ②
雨が降る中を、カッパを着てバイクを走らせる。
トラックの隣は走らないように。水をかけられたらたまったもんじゃない。
すぐに追い抜いて貰えるように、道の端っこを邪魔にならないように走って行く。
そして、駅の無料の駐輪場に無事に到着し、ポチを停める。しっかりとロックを掛けるのと同時に、椅子の部分に大きめのスーパーのビニールをかぶせて雨の対策を軽く済ませる。
カッパを着たまま駅へと向かい、構内に入ったところでそれを脱ぎ、袋に入れる。
さすがに濡れたカッパを着たまま乗車するとか失礼過ぎる。
たまに居るんだよな。そういう奴。
子供なら許せるけど、サラリーマンとかがそう言うのをやってると、恥ずかしくないのかな?と思ったりする。
そんなことを考えてると、電車がやってくる。
その電車に乗り込むと、席には少しだけ余裕があったので、座らせてもらった。
電車が発進するころ、俺の目の前に一組の老夫婦が現れた。
……今、俺の席隣はひとつ空いている。俺が立てば二人が並んで座れるな。
床も雨のせいで濡れてるし、危ないだろう。
俺はそう結論付けると、席を立つ。
「俺は立ってても平気ですので、良ければご夫婦でどうぞ」
俺はそう言って二人に席を進める。
「いや、君に悪いよ。こんな時間から学校で、朝練とか大変じゃないかい?少しでも座ってたいだろ?」
と、お爺さんが少し断りを入れてきたが、
「いえ、早く行く理由は朝練をする彼女と登校する為だけですし、その後は教室で本を読むだけなので疲れません。それに、雨で床も濡れてます。危険ですので、良ければ使ってください」
俺のその言葉に、お爺さんが
「そうかい。じゃあ好意に甘えようかね」
と言って、お婆さんと一緒に席に座ってくれた。
「君は良い子だね。こんな朝から君みたいな子に会えるなんて、良いことがありそうだよ」
なんて言うお婆さんに、
「あはは。お褒めいただいて恐縮です。ですが、良い子であろうとしてるだけですよ」
そう答えた。
「ふむ……他人に対して優しく、礼儀もしっかりしてて、身だしなみもきちんとしてる。君、さぞやモテるだろう?」
「……ぶふぅ!!」
お爺さんのその言葉に俺は吹き出す。
「ワシも若い頃はそれはもうモテて……」
「……お爺さん?」
スっ……と目が細くなるお婆さん。
「……いたんじゃが、婆さん一筋だったからの。君も一途に生きるんじゃぞ……」
「あはは……今の彼女とは真剣な交際をしています。こんな若造ですが、最終的なことも考えてお付き合いをしています」
「あらまぁ、若いのにしっかりしてるわね」
と、感心したように言うお婆さん。
「ありがとうございます。それに今の彼女以上の女性は居ない。と思っていますので、別れる理由がありません」
と、二人に惚気を披露する。
「あらあら惚気られてしまいましたね、お爺さん」
「こういう若い子の気持ちを見聞きすると、若返る気がするの」
嬉しそうに笑顔を見せてくれる老夫婦。
「俺も御二方のように、今付き合ってる彼女と、老年になっても一緒に過ごして行けるような関係になりたいな。そう思っています」
「うふふ。ありがとう」
「そう言ってくれると嬉しいのぉ」
そんな話をしていたら、降りる駅のアナウンスが流れる。
「すみません。もう少しお話をしていたかったのですが、もうすぐ降りる駅に着いてしまいます」
「あらー」
「こちらも楽しかったよ、ありがとう」
俺と同じように、老夫婦が名残を惜しんでくれた事を少しだけ嬉しく思った。
「もし良けれは、君の名前を聞いても良いかの?」
と、お爺さんが言ってきたので、
「はい。自分は桐崎悠斗と言います」
と、名前を言う。
「ワシは高根裕三じゃよ」
「私は美智子と言います」
俺たちはお互いに名前を交換しあった。
そして、降りる駅に到着した。
「裕三さん、美智子さん、楽しい時間をありがとうございます。もしなにか今後も縁があったらよろしくお願いします」
俺は二人に一礼すると、扉へと歩く。
「桐崎くんも元気での」
「私も楽しかったですよ。どこかでまた会えると良いですね」
そう言ってくれ他二人に感謝しながら、電車を降りる。
そして、去っていく電車を見送ってから、俺は構内を歩いて行った。
「朝から雨で憂鬱だったけど、楽しい時間を過ごせたな」
やはりいい事はするもんだな。俺はそんなことを考えながら駐輪場へと向かった。




